アイドルマスター シンデレラガールズ 灰被りの孤独姫 作:レイクール
とか言いながらデレステで二人のSSRがお迎えできず悔しいレイクールです。
さて、それでは本編どうぞ。
高校生活初日から一年、オレは何の苦労もなく、そして何の不自由もなく高校二年へと進学していた。別段試験でも欠点を取っていたわけではないし、生活態度や授業態度もそこら辺にいるような模範生みたいな行動を取ったわけではないが、そこまで目立ったことはしていないので問題はない。
強いて挙げるなら、島村以外に友人が二人ほど出来たかもしれないだけだ。かもしれないのは、あまり話をしていないせいだろう。まあその理由は話すのを避けているオレにあるわけだが。
忌み嫌われていた故郷の生活とはまた違っている生活を送っているが、交友関係はやはり以前とそこまで変わっていない。人間そう簡単に変われたら、それはそれで尊敬に値すると思う。
というわけで、オレは今学校での一日の行程が全て終わったのでどこかへ足を運んでいる。というかここどこだ。オレも知らんぞこんな場所。適当に歩いてきたらここに来たんだから。やはり『島村卯月を退却させる十の方法』を完成させるよりも先に、『方向音痴治癒法』を作った法がよさそうだな。
……まあそんなもん作ったところでどうこうなるわけではないのだが。
「さてと、適当に歩くか」
オレはここがどんな場所なのか確認するために適当に空を見上げながら歩くことにする。そう決めた途端、どこかから泣き声が聞こえてきた。空を見上げていた視線を下ろすと、目の前には泣きじゃくる男の子とそれをあやしているその子の母親がいた。おそらく理由はその頭上にある真っ赤な風船だろう。地面と風船が引っかかっている木の枝までおおよそ二メートル半ぐらい。オレの身長だと普通に届かないけど。
でも、ジャンプでもすれば届くだろう。オレは風船が引っかかっている丁度下まで行くと、おもむろに飛び上がる。一回、二回と飛び上がり、なんとか三回目で風船につながる紐をつかむことに成功。泣くのをやめてポカンとこちらを見ている男の子に風船を差し出す。すると、パァッと顔色が一気に明るくなる。
「ありがとうお姉ちゃん!」
満面の無垢な笑みでお礼を言い、親に手を引かれていく男の子。その親もペコペコと頭を下げている。うん、悪くない。毎回毎回人の役に立ちたいわけではないが、こう、たまにはいいよな。こういうのも。悪い気はしないし、あんな無垢で可愛らしい笑顔が見れるなら。ってショタコンみたいになってないか。
とりあえず、いつまでもそこにいれば通行人の邪魔になる。そのため歩き出したのだが、それを制止する声がかかる。
「あの、少しよろしいでしょうか」
後ろからかけられた声、振り返るとそこにいたのは、犯罪者顔負けの強面無表情でスーツを着たガタイの良い男性だった。いきなりで流石に驚いた。こいつは誰だ。新手の売春の業者か。それとも風俗店か。……いや、それはないか。だって、今絶賛学生服着用中だもの。そいつを白昼堂々そんなことを言い出す奴なんてそうそういないだろう。ていうかいるなら出てきてみろってんだ。
「あの、よろしいでしょうか」
「え、うん、別に構わねえけど……」
犯罪者とか思ってたが、どうも性格上それはあり得なさそうだ。困ったかのように首を掻き、相変わらず無表情だが少しだけ表情が変わっている。迷い、いや戸惑いか。よく分からないが何か変わっていることだけは分かった。
「私はこういう者です」
そう言って差し出してきたのは小さな紙切れだった。受け取り、よく見るとそれは名刺だったらしく、そこには"346プロ"だったり"武内プロデューサー"と書かれてあった。
346プロって確か今や有名なアイドルプロダクションじゃなかったか。それにプロデューサーっていうことは、どういうことだ。そんな奴がオレに一体何のようなんだ。
「アイドルに、興味はありませんか?」
「………………………………………………………………………はい?」
なんかデジャブを感じた。
☆☆☆☆☆
オレは武内プロデューサーなる者とカフェに入り、同席している。武内プロデューサー曰く、『場所を変えたほうがいい』らしい。オレとしてはどこでもよかったんだが。というより何故オレなんかにお声がかかったんだ。他にもいるだろう。もっと声をかけるべき存在がさ。例えば島村とか。あいつならちょうどいいだろう。なのに、どうしてオレなんだ。
「それで、どうですか?」
「どう、と言われてもねえ……」
いやいや、少しは考えろよ。こんな反応してるってことはオレが少なからず困っているとは思わんのかお前は。何故それでOKをもらおうとしている。
というかダメだ、表情読めたらどういう感じのことを思ってるか分かるのに、こいつちっとも表情変わらねえ。こいつの顔って仮面とかじゃねえよな?
