今回の話には、たくさんの独自解釈が含まれています。違うっ!!と思っても、暖かく受け止めていただけると嬉しいです。
「さて……、先に膝をつくのはどちらでしょうね。」
「「……っ、」」
拮抗し続けた剣速と剣圧。
その敵を知っている者ならば、みなこう言うだろう。
『よくやった』と。
それほどまでに、やつが周囲に与えている影響は計り知れないものだった。誰一人、その戦いに割って入ることなど出来なかった。
全員が、その戦いの行く末を見守ることしか出来なかったのだ。
そしてその戦いは拮抗してるように見えた。
だが、そうでは無かった。
二対一であっても、相対する敵の方が
スピードも、技術も、経験も、
全てを上回っていた。
「……っハァ、ハァっ、」
「ほう、まだ立ち上がりますか。」
「あなたに……、これ以上、大切な人を奪われたくないので。」
立ち上がった葵は、蒼汰を守るように立った。
“傷を受け、それを修復する度に、不死の力は失われていく”
そしてそれは、子として受け継がれた時点で、その力が永遠ではない不完全なものになる。それと同じように、姉よりも弟の方がその劣化は激しいものになっていた。
「自分の命の灯が後どのくらいか、わかってないのでしょうか。」
「……自分の身体ですから。あなたよりは、分かってますよ。」
それでも、その力が葵の中にもう、ほんのわずかしか残っていないことは明確だった。普段なら治っているはずの傷が治らず、葵の身体からは傷を介して大量の血が溢れ出ていた。
「あなたの言った通り、私は異端児、本来、この世界にいる存在ではありません。
そんな異端児にしか出来ないこともあるんですよ。」
「……。」
──カチャ
そう言うと、葵は懐から一本のクナイを取り出した。
「そんなもので、私を倒せるとでも?」
「そんなに馬鹿ではありませんよ。」
追い詰められていた顔から一変、クナイに反射した光によって一層怪しく微笑んだように見えた葵は、狙いを定めた。
──シュンッ!!
──ザッ!!
「……。」
クナイは、虚の頬を僅かにかすめ、その背後の煙の中に吸い込まれた。
「バレてましたか。」
「もちろんですよ。」
葵が方角を示す、クナイを投げた煙の先。
真っ直ぐに見つめるその先で、ドサッと大きな音が鳴った。
「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」
「逃がさないっ。」
──シュンッ!!──シュンッ!!!!
──ズシャッ!!
続けさまにクナイを投げ、虚の横を通り抜け煙の中に突っ込んだ。
──キーンッッ!!──ズシャッ!!!!
「全く……本当にあなたは、どこまでも私を楽しませてくれる。」
「葵……姉……。」
晴れた煙の中から現れたのは、葵と、
その足元に転がる二人の奈落。そして、
「おじ上……っ!?」
力なく目を閉じる、かつての国の長・徳川定々。
「この男を連れ出して、何をするつもりだったんでしょう。」
「あなたには知る必要のないことですよ。それに、既に殺してしまったのであれば、尚更……。」
「誰が殺したなんて言いましたか。」
「!」
その葵の言葉に、茂々が顔を上げる。
「こんな男に、死という楽な選択など与えるわけないじゃないですか。
あなた方に渡すなんてことも。
殺すなんてしてしまったら、私の大切な“友”が悲しみます。」
「!!」
虚から目を離し、振り向いて見た先には、真選組と見廻組に守られる茂々の姿。
「美しい姉弟愛、強い友愛、そして師弟愛。
あなたを縛るものは、どれも弱すぎる。
そんなものに縛られるせいで、あなたは死ぬことになる。
そろそろ終わりにしましょうか。」
完全に葵を仕留めるために、一気にその間合いを詰める。
「葵っ!!!」
松陽だけではない。彼女に関わった全ての人たち、いや、その場に居合わせた全ての者がその名を叫んだ。
かわすために全く動くことのない彼女をの名を。
「葵姉っ!!」
「葵姉ちゃんっ!!」
「ゼロ。」
──ガクンッ
「!?」
「……どういうことだ、……。」
小さな声で葵が『ゼロ』と言った瞬間、間近に迫っていた虚は、まるで葵を交わすかのように、葵の僅か数ミリ横の空を斬った。
この場にいる誰も、虚でさえもその状況を説明出来なかった。
ただ一人、それを仕掛けた本人であろう葵だけが、風に着物をなびかせて立っていた。
「幻覚から来るんですね……、若干、平衡感覚もやられていますか?」
「一体っ、……何をしたっ。」
再度、葵に詰め寄り、攻撃を仕掛ける。が、やはり、その力は何かに引っかかっているようで、葵は難なくその剣を防いだ。
「もう少し、早めてみますか。」
「!?」
──キーンッッ!!!!!!
