絶対に市販のもの、または自作したスーツを着てミサイルの爆破に飛び込まないようにしてください。
十中八九というか絶対死にます
「本当にもう大丈夫かい?」
「は、はい」
「ごめんなさいね。
あれから少し時間が経ちもうすぐ昼飯時といった頃。俺は二人の少女に昼食を奢っていた。
水色に輝く透き通った髪が特徴的な二人は名を更識簪と楯無というらしい。引っ込み思案な性格ゆえあまり外へ出たがらない妹をとりあえず妹が好むもので釣って外に出そうと姉が努力した結果が今であり、回りに気取られないように真っ直ぐ進んでいたら俺にぶつかってしまったというわけらしい。
「怪我なんかお兄さんが助けてくれたからないし、寧ろお昼貰っちゃってこっちが申し訳ないわ」
「いやいや、美人な子に奢るなんて中々ないし、寧ろいい経験だよ」
自分の身の回りにいる美少女に奢るなんてしようものならフライパンが飛んでくる。俺の周りには料理屋の娘くらいしかいない。しかも自分が居候している場所こそが料理屋なのだ。お金を使うタイミングなんてガソリン代か買い物くらいだ。
「そう言えば、もしかして何か乗りたかったかい? 時間とっちゃってごめんね」
「それはえっと、良いんだけど……簪ちゃん言っていいの?」
「うぇ……っと、えっと」
少しばつの悪そうな楯無さんと目が泳いであたふたしている簪さん。指をぐるぐるさせてとても困っている。まさか聞いちゃダメだったかな? と思いつつ、俺は頑張って口にしようとしている言葉に耳を傾けた。
「えっと……あの、う」
「う?」
[う]でとまる彼女の言葉。その口から何が発せられるのか皆目検討つかない俺は、彼女の声に耳を傾けた。そして彼女は言った。
「ウルトラマン……ショーです」
次の瞬間、俺は勢いよく立ち上がり彼女の手を握っていた。もう自分でも何しているのかわからないくらいその手を握り締め、上下に振った。そして俺は何度も頭を下げ、感謝の言葉を口にした。
「ありがとう……ありがとう!」
「え? え?」
「安心して簪ちゃん。私でも確認できないくらいの速さで手を握ってること以外、私にも意味がわかってないから。その反応は正しいわ」
正直に言うと、まさか女性からもこのショーを観に来てもらえるとは思ってもみなかった。ヒーローショーなど子連れの親世代かお爺ちゃん世代くらいで、偏った世代の方しか来ないだろうと思っていたのに違ったのだ。しかもこんなに若い女性が観に来てくれたのだ。嬉しくないわけがない。老若男女問わず皆が来てくれるということは……。
これは全世代の人々に愛されているんだと言っても過言ではないんじゃないだろうか。
「実は俺その関係者でね。ショー目的で来てくれたことが嬉しくて。本当ありがとう! ぜひ楽しんでいってよ」
「あ、そう言うことだったの。びっくりした」
楯無さんが胸を撫で下ろす。その姿をみて俺がおろかな事したとのを理解した。唯でさえ引っ込み思案だとか言ってたのに異性にいきなり手を握られたら誰だってこうなるだろ。男性恐怖症とかにならければいいんだけども。
「あぁごめん、いきなり握っちゃって」
「は……はひ」
「と、とりあえず離れましょ! これ以上は簪ちゃんの精神に関わっちゃうから!」
簪さんを楯無さんに任せ、俺は再び椅子に座る。男性への免疫がないのか顔を真っ赤にして頭から湯気を出してる簪さんは、とある歌のように思考回路がショートしそうだ。
「でも意外だわ。あのスーツの中って貴方みたいな人が入るのね」
「そうだなー、テレビとかは俺なんかよりももっと筋肉ついた人の方が入ってることが多いね。怪獣を持ち上げたり投げたりするために」
「……なかなか凄いのね」
顎に手を当て、楯無さんは熟考を始めた。その姿は様になっており、まるでどこかのお嬢様のようだった。そんなに難しく考えているところ悪いと思いながら、俺は言葉を続けることにした。
「……と言うのは建前でね」
楯無さんや簪さんが同じタイミングで首をかしげる。そんな姿に可愛らしいなと思いつつ、俺は今できる全力の笑顔を見せて、
「あれは本物のウルトラマンなんだよ。皆子供たちのために来てくれてるんだ」
そう言いきった。すると楯無さんは暫く目を丸めていたが、クスクスと笑い出す。
「ふふっ、えぇそうね。だって彼らはヒーローなんだもの。子供のために来てくれるわよね」
