俺とシノンのお隣さんライフ   作:ラビ@その他大勢

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これが書きたくて仕方なかったんです


シノンと誤解

何故怒っているのかは分からない。

分からないけど会ったからには挨拶をせねばなるまい。という訳で俺はシノンに向けて恐る恐る手を挙げた。

 

「よ、よぅ、シノン。そっちはBクラスだったか。頑張れよ」

「えぇ」

 

会話終了。話を広げようにも広げさせてくれなさそう⋯⋯と言うより、今のでなおさら怒りが増したまである。

昼間にシノンと別れてから、俺はシノンと接触していない。だから、俺が彼女に何かをした訳もなく。彼女の怒りの原因が全く検討もつかないのも当然と言えるだろう。

 

「エントリー、随分遅かったのね」

 

シノンが声に怒気をはらませながら小さく呟いた。背筋に冷たいものが走るが、逃げ出したくなるのをなんとか堪えて苦笑を浮かべる。

 

「や、ちょっとそこの人を案内しててさ」

「ど、どうも」

「⋯⋯へぇ」

 

シノンからの殺気が増した。と言うかさっきまで騒がしかった周囲のプレイヤーがシノンの殺気に当てられて滅茶苦茶静かになってるんですが。

その分遠巻きにこちらを見つめる視線が増え、他人の無遠慮なそれにシノンの機嫌が尚傾く。

 

「じゃ、そういう事で⋯⋯」

 

一刻も早くこのシノンから離れたい。その一心で、俺はなるべくシノンと目を合わせないよう、視線を下げながら彼女の脇を通り過ぎようとした──のだが。

「待ちなさい」

 

シノンに引き止められる。泣きそうになりながらも彼女へと視線を向けると、彼女は顎で奥の方にあるテーブル席の一つを指し示した。あそこで話がある、という事らしい。

 

「しょうがない。⋯⋯キリト、悪いが案内はここまでだ。決勝で会えることを期待してる」

「お、おう。そっちも色々と頑張れ」

 

キリトと声を潜めてやり取りを交わし、無関係な彼を巻き込むわけにも行かないので、そっと別れようとすると──

 

「そこのアナタも一緒に来てくれるかしら」

 

キリトも逃がすまいと問答無用でシノンはそう言い放った。何でだ。シノンはキリトとまだ面識は無いはずだが、俺の知らない何処かで会っていたのだろうか。

⋯⋯いやそれキリトがシノンに既にフラグ建築済みとかいう可能性出てきたぞおい。

それはマズい。本当にマズい。ここ最近は何とかキリトとシノンを会わせない為に動いてきたというのに。その苦労が水の泡になりそうだ。

まさか怒ってるのはもしや俺ではなくキリトに──!?

 

俺の嫌な予感は否応なしに広がっていった。

 

 

***

 

 

あぁ、イライラする。

自分が何に苛立っているのかは分からないが、とにかく胸の中がモヤモヤしっぱなしだ。

彼女──キリトというプレイヤーらしい──と一緒に買い物をしていたのは⋯⋯まぁ納得は出来ようも無いが理解はできる。しかし、仲良く控え室に行き、あまつさえ一緒に着替えてきたのを見てしまっては、私にも我慢の限界が訪れてしまったのだ。

着替え。幸人が、女の子と、個室。

 

先程まで楽しく歓談していた二人組のプレイヤーが私を見て慌てて口をつぐんだ。

後ろを歩くクーへと少し視線を向ける。彼は何を考えているのか、ブツブツと何事かを呟きながら冷や汗を流していた。

耳をすましてみれば、『好き』だの『キリト』だの『シノンには会わせないようにしていたのに』だのといった言葉を何とか拾うことが出来た。

単純に繋げてみれば──酷いことになった。

 

「⋯⋯」

 

幸人がそんな人物ではないと自分が一番知っているはずなのに、どうしても悪い予感が脳裏にチラついてしまう。

別に私と幸人は交際をしている訳では無いため、どんな女の子と行動していても、文句を言う権利なんて存在しない。彼が明らかに騙されていたりする場合はそれを止めるだろうが、それ以外の場合で、私が何かを言う理由なんてないのに。

 

無いはず、なのに。

 

「⋯⋯」

 

一番奥のテーブル席へと座った。

先程まで静まり返っていた周囲の喧騒が、徐々に戻ってくる。

キリトと名乗る女性プレイヤーと、幸人が私の前へと座った。必然、幸人と彼女は隣に座ることになる。そんな些細なことにでも苛立ちを覚えてしまい、私は気持ちを切り替えるために深呼吸を繰り返した。

緊張のためか、背筋を伸ばしている幸人へと視線を向け、その言葉を放つ。

 

「クーとその女の子って、どんな関係なの⋯⋯?」

「⋯⋯へ?」

 

幸人が間の抜けた声を上げた。まさか、他に何か聞かれるとでも思っていたのだろうか。

だがそんな事に意識を裂いて、彼の言うことを聞き逃してしまうわけにもいかない。私の真剣な視線に気付いたのだろう、彼はバツが悪そうに目を逸らし、ポリポリと頬を掻いた。

彼の隣で、キリトが静かに人の悪い笑みを浮かべたことに気づく人間は、そこにはいなかった。

 

「⋯⋯いや、何を勘違いしてるのかは知らないけど、コイツは男で──」

「⋯⋯えっ?」

 

キリトが、多少作ったような声を上げて首を傾げた。

しかし、すぐに「ああ」と小さく頷き、

 

「そうでしたね、そういう事にしておく約束でしたね」

 

『なっ⋯⋯!』

 

私と幸人の声が被る。

それは、一体、どういう、意味で──

 

それと同時、荒々しいエレキギターによるファンファーレがドーム内に轟き、甘い響きの合成音声が、私たちの頭上に大音量で響き渡った。

 

『大変長らくお待たせしました。ただ今より、第三回バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始いたします。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第1回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りします』

 

ドーム内に、盛大な拍手と完成が沸き起こった。

だが、そんな事よりも大事なことが目の前で起きている。キリトの言ったこと、その意味を呑み込んでしまった私は、呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

進行していたカウントダウンがゼロになり、固まる私たちの体を青い光の柱が包んだ。そして、それはたちまち視界の全てを覆い尽くした。




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