IS TSオレっ娘オリ主物(仮題) 作:のんけくん
時刻は夕暮れ。茜色に染まった空には薄ぼんやりと月が顔を出し始め、沈みつつある太陽に変わって夜闇を照らすべく天へと昇ろうかとしている時分。いくつかのゲーセンとショッピングモールで遊び倒したオレ達一行は家路につく。
道中ゲーセン内で起きた出来事を面白おかしく馬鹿騒ぎしながら和気藹々とする姿は傍から見ても仲の良い中学生の集団だと思われることだろう。まぁ事実その通りなのだが。
話題の内容はやはりというかゲーセンで起きた出来事が中心だった。やれ一夏がレースゲームで前代未聞の全員を巻き込んだ大クラッシュを引き起こした事件から始まり、弾が鈴音相手に勝負を吹っかけて対戦した格闘ゲームでボロ負けしただの。オレがコインゲームで扱いに困る位大量にコインを獲得して処理に困っていた姿が笑えただのと。
アレがカジノだったら良かったんだが、生憎とゲーセンだったので何とも言えない気持ちになってしまったのは仕方のないことだろう。いや、普通につつましく生活する分にはもうすでに私立大学を卒業出来る程度の金銭は『神様』から不自由のないようにとの計らいで今世の両親の
……ちなみに今世のオレに両親と呼べる人間は元より存在していない。否、書類上は確りと存在しているのだろうが、既に亡くなっている事に成っていた。『神様転生』をして、気が付けば最低限の家具が置かれた見知らぬマンションの一室だったのだ。
知識として得られた情報によればその時の年齢は五、六歳程度の身体で何をするにも背丈と年齢というものが邪魔になった。周辺地理の情報と照らし合わせる為に一人歩きをすると決まって声をかけて来る青い服を着た国家権力の存在が鬱陶しく買い物をするにしても年相応の非力な身体が不便で仕方がなかった。
ヒロインを
先ずもって最初にぶち当たった壁は当然というべきか、自身の身体が『女』と成ってしまったことだった。余りの衝撃に唖然呆然とし、それから暫くの間は現実逃避気味にダラダラと何をするでもなく日々をコンビニ飯とカップ麺という非常に栄養価の悪いものを消費しながら過ごしていた。
……そんなある日のコンビニ帰り、不意に立ち寄った公園のベンチで黄昏ていたときに出会ったのが一夏だった。最初は興味本位で近づいて来たのだろう。どうやら同じ小学校のクラスメイトだったらしく無断欠席していたらしいオレは知らぬ間に有名になっていた様で、学校にも行かずに何をしているのかとかやたらとしつこく声をかけて来た覚えが有る。
精神的に参っていたオレは肉体に精神が引きずられたのか延々と疑問を投げかける少年に対していい加減に鬱陶しくなり思わずといったふうに独りでに口が開いた。結果、癇癪を引き起こして自身でも何を言ったのか分からないほどヒステリックに喚きたてた。一夏からしてみれば訳が分からなかっただろう、声をかけた少女がいきなり泣き出して喚き出すのだから溜まったもんじゃないだろう。泣きじゃくるオレの姿はそれはもう無様だったことだろう。
それでも一夏は分からないなりに黙したままオレの支離滅裂な話に耳を傾けて、最後まで離れずに側にいた。オレは一夏に柄にもなく、まるでか弱い少女の様に泣き縋った。『こんなはずじゃなかった』と。『出来る事ならやり直したい』と。無理だと頭では解りきっているのに、過去の己の馬鹿さ加減を呪った。それからどれほど時間が経ったか分からないが、一夏を探しにか千冬の姉貴がそれはもう怒り心頭な鬼の様な顔をしてやって来た。
恐らくは一夏が見知らぬ
その後なんとか姉貴の誤解を解くと、めざとく姉貴がコンビニ飯の入ったビニール袋を発見、芋蔓式にオレの不自然な一人暮らしが露呈した。もうどうとでもなれと投げやりに今世のオレの家庭事情を説明した。
すると彼らは自身達と近しいオレの境遇に同情したのかどうかは分からないが有無を言わさず自宅マンションへと突入。貴重品一式を持って織斑家へと連行されるが如く強引に織斑家の居候となったのだった。抵抗感が無かったわけじゃない。けれどあのまま腐っているよりかはずっとマシだと思った。今のオレは『
それからの毎日はまさに光陰矢の如し、織斑姉弟と手探りで交友を深めたり一夏と姉貴の付き添いで篠ノ之一家と出会ったりIS関係で世間が騒がしく成ったり鈴音と出会ったりと忙しなく日々が過ぎていった。毎日がそれはもう輝いていたのだ。
女で良かったと今では『神様』に感謝しても良い位だ。……いや、やっぱり少しだけ未練が有るかもしれない。
