IS TSオレっ娘オリ主物(仮題) 作:のんけくん
誘拐事件から一月が過ぎた。あの後事情聴取やらなんやらで詰め所に缶詰め状態になり、結局日本に帰国したのは数日後の事だった。お偉いさんやら会場警備の人やらから謝罪の言葉を受けたりメンタルヘルスのカウンセリングを受けたり千冬の姉貴から説教を貰ったりと中々に忙しい日々であったが今は平穏な中学校生活へと逆戻りしている。
誘拐事件に巻き込まれたという話は国際的なニュースになっており、クラスメイトはおろか学校中の生徒教員問わず安否の確認と無事でよかったという有り難い言葉を頂く事と成った。
その中でも一夏絡みでなんだかんだで友人関係になった
特に
鈴音の時も転校してきた元気っ娘な美少女って事で男どもがちやほやしたりとかで色々とあった。一夏の出番を喰らうようで少しばかり気掛かりではあったのだが余りに目に余るものだったからつい、手を出してしまった。バレない様にこっそりとやった筈なんだが一体何がどうしてか結果的に鈴音に懐かれてしまい、一夏と共に鈴音の両親が経営する中華料理店に度々世話に成る事に成っていた。
中の人足るオレ的には約一〇年間程女として生きたことで自身の身体には見慣れたが、他の女体にはまだ罪悪感というか申し訳ない気持ちの方が高い訳で、過剰にスキンシップを取って来る妹の様な鈴音は正直苦手であった。いや、嬉しいは嬉しいのだが胸を揉んだりとか勘弁してもらえませんかね、鈴音さん。無駄に育ってて羨ましいとかそういう類だと思うんですが、この身体の感度が高いためなのかおかしな気持ちになるというかその。悶々するというか。って、ええい。そんな事よりもだ。そんな可愛い妹分の様子が最近おかしいのだ。なにやら悩んでいるというか、難しい顔をしている姿が多いのだ。
原作知識から想像するに、恐らく両親の離婚の危機が迫ってきているのだろう。オレが知っている原作では母方に引き取られて中国に帰ってしまう事に成って居た筈だ。そして原作開始後に中国の代表候補生として立派に成長して戻って来るというシンデレラストーリーの様な大躍進を遂げてIS学園にやってくるのだ。
鈴音と離れ離れになるのは少しばかり寂しいが、彼女の成長とIS乗りとしての実力はこれから上演される舞台劇には必須といえる。それに、他所の家庭環境に口出しできるほどオレという存在は大層な物じゃないしひび割れてしまった夫婦の関係修復なんざ無理ってな話だ。
教室でぼうっとして上の空な鈴音には力になれなくて申し訳ないが、中国に帰っても負けじと頑張ってもらいたい。その代わりと言ってはなんだが、一夏と男友達の五反田弾。オレと鈴音のいつものメンバーでゲーセンにでも繰り出して気分転換でもしよう。
「鈴音。いつまでぼーっとしてんだ。おら、行くぞ!」
「へっ? ち、ちょっと咲耶!?」
呆けて上の空だった鈴音の腕を掴んで立たせると普段通り弾と駄弁っていた一夏の方へと歩いていき空いているもう一方の腕で一夏の腕を掴んで駆け出す。突然の事に驚きの声を上げる一夏だったが、もう片方の腕に捕えられている鈴音を見て事情を把握したのか弾へと付いて来るように声をかけてオレになされるがまま腕を引かれ校舎を後にした。その後ろからは遅れて長髪で赤髪の弾が慌てて後を追って来ていた。
「おーい。待ってくれよ! ……ったく。ひでーな。俺だけ除け者かよ咲耶?」
「わりぃな、弾。オレの腕は二本しかねぇからよ。ま、なんか奢ってやるから許せ」
「やりぃ! んじゃあ今度で良いから
「はいはい、商売上手な事で。ああいつも通りゲーセン巡りでもしようかと思ってな。どーせお前ら暇だろ? ちょっとばかし付き合えよ」
「あ、アタシは……ううん。やっぱり行くわ!」
「俺は店番……いやうんなんでもねぇ。俺も暇だったわつか、怖えんだよ一夏。その顔やめろよ」
弾が断りを入れるべく口を開いたが、ぎろりとイケメン特有の鋭く切れ長の瞳を細めて睨む一夏に頬をひくつかせながらすぐさま前言を撤回した。何やってんだこいつら。こんな時までふざけてんじゃねぇよ全く。
「何言ってるんだ弾? 俺は別におかしな顔はしてないぞ」
「いやお前。……ああもういいよ。お前も貸しだからな!」
「アホな事やってないでさっさと行くぞ。時間は限られてんだから。鈴音は何したい?」
「アタシは咲耶と一緒にダンスゲームしたい、かな?」
「オーケー。んじゃあ、そいつから回ろうかね」
「なぁ、一夏。俺らの扱い酷くね?」
