──ヒュー、
間に風が吹き、衣類をはためかせる。誰もがその異常な空気と光景から、目を離すことが出来なかった。
「……嬉しいですよ。こんなにも素晴らしい力を持っている者が二人もいるとは。
そして、その二人ともが私の血を受け継いでいる……。
本当に素晴らしい。やはり、殺すのが勿体無い。」
虚の斬られた腕は既に再生し、新たな刀を握っていた。
虚から発せられる異様な空気と、それに全く動じることのない二人の姉弟。
「お前に殺される気なんて、一つもない。」
「……、」
沈黙を破る声。
それを合図に、両者が一斉に動いた。
──ギーンッッッッ!!!!!
「「「「「「っ!?!?」」」」」」
目で追うなんて、そんな次元じゃない。
さっきまで、一瞬前までそこにあった気配が、次の瞬間には別のところから感じる。
何度もぶつかり合う三人の刀の衝撃波と、甲高い音が周囲を包む。
真選組も見廻組も、そして最強の姉弟の側で共に育った攘夷戦争の伝説の三人でも、その速さと戦闘を明確に察知することは出来なかった。
この場において、三人の気配を明確に察知することが出来ている人物など、戦っている本人たちを除けば一人しかないなかった。
「葵……っ、蒼汰……っ。」
幼い頃から二人を育てた父、吉田松陽だった。
「松陽……?」
銀時を支える松陽の手が、微かに震えているのを感じた。
恐怖を感じたのか。……否。
「やはり……、姉弟なのですねっ。」
傍から見れば、場違いだと罵る人もいるだろう。だが、吉田松陽にとってそんなことはちっぽけなことだった。
弟たちを、家族を誰よりも何よりも大切に想ったために、家族から離れた葵。
その姉を慕い、背を追うように剣の腕を磨いた蒼汰。
どちらも自分の子に生まれたばかりに背負わせてしまった運命。
そのことに対して、二人は一度たりとも不満や文句を言ったことなんてなかった。それどころか、いつでも松陽のことを父と慕った。
そこにはきっと、そんな虚の血になど縛られたりしない大切な姉弟の愛があったんだと。
そう認識したことに、認識できる状況が目の前にあることに、松陽は喜びを感じたのだ。
「なるほど。離れていても心は一つ、なんてぬるいことを言いたいのですか。」
葵と蒼汰の攻撃を受ける虚が、余裕そうに口を開く。
「でも不思議ですねぇ。
姉はあなたに、ずっと隠し事をしてきたんですよ。」
「っ、」
攻撃をする葵が、若干、顔を歪ませる。
「その姉を、まだ信じるというのですか。」
「……。」
怯む葵に、虚が言葉を続けた。
剣が拮抗してる三人にとって、僅かな精神の乱れが、即、死に繋がる。
「隙が出来ましたね。」
「っ!!」
とっさに攻撃から防御に転じる。が、そんな時間を与えてくれるほど敵は甘くない。
──キーンッッッ!!
「っ!!」
「……まだ、信じるということですか。」
虚の剣を防いだのは蒼汰だった。
「……お前には分からない。」
「蒼汰……っ?」
虚の剣を防ぐ蒼汰の顔は、髪に隠れてはっきり見えなかったが、次の瞬間、その顔を上げてはっきりと言った。
「葵姉ちゃんは、僕らのことをずっと守ってきた!
話せないことだって、好きで隠してたはずない!ずっと話したかった!だけど、僕らを巻き込まないように一人で全部背負って、裏切りを演じてくれた。
葵姉ちゃんを知らないお前なんかが、葵姉ちゃんを悪く言うな!!」
僅かだが、蒼汰の剣圧が虚のそれを上回り、虚を後退させる。
「なるほど。
美しい姉弟愛と、同じ仲間を騙してきた者同士ということですかね。」──ギーンッッッッ!!!!!
言い終える前に、その先を言わせないかのように、次は葵が虚に飛びかかった。
「お前なんかに、私たちを語る権利なんてないっ!」
二人の戦ってる後ろで、蒼汰が立っていた。
「蒼汰っ!!」
葵が叫ぶ。それは、気にするなという意味で。
だが、蒼汰は覚悟する。いや、覚悟はしていた。葵を助けるために二人の間に入った瞬間から。
だから伝えたのだ。
葵のもとへ行く前に、隣にいた自分の上司に。
『土方副長、』
『なんだ。』
『申し訳ありません。』
『……は?』
戻れないことを覚悟していたから。
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《土方side》
目の前で異次元の戦闘が繰り広げられている。
ここにいるヤツらの殆どが、その異常な光景に驚いているだろう。
が、俺たちだけは違った。
もちろん、その光景に驚いてはいる。だが、それ以上にその場に蒼汰がいることに驚いている。
そして、共闘しているのがあの甘党野郎が「姉」と呼んだ奴。つまり、少なからず攘夷に関わっている奴と共闘し、そして、そいつのことを蒼汰も「姉」と慕っている。
真選組にとっちゃ、そっちの方が一大事だった。
そして、それを蒼汰も分かっている。
だから、俺の側を離れる時にあんなことを言ったんだろう。
『申し訳ありません。』
「どうなってんでさァ、土方さん。蒼汰の野郎、攘夷の奴らと組んでたってことですかィ。」
総悟の殺気が、俺に向けられる。
そりゃあそうだ。攘夷と繋がっているとバレた時に一番に責任を負われるのは近藤さんだからだ。
「真相はあいつ自身に聞け。」
総悟からの殺気を気にすることもなく、俺は目の前の戦闘を見ていた。
あいつから姉の話を聞いたことは何度かあった。ミツバが死んだ時に、まるで自分のことのように悲しむあいつの顔が、ものすごく印象的で、それから何度かあいつの姉のことを話すようになった。
だが、蒼汰の話の中に姉の詳しい話は全く出てこなかった。それどころか、蒼汰の詳しい家族構造ですら明確ではなかった。
蒼汰自身の生まれや、育った地の情報ははっきりしていたから詳しく追求することは無かったが、話を聞くたびに蒼汰の家族に興味があった。
そして、調べた結果行き着いたのが、“吉田松陽”という名。そして、奪われた“姉”という存在がいたという事実のみ。
どこを、どう探してもあいつの“姉”のその後の情報が出てこなかった。
どうしても蒼汰の話が嘘だと思えなかった俺が辿り着いた答えは、あいつの姉が政府の人物、それもかなり重要な地位に着いた人物であるということ。
そこからは、どう調べても答えを見つけることは出来なかった。その間に蒼汰が、真選組で確実に信頼を得ていき、誰もその素性を疑わなくなっていった。
忠実に、真選組のために行動していた。
近藤さんにだけは蒼汰の話をし、後は俺たちの胸にとどめておこうという近藤さんの提案に甘えた。
「良かったじゃねぇか、蒼汰。」
当初から、明らかに他の隊士とはレベルが違った。総悟とも確実に殺り合えるレベル。
だからこそ、初めて見た。
「てめぇが、てめぇの実力を全て発揮して戦ったとしても、着いてきてくれる奴なんだろ。」
思いっきり戦えるからか、それとも探していた姉と共闘しているからか。
正直、俺はどっちでもいい。
「謝ってんじゃねぇよ。
素性のはっきりしてねぇ奴をそばに置いておくほど腑抜けでねぇし、てめぇほどの実力者を手放す程、俺はアホじゃねぇぞ。」
だから、今だけは思いっきり戦ってこい。蒼汰。