女の子の日は辛いし、ラッキースケベには遭うし、いやらしい視線を受けるし身だしなみには必要以上に気を付けなければならない等々。男であった時には無かった苦労が沢山あってたまに戻りたく成る事もあるわけで。まぁでも、悪くはない。
「何ニヤニヤしてんだよ。咲耶!」
「あ? いやさ。こういうのやっぱいいなって思ってよ。なぁ、鈴音もそう思うだろ?」
「そうね。アンタ達と馬鹿やって過ごすの嫌いじゃ無いわ」
「素直じゃない奴、咲耶と一緒じゃなきゃヤダ! とかガキの頃は言ってた癖に」
「ちょ、ちょっと一夏! そんな昔の話持ち出さないでよ!」
昔の話を掘り返されては溜まったものじゃないとじゃれつく一夏と鈴音の姿に微笑ましくなって口の端が吊り上がる。懐かしい情景が脳内に上映される。カルガモの子どもの様にべったりだったっけと思い出しながら、今も大して変わらないなと笑う。
「そんなことも有ったなぁ。あの時は確か……」
「わーわーわー! はいっこの話は終了! 一夏アンタ後で覚えときなさいよ!?」
「なんだよ、鈴にそんな可愛らしい過去が有ったなんて知らねーぞ? 後で教えろよ一夏」
「おう」
「おうじゃないっ! ねぇ、咲耶も笑ってないでこの馬鹿達に何とか言ってよ!」
「くくっ。いや悪いな鈴音。つい、昔を思い出してな。今もそうだがあの頃も可愛かったなぁ鈴音は」
「あーもう! 咲耶まで!」
地団太を踏んで毛を逆立てて威嚇する猫の様にシャー! と唸りそっぽを向いてしまう鈴音。慌てて弾と一夏がご機嫌を取る為にフォローに回った。
「鈴は弄りがいが有るからな、打てば響くっていうの? リアクションがおもしれぇんだよな。だからつい弄り倒したくなるんだろうよ。ほら、良く言うだろ好きな子ほどイジメたくなるとかってさ。アレと同じだって、なぁ一夏?」
「そうそう、弾の言う通りだ。鈴は
「この馬鹿! どーしてそういうアホな言い回しを……」
「ふーん、あっそ。一夏がアタシをどういう目で見てるか、よぉく分かったわ」
「あ、いや今のはその言葉の綾というか」
「そ、そうだ! もう日も暮れて来たしうちで飯食ってけよ! 今日は俺が奢るからさ。なぁ咲耶もどうだ?」
このままでは不味いと判断した弾が一夏と鈴音の間に割って入り、晩飯の提供を提案する事で話の軌道を逸らそうと必死になって二人の仲を取り持とうとしていた。
「まぁ、奢ってくれるならお言葉に甘えさせてもらうが。覚悟しとけよ?」
「お、おう。善処するけど、余り無茶なのは勘弁してくれよ?」
「咲耶が行くなら、アタシも。晩御飯いらないって連絡しなくちゃ」
鈴音はそう言ってオレ達から少し離れ、携帯電話を操作しだした。一方こちらでは一夏が罰の悪そうな顔をしてオレ達へと謝罪の言葉を口にした。
「悪い、助かった弾。咲耶もスマン、今日は特製ハンバーグ作る予定だったのに」
「貸しだからな。一夏後で返せよ?」
「ま、弾の家の飯も好きだし気にすんなよ。それよか鈴音にはちゃんと謝っとけよ?」
「ああ。今回ばかりはそうするよ」
「お前らってホント仲良いよなぁ……オシドリ夫婦かよ。羨ましい」
「はぁ!? ななななに言ってるんだよ弾!? 俺と咲耶が夫婦とかそんな馬鹿な事っ」
「そうだぜ弾。冗談も休み休み言えよ一夏は兄弟みたいなもんだ。仲がいいのは当然だろ? 一夏が馬鹿をやったらオレがそのケツ拭くのは当たり前だ」
「そ、そうだな。どっちが兄か姉かはこの際置いておくとして、家族が助け合うのは当然の事だよな!」
オレの返答に少しばかり残念そうな表情をしながら一夏は家族という単語に強い抑揚をつけながらオレの言葉に共感し、語気を強めた。それに対し弾は心底呆れたと言わんばかりにジト目で一夏を睨み付けると溜息を一つ吐いて口を開く。
「……はぁ。そうかよまぁいいけどよ。でもよ、一夏。そうやって誤魔化してばかりじゃいつまで経っても……って俺が言うまでもねぇか。ま、精々頑張れよ」
「話は終わった? 連絡して来たから早く行くわよ! 弾と一夏の奢りだからばんばん頼むわよ咲耶!」
「ゲッ!? ちゃっかり俺までっ」
「まぁ、お前が災いの元なんだし当然だわな」
「諦めろ、一夏。今日は身体動かしまくったからな、オレも鈴音もかなり食うぜ?」
『勘弁してくれ』
奇しくも弾と一夏の気落ちした声が揃った。二人は極近い未来に起きるであろう馬車馬の如く働かされる食堂の手伝いを想像して肩を落とした。そんな二人を見てオレと鈴音はいたずらにくすくすと笑うのだった。