「母上、あまり無理なさらないでください。お身体に障りますから。」
転生して一週間。大パニックだった私の頭も、ようやく落ち着いてきました。
「ありがとう、葵。」
そう微笑む私の母上、晴香さん。
私は五年も病に伏せていた(ことになっている)ので、とりあえず言葉を喋れることに驚かれた。まぁ、そりゃそーだ。二歳の時に寝たきりになったのに、次起きたら普通の子になってるんだから。
それから、家事が出来ることも驚かれた。
勉強や剣術の稽古……生前やったことなかったことも、なんとなく、なんとなくだけど、アニメの銀魂を意識したつもりでやった。
私は十六歳で死んでいる。生前、家が家であり弟もいたので、家事は全般こなした経験があった。
勉強は、最初はちんぷんかんぷんだったが、母上である晴香さんがいつも教えてくれた。
松陽先生……じゃなくて、父上も勉強や剣術を教えてくれた。
というわけで、私は目覚めてからわずか一週間で完全回復。
それから、そこで過ごしていくうちに、いろいろわかったこともあった。
まず、私の母上、晴香さんは身体が弱い。私を産んだ時も生死の間をさ迷ったんだと……。そんな身体で二人目を産んだらどうなるのか?そんなこと聞かなくてもわかる。
私も止めましたよ?いや、そりゃあ確かに、弟が欲しいって言ったのは私だけど、母上が死ぬくらいなら……ね?でも、
「いいのよ、葵。母さんはそのことをわかった上で、この子を産もうと思ったんだから。松陽さんに迷惑かけちゃうと思ってたけど、葵も目を覚ましてくれたし、安心して産めるわ。」
素敵な母上でした。
私の生前じゃ考えれない、ってか、絶対聞くことのない言葉ですよ。
だって産んだ子ども、殺そうとする親ですからね?
あー、最悪。変なことを思い出してしまった。
私が生まれた時代、銀さんはまだいなかった。もちろん、桂や高杉もいない。でも、父上は私塾を開いていたので、もうそろそろかな?とは思ってるんだけど…。
なんせ、松陽先生が何歳で銀さん拾ったのか忘れてしまった、っていうかそんなこと書いてあったっけ!?って感じなんで。
まぁ、なるようになるでしょ。父上が拾ってくるのを待ってればいいわけで。
次に私の容姿……、いや、わかってたけど。
確かに原作読んだ時から、『沖田くんと松陽先生ってそっくりだなぁ』って思ってましたけどもっ!!
……ここまで似ますかね、、、?
私の容姿は、沖田くんの髪を長くして、瞳の色を赤とか青じゃなくて茶色(?)みたいな、緑(?)みたいな中性的な色にした感じ。
えっ?全然違うって??そんなことないんですよ。
鏡を見た時、すっごい驚いて、そんな私を見て父上もすっごい驚いてました…。
並んだら双子に見えちゃうんじゃないかな…?
最後に立場…?っていうか、私のポジション…?
とりあえず私塾では『姐さん』と呼ばれている。みんな、私より幼いから、たくさん弟がいるみたいで楽しい。
後は『先生』と呼ばれることもしばしば。やっぱり家に先生がいるのもあるし、私自身、たくさん勉強したかったくて、たくさん教えてもらっていたら、私塾の子たちよりは頭が良かったからかな?
そんなこんなで、私は生前の、何十、何百、何千倍もの愛を受けまして、育ちました。
生前の十六年より幸せな一年を過ごしましたよ。はい、気づけば転生してからもう一年ですよ。
何事も無かったわけじゃないんだけどね、それなりに天人が近くまで来たり、それなりに戦場の状況が伝わってきたり。でも銀さんはいなかった。村を探してみたけど、桂も高杉もいなかった。
とりあえず、私がとーっても愛を受けた一年でした。ということですかね。
そして、ちょうど一年がたった今日は……、
弟が産まれそうです。
うん、びっくりだね。私の生前の弟も、私が八歳のときに産まれたんでね。これは、あのキモイ神様の仕業なのか…?
―――キモイってひどくなぁい?
そういえば、頭の中にいるって言ってたっけ?
…………放っとこう。
「オギャァァァァ!オギャァァ!!!」
元気に生まれました。私の願い通り弟が、
母上の命と引換に。
母上は、弟を抱いて笑って泣いてました。
その顔は、死に際の人の顔だとは思えないくらい綺麗でした。
「葵。」
「何ですか、母上。」
「松陽さんと弟をよろしくね。あなたとちゃんと過ごせた一年、すごく幸せだった。本当にありがとう。丈夫に産んであげれなくてごめんね。娘と過ごす時間がこんなに楽しいものだと知らなかったから、これからもう過ごせないと思うと、それだけが悲しいかな。
目を覚ましてくれてありがとう。
声を聞かせてくれてありがとう。
母上…って呼んでくれて、ありがとう。
葵、愛してるわ。」
私は初めて泣きました。生前でも泣きませんでした。
泣いたら、うるさいと殴られる。そんな家だったから。
しかも怖くて泣いてるんじゃない。嬉しくて泣いてる。
父上は、私と母上と弟を抱きしめてくれました。
「ふぅ……。出産は何度経験しても、素敵なものだわ。
でも疲れちゃったから、少し寝るわ。おやすみ、松陽さん、葵、
そう言って私を初めて愛してくれた女性は、この世を去った。
その顔はすごく穏やかで、やっぱり綺麗でした。
私の腕の中には、母上の綺麗な黒髪を受け継いだ弟の蒼汰。
父上に聞いたところ、生まれる前からちゃんと考えていたらしい。
「蒼汰、というのは『健康で元気に』という願いが込められるんです。」
妻である母上も娘である私も、病に侵されていたから、元気に育って欲しい、っていう意味だったんだろうな。
こうして吉田家に新しく命が生まれました。
吉田蒼汰。私の大切な弟。