決して深くはない、掠めるだけの虚にとっては、気にすることもない小さな傷。
「『塵も積もれば山となる』とは、この事ですね。」
葵が指さしたのは、まさに、今、葵自身が付けた小さな傷。
「あなたの身体に毒が回っているんですよ。」
「毒……?そんなもの、私に効くとでも?」
「確かに。
世間で知られる毒に、あなたがやられることなどありえません。
ですが、私の言う毒は、あなたの中に混ざってはいけないもの。
そういうものが体内に侵入すると、身体は勝手にそれを取り除こうとする拒否反応を起こします。」
「私の身体が、勝手に取り除こうとするほどの毒が侵入しているということですか。」
虚は考えた。一体、何が混ざれば身体に支障をきたすほどの、毒になるのか。
──『もう少し早めてみますか』
──『塵も積もれば山となる』
葵の言葉、行動。
すべてを繋ぎ合わせ、そして、たどり着く。
「なるほど……、あなたの血ですか。」
その答えに、周囲は驚く。
「さすがですね。正確に言えば、私の血の中に流れる、母上の血です。
不死という能力を持つあなたの体内に、不死の力を持たない血が入り込むことは、その力を劣化させることになる。」
「人間のような下等生物に、私が……っ、」
「その下等生物があなたの行動を鈍らせた。
父上と母上が私に与えてくれた愛が、あなたに一矢報いた。
私にチャンスを与えた。」
深くない傷。実力差により、つけられる傷が急所に届かなくとも、少しずつ着実に命に近づく。自動的に傷を回復していくその能力が、葵の作戦を可能にしたのだ。
「だから……あの時……っ、」
「……どういうことだ、銀時。」
『ごめんね、銀時。』
木刀を見つめて思い出すのは、自分の木刀に葵が自ら刺さってきた時のこと。
例え、葵が愛する大切な人が傷ついたとしても、未来のために自らが傷つく。
全てはこの時のために行われていたことだった。
「動きが鈍ってきたようですね。」
「私が?何のことでしょうか。」
「強がっていられるのもいつまででしょう。」
「強がっているのは……っ!!!」
──『その言葉、忘れないでくださいよ。』
「っ!!!」
それは、虚にとっては最大の屈辱。息絶え絶えの見下していた相手に言い放った言葉。その状況と真逆の状況に、今なっているのだ。
「膝をつくのは、あなたの方ですよ。いや……
つく前に、あなたの身体はその反応の速度に耐えれなくなって……」
──グシャッ!!!
「……はちきれる。」
さっきまで人だった塊が、元の姿を想像出来ないほどに粉々になる。
僅かな静寂のあとに響き渡るのは、歓喜。
「やった……。」
誰かがそう呟けば、連鎖するようにあたりに広がる。
平隊士たちが歓喜に湧く中、納得いかない顔のものが、若干名。
そして、その中には葵もいた。
──ここまで上手くいくもの?
───もっと考えていたのに、こんなにもあっさり??
その疑問は、現実となって目の前で起こる。
──グシャッ!!!!!
「っ!!??」
「ありがとう。私は君に礼を言わなくてはならないようです。
私自身の可能性が広がったのですから。」
「どう……して……っ、」
葵のことを背後から刺していたのは、たった今、目の前で肉片となった虚だった。
散らばった肉片が復活したようには見えなかった。
「!!……手首っ、」
「素晴らしい。正解ですよ、葵。」
「っ!」
蒼汰と共に、自らの身体を使って切り落とした手首から、その身体が復活したのだった。
「葵姉ぇぇぇぇ!!!!」
絶望へのカウントダウンは止まらない。
……実は、後数えるほど。