「……というわけで、今日から14日後、日本特撮の海外プロジェクトとして仮題【The Next】の第一弾撮影のためにニューヨークへ行くことになりました。総監督は今波に乗っているフランスの【ジョルジュ・ダルトワ】 彼が台本を取り、アクション監督の一人として柏木さんが指名されました。ほかにも、特撮の斑谷プロとSIプロが総動員するそうです」
「唐突ですね、田辺さん」
ラウラちゃんをIS学園に送っている途中、携帯が車内に鳴り響いた。運転途中であったため仕方なく止める場所を探そうとしていると、ラウラちゃんがさも当然のように俺の携帯に出て「はい、中村輝の携帯です」とスラスラ日本語で対応していた。ほんと凄いな最近の子、電話対応レベル高くない? 本日二度目だよ。
――そういえば、ISは基本設定が全て日本語だとか志藤さんから聞いたことがある。
なんでも、ISに使われているコアの製作者が日本人の篠ノ之束さん? だったからか、システムが日本語のみしか対応していなかったらしく、各国はすぐに共用語を英語から日本語に変えたらしい。おかげでソフトウェア? とかに使われるプログラム言語すら日本語に変えられてしまい、それこそ大パニックだったんだとか。この影響でプログラム関係の中小企業が倒産やら吸収に遭い、消費者の使っていたものが使えなくなるなんていうアクシデントまで出る始末。流石に志藤さん怒ってたな。何のためにプログラム言語覚えたんだーって。でもまぁそれは一時期の話であって今はちゃんと英語に戻ってきてるらしいけど、酷い荒れようだったらしい。
俺としては、日本語で済むなら楽だなぁとか思いながら「へぇ」としか言えなかった記憶がある。いやぁ懐かしい――
そんな昔のことに思いをふけること1~2分。会話を変わるのかラウラちゃんがこちらに携帯を向けてきた。田辺さんからだと彼女は俺の耳に携帯を当ててくれる。視線を外さずに運転できるようにとラウラちゃんの配慮に感謝しつつ電話を変わると、何やら少し焦り気味な田辺さんが出てきて、息を荒げながら冒頭の説明をしてくれた。
「おかげでてんやわんやで今やっと貴方に連絡が出来たんです。他の人には今柏木さんが直接電話をしてまして……ふぅ」
「お疲れ様です」
ねぎらいの言葉を掛けつつ、日時や必要品などの説明を受けた。終わり頃には流石に彼女も呼吸が整ったのか、調子を取り戻している。
「しかし輝さんはその目のことがありますから、経過次第でニューヨーク入りをしてほしいとの事ですので、場合によっては安静に来年を迎えてください」
「え、それってスーツアクターとしては致命的なのではないでしょうか」
「……そもそも無茶をした結果です。本来ならこの仕事を退職して専門の病院で今も車椅子生活をしていなくてはいけないんですよ」
「ぐぅの音も出ない」
俺の返答が気に食わなかったのか、田辺さんの声のトーンが下がった。その後数分にわたっての説教が始まってしまい、車の中では彼女の声だけが響く。視界の端ではゴミを見るような目でラウラちゃんがにらみつけていて、俺の心はお通夜状態だった。うん、俺間違ってたよ。だから視覚的にも聴覚的にも追い詰めないで。
「まったく……貴方はことの重大さを理解していませんね。いいですか、会社に属した以上、もう既に貴方だけの体じゃないんです、いくらまだ未成年だからと……いや、むしろ未成年だからこそ余計に守らなければならないルールが山ほどあって、私達大人は貴方を預かり危ないことから遠ざける責任があるんです」
「言い返す言葉が見当たりません」
心配かけた手前、大丈夫なんて言えない俺はただただ反省するしかなかった。田辺さんは怒ると千冬姉さんよりも怖いからな。例えて言うなら千冬姉さんが拳で組み伏せてくるなら、田辺さんは言葉で組み伏せてくるんだよな。今必要な例えじゃなかったけど、今わかるのはこの時俺は二人を会わせてはいけないと言うことだろうな。うん、心に誓った。
「……ふぅ。さて、話を戻します。我々の滞在期間は1年から3年ほどですが、貴方は半年になりそうです。理由は多くありますが、まだ貴方のことを世間が嗅ぎ回っているからというのが、第一の理由です。わかりますね?」
