ソード・アート・オンライン〜銀髪の二刀使い〜 作:月夜(白夜)
丸一日かけて作戦を練り、ついにラフコフ討伐戦が始まる。討伐と言っても本当に殺すのでは無く無力化して牢屋に入れるという。でも、そう簡単に済む話では無い。向こうは、確実に殺しに掛かるのに、私達はただ無力化するだけだ。この時点でまず力のかけ具合が違う。犠牲者が何人でてもおかしく無い。自然の力が入り、いつも一緒にいたフェンでされ少し距離を置いていた。
「見えたぞ……あそこだ」
先頭を歩いていた聖龍連合が足を止める。
「手合わせ通りにいくぞ。細氷さん頼んだ」
「分かった」
隠密スキルを使用して、ラフコフの隠れ家へと近づく。ツインセイバーの特殊能力で隠密スキルもプラスされる。それはもはや透明だ。制限時間は3分。この短い間に出来るだけ中の様子を調べればいい。
扉を開けて中には入る。ゆっくりと入ると男の声が複数聞こえる。その部屋へと侵入する事にした。
無音で扉を開けて瞬時に中に入る。壁を背中に擦るように移動する。ラフコフメンバーは目と鼻の先、自分の息が物凄くうるさく感じる。時計をチラッと見るとあれから30秒しか経ってない。
こんなに心臓に悪い仕事は初めてだ。
「ん? おいあそこ誰か動かしたか?」
男が目を刺したのは、壁に飾ってあった絵だった。
(しまった……少し当たったのが見つかったか。でも、私の存在は気付いてないはずだ)
「知らねぇな。でも、なんか女の臭いしないか? 今まで以上に甘くて、エロい蜜の香が」
不意に私の方を見た。そして目が合う。突然、足が震えた。
(なんで……足が、駄目……動かない)
この感覚似ているこれは、恐怖だ。背中が凍りつき心臓の鼓動が早くうるさくなる。なんで、あの時死は怖くなったはずなのに……。これだと向こうの世界と同じ。ここの世界の極夜は、冷たくて、攻略に全てを捧げる人だ。こんな姿をフェンに見せる顔が無い。
「おい、探すぞ奴らが来た。頭とザザさん達に合図を送れ」
その間音を立てないようにズルズル壁に体を預けて座っていく。
慌ててでいくなか私は息を潜めていた。外では、剣と剣がぶつかる音が聞こえる。再び時計を見ると既に5分経っていた。どんどん大きくなる足音、時期にこの作戦も終わる……? 待った。なんで幹部メンバーが1人もいない、情報と違う……。まさか……罠? それを表すように外から高い悲鳴が聞こえる。駄目だ。こんな所で足を止める訳には行かない。
動け……! フェンやキリト、アスナを助けるのは私しかいないから!
「くっ……ぅぅぅぁぁぁっ!」
ようやく動いた足を引きづりながら急いで外に出て、討伐隊の人数を確認する。足りない……3人も居ない。
そして、フェン達を見ると極めて危険な状態だった。特にフェンが一番死に近い。片腕が無く、胸にはダガーが刺されていた。
「許さない……!」
私は怒りに支配されそれに体を任せてしまった。フェンを囲むラフコフを薙ぎ払う。その人達は一瞬にしてポリゴンと化す。
「ゲツヤ……!」
「回復して、早く」
彼の返事を待たず次々と敵を切り倒して行く。
飛び散る人の部位や周りからの目なども気にせず。ただ、仲間や親友を助けるという思いと、怒りに身を任せて。
森の奥から頬を釣り上げ出てきたのはラフコフのトップだった。私はそいつに剣を向けた。
「これは、また随分の派手にやってくれたな。細氷さんよ」
「PoH……あの時の屈辱今返してやる」
「ふっ、殺る訳無いだろ。こんな負けの見える戦いを、ホラよ」
PoHは私に武器を投げ捨てて両手を上げる。
「俺からのプレゼントだ。受け取りな人殺し」
「ひ……ひと……殺し?」
PoHはそれだけを言い放ち拘束された。全てが終わった。その時熱かった頭に氷水を被ったように徐々に冷静な頭に変わる。
