こういうなんてことない一日こそが、人間当たり前に得られてる大切なものなんですねぇ。
そんな話。
前回から何日たってんだ?
「――それで、結局臨時の清掃員として期間限定で働く契約になってさ」
「なんだかんだ大変だなぁ輝兄」
四人の多大なる勧誘を何とか潜り抜けた次の日、休日を使って俺は五反田家へと戻ってきていた。夏休みも終盤に近く、日差しも強い。まるで挨拶してるように、入道雲が全開にした窓から顔を覗かせていた。\コンニチワ/
「にしても連絡なしに来てごめんな。忘れててさ」
「誰も気にしねぇって。ここ自分の家だろ……あ゛ー」
渡米の準備に来たのだが弟分の弾と共に扇風機強風に当たりながらソファーでうな垂れている。弾にいたってはバンダナを取れば腰にまで到達するほどの長髪なので余計に暑そうだ。赤毛が重力に負け弱々しく目に映る。昨今の夏の暑さは異常だ。着ぐるみなんて来た日には途中で意識を失うレベルだ。涼しい部屋で水分補給して一日を過ごすべきだろうな。
弾にいたっては既に食べ終えているアイスの棒を心底大事そうに舐めながら扇風機へ向かって声を上げていた。もうアイスの味はしないだろうに、食い意地が張ってるというか何と言うか。これで四本目である。おなか壊しそうだ。
「こうも暑いとやる気にならねぇ」
うな垂れるテーブルの先に広げられている夏休みの宿題は未だまっしろ。この夏を遊び倒したのか手をつけてない新品同様だ。折れた箇所も見当たらない数冊のノートと夏休み専用のプリントが数十枚。毎年思うのだが何故終わり間際まで手を付けないのだろうか。
「だからって夏休みの宿題をしなくていいってわけじゃないぞ」
「なんで“休み”ってついてるのに宿題しなきゃいけねぇんだよ。ほんと教師って奴は」
「それはもう昔からやってるからとしか言えないなぁ」
唸り声を上げながら突っ伏す彼に苦笑いをしながら、ふと一夏君のことを思い出す。去年も一昨年も今頃は二人の友達である御手洗君と一緒につっぷくしながら、宿題への恨み辛みを吐き散らして学校に抗議をしようだなんだと一丸になってたなぁ。その気力を勉強に回せばいいのにと毎年思ってたよ。あの子、しっかりしてるようでこういう長期休暇は遊びやバイトで殆ど埋められてて弾たちと一緒に八月末に毎年苦しんでる印象だ。
だけど今年はいないらしい。確かに中学の夏休みはバイト漬けで家計を助けるとか一昨年から言ってた覚えがあるんだが。
「なぁ弾、一夏君と御手洗君は?」
「数馬は今年親戚の美人な姉ちゃんと勉強するんだってさ、羨ましいぜクソが。そんで一夏は……あー、修行中?」
「なんだそれ」
「山篭りだかなんだか言ってた。己を鍛えなおすんだと」
「あのバイトマンと化してた一夏君が山篭り……何があったんだろ」
一夏君のことを心配しながらも、彼にも没頭するものが出来たのかと嬉しくなる。千冬姉さんと一夏君は二人暮らし、片や一夏君はまだ義務教育も終えてない青少年。彼の生活を支えるには女で一つは辛いだろう。たとえ今の風潮が女性を優位に立たせようとも、未だに女優位な場所はごく少数のみ存在している。立場の逆転があろうと社会の転換にはこれっぽっちも関わらなかった。俺も仕事の給料を出して生活の足しにしてほしかったのだがぶん殴られた。まぁ流石に年下の、それも未だ成人してない俺に金を工面してもらうとか恥とかそんなレベルじゃないしな。
「あー、多分輝兄の考えてるの、間違ってるかんな」
「何が?」
「いやなんでもねぇ……それよりもさぁ! IS学園のこと教えてくれよ」
うな垂れていた弾の顔に輝きが戻る。IS学園はいまや世界で一番有名な学校だ。そんなところに事情があるにせよ生活してるんだから興味が尽きないよな。
「ん? んー、皆良い子だね。仕事が学園内なこともあってよくすれ違うけど、その都度あいさつしてくれたり、不調な機械とか教えてくれたり、いやぁ流石は高偏差値の進学校って感じだ」
