詩乃と二人でベッドに座り、通信対戦という名の熱い夜を過ごしていると、不意に詩乃が操縦していた車が動かなくなった。続いて、俺の肩にコツン、と何かがのせられる。そちらへ目を向けると、俺の肩に頭をのせた詩乃が目を瞑り、すうすうと規則正しい寝息を立てていた。いつも大人びて見える詩乃の、年齢に合ったあどけない寝顔を見て、俺は思わず頬を緩ませる。
(寝れてないって言ってたもんな……)
詩乃を起こさないように注意しながら、ゲーム機の電源を2つとも切る。次に、俺はなるべくゆっくりと詩乃を抱き抱えてベッドに寝かせた。勿論、毛布を掛けておくことは忘れない。
「……と。こんなもんかな?」
ゲーム機をさっさとリュックに片付けると、俺は軽く伸びをした。長時間座りっぱなしだったため、背中がパキパキと音をたてる。時計を見ると、まだ8時半。
寝るには早すぎる時間だ。
(でも電気を点けたままにしとくのもなぁ…。詩乃が眩しそうだし)
……久し振りに早寝するのも良いかもしれない。そんな風に考え、さて布団を敷こうかと室内を見回す…が。
布団……無いなぁ。
「仕方無い……か」
俺は、部屋の端に置いてあった詩乃のクッションを部屋の真ん中に移動させて、そこに頭をのせた。電気を遠隔操作用のリモコンで消して目を瞑ると、やはり疲れていたのだろうか、すぐに眠気が襲ってくる。俺はその心地よい眠気に体を任せた。
ドシン、という衝撃で目が覚めた。その衝撃が、詩乃が俺へとのし掛かるような形で抱き付いてきたためのものだ、と気づくのに数秒かかる。
「どうしたん――」
寝ぼけた頭で呑気にそんなことを聞こうと詩乃の肩に手を置いて――俺は、続く筈の言葉を飲み込んだ。……否、飲み込むしかなかった。
詩乃の華奢な肩は、カタカタと小刻みに震えていた。乱れた吐息が、荒々しく繰り返される。彼女の体温が、酷く低く感じられた。詩乃は、俺の胸へと顔を埋めて震える声で小さく呟いた。
「お願い……このままで居させて」
初めて見るような詩乃の弱々しく怯える姿を見て、俺が断れるわけもない。天井を見上げながら、ぽんぽん、と柔らかく詩乃の頭を叩く。そんな俺の態度に詩乃は少し安心したのか、深く息を吐いた。
そんな風に詩乃の頭を撫でながら、ふと考える。
なんで――俺は詩乃が郵便局に行くのを止めなかったのだろうか。《あの事件》が起きて、その後に詩乃が苦しむことを分かっていながら。止めようと思えば、いくらでもやり方はあった筈だったのに――
目を瞑り、強く唇を噛み締める。自責の念に刈られる。
……俺に――分かっていたのに詩乃を苦しめた俺に、詩乃と関わる権利なんて有るのだろうか、と。
もう一度、詩乃を見る。未だに震えている…俺の大切な人を。俺は頭を撫でるのをやめ、詩乃を強く抱き締める。そして、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。――それは、ただの決意。
「大丈夫――…絶対に、守るから」
そう言って、俺は目を閉じた。
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「大丈夫――…絶対に、守るから」
その言葉は間近にいた私すら聞き逃しかけるほどの小声だったが、何故かはっきりと耳に届いた。途端に私の心に何か暖かいものが広がった気がした。唇を小さく動かす。
「ありがとう」
幸人からは既に寝息が漏れていたので、聞こえることはないだろう。私は小さく微笑むと、幸人を強く抱き寄せる。人の温もりに、体の強張りがとけていく感覚があった。
その夜からは、もうあの夢は見なかった。