こんにちは。投稿が遅くなり、申し訳ありません!!
作者の想像だと、あと一話……??
「……。」
──ザッ、ザッ、ザッ、
人の気配が少ない、ほとんどいないような小さな村。そこを、一人の男が歩いていた。
「銀ちゃーーん!!」
「銀さーーん!!」
歩いていた銀時を呼ぶ、神楽と新八。
「結局、着いてきたのかよ。」
「銀ちゃんだけ休みなんてずるいネ!!」
「そうですよ!!僕たちも休みが欲しいんです!」
「はは……、そうかよ。」
三人が歩いているのは、いつの日か訪れたことのあった銀時の大切な思い出が詰まっている、“松下村塾”。
葵によって守られた、未来の形の一つ。
「ありがとな。」
一人で来るつもりだった。全てではなくとも、多少なりとも葵の考えていたことがわかった今、再びここに来たかった。
ただ、来ることにも時間がかかってしまった。何も知らなかったとはいえ、自分のせいで大切な姉を苦しめ続けてきた。そして、彼女が眠ってしまった原因に、間接的にでも関わってしまった。
そんな自分に、ここに来る、そして会いに行く資格などあるのか。
周りになんと言われようとも、その資格があるとは思えなかった。そんな葛藤の中、ここに来る決意がようやくついたのだ。葵が眠って三週間のことだった。
「……。」
松陽の家となっている松下村塾。葵の側についてるので、今は、誰もいないその家は、銀時にとっての全てが詰まっていた。
「銀ちゃんたち、ここで勉強してたアルカ!!」
「おう。……っても、ほとんど寝てたけどな。」
軽く笑って答える銀時も、当時の席、一番後ろの外に近い席に座った。寝るのに、寄りかかる壁もあって、眠気を誘う気持ちのいい風も入ってきた。
「松陽さんが教えてたんですか?」
「いーや。松陽も教えてたけど、葵姉も教えてたな。
そーいや、葵姉の話は聞いてたな……。」
「銀ちゃん、姉ちゃんのこと好きだったアルナ!!」
「……はっ!?」
神楽の突然の言葉に、驚きを隠せない銀時。
「な、ななな、何言ってんだよ!?」
「……銀さんこそ。今更、何言ってるんですか。」
「今もめっちゃ好きアルネ!」
呆れたように銀時を見る新八と神楽。
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
「じゃあ、好きじゃないんですか?」
「は??……いやっ、好きじゃないわけじゃねぇけど……。」
「銀ちゃん!!お客さんアルヨ!!!」
銀時が悶々と考えている所に、玄関から神楽が叫んだ。
「客?誰だよ、こんな田舎に……」
「ここにいたか。」
「……あんたかよ。」
玄関に立っていたのは、かつては間接的に銀時らの兄弟子であった、今は将軍の下につく、朧だった。
「まだ、葵に会いに行ってないようだな。」
「……悪かったな。」
「いや。
葵が凄かった、ということが分かるだけだ。」
「……は?」
そう言うと、朧は一枚の手紙を銀時に差し出した。
「葵が生きていて、お前が何かに後ろめたく感じているのであれば、渡して欲しいと頼まれたものだ。」
「!?」
「お前がこうなることまで分かっていた、ということだ。」
「まじかー。」
天を仰いぎ、手で目を覆ったその頬を、涙がつたった。
───────────────────────
かつて葵の授業を受けた席で、銀時は、その手紙を開いた。
銀時の持つ教科書に、よく書いて貰っていた葵の綺麗な文字がそこには並んでいた。
『銀時へ。
まず、この手紙を渡されなければならない状況に、あなたを追い詰めてしまってごめんなさい。
あなたは優しくて、責任感が強いから、きっと人一倍たくさんのものを抱えてしまう。そして、そうだと分かっているのに、あなたにその荷物を背負わせてしまって、本当にごめんなさい。
