俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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幸人と死銃

AGI(アジリティ)万能論なんてものは単なる幻想なんですよ!』

 

キーの高いその男──ゼクシードの声を聞き、不快さに眉を顰める。だが、この声を聞くのももうこれで最後だろう。そう思うと、少しの背徳感と共に高揚感が湧き上がってくる。

 

もうすぐだ。⋯⋯だが、まだ時間ではない。

 

広い酒場の中央に浮かぶ四面ホロパネルを睨むように見据えながらも、視界の端に映る時計を意識し続ける。

あと数十秒。腰のホルスターに入れてあるハンドガンの存在を確かめるように、ぐっとグリップを握り、そして放すことを繰り返す。

 

──時間だ。

 

ギリースーツのフードを改めて深くかぶり直すと、静かに立ち上がった。店の中心にあるホロパネルに向かって、テーブルの間をゆっくりと歩いていく。

 

 

 

──ふと、酒場の中に見慣れたアバターの姿を見掛けた気がして、歩く速度を緩めて視線だけを振り向かせた。だが、そこにいるのは馬鹿話を繰り広げている愚鈍なプレイヤー達のみ。見慣れた茶髪のアバターは何処にも居ない。

 

(それもそうだよね⋯⋯)

 

鉢合わせしたら決心が鈍るかもしれない。それを避けるために、この時間帯に彼がどこにいるのか、それを数週に渡って調べた。そしてわざわざ、彼が最近来たことがないこの酒場を実行地点に選んだのだ。だから、彼はここに居るはずが無いのだ。大方、背格好が似ているアバターを見間違えたとか、そんな辺りだろう。いや、そうでなくてはならない。

だが⋯⋯微かに何処かで彼には期待していた。友人である彼なら、もしかすれば自分を止めてくれるかも、と。

 

だが、そんな奇跡は起こらない。

 

 

 

気を取り直すように頭を軽く振ると、再び歩き出す。決心をもう一度固め、懐のホルスターからハンドガン《五四式・黒星》を取り出した。

初弾を装填し、銃口を画面の中のゼクシードの額へと向けた。

 

愚か者たちよ⋯⋯恐怖するがいい。

 

次第に自分へと視線が集まってくるのを感じる。だが、その方が好都合だ。多くの者達に恐れ戦かれてこそ、自分(死銃)自分(死銃)たりうる。

 

「ゼクシード! 偽りの支配者よ! 今こそ、真なる力による裁きを受けるがいい!」

 

出せる限りの大声で叫ぶ。

左腕を持ち上げ、指先から胸、左肩から右肩に触れて十字を切った。

そして──トリガーを絞る。

 

銃声。だが、当然ながら銃弾はホロパネルを貫通することもないまま、弾けて小さなエフェクトを散らした。

しかし、自分は知っている。ここから起きることを。

 

達成感を覚えながら、少年はニヤリとほくそ笑んだ。

 

 

 

********

 

 

ゼクシードのアバターがログアウトしたのを確認し、ギリースーツの男──死銃は酒場を見回した。

 

「これが本当の力、本当の強さだ! 愚か者どもよ! この名を恐怖と共に刻め!」

 

機械を通した声を聞きながら、俺は席を立ち、踵を返して酒場の出口へと体を向けた。ここからは、見る必要も無い。

歩きながら、小さくため息を吐く。

 

「はぁ⋯⋯」

 

新川の死銃化の阻止が無理だった、と知ってなお、案外自分の気持ちが荒れていないのが不思議だった。何故なのだろうか、と自問してみると、案外答えは簡単に見つかった。

 

原作を読んでこの世界に望んでいた俺にとって、どうしても新川=死銃というイメージが心の奥底にあったからだ、と。思い返せば、これまでの付き合いだって俺からは何処かに一線を引いていた。向こうは気を許していてくれたにも関わらず、俺からはそうではなかった、ということだ。

 

「結局、原作に引き摺られてんなぁ⋯⋯」

 

銀行強盗、BoB、死銃。

どれも、俺が何とか出来る可能性のあった事件ばかりだ。それでも阻止出来なかったのは、俺が動くことによって起きる原作との差異を怯えてしまい、その出来事への関与に本気になり切れなかったからだろう。

 

「新川には悪い事したな」

 

最後に小さく呟いて酒場を出ると、俺はウインドウを開いてログアウトボタンを押した。




本編はこうなりますが、もしかしたら新川くん救済のIFルートを執筆するかもしれません。
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