「俺が聞きたいのは勉強の偏差値じゃなくて顔面の偏差値なんだよ! 輝兄のライフスタイルじゃなくて美女のスタイルが気になってんの!」
「弾……大丈夫か?」
輝いていた顔が段々と弱々しくなり顔を埋める。この暑さにやられたのかと顔を覗くとつっぷくしていた顔をガバっと持ち上げた弾はそのまま勢いよく立ち上がった。その顔は怒りやら妬みやらの負の感情が見て取れる。数値化もされてる。流石だな俺の目。
「大丈夫じゃねぇ! 学校のことある美少女はみーんな一夏ッ一夏ッ一夏ッ! 最近なんか更にそれに磨きがかかってやがる。いつもは穏やかな草食動物みたいなくせに今は近寄りがたいオーラ出してやがんだよ。ギャップかなんかしらねぇけど! しらねぇけどな!」
あ、倒れ込んだ。案外元気だなこの子。
「何でだよぉ。一人くらい俺になびいたっていいだろマジでさァクソガァ」
目尻に涙をためながら語る弾のその背中には何やら哀愁さを漂わせている。そうか、一夏君モテるもんな。気が利くしよく笑うし顔もいい。
弾も顔が悪いわけじゃないが、一言で言えば軽い。いや、第一印象からだとそう見られがちなのだ。本当は家族思い出しシスコンだし義理堅いしシスコンだし……シスコンばっかりだな。だからそういうちゃらちゃらした格好は辞めて真面目になればいいと何度か言った覚えがあるんだが、その都度「輝兄は何もわかっちゃいない。わかってない!!」と熱弁するので諦めてた。
「そんなもんじゃないか? 何人にもモテるなんてほんとに稀だろ。中学とかなら特にさ」
「……輝兄も中学の頃はモテたんじゃねぇの? 校区違ったし学年違ぇから耳にしなかったけどさ」
「どうだろうなぁ」
ついに涙声になってるので苦笑いしながらどう返答しようか迷っていると、ふとアスファルトの臭いが強まった。これは一雨来るなとソファーに蹲る弾を無理やり起こし干してあった洗濯物を部屋の中へと一緒に入れ込む。目の情報からも雲の密集値が高くなっており、暫くするとポタリポタリと雨粒の音が耳へ届いた。
「俺の場合はあんまいい思い出なかったなぁ……中学ってのは」
「珍しいもんだ。輝兄にもそういうのがあるのか」
「俺だって四六時中楽観的な思考じゃないさ」
「そういうわけじゃないけどさぁ」
冷蔵庫からまたアイスを取り出したと思えば簡単に平らげる。あれ? それって蘭ちゃんの分のピ○じゃない? 限定シリーズのじゃなかった?
「輝兄は普通にモテると思ったんだけどなぁ」
「人生そんな美味い話なんて滅多にないよ」
椅子へ座りなおした弾はテーブルへつっぷくし、心配そうにこちらへ視線をよこした。数値化させるまでもない。弾は俺が知ってる中でも特に素直な子だ。こういう時はすぐ顔に出るのを知っている。これも彼の魅力だ。十分女性の気を引く魅力だと思うんだが、残念ながらそれを見てくれている人がいないのか、はたまたそれ以上に彼の姿に声をかけられないのかと。
「輝兄は色々危なっかしからさぁ……。弟としてはなんかブレーキになる相手がいりゃあなと思うわけですよ」
「大丈夫大丈夫、俺体だけはしっかりしてるから」
「そこなんだよ。なんかあっても「大丈夫」で済ませてんだよ。普通危ない状況なら突っ込まねぇのよ人間ってさ。でも輝兄全くその傾向ないだろ。寧ろ危ないと感じたら加速するだろ」
「返す言葉もございません」
弟に説教を受ける兄の図なんざ実にシュールだ。彼の優しさを知っているからこそ余計に良心に来るものだから、何も言い返す言葉も見つからずただただ弾の言葉に頭を下げる。
「……あぁ辛気臭くなるのやめやめ。俺の性格じゃねぇ。ってこんな話してたから雨若干強くなってんじゃねぇか。柄にもないことはするもんじゃねぇなおい」
「はっはっは」
