ソード・アート・オンライン〜銀髪の二刀使い〜 作:月夜(白夜)
「どいうことだよ。ゲツヤ、ヒースクリフが茅場って……」
震え声でフェンは私に聞く。
「それは直接聞いたほうがいいよね? 茅場さん」
「ふむ……どうやって正体を知ったか教えて欲しいな」
「あのデュエルの時、あなたは流石に速すぎだわ。まぁ、あれに反応しちゃう私も人の事を言えないと思うけどね」
「やはりそうか、あれはついついシステムオーバーアシストを使ってしまってね。それに反応したゲツヤ君に度肝を抜かれてしまったよ」
「まだあるわ。後は、団員に対する接しよ。アスナはこれまでに1人1人の団員に敬意を込めて言葉を交わしていたのに、あなたはそれを行ってなかった。駒としか見ていなかった。そして一番はあの茅場はどこでゲームを眺めているかなっていう簡単な疑問よ。人のやっているゲームを傍らから眺めるなんてつまらないらしいからね」
「凄まじい洞察力と頭の回転速度たな。そうだ、ゲツヤ君の言うとおり私は、茅場明彦だ。そして、このSAO第100層のラスボスでもあるが、まさかこうも早くバレるとはね。まぁこれもMMORPGの醍醐味といったところか。これから私は第100層で待とうか、っとその前に正体を看破したためにチャンスを与えよう」
「チャンスだと?」
ヒースクリフがメニューウィンドウを開くと、1人を除いた全プレイヤーが麻痺となった。
「一体……なにを。キリトをどうするつもりだ?」
「もう一度ゲツヤ君と戦いたいが、キリト君ともデュエルをしたくてね。私に勝てば、アインクラッドにいる全プレイヤーをログアウトさせよう。つまりゲームクリアだ」
「なっ……。いや、私と戦えヒースクリフ! あのまま引き分けで、引き下がれる訳ないでしょ!」
麻痺をしている筈なのに、ゆっくりと体が動く。
「悪いがゲツヤ君、そこで見ていてくれないか」
ヒースクリフが再びメニューウィンドウを開くと、更に強い麻痺が体に回った。
「あぐっ!? ぐっ……ぅぅぅぅ」
強烈な違和感にうめき声が漏れてしまう。
「分かった。ここで、決着を付けてやる」
聞こえたキリトの声に、それは駄目だ。私が、殺す。と言いたかったが、それが無理だった。その代わりに、この場にいるプレイヤーがデュエルをやめさせようとしている。
しかし、願いは届かずデュエル開始のカウントダウンが始まってしまった。
あの男は開発者なら全てのソードスキルのパターンを熟知しているばす、だからツインセイバーも全て弾かれたと想像がつく。それは二刀流も同じだろう。純粋な剣術じゃないと勝てない。……キリト死なないで。
しかし、その思いは届かなかった。焦ったキリトはつい、ソードスキル。ジ・イクリプスを放ってしまった。本人から焦る顔と勝利を確証したヒースクリフの笑みが混じる。
駄目だ、あれだと間違いなくキリトが死んじゃう。それだけは駄目だ。アスナとキリトの仲を壊すやつはだけは、私は絶対に許さない。
そして、ジ・イクリプスの最後の一撃が盾に直撃して砕けてしまった。
「さらばだ……キリト君」
硬直時間で動けないキリトにヒースクリフの剣が光る。そして、アスナの上体が上がり、今にも動き出しそうだった。
動け、こんな偽の麻痺に臆するな……動け……。
「動けぇぇぇ!!!」
その瞬間バリン! と音がなり、前にいたアスナの襟を掴み後ろへと引っ張る。肩越しに見ると手を伸ばして、私の名を叫んでいた。そして、その高速を保ったままキリトとヒースクリフの間に割り込み、両手を横に広げる。
私は、引き分けが嫌いなのよ。負けでもいいからまず、私と決着を付けろ!