「特にガイアは地球生まれだからね。家族のためと今日も顔を出してくれるよ」
対する簪さんは目を輝かせながらこちらを見つめていた。まるで今話していた子供のように純粋な視線が俺にむいていた。まさに俺が亡き父へむけていた目と同じだった。あの憧れを含んだ視線。柏木さんがよく幼い頃の俺の話をするときによく言っていた。
「……家族」
そして彼女は、静かにそう呟き楯無さんを横目でちらりと見つめた。何か思う事があるのだろうか。まぁ詮索するのもデリカシーがないから、こちらからは聞かないが。
「っと、もう時間だった。じゃあ二人とも。是非ショーを楽しんでいってね」
広場の時計に視線を向けるとそろそろ集合しなければならない時間になっていた。彼女達とであってこんなにも時間が速く経ったのかと思うと、自分は異性との会話に目がないのかと考える。
楽しい会話ができて、俺自身嬉しかったのかもしれない。単に珍しかったからかもしれない。
そして、亡き俺の父を認めてもらえたと思えたからかもしれない。
その時ばかり、俺は俺自身の感情を理解できなかった。
●
「……ふふっ、面白い人だったわね簪ちゃん……簪ちゃん?」
「……」
先ほどまでいた男の人。確か中村さんって言ったかな? こちらの不注意でお昼を奢らされた人であり、第一印象は好青年って感じだった普通の人だ。ぶつかった時のありえない反応速度や手を握った時のおかしい瞬発力のせいで普通に見えないし驚いたけど、それ以外は全部好印象だし極一般的。寧ろ彼のおかげで簪ちゃんとの遊園地観光は成功しそうである。
そもそもここに来たのは簪ちゃんと仲を取り戻すためでもあるし、何よりも彼女が行きたいと言っていたこのショーのある三島パークでのとある情報の真偽を確かめるためであるが……
(まぁ、こんなとこには……ないわね)
三島パークとは日本でも巨大なアトラクションを有する遊園地だ。某鼠の国の如く毎日人があふれており、毎日の如くCMを出しているヒーロー物を扱うテーマパークだ。
遊園地でもありテーマパークでもあるここでとあるものをみたという情報。それを確かめるために、ここにいるのだけど……。
「……かっこいい」
「……えぇ、自分の仕事に誇りを持ってる素敵な人だったわね」
簪ちゃんの言葉を聴いた途端。それまでの思考が馬鹿らしくなる。そうとも、今回は彼女とヒーローショーを観にいくんだ。そのついでに情報の真偽を決めたらいい。最悪いなかったことにしよう。人のデートにまでとやかく言われる筋合いはないってものよ。
「さて、ショーが始まる前に、少し回らない? 簪ちゃん」
「……うん」
実のところ、簪ちゃんとは最近あんまり喋れてなくて、互いの気持ちを理解出来てない。彼女と私の間には深い溝が存在していて、彼女が私を避ける感じで日常が過ぎ去っていたのだ。その後、私がIS学園に行って溝は深まるばかり……だからこのショーを切欠に話がしたかったから無理矢理つれてきたのだ。引きこもりがちと言うわけじゃなくただ人見知りというだけで彼女自身アクティブだ。だからこういう催し物には食いついてくれて、少し離せるようになるだろう。そんな甘い考えだった。
結果はダメダメ。今こうやって居られるのも私が無理矢理ついて行ったからなんとかなったもの。さっきまで私から離れようとしていてとてもじゃないが遊びに来た風ではない。
でも、切欠が生まれた。彼との出会い……ただ一時間ばかし会話しただけ、ただそれだけで切欠が作れたのだ。
「……お姉ちゃん」
「ん? なぁに?」
簪ちゃんが少し顔を赤くしてこちらを見つめている。先ほどから顔を真っ赤にして、風邪でもひいているんじゃないかと思うくらい心配になっちゃったけど、彼女の言葉の続きを待った。
「私も……。なんでもない」
何か言いたげだったが、彼女はそこで口を濁した。その後の言葉が聞きたかったけど、強要したくない。彼女が言いたいときに聞いてあげたい。今まで言えなかった事を、その時言ってほしい。
「そう。言いたくなったら言ってちょうだい。ちゃんと聞くわ」
だからこそ、そう簪ちゃんに伝えた。
たった一時間ほどの会話。たった一度の出会い。たった一度の切欠。私達の溝というのが、周りからすればどれほど浅く見えるのだろうか。どれほど狭いものなのだろうか。それはわからない。
