最終話が目に見えるところまで来ています。
嬉しいような、悲しいような……。
「銀時……、ごめん、ね……。」
そう言ったのは、罪悪感からか。それとも自分の無力さからか。
落下してるなかで、少しばかり目を見開いた銀さんの首に抱きつき、そのまま体制を逆にした。
「!!……おまぇっ!!!」
上である私が、下になるように。
すぐにその意図に気づいた銀さんが、必死に自分が逆になろうとする。その優しさに、また心が痛む。
こんなにもあなたを傷つけたのに。
こんなにもあなたを裏切ったのに、突き放したのに。
あなたは、……あなた達は、まだ私の手をつかもうとしてくれた。
それだけで充分だった。
──ドガーーンッッッ!!!
かなりの高さから、城のどこかの屋根に叩きつけられた。
「ゲホッ!!……ッハァ、ハァ……ハァ……っ。」
落ちる寸前に銀さんを少しだけ横に投げる。かなり低いところからだから、衝撃は少ないはず。……私はというと、
「……ハハッ、松陽先生の娘じゃなかったら死んでるかな。」
不死である父上の血を受け継ぐ私は、それ相応の生命力と回復力があった。……まぁ、銀さんも負けてないと思うけどね。
──ズズズズ……ッ
「!?……銀時っ!!」
衝撃は抑えられていたけど、傾いていた屋根のせいで、銀さんは重力に任せて下に落ちていた。
こんなの原作には無かったけど、ここまで来ちゃったら、原作もクソもない……よなぁ。
「っ!!」
立ち上がろうとして、視界が歪む。自ら刺さりにいったとはいえ、刺さるのは痛い。そして、血は止まることを知らずに流れ続けていた。
血を失い過ぎていることは、正直、どうでもいい。危惧しなければならないのは、失血していることで身体に制限がかかっていること。
「松陽先生の回復力が失われつつあるのかぁ。」
朧に聞いていた。
虚の血を受け継いでいるとはいえ、それは純血ではない。つまり、本体とは違ってその人間離れした力は、永遠ではないということ。そして、身体にその異変を僅かにでも感じたら、そこから先、その力が消えるまでの時間は、とても短いということ。
それでも、
「戸惑う理由には……ならないんだよね。」
ごめん、朧。警告してくれたあなたの言葉を無視するけど。自分で決めた道だから、許してね。
──ダッ!!
空中に投げ出された銀さんの身体を向かって、屋根を蹴り、空中でそのまま抱きしめる。
──ザザーーーッッッ!!!
勢いを殺せず、銀さんを抱きしめたまま隣の屋根に、そのままの勢いで突っ込む。
「ゲホッ!!!!ッハァ……ハァ……、」
うぉっ、初めて血を吐いた……。って、感心してる場合じゃない……か。
「葵っ!」
晋助でも父上でもない声で、私をそう呼ぶのは一人しかいない。
「……血を流しすぎだ。」
「あー、そろそろやばいかな。」
回復はするのだが、その時間が明らかに長くなっていた。
「ちょっと休めば大丈夫……っだから。」
「……っ………なよ」
「??」
「ここまできて……尽きるなっ。」
「!……ありがとう。」
「……。」
……そんな朧、初めて見たよ?真っ赤だなぁ……
「銀時のこと、ちょっとお願い。」
「お前はどうする。」
「……もう一人、救いに行かなきゃ行けない人がいるんだ。」
城を見上げ、その人がいるであろう場所を見た。
「すぐに戻ってくる。多分、もうあんまり時間がないはず……。」
「わかった。」
銀さんを朧に任せ、近くの木に登り、そこから上を目指す。一般人には考えられないような跳躍力だが、そういうのはこの世界では通じない。
──バタンッ!
「!!」
「お待たせして申し訳ありません、そよ姫様。」
「ひっ……、あ、いやっ……」
……そりゃあ、そうだ。そよ姫は私が見えるようにしたその窓から、私が裏切っていたのを全てを見ていた。そして、ここから城の屋上の様子は見ることが出来ない。つまり、そよ姫の中では、友だちである銀さんを始めとする人たちに、刀を向けた人となっているのだ。恐れるのも無理はない。
「……お兄様の元へ戻りましょう。」
「……?」
「?」
信じてもらえるとは思っていない。いざとなったら、気絶させてでも連れて行くつもりだった。
そのそよ姫が、か細い声で何か言った。
「大丈夫……ですか?その……、
「!!」
自分のことを信じることが出来ないなど、そんなことは私の勝手な想像だった。
彼女は、疑うという発想すらなかった。初めから、私を、吉田葵を信じてくれていた。疑っていると思った自分を恥んだ。
「申し訳ありません、姫様。」
「葵さん!?」
突然頭を下げた私に驚いて、そよ姫は慌てた。
「……参りましょう。
変革は、すぐそこまで迫ってますよ。」
「!……はいっ!!」
そよ姫を抱き上げ、来た道を戻る。
ものすごい高さから飛び降りているので、「きゃあ!!」と言って顔を埋めるそよ姫のは、普通の反応だ。
──キーンッッ!!!
──ダンッ!!!
──ドガーーンッッッ!!!!
「……何やってるの。」
降りた先で見えたのは、目を覚ましたのであろう銀さんが、全てを知っているため迂闊に手を出せずに防戦一方の朧と戦っている様子。
銀さんに何も説明してない私も悪いか……。
少々、考え事をしていた私に気づいて、止めてくれ、と言わんばかりの訴えを受けた。もちろん、朧から。
「ふふっ、根は優しいんだよな……。」
──キーンッッ!!!!!!!!!
「「!!」」
いや、朧。どうして、あなたまで驚く。
片手でそよ姫を抱いているため、片手で握る一本の刀で二人の動きを抑えた。
「銀時、落ち着いて。全てが終わったら、ちゃんと話すから。」
「葵姉……っ。」
あぁ、そんな風に顔を歪ませないで。
あなたは何も悪くない。あなたが傷つくようにしか事を運べなかった私の責任なのに。
……そんな資格はもう無いはずなのに。
あなたに背を向けた日から、その想いは捨てたはずなのに。
「!!」
「ごめんね。
ありがとう、銀時。」
受け止めていた刀を払い、そのまま銀さんの首に手を回した。
……大きくなった。
見下ろして話していたはずの目線は、見上げるまでになって。背丈もあっという間に追い抜かれて。
身体付きも男らしくなった。その成長を、そばで見ていたかった。
「もう少し……だから。」──トンッ
「!?」
首を軽く叩き、少しだけ気絶させる。
……もう少しで終わるから。
あなたが本当の意味で笑える日が来るはずだから。
久しぶりに感じるなぁ。
「そこに私がいなくても、あなた達が幸せならそれでいいんです。」
あなたは、あなた達は納得しないかもしれないけど。
会えなかった十年間、その思いは、その誓いは、揺らぐことなんて一度もなかった。
揺らぐどころか、一層強くなっていったんです。
それぐらい、その存在が、
私の中で大きかったんです。
「朧。」
「……どうした。」
「ぱ……」
「……ぱ??」
「パス……っ。」
「!?」
「倒れ……っる、、、」
「……すまない。」
「ご、ごめんなさい!葵さんっ!!」
そよ姫を抱いて、銀さんも受け止めるのは無理だ……。
「行こっか。」
「あぁ。」
父上を守るために。
兄弟子を守るために。
大切な弟を守るために。