俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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今回は比較的長めです。詩乃は登場しますので、ご安心ください。


シュピーゲルとGGO

「まず何処に行くんだ?」

「えっと。まずお金を集めるのと……後はGGOに慣れないとね。昨日のうちにモンスターが比較的弱いフィールドを見つけといたから、武器を買ったら取り敢えずそこで軽くモンスターを狩ろうか」

 

銃を売っているというデパートへと向かう途中。俺はシュピーゲルからGGOについて幾つかレクチャーをしてもらっていた。今後の予定は、と聞くとシュピーゲルは予めざっと考えていたようで、心配は無用だったらしい。――と言っても

 

「このゲームって初期装備すら無いんだな。なのにこの初期金額……」

「ま、まあね……」

 

ウィンドウを開いてみても、見事なまでにすっからかん。何の用意もしていない初心者はそれこそキリトのように何処かで盛大に稼ぐしかなさそうだ。初心者には余り優しくないゲームだな、と一人苦笑いを浮かべる。そんな俺の気持ちに気付いたのか、シュピーゲルがおずおずと申し出た。

 

「あ、あのさ。もし良かったらクレジット貸そうか?」

「んー……。悪い、ちょっと試してみたいことがあるから。それが失敗したら借りるよ」

「……うん、分かった」

 

試してみたいこと。――そう、それは原作でキリトがしていたのと同じ稼ぎ方だ。デパートにある弾避けゲームをやって、その賞金で稼ぐ。因みに、目的はクレジットだけでは無い。ALOで培った回避術が何処まで通用するかを一応見ておきたいのだ。まあ、避けきれなくても一定のラインまで行けば少しはクレジットも貰える設定のようだったので、取り敢えずの金を稼ぐ分には十分だろう。

 

 

 

デパートに到着するなり例の弾避けゲームを探し始めた俺は、数分後にはそれを見つけていた。意外にもその設備の前には何人かのプレイヤーが列を作って並んでおり、その盛況ぶりが窺える。だが、やはりというべきかクリアしたプレイヤーは未だに出ていないらしい。どれくらい賞金が貯まっているのか、とガンマンの後ろについているデジタル表示を見ると……約80000クレジット。――まあ、この時期にはこんなものだろう。いや、サービス開始から一ヶ月と少ししか経っていないことを考えるとこれでも多い方か。

 

――さて、何処まで行けるかな。

 

少しの高揚感を抱きながら列に並ぶ俺に、後ろをついてきていたシュピーゲルが心配そうな視線を向ける。

 

「これが試したいことなら……やめといた方が良いよ?まだ誰もクリアできていないんだから」

「まあまあ。やってみたら意外と……なんてこともあるだろ?」

 

シュピーゲルが「まあどうしてもって言うなら良いけど」と渋々引き下がる。……と、そんなことを話している間に俺の番が来たようだ。面白半分に傍観している他のプレイヤー達の無遠慮な視線を浴びながら、クレジットを払う。ガンマンが何かしらを喚き、銃を収めたホルスターに右手を添えた。俺の目の前でカウントダウンが始まる。深呼吸をして微かに荒くなっていた息を整え――カウントがゼロになり、金属バーが上がると全力で走り出した。

 

赤い線が俺の右肩と頭、そして左足をポイントするのを感じるのと同時に、肩を狙う線の下を潜るように体を沈め、右へ飛ぶ。銃の発射音が立て続けに三回鳴り、放たれた銃弾が赤い線をなぞるのを尻目に、再び駆ける。ガンマンが銃弾を再装填する前に進めるだけ進んでおく。

 

――ん?これはもしかしたら……

 

そしてもう一度避けた辺りで『とある事』に気付いた。それが本当に正しいのかを確かめるために、駆ける速度を1度弛める。ガンマンの1ヶ所をじっと見て、彼が引き金を引くと同時に――反動を抑えようと力むからか、引き金を引く際にガンマンの肩がピクリとほんの少しだけ動く――回避。