でも、確かに彼女は傷つき、私が傷つけ、そして今の今まで仲直りする手段など存在しなかった。これは変えようのない事実で。ありえないくらい簡単に切欠は生まれた。
「だから、いつか必ず言ってね。お姉ちゃんも、その時言いたい事があるから」
「……うん」
妹の頷きを確認した私はステージ近くのアトラクションを地図で探す。いつまでもうだうだしているわけにはいかない。今日は全力で楽しまなくちゃ。
「あ、簪ちゃん。これとかどう?」
「……うん、行こう」
頷いた簪ちゃんは私の手を握り、アトラクションへとむかった。さっきみたいに一人で行くのではなく、私を連れて。
切欠は単純な出会い。でも、私と彼女のターニングポイントになったのはたしかだった。
(……世の中、捨てたもんじゃないわね)
今回のショーの成功を願いながら、私は簪ちゃんに連れられアトラクションに乗るのだった。
●
三島パーク全体に響くチャイムがなる。それは12時の合図であり、俺たちのヒーローショー開始の合図でもある。
柏木さんが全員を集める。もう一歩も引けない状況、今までの練習やら何やら全てがこの30分ほどのステージショーで決まる。もしかすればミスをしてしまうかもしれない。台無しになってしまうかもしれない。そんな不安が今更こみ上げてくる。皆もそれは同じなのか、汗を一粒滴らせていた。
そんな皆の視線を集めるディレクターは渋ったような表情で一度大きく深呼吸を行うと、その顔を今までに見た事のない自信に溢れたものにしていた。少し野性味溢れるその顔に皆も不思議と笑顔になった。
勿論、俺も例外ではない。
「よっしゃ。もう時間だ。まず美馬ちゃん! 司会のお姉さん頼んだぜ!」
「合点承知だー!」
美馬さんはその豊満なボディを思い切り震わせながら親指を立て、外へと駆け出す。そして大声を上げて挨拶を始めた。お客さんの声も聞こえる。掴みはよさそうだ。
「結構。次に舞台チーム! スチームやら何やら大変だけどまとめてくれよ!」
『はい!』
返事と同時に各々の持ち場へと向かう。彼らは音楽、アクションと複雑な機材を操るエリートチーム。その中心である志藤さんが持ち場の確認を終了させてインカムをつける。その数秒後にOKのサインを送った。
「よろしい! そして怪獣怪人共! 子供たちに完璧な悪者見せてやれ!」
『うっす!!』
既に怪獣や怪人スーツを着た大槻さん達は舞台袖へと歩んでいく。その堂々たる姿はまさに歴戦の戦士。俺の憧れた人たちの後姿だ。
「良い返事だ。そして輝!」
「はい!」
スーツ姿の俺を一望すると、柏木さんは満面の笑みを向けて背中を叩いた。
「……最高の【
「はい!!」
俺は返事をして、美馬さんの言葉を待つ。今にも飛び出したくなる。
ステージでは怪獣たちが美馬さんを掴んでおり、マグマ星人が子供たちを選別していた。
するとなにを思ったのか、網走さんは子供ではなくあの簪さんの手を引いていたのだ。
「え? え?」
「じゃあお嬢さん。ちょっと人質になってもらうぜ」
そう言ってステージ上まで連れてあげるという。流石に子供じゃないってのはどうなのさ。
[あ、あーテステス。輝君。そろそろ時間だ。すぐに出られるように準備するんだよ]
スーツに内蔵されているインカムから志藤さんの声が無事に聞こえた。俺は美馬さんの声をただひたすら待った。
そして、美馬さんが叫んだ。
「皆も呼んで! せーの! 【ウルトラマーン】!!」
『ウールートーラーマーン!!』
さぁ、ヒーローの出番だ。
●
子供たちの声援がステージ全域に響く。子供たちの必死な叫びが木霊する。
そして彼は現れた。子供の思いに答えるために。
前方宙返りをしてステージに降り立つ。前もって用意されていた少量の土が着地の衝撃と共に宙を舞う。
壮大なBGMが流れる。それはまさに神秘を謳うような歌。かの者の君臨を祝福する歌。
「来たよ! 皆の声を聞いて、ウルトラマンガイアが来てくれたよ!!」
美馬のナレーションに子供たちや連れてきた大人の人たちが「おぉ」と拍手と驚きの声をあげる。
ガイアはすぐマグマ星人から簪を助けるとすぐに美馬の元へと走り、彼女も助け出した。
「凄い! 流石はガイアだ! 皆知ってるかな? ガイアはウルトラ兄弟の中で唯一、地球のウルトラマンなんだよ! 皆の応援でもっと強くなれるんだよ!! じゃあお姉さんと一緒に応援しよう!! せーの!」