「はっはっはじゃねぇよ馬鹿兄貴。もう少し慎重に動いてくれよ。今日はこれ以上言わねぇ。次やったら爺ちゃんと蘭交えて説教してやる」
「えぇ……お手柔らかに」
「する気かよ!」
雨音が強くなると同時に外が薄暗くなった。窓辺から見る外の景色は先ほどとは打って変わり夏の暑さを忘れさせるほど暗く、そして冷たそうに感じる。すると玄関から蘭ちゃんの声が響いた。彼女には悪いが話を中断するには十分だ。
十中八九この雨に悪態をついているのだろう蘭ちゃんの声の元へ、俺と弾はタオル持って向かった。乾かしたばっかの白いタオルが雨に濡れたかわいい妹の頭へ投下される。
「あぁんもぉ! なんで突然降り出すかなあ!」
「おかえり蘭ちゃん。ずぶ濡れだねぇ」
「災難だな。ほれタオル」
「ありがと輝さん、お兄も。全く、今日は一日中晴れじゃなか……ったの――えっ?」
「ん?」
蘭ちゃんからバッグを受け取って乾かしていると、タオルの中から目がこちらを伺っていた。水も滴る良い男という言葉があるように、水の滴る良い女ってのもあるのだろう。少し湿った彼女の立ち姿は、既に中学生というカテゴリだけでは収まらないほど。身内評価というわけではないけど、自信持って言えるほどだ。
そんな俺の思考などつゆ知らず、蘭ちゃんの顔はまるでいないはずの人間と出会ってしまったような感じだ。うん、俺誰にも言わずに帰ってきてたもんね。家に弾しかいなかったし何も考えてなかった。ごめんね。
体を小刻みに震わせ怒りと羞恥を顕にしてる蘭ちゃんを見てやっぱり突然訪れるのは控えた方が良さそうだ。
「輝……さん?」
「そうだけど」
「な、なんでここに……IS学園じゃ?」
「本職のアクターの撮影が急遽決まってね。荷造りに戻ってきたんだよ」
「……お兄」
「俺もさっき聞かされたんだよそんな形相でこっち見んな!」
弾を部屋の方へ引きずって行こうとしたので、とりあえず用意していたもう一枚のでさっさと髪を拭きあげる。兄弟げんかをしてる場合じゃない。風邪でも引いたら大変だしワシャワシャと髪の毛を拭いていてあげる。すると段々と大人しくなったのか今はされるがままになり、頭から湯気が出てるように幻視した。
「まずはお風呂で体を温める。話はそれから」
「……はひ」
顔を真っ赤にした蘭ちゃんを見て、まさかもう風邪を引いたのかと体温計を探しに戻ったが、大丈夫だと飛び込むように風呂場へ向かった彼女を見送り、とりあえず弾と共にずぶ濡れの廊下を掃除することにした。
「……ちなみにだけど、さっきの考えも間違ってるかんな」
「ん? 声に出してたか?」
「じゃねぇよ。何年一緒に暮らしてたと思ってんだ。俺にはそんな万能な目はねぇけど……輝兄の考えてることくらいは顔見りゃわかる」
家族だからな。そういって弾は自身の顔へ親指で指差す。指の先には自身の目。赤みがかった茶色い瞳が俺を見つめていた。お見通しだというジェスチャーで考えを否定し、呆れ顔で大きくため息を吐いた。弾も弾なりに考えているんだなと思うと、成長に若干感動する。
「だから安心しときなって。特に蘭はどんなことやっても大丈夫だぜ」
「サンキュ。でも何で蘭は特になんだ?」
「そんなもん蘭にとっちゃ輝兄の行動一つ一つが――」
「お兄!」
「――なんでもないですぅ!」
風呂場から聞こえる蘭の叫び声に弾が小さくなったように見える。まるで某きのこ食べて大きくなる奴が敵に当たった感じだ。
無言で床を拭きあげると、弾はさっさとテーブルへつきノートへ顔を落とした。やっぱ蘭ちゃんに甘々だなぁと思いながら荷造りを諦め、弾の宿題へ目を通す。高校へは行ってない身だが、これくらいなら教えられる。こいつが妹に甘々なら、俺は弟にも甘々らしい。自覚はある。だって俺元一人っ子だし。
「っと、
「そうしとけそうしとけ。あいつも輝兄に懐いてんかんな」
「お前らの兄貴だからな。頼れる兄貴だぞ~?」
