遠藤編終了です。
「――で、関わらなくするとして、具体的にはどうやって? まさか突然無視するわけにもいかないでしょ」
詩乃の当然とも言える質問に、その答えを予め用意していた俺は任せろと言わんばかりに胸を叩いた。
「悪いが、詩乃のお爺さんの名前を借りる。まぁ、例えば『お爺さんが合鍵を貸したことに激怒していて、下手をしたら遠藤さん達のところに文句を言いに行きかねない』とか何とか言ってさ」
因みに、こういう断り方は学生などの保護者がいる間では圧倒的な強制力を持つ。表面上では良い子な彼女達なら尚更だ。学生の時に、親が出てくることほど面倒な事はそうそう無いのだから。
俺の言いたいことは大体伝わったようで、詩乃はなるほど、と呟いた。
「確かにそれならかなり平和的に合鍵は返してもらえそうね。……でも、それはあくまで合鍵を返してもらう方法であって、関わらないようにする方法じゃ無いと思うんだけど」
詩乃の言うことも、普通に考えればそうなのだろう。しかし、俺にはある種の確信があった。
その確信の根拠は、原作知識である。原作では遠藤さん達が詩乃に話し掛けた理由は『詩乃が一人暮らしをしていて、その恩恵に預かろうとしたため』。つまり、合鍵を返してそこに自由を得られなくなった場合、彼女達の方から自然に離れていく……はずだ。
「多分、大丈夫」
「――根拠は?」
ゆっくりと首を振った俺に、詩乃は真剣な眼差しを向ける。俺は数秒思案した末、軽く目を伏せる。
「……悪い。詩乃を傷付けるようなことを言うかもしれないけど――」
「合鍵を持てなくなった時点で、私には用済み。だから遠藤さん達は勝手に離れていく……って所辺りかしら?」
だが、詩乃が俺の言葉を遮るように続けて、俺は思わず息を呑んだ。そんな様子を見て、詩乃は「図星ね」と肩を竦める。
「私も最近、何となくは気付き始めてたから。彼女達がわざわざ地味な私なんかに話し掛けてきた理由。でも、幸人の話を聞いている内に確信が持てたの」
そう言って、彼女は寂しそうに微笑んだ。……友達だと思っていた人たちに裏切られていたと言ってもおかしくはない状態だ。詩乃の心中は推して知るべしと言うものだろう。だが、彼女は一切文句などを吐かずに淡々と現実を直視している。ある意味心が強いと言うのかもしれないが、脆くもあるそれを強いと言っていいものか――
一抹の不安が生まれたが、今している話はそこについてではない。俺はその不安を振り払うように頭を軽く振ると、詩乃と『遠藤さんとの関わり合いを無くす会議』を再開したのだった。
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「――そういうわけだから、ごめんなさい。合鍵、返してもらえる?」
「……分かった」
学校の授業が終わり、放課後。私が頭を下げると、意外にもあっさりと遠藤さんは合鍵を返してくれた。……やはり親に行かれるのは出来るだけ避けたかったらしい。
内心でホッと安堵の息を吐き、しかしそれを外面には一切出さずに申し訳なさそうにし続けた。
すると遠藤さんは、自分の鞄を肩に掛け、
「話はそれだけ?」
「う、うん」
「じゃああたしは帰るわ。今度荷物も取りに行くから」
そう言って私からふいと視線を逸らした。まるで、完全に私に対する興味を失ったかのように。
それを見た私は、心の芯が冷えきるような感覚を覚えた。
ああ、こんなものなのか、と。
友達だ何だと散々言っておきながら、そんなものなのか、と。
私に目もくれずに去っていく彼女の姿を、私は冷めた瞳で見つめ続ける。
どうやら、私は友達と言うものを誤解していたようだ。何かひとつの目的のために表面上で馴れ合い、その目的が無くなったら関係を無くす。所詮友達など、その程度のものだったらしい。
「だったら……そんなものはもういらない」
私は誰に言うでもなく小さく呟き、帰るために鞄を肩に掛けた。