IS TSオレっ娘オリ主物(仮題)   作:のんけくん

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事情説明

 ピット内で身に纏った打鉄を指示通りしゃがんだ体勢で解除すると深く溜息を吐いた。整備のためか機能的な作業着を着た女性達が忙しなく今し方動かした打鉄を点検し始めた。邪魔をしては悪いので踵を返しそそくさとその場を後にしようと一歩踏み出したその瞬間、素っ頓狂な悲鳴が後方より響いて来た。

 

「ぅえええっ!? なんで? どうして動かないの!? さっきまで動いてたじゃないっ」

「あ、先輩。機体にロックが掛けられているみたいです。原因は不明ですが」

「IS自身が起動を拒んでいるって事?」

「それは分かりませんけど、そもそもブラックボックスの塊みたいな存在ですから何が起きても不思議じゃないでしょう。それにISには『自我が存在する』なんて話も聞きますし、ね」

「そんな与太話してる場合じゃないでしょっ! ああもう、お上になんて報告すりゃあいいのよ」

 

 どうやらオレが動かした打鉄にトラブルが発生してしまった様だった。……オレが動かした後に起きたんだからオレが悪い事になるのか? 『能力』を無意識的に使用してしまったのが原因だったりして。ヤバいぞ、IS一機お釈迦にしたとなれば賠償金とかとんでもないだろう。

 当然試験内容も映像記録されているだろうから本来使用できる筈の無い『雪片』を用い『単一仕様能力(ワンオフアビリティ)』まで使用したとなれば嫌疑の目は免れない。IS適性値だけでも目を付けられているというのに『能力』まで露呈したとなれば国家間の厄介事に巻き込まれるのは想像に難くない。……どうする、どうすれば良い? 考えろ、オレ。

 

「一体何の騒ぎだ? 試験会場の貸出時間が迫ってきている。撤収準備を手早く済ませろ」

 

 ナイス姉貴。グッドタイミングだ! 余程急いでこちらに来たためか普段はお目にかかれないぴっちりと身体のラインが浮き出る黒のISスーツを身に纏ったまま現れた。オレがまだピット内に残って居る事を確認すると安堵のため息を吐く。そして整備士の女性から事情を聞き、暫し黙考するとオレに向かって口を開く。

 

「咲耶、もう一度乗ってみろ」

「え? お知り合いなんですか、彼女?」

「ああ、ウチの居候兼妹分だ。早くしろ」

「わぁったよ。乗るからそう急かすなって」

 

 姉貴に言われた通りに打鉄の元へ歩き、身体を預ける様にして装着した。すると、さきほどまではうんともすんとも言う事を聞かなかったであろう打鉄が再起動し、脳内に初回起動時に似た情報の波が入り込んでくる。次いで、オレの視界内に『フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください』と表示がポップアップした。この展開どこかで見たぞ、と険しい顔をしてこちらを睨む姉貴を尻目に顔面が引き攣りそうになるのを抑え込んで震える手で確認ボタンを押す。

 

 押した瞬間、先ほどの情報よりも膨大なデータが脳へと直接刻むように入り込んでくると同時、身に纏った打鉄が発光現象を開始しする。先の戦闘で知らぬうちに使用していた『雪片』の『零落白夜』に似た粒子が集い、眩いまでの光がオレを包み込んだ。

 数瞬後、光が消え去るとそこには鋼色ではなく桜色が存在していた。機体のベースは元の打鉄のソレ、劇的な変化したのは色のみだった。……良かった、色だけ変わったただの打鉄だ。一次移行(ファーストシフト)した時は驚いたが専用機でもない第二世代の量産機ならこの結果が相応だろう。しかし、桜色とは随分と派手な色になったものだなぁ。

 

「姉貴、思わず一次移行させちまったけど色以外に特に変化はなさそうだぜ?」

「……はぁ。お前は一体どこまで非常識なんだ。第二世代の打鉄が専用機でもないのに一次移行出来る訳ないだろう。恐らく、ソイツはお前以外にはもう扱えんだろうよ」

「ゲッ!? 嘘だろ? データ消したりとかでどうにかできねぇのかよ!?」

「無理ね、先ほどから続けてはいるけれど外部からの操作を全く受け付けないんですもの。もし仮に出来るとしたら篠ノ之束博士位でしょうね」

「ドンマイです。受験生の巨乳美少女さん」

「一先ず、その打鉄がIS学園保有の物であって良かったと思うんだな。日本や諸外国の物だった場合私でも庇いきれん。一応学園でも調べてみるから解除しろ。それとお前達(・・・)の今後はIS学園預かりとなるだろう。早くも合否判定を知る事が出来て良かったな? 咲耶」