「ひ……ひと……ごろし」
そして、さっきの一幕が一瞬にしてフラッシュバックする。
その時に私が殺めた人を数える。8人この手で殺した。仮想世界からも現実世界からも……。剣をしまい、自分の両手を見る。何も付いてないように見えるが、この手で私は人を殺した。
「あ……ぁぁぁ !!い、いやぁぁぁぁぁ!!」
素で出た悲鳴。涙で視界がぼやける。
「人……殺し……!! あぁぁ! うあぁぁぁ!」
PoHの言った「人殺し」という言葉が頭のなかで何回も流れる。
「うるさい! うるさい! うるさい! 黙れ! 黙れぇぇ!!」
「ゲツヤ! しっかりしろ!」
フェンが私を止めるように抱き締める。しかし肩越しに見えた人の目に心臓が跳ねた。
なんで、そんな目で見るの? 助けたのに、協力したのに……! キリト……! アスナ……!2人を見ると驚愕の目をしており、言葉を発しようとしていない。
「離せ! 1人にさせてくれ! 誰も私の側に近づくな! 失せろ!」
フェンの抱擁を思いっきり拒絶をする。力強く突き飛ばし、転移結晶で適当な層へと移動して、近くにある宿へと直行した。
「ぐっ……ぅぅ! うぁぁぁぁ!!!」
落ち着かない気持ち、人を殺したシーンばかりフラッシュバックする。メッセージの着信する音が入るが見る気が無い。
「うぐ……うっ……えぐっ」
布団に倒れて、片手で強く頭を握る。一度寝れば全て忘れる。頭と気分を全てリセットすればいいんだ。
目を閉じてただひたすらに睡魔が襲うのを待った。
夢の中で目を覚ますとそこは現実世界だった。ここは、確か通ってた中学。
懐かしい顔とすれ違うなか聞こえた会話。
「あいつ人を殺したって知ってる?」
「マジかよ、頭イカれてるだろ」
な、なんでいきなりこんな事を……。他の人は? 周りを伺うと見る目はまるで汚物を見下すような視線。
そんななか金髪の女の人が目の前に現れる。間違いない。
「お姉ちゃん!」
呼ぶと肩がビクンと上がりゆっくりと振り返る。
「極夜……ごめん。私は大好きだよ。でも、人を殺したってのは嫌い。本当にごめんね」
お姉ちゃんは、私から背を向けて、走り去っていく。
そんな……嫌だ! 嫌だ!
「……ぁぁぁぁぁうあああぁぁぁ!!」
慌てて飛び起きると先ほど泊まったいた宿にいた。ぐっと疲れ、息をすることしか出来ない。
呆然とする頭に響くように着信のメッセージが開く。着信箱には、約30通たまっていた。
その半分を占めていたのがフェンだった。他にもアスナやキリト、クラインなどもいる。1通1通確認しようとしたが、夢の事を思い出す。
人を殺したら世間からの見方が変わる。どんなに味方だった人にも裏切られる。きっとフェン達も同じ……。なら孤独になった方がまだいい。
「……さようなら……」
既読を付けず一括消去する。 そこから周りの目から逃げるように宿から一歩出ず、怯えて時間を過ごしていった。
あれから1ヶ月が経過した。メッセージをいくら送っても返事も来ない。攻略にも大きな支障もで始めた。最上層である61層のボス戦をやったが、且つ無い程の死者が出てしまい、初めて撤退をした。そして、今度は、ゲツヤを探すために大規模な捜索作戦が始まった。これには攻略組全プレイヤーが参加し、アルゴ含む情報屋も協力してくれた。しかし、1つも手掛かりが得られなかった。
ツインセイバーを装備して、隠密スキルをフルに使われたら透明化になり足音も消えてしまい完全ステルス状態となる。
「ゲツヤ……どこにいるの?」
親友であるアスナやキリトも死にもの狂いで探し攻略も後回しにしながらも探している。俺も2人に肩を並べて、探すなか隣から覚えのある匂いがした。一瞬勘違いと思ったが、鼻の先をかすめていったのは、髪の感覚に似ていた。
まさか……。ゲツヤ?