 

「……やっぱり」

 

口のなかで小さく呟き、先程気付いたことが真実であることを確信する。因みに、キリトのように視線を読んだわけではない。キリトは何でもないことのように言っているが、視線なんていう曖昧なものを読むのは本当に難しい。恐らく、かなり慣れていないと無理だ。俺もALOで幾度となくやろうとしたが、攻撃を避けるギリギリのところで当たってしまっていた。

 

――だから、やりやすい避け方を編み出したのだ。

 

駆けながら、ガンマンが持つ銃口を凝視する。傾き、角度、そして引き金を引くタイミング。この3つさえ分かっていれば、弾道予測線が無くても回避は出来る。勿論、言うほど簡単なことではない。頻繁に動く銃口の細かい動きを追い、且つそこから放たれる銃弾の軌道等を計算しなければならないため、かなりの集中力や咄嗟の計算力が必要なのだ。

……言うなれば、これは『弾道を読む』といったところか。近距離で無ければ精度が格段に落ちるのが難点だが。

 

飛んでくる銃弾をさらに避けて一歩を踏み出す。15mを通過したことを知らせる短いSEがなったが、極限まで集中している俺の意識には届かない。

異常なまでの装填速度で放たれる銃弾を、ギリギリで回避し続ける。ノーリロードで放たれたレーザーも回避し、諦めずに銃弾を込めようとするガンマンの肩をすれ違い様に叩いた。

 

『オーマイ、ガーッ!』

 

途端、ガンマンは崩れ落ち、喧しいファンファーレが鳴り響いた。後ろのレンガ壁が壊れて金貨がじゃらじゃらと流れ出し、ウィンドウに写る俺の所持金額が目まぐるしく増えていく。

――だが、俺にそれを気にする余裕はなかった。集中は完全に途切れ、ただ呆けた表情で崩れ落ちたレンガ壁を見つめるだけだ。

 

なんとか正気に戻った俺がレーンを出ると、いつの間にか数倍に膨れ上がっていた見物人達は何事かを小声でまじまじと囁きあっていた。人の視線を浴びることには余り慣れていないため、何となく肩身が狭い。空虚な笑みを浮かべて会釈をしながら、誰も話し掛けてこないのを良いことにそこを足早に去った。

慌てて人込みの中から後をついてきたシュピーゲルが興奮したように話す。

 

「す、すごいね! あれを避けるなんて!」

「確実に精神は磨り減ったけどな……」

 

 

 

数分後、漸く人目もバラけてきた頃。俺たちはデパートの銃売場へと戻った。そして、シュピーゲルのアドバイスを聞きながら行った長いウィンドウショッピングの後に、稼いだクレジットを使って購入したのは――

 

 

 

*******

小ぶりなハンバーガーをかじり、昨日話し掛けてきたクラスメイト、遠藤さん達が繰り広げる話題に適当な相づちをうつ。

少し肌寒い土曜日の昼。私は遠藤さん達3人に誘われ、駅の近くにあるファストフード店で少し遅い昼食をとっていた。昨日知り合ったばかりで昼食に誘われた時には少し戸惑ってしまったが、遠藤さんが放った「友達」という言葉に何となく頷いてしまっていた。

 

「でさぁ――その時――」

「へぇ――あ、そう言えば――」

 

目の前で繰り広げられる話題にはついていけそうにもなかったが、《あの事件》を知らない同級生との時間は意外にも心が落ち着く。不意に振られた話題に曖昧に頷いて答える。……と、

 

――幸人は今何してるんだろう。

 

不意にそんなことが頭を過った。『友達』と一緒にいるのに、他人の事が思い浮かぶなんて失礼だ。慌てて頭を振って変な思考を吹き飛ばすと、懐疑の視線を向けてくる三人に「何でもない」と首を振る。

そして、私は何かむず痒いものを誤魔化すために勢いよくハンバーガーへとかぶりついた。

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