ハイパーセンサーの登場から、特撮のスーツアクターの安全性は格段と上がっていったのだ。
これは、一人のスーツアクターの物語である。
家族が誇り、仕事が誇り
ジリリリリンッ、ジリリリリンッ
目覚ましが鳴り響く、今日の始まりを告げるものだ。学生は朝早くから学校が始まり、サラリーマンは通勤ラッシュが起こる。それはいつものことだし、変わることは早々ない普遍的な日常。それはこの家の人も該当するものだった。
「おい弾、さっさと起きろよ」
「ん~、後5分だけ待ってくれよ輝兄」
「お前そう言って起きた試しないだろ。さっさと顔洗って降りてきな」
俺の朝の役割は目覚ましでもその目を開かない弟分を起こすことだ。俺は隣の部屋なのでこうやって毎回声をかけている。いつも夜遅くまでゲームをしてるような輩なため、こうやっていつも起こされるのだ。これで起きなきゃ妹の蘭ちゃんに蹴り起こされるだろう。もう知らない。
ここ、五反田家の朝は早い。料理屋をしているからか朝から仕込みを行うのだ。居候させてもらっている俺は、せめてもの恩返しにと朝の仕込みを手伝っている。料理ができない俺だったが、この仕込みをしていくうちに料理の前段階は完璧に出来るようになっていた。今は弟分の友人である織斑一夏という主夫系な後輩に教わっているがまぁ、今はどうでもいいことだな。今俺はキャベツの千切りをしている。二玉くらいはすぐになくなるらしく、今回は四玉くらいを捌いていた。
「輝。次ぎは味噌汁だ」
「はい」
「味は濃くしとけ。薄くしたきゃお湯で薄く出来る」
「わかりました」
ここ五反田食堂の店長であり、五反田家のドン。80歳とは思えない豪腕の持ち主で、俺の目指す肉体派な料理人だ。俺もこの腕のように筋骨隆々になりたいものだ。
そう暫く感心しながら料理を作っていると二回の方から何かの悲鳴が聞こえた数秒後に階段を下りる足音が耳に入る。リズムのいい軽い音、多分だが妹の蘭ちゃんの足音だろう。ということは先ほどの悲鳴は蹴られたな。
「おはようございます! 輝さん!」
「おはよう蘭ちゃん。もうすぐ料理できるから待っててくれよ」
元気な返事と共に蘭ちゃんが席に着いたことを確認し、俺は厳さんに味噌汁のできを報告した。合格を貰ったため料理を運び、ちょうど降りてきた弾に労いの言葉をかけつつ食卓へ向かった。
既に座っていた二人の母である蓮さんの前に最後の料理を並べ、厳さんが座るのを待つ。
「お、今日も旨そうな」
「ふっふっふっ、聞いて驚けよ弾。なんとこの味噌汁は俺が作ったんだ」
「おぉー、ついに輝兄も料理の一つを任されるようになったんだあたっ!?」
弾の頭に丸められた新聞紙が命中する。飛んできた方向へ視線を向けるとこちらへやってくる厳さんの姿があった。もう飯だと言いたそうな表情をみるに、あちらの仕込みも終えたのだろう。厳さんが最後に席に着く。すると蓮さんが嬉しそうに両の手を合わせた。
「では、いただきます」
『いただきます』
蓮さんの音頭の元、朝食をとり始める。厳さんは新聞を読み始めており、早速今日の天気予報を見つめていた。蘭ちゃんは朝から生徒会としての役割があるらしく、すこし駆け込み気味だった。そこで弾が太るとぼやいて足を踏まれるまでがテンプレート。いつもの光景だ。
「蘭ちゃん。ゆっくり食べないと喉に痞えるぞ」
「今日は朝から服装検査で校門前に立っていなきゃいけなくて、いつもより早く行かないといけないんですよ」
「あぁ生徒会なんだっけ。なら送ってあげようか? どうせ行く道は同じだし」
まだ入学して1年ちょいと経ってないのに、凄い人気というか何というか。容姿も可愛らしいし、何より頭もよく、頼まれたことを笑顔でしてくれる。そんな非の打ち所がない彼女に人気がつかないわけがなかったのかも知れない。流石五反田食堂二代目看板娘とはよく言われたものよ。彼女みたさに客がやってきて厳さんに怒鳴られて帰るなんてのはよくある話だ。
「いいんですか!! ありがとうございますぅ!!」