「てか、なんでオレなんだ?そこが分からない。というか理解不能なんだが」
とりあえず、これだけは聞いておこう。で、こいつの返答で決めよう。適当なこと言ったら即効断ろう。うん、それがいい。
妙案が浮かんだことに頷いていると、武内プロデューサーが口を開く。
「ーーー笑顔です」
「……………………………」
オレの動作の全てが完全に止まる。こいつ今なんて言った?オレの聞き間違いでなければ笑顔とかふざけたことをほざいた気がしたんだが。
「笑顔です」
「聞こえてるから二回も言うんじゃねえよ!」
何食わぬ顔でもう一度言う武内プロデューサーに食ってかかる。何だこいつは。さっきはオレに話しかけるだけで困ったように首掻いてたのに、こういう恥ずかしいことを何食わぬ顔でこんなに連呼できるんだよ。思考回路おかしいんじゃねえのかおい。
と、脳内がデッドヒートするが一旦落ち着こう。こいつはそれが狙いかもしれない。怒らせて正常な判断ができなくなったところで相手が確実に怒りそうなことを言って煽る。そしてオレをアイドルの道へと引きずり込むかもしれない。こんな顔して結構なやり手とか……………いやそれはないか。
「へ、へぇ、笑顔ねぇ……。じゃあもしオレが笑顔を見せたところで、何ができるってんだよ」
「ふむ………」
オレの正論に押さえれているのか、顎に手をあてて考えるそぶりを見せる武内プロデューサー。考える前にそういう返答のための答え用意しとけよ。
「人を幸せにできます」
「オレの笑顔は麻薬かなんかか?」
まさかの返答が帰ってきた。お前なぁ、オレが笑うだけで人が幸せになったら幸福を得るのに苦労をしねえっての。というか本当に麻薬みたいじゃねえか。それで依存性まであったら洒落になんねえぞ。
「で、では、あなたには今、夢中になれることはありますか?」
「夢中になれること……?」
唐突に話の話題を変えてきた。巫山戯ているのかと思ったが、武内プロデューサーの顔にはそんなものは一切見られない。オレを真剣に見ている。
オレが思ってたような人ではないような気がしてきた。この人、多分不器用な奴だ。オレが思ってたような芸達者なことができるとは思えない。
ということはこの質問にも何か意味があるのか、と何故か深読みする。しょうがないだろ、いつもの癖なんだから。
「あなたに今、夢中になれることはありますか?」
再度真剣な面持ちのまま尋ねてくる武内プロデューサー。
オレが夢中になれること。昔はあった。でも今はない。あるはずがない。過去に努力し、時間を費やし、作り上げてきたものを一瞬で潰されたことがあるのだから。それが理由で孤立したから。
それからというもの、夢中になれるものなどなかったはずだ。ただのうのうと生き、限りある人生を無駄にしてきた。そして今もだ。ただただ、何もせず、運命のされるがままに生きている。
そうなってから常々思っていたのだ。こんな生き方つまらないと。出来るならば、昔みたいにもう一度、あの夢を追ってみたいとは思う。だが、折れた志では、砕けて意地で繋ぎ止めている程度の心ではそんなものができるわけがない。
「ねえよ。今も、これからも」
目を逸らしながら告げる。武内プロデューサーの目には、オレが何かに坐絶したかのような悲しそうな表情が写っているだろう。そんなの自分が一番分かっている。それを体験した張本人なのだから。
だが、オレのそんな状態にも関わらず、武内プロデューサーはオレに手を差し伸べてくる。少しだけ微笑みながら。
「ならば、見つけに行きませんか。あなたの夢中になれる何かを。あなたの輝ける場所を」
優しい声音で武内プロデューサーは告げる。その言葉は、オレにとっては優しすぎた。オレには勿体無いほど言葉だった。一度諦め、舞台から降りたオレにてを差し伸べてくれている。普通ならばあり得ない。自ら降りた舞台に引き上げてくれるなど。
ふと、一年前のことを思い出した。島村がいきなり友達になろうとか言い出した時の事だった。今でも思い出すたびに苦笑いできるほどの出来事だが、オレにとっては少しだけ救われた出来事だった。
あの時、踏みとどまっていたなら、もしずっと孤立したままだとすれば、オレはどうなっていただろう。想像もつかない。
そんな事を思いつつ、オレは武内プロデューサーを見据える。
あの時みたいに、少しでも踏み出せば、何かあるかもしれないと信じて。
「なぁ、本当に何か見つかるのか?オレの夢中になれることってやつは」
「………はい。必ず」
ゆっくりと頷く武内プロデューサー。
オレは息を大きく深呼吸をして、ある決意をする。あの時諦めた夢と向き合うことを。
「プロダクションに入れば、あんたがプロデューサーになるのか?」
「はい」
「なら礼儀ぐらいはちゃんとしないとな。香月結希だ。よろしく頼む武内プロデューサー」
「はい。一緒に見つけに行きましょう」
「へいへい」
オレの諦めた夢への挑戦がここから始まった。
だが、この時のオレはまさかあの場所にあいつがいるということを知る由もなかった。