『がーんーばーれー!』
子供たちの応援に答えるように、ガイアは「デュアッ」と叫んで怪獣たちへと向かう。怪獣は合計2体。宇宙忍獣Xサバーガと古代怪獣ゴモラ、それにサーベル暴君マグマ星人が入って合計3体の敵と戦うことになる。
だが、ガイアは一歩も引かず、3体を相手にして戦う。勇ましく戦う姿はまさにテレビでみてきたあのガイアそのもの。開いた手を前に、拳を握った手を胸の前に構えたファイティングポーズをとり果敢に挑む。その姿に流石だと感想を零す大人もいた。
ゴモラの頭突きで吹き飛んでしまうとその後ろにいたマグマ星人にそのサーベルで切られてしまう。「ぐあぁ!」と痛みを訴える叫びが子供たちの耳に届く。その都度子供たちはガイアに声援を送る。その声に力が沸きあがる素振りを彼は見せた。
ガイアは打撃攻撃をXサバーガに浴びせた。強力な打撃によってXサバーガ悲鳴のような叫びを上げながら後退する。それに焦りを見せたマグマ星人が後ろからガイアに切りかかった。しかし、ガイアは痛がる素振りを見せない。まるでこの程度の攻撃は効かないと言いたげに。
「畜生、俺のサーベルが効かないのかよ!」
「ガイアは今、皆の応援という光を貰って強くなってるよ! さぁ! 頑張ってガイア!!」
マグマ星人の驚きの声に食い入るように美馬は応援を送る。その声援に大きく頷くとガイアはアクロバティックな動きを見せる。これこそ、ハイパーセンサーを導入したことによる爽快な動き、まるで本当にテレビから飛び出してきたような動きに観客一同が再び驚きの声を上げる。
その中でも簪の目は輝いていた。目の前で本物がアクションをしていると錯覚するほど。彼女は嬉しさのあまり声が出ないでいた。
ゴモラの前で前方宙返りをして後ろに着地すると、ガイアはその尻尾を持ち上げ引きずり出す。だが流石に重いのか尻尾を持ち上げることで精一杯らしい。ガイアは肩で息をしている。流石に疲れが出てきたか。
「へへへっ、流石のウルトラマンガイアでもこの怪獣2体と俺様相手にはこたえてるようだな」
「ずるいぞマグマ星人!」
「ふっ、戦いとは常に頭を使うものなのさ」
「とかいって昨日はダイナにぼこぼこにされたよね」
「あれはたまたまだ! というかダイナの時は奴がストロングになった時点で怪獣が逃げ出すっていうハプニングが起こったからだ! 次こそは成功して見せる」
会場が笑いに包み込まれる。昨日のこともちゃんと取り入れながら美馬とマグマ星人はシリアスな場面でも笑いをとった。子供達はださーいとマグマ星人を馬鹿にしてそれを聞いて地団太を踏む。その間にガイアはXサバーガとゴモラを倒しにかかった。
「な、卑怯だぞ」
「卑怯もラッキョウも」
「ちょっと待って司会のお姉さん。それをお姉さんが言っちゃダメだよ」
またしても笑いが会場に響いた。今度はそのネタを知っていた大人の人たちの笑いも聞こえてきた。まさか司会のお姉さんがメフィラス星人の名言を言うと思ってもみなかったらしい。さらには敵であるマグマ星人に心配されてるのだ。会場の子供達からも笑いが聞こえる。
「さぁ! マグマ星人がこっちに注意を引いてる間に今だよ! ガイア!」
お姉さんの声に再び頷きガイアはXサバーガに止めを刺そうとする。少し遠くから足踏みをし、闘牛のように今にも突進してきそうなゴモラに気づかずに。
「そうはさせるか!」
マグマ星人がガイアを羽交い絞めにする。急に後ろから拘束されたガイアは驚きを隠せない。
「よっしゃ、こいゴモラ!」
「危ないガイア!」
マグマ星人の声に導かれるように、ゴモラはガイアに向かって突進をした。美馬の叫びが聞こえる。彼女の後ろにいた簪も今にも叫びそうになっている。
すると突然、ガイアの腹部に衝撃が走る。ガイア自身困惑を隠せないでいた。目の前にはゴモラがいる。だがこの衝撃はゴモラのものではない。何故ならゴモラはまだこちらへ向かってきていた時だったからだ。
そしてその衝撃だ。今までに受けたことのない痛みが腹から全身に伝わり、ガイアは吹き飛んでしまう。あまりの爆風にステージの屋根は吹き飛んでいった。
「みぃつけたー!」
上空から聞こえる女性の声。観客席から悲鳴が上がる。あれはなんだ。鳥か、飛行機か?