俺の提案にとても上機嫌になったのを確認する。心底嬉しそうで提案した俺自身も何故か満足している。彼女の嬉しそうな表情を見終えると、自分も食事を終えて両手を合わせる。早食いとまではいかないが、自分は人に言えないくらいには食べるスピードが速い。まぁ、仕事に遅れるわけにはいかないから慣れていったんだけどね。慣れって怖い。
「いいよなぁ、俺も乗せてほしいもんだぜ」
「弾は一夏君達と行くんじゃないのか?」
「そうだけどさぁ。俺だって楽したいし」
「ならさっさと高校生になるんだな。16から原チャには乗れるぞ」
ご馳走様と言い、食器を片付けるために立ち上がる。洗うのは蓮さんがしてくれるため、俺は流しに置くだけ。さて、今日も張り切って仕事だな。
「……あれ? そう言えば輝さんって今年まだ17じゃなかったっけ?」
「もしかして輝兄、年齢誤魔化して免許取ったか?」
後ろで何か言っていたが俺には関係ない。関係ないさと思いつつ。仕事鞄を持って外に出た。
今日は快晴。陽射しも強く、蝉の声が木霊する。
絶好の仕事日和だろうと大きく深呼吸をしながら思う。数秒間青空を眺め、バイクの元へと向かった。
食堂の裏手に止めてある大型のバイク。ゴールドウィングが俺を待っていたかのように佇んでいた。その大きさはまさに圧巻。俺が一番好きなバイクであり、俺の高校生活分の金とバイトの給料でやっと買えた新品。既に何回も乗ってるため新品とはもう言えないが、まだ乗りたてほやほやではある。
そんなゴールドウィングを裏から運び、店前で駐車する。あとは蘭ちゃんが来る前に自分のバックと蘭ちゃんのバックが入る分あるかトランクをあけて確認する。大型バイクなため多分あると思うが一応確認しておかなくてはならない。
「よし……入るスペースはあるな」
「輝さーん!」
ガラリと扉の開く音と共に、蘭ちゃんの声がする。新鮮な制服姿を目の当たりにして、若いっていいなぁと思う17歳な俺。やっぱ違うもんだよ。中学と高校じゃ・・・・・・俺高校通ってないけど。
「今日は暑いですねー」
「そうだなぁ」
制服の襟元を掴み、パタパタと仰いでる。汗が少し滴っており、予備のタオルを持っていればと思った。流石に男の使うもので汗を拭きたくはないだろう。
その後、見送りに来た蓮さんに頭を軽く小突かれ、はしたないわよと注意されるとこちらに視線を向け顔を赤くしながら頭を下げた。
「はっはっは……さてと、何か入れるものは?」
「あ、はい! えっと、このスクールバックですね」
そう言って渡されたのは学校鞄である。今の子はスクールバックなんていうのか、なんてお洒落なんでしょ。と思いつつ、弁当の向きを考えてバイクに収納した。
「はい。ヘルメット被って」
「はーい」
バイクに跨り、自分もヘルメットをつける。蘭ちゃんが後ろに乗ったのを確認し、俺はスロットルを開ける。マフラーからそれなりの騒音が響き、バイクに命が注がれる。
「忘れものとかない?」
「大丈夫ですよ輝さん!!」
「じゃあ頑張っておいで」
「うん、お母さんいってきまーす!!」
俺も見送りに来た蓮さんに一度手を振り、アクセルを開いた。ブォンという音と共にバイクが前進した。最初スピードが速かったからか蘭ちゃんが俺に抱きつくというちょっとしたハプニングが起こったが、俺的には役得というものなので気にせずスピードを上げた。後ろから聞こえる涙声に少し快感を覚え腑抜けてしまったが、すぐに今日の仕事を思い出して気持ちを切り替えた。
俺が今回する仕事と言うのは、ウルトラマンショーのガイアのスーツアクターである。歴代のウルトラヒーローの中でも根強い人気から平成ウルトラマンシリーズの基盤となった三大作品の一つ【ウルトラマンガイア】を演じるのだ。そこのショーでは今週日替わりでこの三大作品のウルトラマンが怪人をやっつける企画となっており6日間はそれぞれのヒーローが怪人と戦い、7日目は三人揃って映画で出てきた敵を倒すというものだ。
流石は人気の三作品といったところなのだろう。先日行われていた【ウルトラマンダイナ】や先々日に行われた【ウルトラマンティガ】ショーでは観客が溢れかえっていたとのこと。客として自分も見てみたかった。
