最終話まで、あともう少しです。
最後の最後に、アンケートを取ろうと思っています。ご協力いただけたら嬉しいです。
「葵姉から、離れやがれぇぇぇぇ!!!」
「……。」
──ズシャッ!!!!!!
「っ、!!」
葵の脇腹に刺さっていた虚の刀は、半ば強制的にそこに迫った銀時によって抜かれた。
──ドサッ、
葵が、今日、初めて片膝をついた。脇腹から流れる血は次第に激しくなり、手で覆う口元からも血が流れていた。
「葵姉……!?」
「偽りの血がもう少しで消えそうですね。」
混乱する銀時に、淡々とその状況を伝える虚。悔しいことに、話されるその内容は全て、事実であった。
「このまま放っておいてもいずれは尽きる命。ですが……、あなたには少々借りがありますからね。
最期は、私の手で終わらせてあげますよ。」
「「「「「「「!!!」」」」」」」
全員がその言葉に、身体を強ばらせる。ここにいる全ての人間が、少なくとも一度はその人物に救われた。
その恩義を忘れるような者は、この場にはいなかった。
──ザッ!!!!
「……既に風前の灯火である者を、命をかけて守ろうとする、か。下等生物特有の行動ですね。」
「みん、っな……。」
全員が葵を取り囲むように虚に迫る。そこには攘夷志士も警察も万事屋も幕府も関係ない。銀時、桂、高杉、そして松陽を先頭に、全員が葵を守るように刀を構えた。
「下等生物で結構。俺たちのことをなんと言おうと構わねぇが……。
葵のことを悪く言うのだけは許さねぇっ。」
「!!」
大勢を前にして、狼狽える様子など全く見せず、虚はある一点に狙いを定めた。
「なるほど。
では、敬意を評して彼女を狙うのはやめましょう。」
「「!!」」
目の前にいたはずの虚は、既にそこにはいなかった。
「最愛の人を奪うという形で許してあげます。」
「蒼汰ぁっ!!!」
怪我を考慮して少し後ろにいた蒼汰の真横に、虚が現れた。
「っ、!」
傷によって力の入りにくい体にムチを打ち、必死に敵を見据える。だが、……所詮、見据えるだけ。
なんの障害もなく、蒼汰に向けて虚の刀が振り上げられた。
──ズシャッッッッ!!!!
そのまま振り下ろされた刀が、身体を斬った。
あたりには血が流れ、真っ赤に染まる。
「っ、……?」
その認識が、一瞬遅れる。
この流れる血は自分のものか。
やってこない痛みの原因は何か。
「救ってあげようとした命を、自ら私に差し出すとは。
全くあなたのやることは、理解できませんね。」
「……。」
蒼汰の前に立ちはだかるのは、先程まで確かにいっぽも動くことの出来なかった、大切な姉・葵であった。
「姉……ちゃん……?」
──ドサッ
「葵姉ちゃんっ!!!」
葵の肩から腰まで振り抜かれた傷から流れる血の量が、葵が既に限界を迎えていることを示していた。自ら立っていることが出来ず、蒼汰のいる背後に、そのまま倒れてきた。
「姉ちゃんっ!!!葵姉ちゃんっっ!!」
蒼汰の腕の中にいる葵は目を閉じ、ピクリとも動かなかった。
「美しい姉弟愛の中で、姉弟もろとも、ここで死にますか。」
目の前に立つ虚が、無慈悲に二人に向けて刀を振り下ろす。
──キーンッッ!!!
「これ以上、私の大切な子どもたちに手を出すことは許しません。」
「松陽……。」
振り下ろされた刀を松陽が受け止めた。
「まあ、いいでしょう。
本来の目的は、未来が視える力を消すこと。既に目的は達成されていますからね。」
「!!、待ちやがれ!!!」
「いいんですか?これ以上放っておけば、姉だけではなく、弟も死にますよ。」
「っ!!」
颯爽と歩いていく虚の背に、誰も飛び込むことは出来なかった。
天導衆を乗せた船が、空に浮かび上がった。
「……。」
誰もが思い知る。
圧倒的な力の差を。
「葵っ、姉ちゃんっ……。」
それに一人で立ち向かった、姉の偉大さを。
その沈黙を打ち破れるものが、現実を受け止めきれる者が、
「皆の者、動け!!」
「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」
一人しか、いや、1人だけいた。
「傷ついた者たちは城に運び入れろ!傷の具合を見て、皆で手当するのだ!!
城にある全てのものを使え!!」
「っ、」
「……っ、」
その凛々しい声が、その場を和ませ、張り詰めさせる。
それが長であり、
「『立ち止まってはいけない。疑ってはいけない。
自分を信じることが出来ないものが、他人のために何かすることなど出来ない。』
……葵の言葉だっ。」
葵が仕え、守り、育て上げた【将】であった。
「っ!真選組、全員に継告ぐ!!負傷者を全員、城に運び入れろっ!!」
「「「「「「「「っ、ぉぉぉおおおお!!!!」」」」」」」」
「見廻組。運ばれた負傷者の手当を担当しなさい。エリートにしか出来ませんよ。」
「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」
黒と白が、江戸という色が混ざり合う。
「蒼汰。お前はそこにいろ。」
「……副長っ、」
「上司命令だ。いいな。」
「っ、はい。」
土方もその場を離れ、万事屋も動きに行った。
その場に残ったのは、松陽とその子どもたちだけ。
「!」
松陽が、蒼汰の手が僅かに震えていることに気がついた。
蒼汰は葵のことを支えている。つまり、直に葵の命の音が聞こえるのだ。
──ギュ
「!」
「大丈夫ですよ、蒼汰。」
「……、」
蒼汰が静かに頷いた。
その二人の手に、……もう一つ。手が重なった。
「「!!」」
「……、、」
既に話すことも出来ない葵が、目を開け、蒼汰の方を見た。口を開け、何かを伝えようとする仕草をする。
「なにっ?……姉ちゃんっ、どうしたの?」
顔を近づけた蒼汰に、葵はキスをした。
「!?」
「葵……?」
松陽も動揺したが、すぐに気がついた。
「傷が……。」
蒼汰の身体にあった傷が、治りかけていたのだ。
「これ……血……??」
葵の口から注がれたのは、葵自身の血。
それは、葵の体内に残った、最後の力。
同じ松陽と晴香の血を受け継ぎ、葵の弟である蒼汰だからこそ、渡すことの出来る、“最期”の最大の贈り物。
「…、……、…ぃ………っ。」
「……何?葵姉ちゃん、……聞こえないよっ、」
震える手を動かし、葵が手を置いた先は、蒼汰の頭の上。
「がん……ばった……ね、
ぁりが……と。」
うっすら微笑んだ葵。その手は力無く、父である松陽の上に落ちた。
「葵姉ちゃんっ!!!!!」
「「「「「「「!?」」」」」」」
手当に当たっていたものが全員、振り返った。
僅かだけども残っていた不死の力で、まだ力尽きるまではいかないはずだった。
それを葵もわかっていた。
分かっていて、その力を全て蒼汰にあげたのだ。
すべては愛する弟のために。
「蒼汰とやら!早く、葵を城の中へ!!」
「っはい!!」
叫ぶのは、彼女の最後の上司。この国の将であり、彼もまた、彼女を姉として慕ったもの。
「まだ、事切れて良い時間ではないぞ、葵っ。」
その拳が強く握られていた。
空はまるで全員の心が反映したかのように、雨が降り出していた。