「……で? 遠藤さんがどうかしたの?」
詩乃はベッドに腰かけたまま、不機嫌そうに俺を睨みながらそう宣う。勿論今はしっかりと服を着ており、不可抗力とは言え下着姿を見てしまった俺はフローリングの床に正座している状態だ。容赦無く全力で引っ叩かれた頬がヒリヒリと痛む。
「あー、うん。……実はさ」
俺は背筋を確りと伸ばしたまま、出そうとした言葉を途中で止めてしまった。というのも、単純な話――どうやって説明をして良いのか分からなかったからである。
転生というものを伏せて話す以上、どう上手く誤魔化そうとしても説明に不自然が残る。まぁ、自分が転生者だ、等と言ってもどこかで頭を打ったとしか思われはしないだろうが。
かといって例えば、『遠藤さん達についての嫌な噂を聞いたから関わるのをやめてほしい』等では、所詮噂だからと軽く流されてしまう。
俺の煮え切らない様子に、詩乃は少し怪訝そうに眉を潜めた。
「……実は?」
「あー……うん。……えーっと」
何とか上手く伝えられないものかと思考を巡らせるものの、具体的な解決案が出てこない。俯いたまま、どうするべきかと唸る。
詩乃は呆れたように深く長い溜め息を吐き、不意にふっと表情を緩めた。
「……さっきのGGOでの様子からして、何もないなんて事はないんでしょ?」
「ああ……うん。まぁ、そうなんだけどさ……」
そう呟くと、ガリガリと頭を掻く。
仕方ない。斯くなる上は――
「遠藤さん達と関わるのをやめてくれないか?」
直球で言うしかあるまい。
この言葉に、意外にも詩乃は一切取り乱すようなことはなかった。もしかしたら、俺が何を言うのかについては詩乃にも大体察しが付いていたのかもしれない。
ただ、真意を推し量るかのように身を乗り出してこちらを見つめる。
「――理由を聞いても良い?」
詩乃の言葉に、俺は顔を俯かせることしか出来なかった。
「ごめん。説明は――出来ない。……でも、このまま遠藤さんと居続けると詩乃は絶対後悔する。それだけは避けたいんだよ」
絞り出すように呟き、唇を血が出るほどに強く噛み締める。
――あの時みたいにただ見てるだけなんて事は出来ない。
口には出さないものの、基本的に今の俺の頭の中を占めているのはそれだった。避けることが出来た筈なのに、“自分の原作知識が使えなくなるかも”等という自己保身も甚だしい理由で詩乃を止めなかった俺の――詩乃へのせめてもの償い。
これ自体が下らない自己満足なのかもしれない。だが、それでも俺は止めたかった。
それが伝わったわけでも無かろうが、詩乃は軽く肩を竦め、溜め息をついた。何かを決心したように開いた目で俺を暫く見つめ、小さく、だが確かにコクンと頷く。
「ん、分かったわ」
「……え?」
まさかあんな言葉で納得してもらえるとは思っていなかった俺は、キョトンと目を丸くする。
そんな俺を見て、詩乃はクスッと微笑んだ。
「……どうしたの? そう頼んできたのは幸人の方じゃない」
「え? いや、でも……あんな説明で?」
「……まぁ、説明としては全然満足出来るものじゃないけど――本気だって言うのは伝わったから」
――それじゃ、ダメ?
そう言って、詩乃はいたずらっぽく笑った。