「うっせぇ猪突猛進勇猛邁進野郎。もう少しワンテンポ余裕を持て」
ふと顔に肌触りの良い白い布が飛んできた。フローラルな香りが鼻の奥をくすぐるが目が正確に投擲物を確認する。まさしく先ほど雨が降る前に入れ込んだ洗濯物である。
「お、やったな弾」
「なーにがやったじゃ。簡単に避けやがって」
「俺の目は全てを見通す」
「なんだそれかっけぇなクソ。俺も負けてられねぇ!」
いくつもの丸められた洗濯物が投擲され、俺も臆することなく反撃をするソファーを間に挟み「五反田家開催:センタクモノ・ウォー~五反田山(ソファー)の戦い」が開催された。綺麗にたたまれていたタオルや下着は軽くしわの付いたものへ。蘭ちゃん達女性物は既に蓮さんが片付けてたから不幸中の幸いだな。これで入ってたら俺訴訟起こされてる。
「ふっ、輝兄。俺の
「弾がBLEACHと血界戦線にはまってるのは理解した。だが面白い。俺の目は森羅万象あらゆる物を見通す。お前の一撃も容易くかわしてやろう」
「お兄! 輝さん!」
このあと、シャワーを終えた蘭ちゃんから説教を受けた。もう正座以外許されないといった緊迫した空気を醸し出す蘭ちゃんを前に、二人して只管静かに説教を受けた。顔真っ赤にしながら怒ってた蘭ちゃんにもう見せる顔がない。ただただ謝り倒し、洗濯物にアイロンを掛ける作業をした。ほんと女性物なくてよかった。とりあえず五反田家お約束条項第41条「洗濯物を五反田家開催:センタクモノ・ウォー~五反田山の戦いの武器に使わない」に記入された。なんだこの数。
あ、一夏君に連絡しないと。
●
「ほーん、それで今の今まで蘭に叱られてたのか」
『ハイ、その通りです』
「輝兄も弾も、もう少し落ち着きを持てよ」
『返す言葉もありません』
「それ聞き飽きたぜ」
飛騨山脈のとある場所、急勾配を息も乱さず降りる薄着の男の姿を登山者が見たという。その男はまるで家の近場のコンビニから帰りながら携帯でながら歩きしているかのように悠々と一定のリズムで降っていったそうだ。赤茶色一色で染められたその服など似つかないような顔立ちだが、中々それが様になっているという矛盾を見聞していた者達は揃いも揃ってその登山者の言葉に首をかしげる。だけどもその登山者の話が本当に作り話に聞こえないものだから何が言いたいんだと怪訝そうに聴いたのだという。
そんな話題の男こそ、織斑一夏本人である。
何食わぬ顔で家へ戻り、未だ姿を見せない姉の帰りを待ちながら、ダラダラと時を過ごしていた。既に夏休みの終盤、これが終わればまた友達と何気ないくだらない話で盛り上がり、そして笑いあうのだろう。そう思うとこのまま夏休みが終わってもいいかなと思ってしまう。やはりまだまだ学生。遊び足りないが何よりも友達とつるむほうが何倍もいいのだろう。
ベッドにゴロりと転がり天井を見上げていると、携帯のバイブレーションがぶるりと震え、最近はあまり聞かなかったその相手専用の音楽が流れてきた。久しぶりに聞いたその声はいつも自分に優しく語り掛けてくれた暖かく聞こえる声。あの日、誰かのためにと命を投げ出し、強大な敵へ立ち向かい見事倒した自分の憧れであり、人生の転換期を迎えるきっかけとなった人物。一夏にとって千冬のほかの血縁はなくとも本当の家族のような人。
中村輝の声である。
幼い頃からずっと交流があり、その頃から懐いていた相手。覚えていて一番幼い頃の記憶といえば小学校一年の頃、一緒に虫を取りにいき、足を滑らせた自分を助けるため変わりに池へ落ちたことだろうか。無事にあがってきたかと思えば当時の自分より二倍も大きな魚を手づかみで捕まえていたため、夏休みの自由研究で魚拓をとったのは良い思い出である。
閑話休題。
そんな元気の塊のような男の声はどこかしら疲れ果てたような情けないもので、まるで今の今まで説教をくらいやっとの思いで抜け出してきたようなそんな声。流石にまた無茶でもやったのかと困惑した一夏は、とりあえずわけを聴くことにした。
