ご了承下さい。
爛々と輝く温かな電灯から程遠い。
既に町は壊滅していた。文明が築き上げた温かな光など一切ない。
そこにある光は、民家から燃え上がる炎と、逃げ惑う人々の流す涙だった。
「はぁ、はぁ、はあ、……クソ。クソったれェ!!」
クリスマス。
あと数分もすればやってくるその日に、もはや男は微塵も期待していなかった。
頬から流れる涙を拭っている余裕はない。気絶した息子を引き連れ、懸命に町の外まで逃げていた。
とにかく駆ける。
瓦礫に隠れる。
息子を背中から降ろして、地面に横たえる。
ギャリギャリギャリ、と戦車の履帯の音が聞こえたのはその時だった。
巨大な鉄の塊が、道路の中央線なんて気にせず爆走していた。
戦車に目標なんてない。ただ目の前の物を片っ端から砲撃していくだけ。破壊そのものを楽しんでいるかのような暴虐。まるで嵐が過ぎ去った後のように、破壊の爪痕が町に刻み付けられていく。
「最悪なクリスマスだ……」
思わずそんな言葉が漏れた。
同時に、戦車の天井に取り付けられた灯光器から放たれるサーチライトに、運悪く男の体が映ってしまった。
「ッ!?」
咄嗟に息子を抱えて飛び退いた。
が、それでどうにかなる訳でもなかった。
直撃こそしなかったものの、男が隠れている瓦礫の数メートル横に砲弾が着弾する。
地面から浮き上がるような爆発が起こった。
男が吹き飛ばされた。
地面をゴロゴロと転がり、瓦礫にぶつかって止まる。
激痛に顔を歪めるが、息子の身体に傷はない。そう確認して、男はほっと一息つく。
「あ、が、ァ……ッッ!?」
直後に焼けるような痛みが走った。鈍い打撲傷でもない。背中へ目をやると、鋭利に尖ったコンクリート片が突き刺さっていた。
背中からぬるりとした液体が漏れていた。
それが何なのか思い当たるまで、鉄錆び臭い匂いに気付かなかった。
立ち上がりかけた男の腰が、力を失いガクリと地面に落ちる。
戦車からは、場違いのようにクリスマスソングが流れていた。障害物を破壊しながら強引に近づいて来る。
神様なんていない。
もしいるなら、戦火に巻き込まれるなんて悲劇にそもそも逢わないはずだから。
サンタクロースなんていない。
もしいるなら、目の前で涙を流す息子は笑顔で微笑んでいるはずだから。
もはや自分の命はどうでもよい。
でも、罪のない息子まで死ぬなんて居た堪れない。
本来なら、枕元へ送られるプレゼントを楽しみにしながらベッドで興奮していただろうに。
本来なら、いい子になろうと家事を手伝ってくれた息子が、幸せな夢を見ている時間のはずなのに。
やり切れない想いが、涙となって溢れていく。
戦車の砲身が、ついに男を捉えた。
思わず目を瞑ったが、それでも肉盾になろうと最期の力を振り絞ろうとした。
その時だった。
戦車が唐突に爆発した。
陽気なクリスマスソングを掻き消すような、巨大な爆音が響き渡る。
どうやらエンストを起こしたらしく、戦車の天井のハッチが開いて、乗組員が外へ飛び出てくる。
しかし、彼らが地面に着地するやいなや、瓦礫の影から飛び出した二人組の少女達が、あっという間に気絶させていった。
首を絞められ、間接を折られ、股間を潰され。
ライフルで武装していた戦車の乗組員四人が、たった二人の少女達に制圧されてしまった。
訳も分からず呆ける男の前に、
「メリークリスマス」
真っ赤な服を来た少年が立ち塞がった。
辺りに揺らめく炎よりも赤い男が、その肩に真っ白な袋を担いで彼の前に立っていたのだ。
「あなたは、一体……?」
「アンタの息子に夢を届けに来たぜ」
そう言って、赤い服の少年は肩に担いだ真っ白な袋から小さな箱を取り出し、男に手渡した。
「あ、あなたは!?もしかして――――」
「出血大サービスだ。近くの病院まであんたら親子を運んでやるよ」
彼らは、特殊サンタクロース。
諸々の事情でプレゼントの届かない子供達のために、世界中のどこにでも旅立ち、どんな手段を用いてでも必ず贈り届ける特殊部隊。
子供達へ夢を紡ぐ。
ただそれだけの事を、ただそれだけにしたくない者達のなれの果て。
それが現代のサンタクロース。
お伽噺のフィクションでは終わらせない、どうしようもないほど幸せな物語。
・鎌池先生のサンプルメモ
《この世界ではサンタクロースが職業として実在する事、どうしてもプレゼントを届けられない子供達のための特殊部隊がある事などを説明する。詳しい用語解説は一章で、とにかく印象的なシーンだけを作れれば良い》