「言うな。虚しくなる」
どんよりとした雰囲気を漂わせる男どもを放置して街中のゲームセンター内へと入り込んだ。中は煩いくらいに掻き鳴らされるBGMと最低限の照明。そして色とりどりに発光するゲーム機のモニター。学生と思わしき若い男女と何処にでもある普通のゲームセンターのそれだった。慣れた足取りでダンスゲームのブースへと歩を進めて偶然にも空いていた二人分のスペースに代金としてそれぞれ硬貨を投入し、曲を選択して踊り始めた。
大画面に表示される見本の通りに身体を動かし、アクロバティックな動きで踊りを披露する。事前に打ち合わせた訳でもないのに関わらず鈴音とのダンスは阿吽の呼吸ともいえる位に曲と振りつけがピタリと合致したものだった。ちらりと一瞬彼女に向けた視線が鈴音の視線と絡み合う。楽しくて楽しくて仕方がないといった天真爛漫ないつもの笑顔を見せる彼女の姿は実に可憐な物だった。こちらも気分が高揚して身体が熱くなる。負けてなるものかと動きに力を入れて全力でダンスに集中した。
……そして、気が付けば汗を滴らせながら肩で息を切り鈴音と凭れ掛かる様に背を合わせる。曲がフェードアウトしていきパフォーマンスの終わりを告げる評価画面が表示される。周囲を見渡せばいつの間にか出来ていたギャラリーが拍手と歓声が飛び交い、気恥ずかしさによってか顔を真っ赤に染めた鈴音がオレの背に抱き付きおどおどとしていた。
ひらひらと手を上げて歓声に応えてその場を後にする。一夏と弾の野郎覚えてろよと、観客の中で一緒になって見ていた馬鹿共に内心で文句を言いながらサービスカウンターでタオルを借り、自販機でスポーツドリンクを購入して鈴音と共に休憩スペースにどかりと座り込む。一先ず滴る汗を拭いて水分補給をすると、鈴音と顔を突き合わせてどちらともなく笑い合った。ひとしきり笑うと急に鈴音は真剣な表情へと変えて口火を切った。
「ねぇ、咲耶。アタシの話し、聞いてくれる?」
「……おう。なんでも言えよ」
「ありがとう。アタシね、転校。するかもしれない」
「そうか」
「やっぱバレちゃってたんだ。アタシそんなにおかしかったかな?」
「まぁ、あれだけぼーっとしてたらあの鈍感な一夏でも分かるくらいだぞ」
「あちゃー。一夏にもバレてたんだ、ちょっとショックかも。それでね、咲耶にはどうしても言っておきたい事が有るの」
思わず天を仰ぎ手の平をその上に乗せてがくりと肩を落として項垂れる鈴音。心なしかツインテールがへにゃりとしおらしくなっている様にも感じる。あんなにも分かり易かったら誰でもわかるだろうに。いやまぁ分かり易いってのは良い事だと思うぞ。
「オレに? 一夏にじゃなくて?」
「う、うん。あのね」
「おーい! 咲耶ーっ!」
空気を読め馬鹿一夏。一大決心した様な鈴音の気概を挫く様な真似をするんじゃない。こちらへと大きく手を振りながら駆けて来る一夏とその後ろを歩く弾に溜息を吐いて返事をする。
「どうした、一夏。くだらん用事なら後にしろ。今は疲れてる上に鈴音と会話中だ」
「い、良いの! それで一夏! 一体どうしたのよっ?」
「あ、おい! 鈴音っ」
「? まぁいいや。それで、さっきのダンスを見てた人がどこかの芸能スカウトの人らしくて咲耶と鈴に話したいらしいんだけど」
「スカウトだぁ? 却下だ。そんなもんいらん」
「ええ!? 咲耶なら絶対スターになれるのにっ?」
「そうだぞ。こんな話し滅多にないぞ?」
お前らはオレにどうしろってんだ。アイドルとかモデルにでもなれってのか? 嫌に決まってんだろ。どうして自ら真っ黒闇な世界に飛び込まにゃならんのだ。完全に偏見だが所謂『枕』とかあるだろ絶対。無駄に容姿だけは良いからな。そーいう類の話は耳にタコができるほど聞いてんだよ。
「そもそも興味ねぇし。つーかオレ達はゲーセンに遊びに来たんだぜ? そんなのに一々構ってられっかよ。おら、ケチがつく前に次だ次駅前のゲーセンだ。鈴音も一夏もついでに弾も行くぞ」
『えええええ!?』
「ぐずぐずすんな!」
大体ゲーセンで芸能プロデュースとか絶対にろくなもんじゃねえ。AVとかの出演勧誘だって言われた方がまだ納得がいくってもんだ。そんな訳の解らん輩とは欠片も関わり合いになりたくない。というわけで名も顔も知らないスカウトマンには悪いが、この面子で遊べる時間を潰されるのは勘弁願いたいのでおさらばする事にしよう。……ところで、鈴音は結局何を伝えたかったんだ?