「で、どうだ? ここら辺だけでも銃をこれ見よがしに引っ提げてるプレイヤーは結構いるけど」
シノンの分の銃を買うために店へと向かっている途中に発した俺の言葉を聞いて、隣を歩くシノンはキョトンとした表情で首を傾げた。
「えっと……これ、そういうゲームなんでしょ?」
「あ……いや、その反応が出来るなら大丈夫だな」
「……どういうこと?」
「要するに、銃に対する拒否反応が出てないってこと」
「……あ。言われてみれば、確かにそうね。もしかしたら、歩く人が皆現実離れしている格好だからかも」
シノンと会話を交わしながら薄暗い交差点を左に曲がると、目的の店が見えてきた。
デパートのようにNPCが売るようなスタイルではなく、プレイヤーが仕入れから売却までを行う……言わば商店のようなものだ。
ここなら意外な掘り出し物があったり、普通より安く銃が買えたりする。その上、俺がシノンを連れてきたここは特に銃の値段が低めに設定されている場所だ。……と言っても、流石にデパートと比べると品物の絶対数に天と地ほどの差があるため、初心者を連れてくるのには余り向かない。
まぁ、今回のように買う銃に大体の検討をつけている場合は、こういう場所に来ることが多い。
勿論、シノンに買う銃と言えば狙撃銃……なのだが。
「……うん、高いな」
元々の値段が相当安いロシア製の狙撃銃を、顔見知りである店員から最大の譲歩を引き出してさえも数万クレジットは下らなかった。この額はどう足掻いても初心者に出せる金額ではない。
だが、シノンに狙撃銃を持たせないのは個人的に何か嫌だ。
仕方あるまい。こうなったら――
「お買い上げありがとうございましたー」
シノンの所持金では銃を買うことはできない。それならば答えはどうするべきか。答えは簡単。
――俺が買えば良いじゃない!
俺は、そんな某マリー何とかネットさん的思考回路に行き着くと、自分のクレジットを使って比較的安めの狙撃銃を買った。自分の銃もまともに揃えれていないのに他人に買うと言うのは周りから見れば滑稽以外の何物でもないのだろうが、そこら辺は気にしない。
因みに、買った銃は皆さんお馴染みの『ドラグノフ狙撃銃』。ロシア製の銃の中で最も有名な銃の1つだ。原作でシノンがヘカートのドロップまで使っていた狙撃銃はフランス製の『FR-F2』だったらしいのだが、これは一応GGO内でもレアな方の狙撃銃なので、残念ながら売っていなかった。……まあ、売っていたとしても俺の所持金では買うことはできなかっただろうが。
俺に銃を買わせた形になって、少し罪悪感を感じているのか、少しすまなそうな表情になっているシノンにドラグノフを渡すと、俺は肩を竦めて笑った。
「大丈夫大丈夫。これくらいすぐ貯まるって」
実際はそんなことは無い。大体、学校の無い日に6時間程潜って入手したお金から弾薬等の消耗品の分を引くと儲けは大体2万クレジットちょい。現実のお金に換算すると200円を越えるくらいが関の山。純粋にお金を稼ごうとするのなら、リアルで普通にバイトした方が数十倍稼げるだろう。かと言って、もっと――例えば1日10時間以上この世界に潜ると言うのも心理的に抵抗がある。体が鈍ってしまうし、何というか……長時間VR世界にいると、酔ってしまうのだ。
まあ、そんなわけでこの出費は俺にとって相当痛いものだったのだが、そんなことは一切表情に出さず、何の問題もないようにへらりと笑う。
「防具を買ってやれる金は流石に無いけど……弾薬くらいは買うよ」
「……ありがと」
「任せろって」
ウインドウを開いて自分の所持金を確認した俺は、ドラグノフを抱えながらこちらを見詰めてくるシノンへと少し自慢気に頷いて見せた。
*******
買った銃の射撃練習が出来るという射撃場で、弾の装填方法やこのゲーム特有のシステムである弾道予測線、そして着弾予測円のこと等をざっと説明したクーが次に私を連れて向かったのは、何処となく寂しさを感じさせるような雰囲気の寂れた荒野。
手に持った双眼鏡で辺りを見回すと、そんな荒野をウロウロとさ迷っているのは人型の機械だった。動く度にカタカタと乾いた金属音が聞こえてきそうなほどに表面は錆び付いており、その姿はかなりの年季を窺わせる。
人間でいう顔の辺りには赤いランプが1つだけ点滅しており、そこにセンサーがあるのだということは何となく想像がついた。
「……あれを撃てってこと?双眼鏡の表記を見た感じじゃ、まだ450mほど距離があるんだけど」
「ご明察。でもこれ以上近付くと向こうの索敵範囲に入るからなぁ。……まあ、外しても向かってきた時は俺が始末するから安心して撃ってみてくれ」
先程レクチャーを受けたときの話では、私がクーに買って貰ったこの『ドラグノフ狙撃銃』の有効射程は600mを越えるとのことだった。
確かに、撃って狙えない距離ではないのだろう。
私はクーの言葉に頷くと、地面に伏せて銃を構えた。
最も姿勢が安定する、いわゆる伏射姿勢。備え付けのスコープを覗いて、ぎこちなく歩くその機械を照準線の中心で捉える。
そして、引き金に人指し指を当てると、収縮する円が私の視界に表示された。
人型の機械がその円を占める割合は円が最大の時には2割、最小の時には5割と言ったところだろうか。出来れば恐らく急所であるだろう頭を狙いたいが――
私は気持ちを落ち着かせるために深く息を吐くと、スコープを覗く瞳に意識を集中し――緊張で鼓動が早くなってしまう前、収縮する円が最も小さくなったと同時に引き金を引いた。
銃紹介。
《ドラグノフ狙撃銃》
装弾数 10発
弾薬 7.62x54mmR弾
重量 4310g
射程 600m超
皆様お馴染みのセミオート狙撃銃。
実は遠距離狙撃よりも市街地等での速射性を重視しているため、有効射程は狙撃銃の中でもそこまで長くはない。
そのため、狙撃銃というよりも近接支援武器という方が近い。