 

 言外に、後で分かって居るだろうな? と威圧感を漂わせて凄む姉貴の顔は般若の様であった。束博士だの亡国機業(ファントムタスク)だのなんぞより余程怖い存在が目の前にいる現実に乾いた笑みしか浮かばない。ご愁傷さまと言わんばかりに姉貴の近くでこちらを見ていた二人は売られていく子牛を見るかのような目をしていた。

 

「さて、幸いな事にIS起動試験はお前で最後だったわけだが。このままお前を帰すわけにはいかなくなった。色々(・・)とお前には聞かねばならない事が出来たからな?」

「まぁ、そうなるわな。良いぜ。遅かれ早かれ姉貴には言っとかなきゃならねぇし、家族相手に隠すほどのもんでもねぇしよ」

「そうか。ここで話すのもなんだ別室で腰を据えて聞かせてもらおう」

「……ああ」

「あの、それでは私達は撤収作業に取りかかりますので」

「頑張ってね」

 

 整備士の二人がそう口にして作業を再び開始し始め、オレ達は場所を改めるべくその場を後にした。無言のまま廊下を黙々と歩き、面接試験で用いた個室に揃って入り中に誰もいない事を確認すると内側から鍵をかける。パイプ椅子に腰かけてさて、と姉貴が口を開いた。

 

「それでは聞かせてもらおうか。何故お前が『雪片』を持っていたのか、そして『零落白夜』すらをも使用出来たのか」

「ソイツを話すにはまず、木花咲耶(オレ)という存在についてから説明しなくちゃいけないわけだが。それでも良いか?」

「……お前に何らかの事情がある事はなんとなく察していた。だが、普段のお前を見ていると悪意をもって近づいて来たわけではない事は分かって居た。……お前の『両親』の事は束が勝手に調べ上げていたからある程度は知っている。奴が随分と愉快そうに話してくれたからな。そう。まるで、お前たちという存在は『最初からそんな人間が居なかった様にある日突然現れた』のだと」

「そこまで分かってんのかよ。流石は束博士だな。……ああそうだ。オレは本来この世界の人間じゃあない。と言っても、別にこの世界をどうこうしようだなんて考えは勿論無い。いや、無くなったと言った方が良いのかもな」

「なくなった? なにか目的が有ってやって来た筈だろう?」

 

 怪訝そうな表情を浮かべて姉貴は続きを促した。オレは苦笑を浮かべつつ再び口を開く。

 

「まぁ、オレにも色々と事情ってもんがあるんだよ。ソイツはもう『過去』の話しで、『今』のオレには関係無いんだ。……変われたのは、多分。姉貴と一夏のおかげだ。感謝してるよ。ありがとな」

「う、む。良く解らんが、その言葉は受け取って置こう。それで、お前が仮に異世界人だとして何故お前が『雪片』を扱える事に繋がるのだ? まさか異世界人全てが扱えるなんてことはないだろう?」

「ああ、その点は安心してくれよ。オレは反則だからな。なぁ、姉貴。『神様』って信じるか? いや、神というか超常の存在と言った方が良いか」

「生憎と私は無神論者でな。宗教の勧誘だったらお断りだぞ。だが、まぁ世間からしてみれば束も似たようなものか」

「オレからして見りゃアンタもだよ。とにかくオレは『神様』と出会い、この世界に送られてきたってわけだ。その際に『IS操縦者として破格の才能』とこっちについてからの『お楽しみ』を植え付けられたという訳で…………なぁ、いつまで黙ってるんだ? どうせどこかで聞いてるんだろ? 束博士よ」

「あれれ、ばれちゃってるんだ! 気付かれるとは思って無かったのになぁ……流石は『さっちゃん』だね! ますます興味が湧いて来たよ。思わず生きたまま解剖してあげたくなる位にねっ」

 

 姉貴の肩からこの場にいない筈のやたらとテンションの高い女性の声が聞こえ、光学迷彩でも作動していたのかいつの間にか小型の羽が生えたメカメカしいウサギが姉貴の肩にちょこんと可愛らしく乗っていた。

 