そこで冒頭に戻るというわけである。ただの間抜けな我が兄に、頭痛がしてきた弟の姿あり。少しは千冬姉のことが理解できたなと心のうちにぼやくと、輝へ情け容赦のない駄目出しをしたのだった。
「にしても急だな。輝兄が怪我してまだ半年もたってないけどさ。もう少しいりゃ良いじゃん。千冬姉も寂しがってるし」
『俺としては本職に戻りたいんだよね。ほら、体鈍っちゃうし』
「馬鹿言え。あんな無茶してなきゃ今もずっと本職出来てたっての」
『最近皆冷たい』
「当然だろ。あの時の心情考えたらこれくらい妥当だ。絶縁されてないだけましだぞ」
『ひぇ~』
電話越しで全く抑揚のない兄の棒読みが一夏の耳に届いて彼の疲労を加速させた。反省していないなとすぐにわかると、再び起こる頭痛に対しこめかみを軽く揉み頭を悩ませる。一番の悩みの種が兄の将来という、なんとも中学三年生には似合わないものである。
『そういや一夏君は大丈夫? ずっと修行してたらしいし』
「あぁ、弾に聞いたのか。修行はもう終わった。課題はまだあるけど一段落」
『そっかそっか。それはよかった』
深くは聴かず、ただただ嬉しそうに頷く我が兄の声に、調子がいいなと少しだけ笑みをこぼす。何やかんや褒められてうれしいのか一人頭を掻きながら顔を若干ゆがめ照れはじめた。やはり中学生、弾と同じようにまだまだ思春期真っ最中である。
「だから心配すんなよ。あ、それより渡米つってもすぐじゃないんだろ? 今度いつ帰ってくるんだ? 何泊位する? それによっちゃ俺の料理の成長を見せるやれるからさ」
『ふっふっふ、俺の舌を唸らせられるかな?』
「何を。最近は洋食にもハマってっから和洋中勢ぞろいで倒してやんぜ」
『そいつは楽しみだ』
輝のまるで魔王のような声色の中に、嬉しさを聞き取ったのか一夏自身も嬉しそうに話を続ける。ずっと続く二人の会話は何年来の家族へ近況報告しあっている様子だった。
「弾ん家も大事だけど俺ん家だって輝兄の家だぜ? ちゃんと帰ってこいよ」
『だねぇ』
「フシッ、フシッ!」
『ダネフシッ!』
「バーナバーナ!」
「『フシーッ!!』」
突如として意味不明な会話が始まり笑いが木霊する。家族特有の共有したツボとでもいうのだろうか、端からすれば理解不能な会話でも彼らの間では笑わずにはいられない特別なものだった。涙を目尻に溜めるほど笑った二人は暫くの間、再び他愛もない井戸端会議を始めるのだった。
~おまけ~
『じゃあ残りの夏休みはそっちに行こうかな。宿題残ってそうだし』
「―――え? なんて?」
『いや、だから残りの夏休みは』
「そこじゃない。その後」
『え、宿題残ってそうだし』
「……わ」
『あー。なるほど』
「忘れてたぁ!!!!!」
『じゃあ今からそっちに戻るから、数日は徹夜だな』
「なんで夏休みなのに勉強しなきゃいけないんだよ休みだぞ! 休ませてくれよ!」
『わかるぞ一夏! やっぱ休みってんなら休むべきだよな!』
『お兄! 私のピ○食べたでしょ!』
「そうだよな弾! やっぱり夏休みの宿題って頭おかしいだろ! そんなんで頭よくなるなら普段の点数はもっといいはずだ!」
『その通りだぜ。やっぱり夏休みってのはお前とこういう話をしてこそ始まりだって感じだな!』
『弾、もう夏休みは終わり掛けだぞ』
「直談判じゃオラァ!」
『戦争じゃあ!』
『うっさいバカ兄!! 何時だと思ってんの!!』
またもや騒がしくなる五反田家、そこに織斑家が追加されて、さらに近所迷惑な騒音になっていった。結局、弾は厳に、一夏は千冬に説教を受けるまでその日はずっと携帯越しに世の中への不平不満を撒き散らしていた。
~おわり~
一夏には千冬と出会ってることは内緒扱いです。
ちなみに千冬もフシーッてします。