俺がこの業界に入ったきっかけも、まさしくこの三大作品なのだ。まさか念願かなってガイアになれるなんて思ってもみなかった。嬉しくてたまらない。
絶対にショーを成功させてみせる。腑抜けになっている暇はないのだ。
「て、輝さん速いですよぉ!」
すると、可愛らしい涙声が後ろから聞こえる。蘭ちゃんがついに訴えかけたのだ。俺はすぐに減速を始め、彼女が怖がらない程度までに落とした。落ち着いたのか、背中を一度叩かれる。案外やさしめで助かった。これ運転してるのが弾だったら吹っ飛ぶんじゃないだろうか。
「もう、びっくりしたじゃないですかぁ!」
「ごめんごめん。今日の仕事のことでな。はしゃいじゃったよ」
「えっと、確かヒーローショーでしたっけ? あー今日学校じゃなかったら“絶対”行ってたのに!」
「いやいや、別段気にすることないさ。俺なんかよりも蘭ちゃんには大事な事あるだろ?」
絶対を強調しながら言われた。声を聞くに本当に行きたがっているようで、自分としてもこういってはなんだが来てくれたら嬉しいとは思っている。
それにしても五反田家に居候をさせてもらって早5年か。あれから時が経つのが早く感じる。最初の頃は自分と顔馴染みなのが弾と蘭ちゃんしかいなくて、厳さんと父が仲良くてその関係で身内の居ない俺を居候させてもらってるんだもんな。そして一番の関係の変化は蘭ちゃんだろうなぁ。最初は弾の後ろをついてきていた子だったし、いつも俺をみると逃げ出してたし。居候始めた当初の時も、あんまり口聞いてくれなかった彼女が、今では俺をもう一人の兄貴として甘えてくれている。これは良い関係を築けているのではないだろうか。
っとは言ったものの、俺と弾では扱いの差が酷いけどな。今日も蹴り起こされたし。
「私にとっちゃ輝さんの方が大事ですよ」
「え、まじで?」
「そ、そりゃそうですよ! えっと、家族ですもん!」
家族思いな彼女に泣かせてくれるなぁと感動しつつ、目的地の学校を見つける。確か名前は【聖マリアンヌ女学院】だったか、ここの地区じゃ有名な私立中学である。倍率高いわお金もかかるわで中々高貴な人が通っているらしいんだが、なんとうちの蘭ちゃんは最優秀という事で全額免除を受けている最強中学生なのだ。我ながら鼻が高い。血は繋がってないけどもな。
「よし、改めてだけど忘れもんないよな」
「はい! 大丈夫です!」
「帰りも迎えに来るから、電話してくれ」
「え、いいんですか……へへへっ、やりぃ!」
到着し、バイクを止めると元気よく飛び降りる蘭ちゃん。余程バイクの乗り心地がよかったのだろうか、帰りも楽できるからだろうかうきうきしていた。もし蘭ちゃんもバイクを好んでくれてるってことなら嬉しい。自分の好きなものを理解してもらえるってのは良いことだしな。この笑顔が見られて、何かバイク好きで良かったとか思った。
「じゃあいってきますね!」
「おう、頑張っておいで」
元気に駆け出す後姿になごみつつ、俺は再びスロットルを空ける。俺にも俺の仕事がある。彼女に応援も貰ったんだし、良い結果になるよう努めないとな。
●
「――というわけで、三日目もよろしくお願いします」
『お願いしまーす!』
ここは都心から少し離れた場所に存在する三島テーマパーク。巨大な企業である三島コーポレーションが持っている遊園地だ。ここで一昨日より一週間ほどウルトラマンショーを行っている。毎週日曜日にヒーローショーをしている他の遊園地と違い、三島テーマパークは一ヶ月のうちの一週間を使ってヒーローショーをしており、先月は新しい戦隊物のショーだった。確か天晴れ戦隊マツリンジャーだったっけか。先月は別の現場へ行っていたためそこまで詳しくはしらないけど、会場に人が溢れていたっていってたな。
そして今は全体ミーティング。朝早くから行われており、全体の動きの確認を行い、その後各々の細かい動きをそれぞれ集まって話し合いをする個別ミーティングがある。舞台を成功させるためには必要な事だ。