いや、ISだ。ISを纏った女性がそこにいたのだ。獣のように鋭い視線が、美馬へと降り注がれていた。
吹き飛ばされたガイアは今、美馬に抱き寄せられていた。意識が朦朧とする中、彼女の呼ぶ声だけが、鮮明に聞こえた。
爆破にも耐えられるように作られた特殊スーツにより、ガイアは一命を取り留めていたが立ち上がるにはまだ時間がかかりそうだ。
「やっとみつけましたよ。篠ノ之先生♪ 何か後ろにもいるけど別にいいや」
語尾がはねる。女性は嬉しそうに美馬にそう言い、近づいてきた。鉄を纏った手を握り締めたり開いたりしており、今にも襲い掛かりそうだった。美馬は今にもこの場から逃げ出したくなったが、後ろに簪がいることを思い出し振りかえる。
すると体を震わせてしがみつき、今にも泣きそうな彼女がいた。しかしその目はISの方ではなく、ガイアに向けられていた。
自分の信じたヒーローが倒される。それは彼女にとって恐怖以外のなにものでもなかった。ピクリとも動かない。それが余計彼女を恐怖に陥れる。
「あ、ちなみに逃げたらそれ、死にますよ」
これじゃあ彼女を逃がせないし逃げられない。美馬は歯軋りをしながら女を睨んだ。すると女は勝者の余裕か「ひー怖い」と大げさな素振りを見せた。
馬鹿にして。美馬は何も出来ない自分に苛立ちを覚える。
「いやぁ、まさかこんな所で身を隠していたなんて驚きでしたよ。あれですか? 木を隠すなら森ってやつ? 流石は天才篠ノ之博士だ。考えが凄い」
ケラケラと笑う女はふとその拳をステージに叩きつける。先ほどまで笑っていたというのに今はその面影もない。殺気丸出しで美馬を睨んでいた。
「こんなに手間かけさせやがって。本当なら今ここでズタズタにしてぇんだけどよ、残念な事に仕事内容が“生かして持って帰れ”ってことなんで。とりあえず一通りぶちのめしたらお持ち帰りさせていただきまーす」
狂ってる。誰もが彼女を前に思った。観客は瓦礫に体の一部が埋もれて動けないもの、意識を失ってしまったもので溢れてしまう。これではどっちにしろ逃げることなんて出来ない。
女が美馬に近づく。手も足も出ないと思ったのか、その顔はまさに彼女にしか出来ない笑顔をしていた。歪みきったその笑顔はまさに美馬を嗤っていた。
だが、黙って彼女を渡す気がない者がいた。
女の歩みがとまり一瞬うろたえる。その目は見開き、まさにありえないものを見ているようで、その手を震わせていた。
それは美馬も簪も例外ではない。だが、その震えは恐怖などではなく。
「デュアッ!!」
彼の復活を喜ぶ震えだった。
「ガイア……」
簪が呟く。するとガイアは首を少しだけ縦に動かし、ファイティングポーズをとる。それはまるで「俺が相手をする」と言いたげだ。
「……へぇ、嘗められたもんだよ。男の分際で、ISに楯突こうってか!!」
怒りを顕にするISを纏う女性と、拳に力をためるガイア。
今、絶対的な力の差のもとに戦いが始まろうとしていた。
この物語はフィクションなんだよ。