《松陽side》
近頃、村で不思議な噂を聞くようになりました。
『銀色の髪に、赤い眼。まるで鬼のような子どもがいる。』
『戦場に座るその姿は、まるで鬼だ。』
『戦死した人の懐にある、握り飯をとって食ってるらしいぞ。』
『“屍を喰らう鬼”だ。』
まぁ、こんな感じでしょうか。とにかく、戦地に鬼と呼ばれる子どもがいるらしいのです。
少し興味があったのもありましたが、このままでは、その子どもが危険な目にあってしまう。そう思ったので、葵と蒼汰が帰ってきたら、戦地に赴こうとおもっているのですが……、
「2人とも遅いですね…。」
既に日が沈みかけているので、すぐに暗くなるでしょう。葵がついているので、大丈夫だとは思いますが…。
――――ガラガラガラガラ
帰って来ましたね、よかった。
「お帰りなさい、葵、蒼汰……?」
驚きました……。
蒼汰を抱っこしている葵の後ろ、もう一人おんぶされている子どもがいたのです。
「葵?その子は……?」
息切れをして、額にうっすら汗を浮かべていた葵の様子から、走って帰ってきたのがわかりました。
「父上っ!事情は後で話しますので、蒼汰をお願いしますっ!」
常に落ち着いている葵が、珍しく焦って早口で答えるので、何も言わず蒼汰を預かりました。
「あの子は……まさか、、、。」
わずかに見えた銀色の髪。
その子の服についていた…、そして葵の着流しにもかなりついていた、血。
「下りたのですか、蒼汰……?」
問いかけた蒼汰は、ぐっすり寝ていました。
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何をこんなに慌てているのかって?それは、千段以上ある階段を上っていた時のこと…、
「ふー、、、。流石にきつくなってきたなぁ…。」
転生したとはいえ、生身の人間であることに変わりはないので…、当たり前のように疲れます。
それでも、約半分を上りきった私はすごいと思う。
まぁ、蒼汰も銀さんも軽いからなんだけどね。
果たして、安心したのがまずかったのか……。突然、背中にいる銀さんの呼吸が荒くなった。
「どうしたの!?大丈夫、ぎん……」
いやいや、待て待て……。
確か銀さんって、まだ自分が“銀時”だってわかってないんだっけ?……って!そんなこと気にしてる場合じゃないっ!
「ごめんね、もう少し我慢してね……。」
「はぁ………うっ……げほっげほっ……はぁはぁ…。」
だんだんと呼吸が浅くなっていく。
更に、私の背中はどんどん熱くなっていった、銀さんの熱で。
「うそ……、熱あったの?」
それとも、長い間の緊張から開放された反動か…。
今は、蒼汰も抱いてるし、下ろして見てあげれない。とにかく力の限り急いだ。
「頑張って……。大丈夫だよ。」
そう言ったら、私の方を掴んでいた手を、さらに強く掴まれた。まるで、助けて……、って泣いてせがる子どものように。
「葵、氷水を持ってきましたよ。」
「ありがとうございます、父上。」
氷水に手ぬぐいをつけてしぼり、頭に乗せる。それで簡単に良くなるはずもなく、相変わらず荒い呼吸で辛そうにしている。…大丈夫かな……。
「それで……、一体何があったのですか?葵。」
おっとそうだった…。説明しなくては……。
私は正直にすべて話しました。
蒼汰が下りて行ってしまったこと、そこで見つけた戦争孤児であること、見つけた時のこと……。
とりあえず、父上には嘘は全く通用しない、いや別に、隠そうとしてるわけじゃないから、嘘つく必要も無いんだけどね。
先生だからかな……?嘘には過敏に反応するんですよ…。
「なるほど……、つまり、噂は本当だったというわけですか。」
「噂……?」
私が話終えると、次は父上が話してくれました。
………って。
私が行かなくても良かったんじゃんっ!もうすぐ、会えるんだったんじゃんっ!!―――まあ、いいけど…。
「そんな噂が……、」
「えぇ。
葵が見つけてくれてよかったですよ。他の人が見つけていたら、また人を殺しかねませんからね。」
いやいや、あなたでも大丈夫ですからっ!ってか、私が無事だったことの方が、もしかしてすごいんじゃね!?
「そうでしたか……。
それで、父上。この子をしばらく、こちらにおいておいてもよろしいですか?私が責任もって、面倒見ますので……、お願いします。」
お願いした、頭を下げて。
答えはわかっていた、明確だった。
父上は笑顔で、
「もちろんですよ。しばらくなんて言わず、ここに住まわせましょう、本人が望めば…ですが。」
うん、聞かなくても良かったな。父上は…、吉田松陽とは、こういう人だ。原作でも、目の前にいるこの人も。
「ありがとうございます。」
銀さん、みんながあなたが目を覚ますことを待っているよ。
だから、早く目を覚まして。
早く、あなたの笑顔が見たいから。
早く、元気な姿が見たいから。
ずっとあなたのそばにいるから。
そして……教えて。
運命が…、あなたが、松陽先生ではなく私を選んだ理由を。
私であることに、どんな意味があるのかを。