ここで働いている人はディレクターが揃えた精鋭達。しかも互いが互い知り合い同士で、息もぴったりな人たちだ。俺もそんな精鋭な人たちとは既に2年の付き合いである。はじめのうちは覚束ない足取りの俺を本当に育ててくれた。五反田家が俺の第二の家族なら、ここの人たちは第三の家族だと思っている。
「じゃあ輝。お前のガイアの動きでこの三日間の全てが決まるから。頑張ってくれよ」
「はいディレクター」
ディレクターの柏木さんの期待した声を聞く。柏木さんは昔俺の親父とタッグを組んでた人。昔からの馴染みかよく小さい頃スタントの現場などで多くを見せてもらった事がある。そんな関係からか、仕事も俺に良く回してくれるし、飯を奢ってくれる事も多々ある。頭の上がらない人なのだ。よく行く先々で名前を聞くんだけど、実はこの界隈でも凄い人なのではないか? 残念な事にそこまで教えてもらえなかったけど。
柏木さんに挨拶をすると、怪人役の網走さんの元へと向かい最後の打ち合わせをする。網走さんは俺よりもうんと年上な大ベテラン。テレビでもマグマ星人の中の人として活躍している。でも話をしてみるとまるで同い年と話してるようにラフな人だった。歳と性格が合致しないとよく周りの人は言ってるな。面白くて俺は好きだけど。そんな網走さんとどの場面で投げるのか、どこで打撃を当てるのか、どこでアクションを大きく見せるのか。どこで光線を放つのか。今までした打ち合わせをもう一度繰り返す。開演までまだまだ時間はある。今のうちに全部しなくては。
「そこでSVになるだろ? 司会の美馬ちゃんが子供達にSVの説明をするからそのときは少しの間だけストップ。説明が終わると同時に動く感じかな」
「何々? 私の話?」
「あ、美馬さんお疲れ様です。今回のSVの動きですよ」
「あぁなるほどー。基本的に私の進行で動くもんねー。ちょっと早口になったらごめんね?」
「そこはそれこそ、俺達で合わせますよ。美馬さんはいつもどおりでお願いします」
司会のお姉さんこと美馬さんがディレクターとのチェックを終えたのか俺達の話にピョンとやってきた。ウサ耳カチューシャがとても似合う見た目ぽやぽやしたこの人、美馬さんは滅茶苦茶な美人なのに重度のオタクという残念系のトップな人。燃え系の作品は網羅しているんだとか。おかげで歳に似合わず古い作品やその時のエピソードまで記憶してこうやって教えてくれるのだ。特に特撮が好きらしく。今回のステージショーで活躍してテレビに出るのが夢といっていたな。ほんと、熱中型の行動派だなぁ。顔はいいのに何か残念臭がする。良い人だし、綺麗な人なのに何故か残念な感じなのだ。
「しっかしISができてから皆負担がなくなってほんと良かったよねー。前なんてねー輝君、SEつきBGMにあわせてアクターさん動かないといけなかったからさー。今考えると滅茶苦茶よね~」
「あぁ~わかる。ほんとIS出てから楽になったもん。俺のマスク実は全然回り見えないからさ、ハイパーセンサーだっけ? あれ導入してもらってほんと助かった。目悪いと本当きつくてな」
「仮面ライダーもそうですけどあのまま良く動けますよね。もう憧れで憧れで」
そう言うと、僕の顔を二人が覗き込み、これは重度だと零していた。
「本当、輝君は特撮好きだよねぇ。でも今の時代に生まれてよかったよ。もしもっと前に生まれてこの業界に足突っ込んでたらきつかったんじゃないかな」
「あぁ、確かにそうですよね。殆ど見えませんよね。特に仮面ライダーは」
「中でもファイズは最悪だったらしいぞ? なんせ比喩表現抜きで見えないのにバイクアクションしたらしいしな」
「うへぇ、俺なら事故りそう」
そして自分含めて脱線していく会話。昔の事を聞くのは寧ろためになるから積極的に聞きたいものだ。っていうか、そう言えばディケイドは縦細くにしか見えないって聞いたな。そう考えると本当先輩アクターは凄いと思う。
「あ、打ち合わせだった。怪獣が突進してくる場面があるからその時怪獣役の大槻さんが足踏みした後、私が「危ないガイア!」って叫びますんで」