「束、お前また私に可笑しなものを! 今度会ったら覚えておけ」

「まぁまぁまぁ、ちーちゃん! 束さんとちーちゃんの仲でしょ? 固い事言わないでよっそれに、さっちゃんの事調べてあげたじゃない」

「お前が勝手に調べ上げたんだろう。私はお前がいつになく興奮気味に捲し立てるから仕方なく聞いただけだ」

「そんな事言っておいて随分熱心に聞いてたみたいだけど? さっちゃんのこと隅々まで調べたいって言ったらちーちゃんの顔と声怖かったし」

「当たり前だ。確かに素性は分からなかったが、悪い奴ではないのは分かって居たしそもそもお前は本気で咲耶を壊しかねんからな。そんなお前に近づけるほど愚かではない」

「ちぇー。折角の異世界人だよ? きっと面白い発見とか色々あるよ絶対。ねぇ、さっちゃん。束さんとイイ事しない?」

「お断りだ。まだ死にたくないんでな。まぁ、オレが死んだその時は好きにして貰っても構わねぇけどよ。あ、だからといってマジで殺しに来るとか勘弁してくれよ?」

 

 一応釘は刺しておかないと無人機ゴーレムやら人参ミサイルやら送り込んできそうだからな、以前の誘拐の時の様に連れ去られるのは御免被る。捕まったが最後解剖実験コースでバッドエンド確定だしな。

 

「ぶーぶーさっちゃんのケチー。でもさっちゃんの不思議な力については教えてくれるよね? ちーちゃんも気になってるだろうし」

「ああ。束のせいで聞きそびれていたが、説明してもらおうか?」

「オーケー。だが、他言無用で頼むぜ? それに束博士には喧嘩売ってると思われたくないから先に謝っとくけど、これはオレが望んで得た訳じゃないって事だけは理解してほしい」

 

 IS操縦者としての破格の才能を望んだ結果が女体化という落ちだったことには無理やり納得したけど、こればかりは弁解しておかないと後が怖い。

 

「何でもいいから早く早く! 教えてくれないとバラバラにしちゃうぞ?」

「はいはい。オレの能力は上書き。ISコアネットワークに登録または記録された武装・兵装及び『単一仕様能力(ワンオフアビリティ)』を『世界(リアル)』を書き換えて(だまして)使用できるようにするってものだ。勿論やろうとすれば機体そのものを全く別のものに変える事も可能なわけで、姉貴が使った『白騎士』にも書き換え可能なんじゃないかな?」

「……無茶苦茶だね。それで、君はその力で一体何をするつもりなのかな? もし、私の子ども達を悪用するっていうのなら……潰すよ」

「なにも」

「ふざけてるの? だったら」

「いや、待て束。咲耶は私との会話でこう言ったはずだ。『この世界に来た目的がなくなった』とそれはつまり何かをしようとしていたが、何らかの理由でしなくても良くなった。或いはする必要がなくなった。そうだろう?」

 

 声色からして不機嫌に成ってしまった束博士に対して姉貴がフォローを入れてくれる。助かった。話を聞いて貰えなくなったらオレは彼女の宣言通り潰されていただろう。

 

「ああ。信じて貰えるかわからないけど今のオレはただ、この世界で人生を謳歌したいだけだ。世界に戦争を吹っかけようだとかISや束博士をどうこうしようだとかそんな事は一切考えてないし今後そうするつもりもない」

「ふーん。まぁいいよ。でもそれとなく監視は付けさせてもらうからね」

「良いぜ。たまに話し相手になってくれると嬉しいけど」

「暇なときくらいは話してあげるよ」

「束、咲耶が一次移行させた打鉄。元に戻したり出来ないか?」

「うーん。どうだろ? 直接見てみない事には何とも言えないけど、流石に外部からの操作を全く受け付けないんじゃ天才の束さんでもちょっと厳しいかも。折角だしさっちゃんの専用機にでもしちゃえば良いんじゃないかな?」

「そうか……」

 

 束博士の言葉を聞き、思案顔で黙り込んでしまう姉貴。お手上げ、か。困ったなぁ。

 いやでも、少なくともオレの操作は受け付けるんだからオレがなんとか出来る様にすれば問題ない、筈。それに、ISを持てるなら自衛はしやすくなるんだし悪い事ばかりではない。問題はIS学園側がオレを認めてくれるかどうか、か。先の事を考えると胃が痛み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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