俺は咄嗟に後ろを向く。見えないけどそこにはいる。一生守ると誓った人俺の愛する人が、肩の部分に触れると、しっかりとした人の温もりを感じる。
「……今までどこにいたゲツヤ」
やっと見つけた。すると、さっきまで空間だったところに銀髪が表る。背中を向けたままこっちを向こうとしない。
「おい、ゲツヤ」
「フェン君怒れる気持ちも分かるけど、ゲツヤ泣いてるよ……」
アスナに言われ少しだけ見える目尻を覗くと涙が流れていた。
ゲツヤの涙を見るのは初めてだった俺は、驚きもあるがまず謝ろうと思い、掴んでいた手の力を和らげる。
するとゲツヤが呟いた。こんな弱々しくかすかに聞こえる声は初めてだ。
「怖かった……。あの時人を殺して、気が動転してフェン達に嫌われるのが怖くて、それなら孤独の方がマシと思ったの。でも違った。1人が孤独が、こんなにも寂しくて冷たくて心と頭が空っぽになっていっていくのも怖かった。本当に最後らへんは記憶がないの。自分が何をしていて何をやっていたのか、精神がおかしくなりそうだった」
「嫌いでしょ、こんな弱くて女々しくて臆病な私。フェンが愛したゲツヤはもう居ないのこれが本当の姿、一人ぼっちが嫌いで誰かに甘えないと生きていけない。私は弱い人間なの」
「そんなこと無いよ!」
耐え切れなかったのか、アスナも泣きながらゲツヤに思いっきり抱きついた。
「私は一生ゲツヤの親友よ! 怖がったりなんてしてないし、誰にだって弱いところはある。勿論私もある。今まで我慢してきたんでしょう」
「うん……」
「なら今ここで全部吐き出しちゃって、溜まりに溜まった鬱憤はいつでも私達にぶつけていいから! 1人で悩まないでよ」
「ア……ア、アスナーッ!!」
ゲツヤも胸に顔を押し付けて、全て流すように大粒の涙を溢す。
「ゲツヤ……やっと頼りにしてくれた」
「ごめん……心配かけてごめん。私……うぐっ、うああああん!!」
何も言わず、ただアスナの胸にしがみつき離れようとしない。それほど寂しかったんだろう、辛かったんだろう。俺は相棒なのに何も分かってやれなかった。それが悔しくて、自然と手を強く握りしめていた。
「ゲツヤ、フェン君にもしっかりと謝るのよ」
濡れた赤い目が俺を見る、まるで別人のようだ。そして有無を言わず俺の胸にも飛び込む。
「フェン……ごめん。あの時心配してくれたのに突き飛ばしてメッセージも無視して」
「ほんとだよ。でも帰って来てくれてよかった。言わせて貰うけど俺は、全てを含めてゲツヤの事が好きだからな」
面と向かって話をすると顔を赤らめて、再び俺に飛び込む。
「……ありがとう。これから家にいてもいい?」
「あったりまえだろ。帰ろうぜ」
「キリトもごめん。私の自分勝手な行動で迷惑かけて……。なるべく早く戻るようにはするけど少し時間をくれる?」
「あぁ、無理はするな」
「ありがとう。アスナ、キリト本当にごめん。また頼るからね親友」
「いつでも来てねゲツヤ」
2人に別れの言葉をつけて、俺たちは22層へと転移する。
既に太陽は消えて月が家を照らしている。
「ねぇ、フェン。今日は一緒のベッドで寝てくれないかな?」
「え!? あ、あぁいいよ」
「ありがとう」
夜ご飯は、適当な物を俺が作り風呂に入り後は寝るだけた。
俺が先に布団に入ると、その隣にゲツヤが入る。いつも触れていたのにシチュエーション的にやばい。俺の理性保ってくれよ。
「フェン……あったかい。もっとくっつくね」
背中越し感じる膨らみに俺の心臓がドキン! と上がる。これは、非常にマズイ……!その気持ちを知らないゲツヤは、持ち前の身体能力を生かして、俺の体を乗り越える。そして目の前に可憐な顔が飛び込む。
「顔……赤いよ」
「んなこと知ってる」
こんな美少女が添い寝してるんだから誰でもこうなるわ。ていう、あまりくっかないで欲しい。いつ理性が弾き飛ぶか分からねぇ……。
「フェン、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
より一層ゲツヤが俺に抱きいつては心地の良い寝息が聞こえる。落ち着け……。感情に流されるな、どんな時でも冷静になれこんなんじゃ寝れやしない。一度布団から出ようとしたが、突然苦しみの声をゲツヤは上げた。
「うっ……ぐぅ、はぁ……! はぁ……!うぁっ、や、……いや」
手探りで俺の体を探し、見つけると赤子のようにギュッと掴む。まさかとは思うがこの1ヶ月悪夢を見続けてないだろうな? もしそうだったら生き地獄もいいところだ。
「落ち着けゲツヤ。俺が側にいてあげるから、何も心配しなくていいから」
優しく体を抱きしめて、寝ているゲツヤに耳元で優しく呟く。
「ずっと一緒だ。これからも……」
額にキスを送り、ゲツヤの体を離さず抱き締め俺も深い眠りへと入っていった。