「散々聞かされましたからね」
「茶化さない……それに長期にわたる未成年の仕事はイメージに関わりますし何より法律の関係がありますのでそこはわかってください。以上になります。また情報入り次第電話をしますので、輝さんも何かありましたら連絡ください」
「はい。ありがとうございます」
言うこと言えてすっきりしたのか、最後には清々しそうに電話を切っていった。うん、そういえば田辺さんは今俺と美馬さんの件で事務所に篭りっきりなんだっけ……、そら鬱憤もたまってるし、原因の俺がそんなこと言えば怒りたくなるよな……。
「運転中でなければ鳩尾に一発放ってるところだ」
「すみませんでした」
もう反論の余地もございません。
「……それにしても、お前はもう仕事をしていたんだな」
「仕事って言ってもパートレベルだけどね。用務員としてIS学園で床掃除とかしてるよ」
「女子校でか?」
「そうそう、女子校で」
横っ腹を無言で殴るのはやめてください。鳩尾じゃなければいいってわけじゃないからお願い。
☆
同じ頃。
飛騨山脈の奥地、そこは滅多なことでは人が訪れることのない未開といわれてもおかしくない頂上付近の秘密の場所。空気が山肌に当たり音を立てている獣一匹見当たらないその場所で、似つかわしくない音が鳴り響いた。
ヒュンッと空を切る刃の斬れ音。無理やり切り裂く刀の一振りが空気の薄い山一帯に響き渡る。その時だけは風も止み、音を外界へ響かせた。
音の主は、既に多量の汗をかき、一心不乱に刀を上から下へおろし、下から上へあげている。その時点で十分おかしい状況だが、それに加え半裸で行っている。この高度で何を血迷ったか刀を振るっている。気を違えたかといわれてもおかしくない。
そんなキチガイな者、名を織斑一夏という。
一連の動作は緩やかに行われているというのに、風はその動きについていけないのか、体を切り裂かれ泣き叫ぶ。一夏はそれを何度も続け、何度も違うと口から声を漏らす。
振るいは既に刀身を認識できないほど。気がつけば振り下ろされ、振り上げられる。まるで剣道の試合のようなあの高速の一振り。音だけが彼の動きを伝えていた。
「これじゃダメだ」
もう一度振るう。再び風が刀に切られ、痛いと叫ぶ。
「これもダメだ」
もう一度振るう。同じように風が切られる。先ほどと同じ、全く同じ。一寸もズレのない綺麗な一振りだ。
「これじゃあない」
またも振るう。何が違うのか、何を求めるのか、すでに常人では理解しがたい領域の話なのだろうか。ただただ振るい、ただただ嘆く。虚しさだけが彼の心に溢れた。
「おう、いい加減出来たか?」
ふと一夏の後ろから何かを担いだ男が現れ、声をかけてきた。身長は2メートルほどあるだろうか、それに似合った隆々とした肉体。無精髭で覆われたボサボサ髪の大男は、一夏の太刀筋を見るとフンッと鼻で笑う。
「そんなんであいえすっちゅう鋼鉄のバケモノが切れるか。たわけが」
大男は背負っていたものを乱雑に地面へ叩き落とした。落とした瞬間に土煙が空に舞う。巨大な体から投げ出されたものは、それはそれは大きなものだった。
熊だ。額に大きな穴が開いており、銃弾で殺されたのだろうと見て取れる。毛色からみてヒグマだろうか、大きさは既に大男と同じほどで、体にはどっしりと肉がついている。
「……師匠、骨折れるぜ?」
「他人の心配する暇あるならさっさと正解を見つけろわっぱが。こんなもんもう持ちなれたわ」
大男はそういうと熊の隣に座り込み腰からナイフを取り出したかと思えば、慣れた手つきで熊の喉を裂き、血抜きを始めた。その間にどこから取り出したのか酒瓶をラッパ飲みし始める。見るからに関わってはいけないタイプの人間だろう。
ヒュン
「おせぇ」
ヒュン
「腰がたけぇよ」
ヒュン
「亀の方がはえぇぞ。どうした手抜きしてんじゃねぇぞ」
「……」
飛んでくる野次、だがそんな事知ったことかと一夏は刀を振るい続ける。ゆったりとしたまま、それでいて速く、まるで歩く時に自然と腕を振るうようにしなやかに刀を上げ、そして下ろす。