振りかかる剣を見つめる。触れる前に恐怖で目を閉じれば、左肩から右の脇腹を深く切られる。HPバーは同然レッドを越えて、ゼロとなった。
後ろへと倒れるとキリトの腕が私を包んだ。
「……よかった、無事で……」
そして、最後にフェンへと手を伸ばし、声が出ず口パクになってしまうが。
「ごめんね……愛してる……」
そして、私はこの場からポリゴンと化して消えていった。
「ああぁ……うあああぁぁぁ!!」
この場に響く、フェンの絶望の声。俺の目の前には、ゲツヤが使っていた剣が落ちていた。
「まさか、あの麻痺をどやって解いたんだ。まぁ、この展開もいいものだな」
「貴様……殺してやる!」
ゲツヤの持っていた片手剣。ホーリーリパルサーを拾い、ヒースクリフへと振る。
なんだこの剣は、重量がまるでない……。だけど手にはしっかりフィットする。自分でもここまで早く剣を振れるのは初めてだ。
「ぬっ……ぉぉ!!」
あのヒースクリフが守備に遅れが生じ始めた。あの少しで抜ける!もっとだ、もっと早く!
「うおおおぉぉぉーッ!」
気合いの声を上げて、全てのパワーを乗せた一撃は、ヒースクリフの体を崩した。
「これで終わりだ!」
胸に突き刺すと、ヒースクリフのHPバーが消し飛びポリゴンと化した。その数分後に、アナウンスで告げられたゲームクリアのセリフ。
安堵したした。しかし、その時だった。アスナの声に俺は、フェンを見た。だが、既にその場にはいなくなっていた。
「アスナ、フェンがどうかしたのか?」
絞りでるように出た内容に俺は呆然としてしまった。
「フェンくんが……自殺したの……」
気がつけば、美しい風景が視界に広がっていた。夕焼けに薄くかかる雲。そして、アインクラッド。もうそろそろ私の現実世界にある極夜は脳を焼かれて死ぬだろう。もうどんな夢も叶わない。でも、1つだけ叶えたい夢がある。
「フェン……会いたいよ……。1人なんて、やっぱり寂しいよ……」
自分の体を抱き締める。心のむなしさに涙が溢れる。
「フェン……寒いよ……悠」
リアルの名前を呼んだって当然現れる事がない。分かってはいるけど彼の名前を呼んでいないと余計に寂しくなる。
だけど突然後ろから優しく抱き締められた。
「俺はここだよ……極夜」
この声は間違いなく悠だった。腕の中で振り替えるといつものように微笑む顔があった。
「どうして……ここに」
「そろそろ俺の名前を呼んで泣いてる頃と思って駆けつけたんだ」
「バカ……死んでどうするのよ」
「地獄だろうが、閻魔様の腹のなかでも、お前と一緒なら天国だからな」
「ゆ、悠……」
腕の中で回転して、悠と向き合えば自然と顔が近づき、そっと唇を重ねる。
キスが終われば、悠は私をぐっと引き寄せる。この温もりが最高に心地いい。
「なかなかいい眺めだな」
その声に私達は反応した。
「ヒースクリフ?」
疑問系になったのは彼の衣服だった。普段では見慣れない科学服を着用していたために、見た目では判断が難しかった。
「どうしてここにいるんだ?」
「君達にどうしても言いたいことがあってね……。ゲツヤ君、フェン君、ゲームクリアおめでとう。次、目覚めるときは現実世界だろう。そろそろ私の脳はナーヴギアによって焼かれるだろう。最後にゲツヤ君、あの決着は君の負けかな?」
「ふっ、そうね。私の負けってことにしてあげるわ」
「これで言いたい事は終わった。私は行くよ。さらばだ」
ヒースクリフは、その場から立ち去っていく。
「なら俺達も時間……か」
「そうね悠、ちゃんと向こうの世界でも逢いましょう」
「あぁ、待ってろ必ず迎えに行くからな」
世界の終わりを、悠と過ごす。お互いの体が徐々に透けていく。
「待ってるから……悠」
「分かった。極夜が泣く前に顔を見せてやるよ」
そして、徐々にフワッと体が浮いていく感覚になり、リンク・スタートした際にみるあの視界が広がる。
ようやく現実世界に帰れる。悠にも時間が経てば会える。苦しい事なんて一ミリもない。
しかし、突然ガタンと音がなり、視界が闇になる。猛スピードで落下していく。こんなのログアウトじゃない……! なんなのこれは!?
「たす……けて……ゆ……う」
上に手を伸ばしたが、スッと意識が飛んでいった。