きっと、あなたは自分のせいでと感じているんだと思う。
だけど、絶対にそんなことない。銀時が悪いことなんて、一つも無い。
だから、どうか。自分を責めないで。追い詰めないで。
もしそこに私が関わっているのであれば、それは、私が自ら望んだこと。銀時は、何も気にする必要ないよ。
銀時と離れていた時間。みんなの前に、敵として立った時間。
きっと、たくさん傷つけたよね。それについて弁明するつもりも、許して欲しいとも思ってない。
ただ、これだけは知っていて欲しい。
私は、ずっとみんなを信じていたよ。
きっと、また立ち向かってきてくれる。
きっと、また助け合って前に進んでくれる。
あなたにこの手紙を渡すことが出来ているのなら、きっとその通りだったんだろうな。
本当にありがとう。
あの日、私と出会ってくれてありがとう。
私を姉として慕ってくれてありがとう。
最後まで信じてくれてありがとう。
あなたの姉になれて、本当に幸せでした。
あなたが、みんなが笑う世界を、私は心から願っていました。
あなたのことが大好きでした。
また、あなたの笑顔を直接、見れますように。
吉田 葵。』
全てのことが、走馬灯のように駆け巡った。
楽しかったこと、辛かったこと。嬉しかったこと、悲しかったこと。面白かったこと、楽しかったこと……。
思い返せば、いつも、どんな時も、葵は見守ってくれていた。守ってくれた。
「……戦場で。葵の話すことの八割は、お前達のことだと言ったな。
その八割のうち、ほとんどはお前の話だ、坂田銀時。」
「!!」
「お前の自慢ばかり、俺は聞かされていた。」
「……。」
少し黙ったあと、朧が言ったことに、銀時は耳を疑った。
「……お前が羨ましかった。」
「!?」
「松陽が愛した娘に、こんなにも愛されているお前が。その女が、命をかけてでも守りたいと思われるお前が。」
「葵……姉……が??」
「今度はお前の番ではないのか。」
「!!」
「幾度となく、助けられたのではないのか。」
「……。」
「その葵が、お前を待っている。」
「……葵姉は、俺のせいで……、」
「貴様の知ってる吉田葵は、お前に責任を負わせるような奴か。」
「!!!」
「少なくとも、俺の知っている吉田葵は、そのような弱い者ではない。」
そう。
彼が、いや、吉田葵に関わった全てのものが、彼女に守られた。
そのせいで彼女が倒れたことについて、誰かを責めるような者ではないのだ。
「お前の姉も、……いや、お前が愛する女も、そうではないのか。」
「!」
「お前にとって葵の存在が大きいように、葵にとってもお前の存在は大きい。
そのことに気づけ、吉田銀時。」
「……っ、!!」
葵に与えられた、大切な名前。
彼女が、銀時にすべてを与えた。
名前も、
環境も、
生きる術も、
そして、愛も。
「神楽、新八。帰るぞ。」
「「!!」」
「行かなきゃなんねぇところでが出来た。」
「はい!」「ウン!!」
走り出したが、銀時はすぐに止まった。
「?」
「……ありがとな、葵を守ってくれて。」
「……貴様に礼を言われる筋合いはない。」
「そうかよ。」
そう言うと、再び走り出した。
「葵。お前の弟は、相当面倒くさいな。
お前の言った通りだ。」
『弟……。』
『そ。悪ガキで、まだまだ未熟者だし、面倒くさいんだけどね。』
『そうなのか……?』
『それでも……、どうしても見捨てられないんだよ。
大好きだから。』
葵が唯一、表情を豊かにして話す内容だった。
だんだんと、その話を聞くことが朧も楽しみになっていた。実質、弟弟子にあたる彼らの話を。
「早く目を覚ませ。そして聞かせて欲しい。
お前の大切な弟たちの話を。」
朧が思い浮かべたのは、望む未来。
いつの日か葵が望んだ、キラキラした未来。