「俺が輝を羽交い絞めにするんだったよな。改めて聞くとえぐいよな」
「まぁそういうブラックな部分を見せるのもまた「なんだって!? 光線が撃てない!?」ん? 柏木さん?」
網走さんたちと打ち合わせをしていると、後ろのほうからそんな声が聞こえた。声の元へ皆の視線が向く。そこには焦りを見せるディレクターとガイアのスーツを持つ小道具担当の志藤さんがいた。
「いや、正確には撃てないことはないんですよ。でも出力がおかしくて」
「出力が低いのか?」
「その逆です。出力が高すぎて撃ったら気絶しますよ」
「どうしたんですか? 柏木さん。それに志藤さんも」
周りで各々の打ち合わせやらセットの用意をしていた人たちが柏木さんのもとへと集まりだす。確かに彼の焦りの顔をみれば誰だって心配になるだろう。
「あぁ輝か。実はな、今回のガイア、光線撃てないかも知れん」
「え、それってどういう」
「出力が本来の10%じゃなくて80%まで上がっててそれ以上下に降りないんだよ。ただでさえ10%でも横からビームが出てるように見えるっていうのに、これじゃあ本当に光線だよ。やられたら気絶待ったなしだね」
「うへぇ、それって必殺技で決められないじゃないですか」
子供達からすれば光線は撃ってほしいだろう。まさかウルトラマンが光線撃たずに勝利するなんてどうやって納得するんだ。
周囲を見渡す。やはり光線が出せないことが不安なのかざわめきが起こっている。でも考えたらそうだ。ハイパーセンサーを導入しているから高出力の光線なんて撃てるわけない。360°見えるってのがまさかここでウィークポイントになるとは思ってもみなかった。
「いや、怪獣ならサングラスつけたら」
「馬鹿、確かに色々導入して楽になったけど中は狭いままだぞ。途中で引っかかって外れるのが落ちだ」
「なら撃つ瞬間目をつぶる……あぁそうだ。あれ目を瞑ってもハイパーセンサーで見えるんだったな」
「そこが問題だな。いっそセンサーを切るってのは……あー切ったら切ったでアクション変えなくちゃいけないのか、また構成からやり直しになる。流石に時間がないんじゃ」
皆が話し合いを始める。まるで仏教の経典を読むようにぶつぶつ呟く人もいればこうやって案を輩出する人もいた。俺も何か案を出したいが、いかんせんそんな知識を持ち合わせていない。これでは、本当に子供達が納得できない悲しいショーになってしまう。
「ゼットンみたく、光線が効かないってのはどうですか」
「マグマ星人だぞ。そんな技術はさすがに持ってないだろ」
「……なら、出力そのままで良いんでやりましょう。なに、やるのは私ですから。もしもの時のために救急車呼ぶ手筈だけは整えてくれたら演じきりますんで」
怪獣役の大槻さんがそう言って手を上げていた。今まで色々な怪獣を演じてきた大ベテランがやろうと声を上げたのだ。やられる自分がやろうと言えば、皆は安心して続行できる。そう思っての提案なのだろうか。
「でも大槻さん」
「輝坊。おめぇはガイアをちゃんと演じきりゃいいんだよ。ちゃんとビームも絞って外の観客にも迷惑かかんねぇようにな。心配すんな。こんなの爆破シーンより大分マシだ」
「……わかりました」
「よっし……じゃあお前ら。本番まで後3時間しかねぇ! ガキの夢潰さないよう全力で行くぞ!」
そう言って、大槻さんは志藤さんの元へとむかい、自身のスーツを取りにいった。皆も皆で、本人が言うのならと少し心配しつつも各々の仕事をしに戻っていった。
「お前もぼさっとすんな。アクシデントがあったんなら、その分完璧にしなくちゃな」
「は、はい!」
柏木さんに背中を叩かれ、俺はまた網走さんの元へと向かう。開演まであと3時間。残りの時間全部使って、俺たちは最後の調整を急いだ。
春も遠のき夏の季節。蝉の鳴き声が、その時だけは聞こえなくなっていた。
この作品はフィクションです。ここに登場する団体、個人名は全部空想であり、何の意味も持たないテキトーに考えたものです。