「だから言っただろうが。グワッとして、スッとするってよ。何度言ったらわかるんだ」
「あんたは俺の幼馴染と同じで説明下手すぎだろ! なんだよその擬音だけの説明、もう少し動きに対してアドバイスできないのか!」
「あぁん? どんなことでもいいっつったのはテメーだろうが。黙って俺の言ったとおりにすりゃいいんだよ」
「その言う段階で壊滅してるじゃねぇか!」
ついに言い返した一夏の言葉で険悪な雰囲気が立ち込める。飛騨の奥地。誰も訪れないその場所は、誰が死んでも誰も認知しない。一歩間違えば本当に危ないこの状況で、二人の鋭い眼光が火花を散らす。
「ケッ、最近の餓鬼ぁ、口だけは達者になりやがってよ。何が強くなりてぇだ。地が悪けりゃ草木は育たねぇよ」
「そりゃそうだよな。まさか新鮮な大地を水浸しにするんだからよ、そんなんで育つもんなんて稲しかねぇよな」
「俺に文句があんならさっさと下山しな。俺は元々弟子はとらねぇっつったろうが」
「取らないんじゃなくて取れないんだろ? そんな下手な説明じゃ誰も話なんざきかねぇよ」
売り言葉に買い言葉、段々過激になっていく二人の言葉遣いを誰も止めることはない。むしろ誰も止めない。この地にいるのは二人のみ。ストッパーなんてはじめからなかった。
「ったく、もう一度刀を貸してみろ」
大男は作業をやめゆっくりと立ち上がり、一夏の元へとため息をつきながら歩み寄る。酒をラッパ飲みしながら熊を捌いていた男とは到底思えない目が、一夏を捕らえた。
一夏もそれに頷き刀を渡し、横へずれる。男が振るうのを間近で見るために場所を明け渡したのだった。
「いいか、もう一度だけだ。これで出来なきゃマジでお前に才能はねぇ」
「わかってる。だからここで物にするさ」
眼前には大きな岩。普通なら機械を使って処理するほどの大きく硬い岩に男は対峙した。山肌にざわめきが起こる。これから起こることに怯えているかのように風は荒れた。しかし刀を構え、男が岩をひと睨みすると、同時に風も落ち着く。蛇のひと睨みとでも言うのだろうか。
「威勢だけはかってやる……見とけよ。あいえすだろうがロボットだろうがな。所詮は人が動かすもんだ。見ている人間が、それより処理の劣る機械が、気づかない一閃を放つ。それが……」
――音が消えた――
一夏が大男の太刀筋を見てまず感じたのがこれだった。先ほど行っていた一夏の振るいよりもはるかに速いその刃の一閃は、風を確かに切った。
だのに音は一切聞こえない。
どんなに遅い振りだって風は音を立てる。どれだけ音を立てにくい刀でも必ず刃音は聞こえる。
だのに辺りに音は響かない。
「無音の太刀ってやつだ」
振り終えた男は一夏に刀を投げ渡す。一夏もそれに慌てることなく一歩下がって柄頭に上手く足の甲を当て、そのまま蹴り上げ柄を握る。これが道場ならば勘当ものだろうが、残念なことに注意してくれるものはいない。
「さっきのを真似ろ。音を立てんな。敵に何も理解させんな、情けを見せんな、隙を作んな。今の斬り方が出来りゃ素人だって達人に一太刀入れられるぜ。昔ならそのまま殺せる。そういうもんだ」
「やっぱり頭おかしいよな。こんな図体の人間(?)が暗殺者ばりの音消しするんだから」
「はん、暗殺者より音たたねぇよ。口うごかさねぇで体動かせや」
「ちっ、ぜってぇ会得して最初の餌食にしてやる」
「さっさとしろよ。時間は有限なんだからよ」
再び風の切れる音が辺りに響く。それと同時に岩は思い出したかのように二つに割れた。美しく反射する断面図が現れ、改めて男の異常さを一夏に教えていた。
だが彼は最初と同じように刀を振るい、一定の音が山に木霊させる。
「ったく、何がおめーをそこまでさせっかね」
「……この世界にゃ、殺したい奴らが多すぎる。こんな世界が悪ぃよ」
織斑一夏、未だ会得できずに早2週間。
その目に怨恨を残しつつ、なおも修行中。
ジードにはまってた
ジードとコンセプト似てて嬉しかった。俺の脳みその思考回路と似ててよかったって思ってる。17話は神回でしたね。
毎日一回見ないときがすまないよ