「ひっさびさ日本に帰って来れたのに、なんで寿司じゃねーんだよ!」
「まぁまぁ姉さん。美食大国の日本なら、ピザだってきっと本場のイタリアより美味しいかもしれないじゃないですか。はむ……あ、不味いな」
「だーっっ!!しかもこのファミレスは味噌スープもナットーもねーぞ!!チップ払わねーぞバッキャロー!!」
どこにでもあるファミレスの中で、騒がしい声が響き渡った。二人とも長いロングの金髪を持つ色白の巨乳で、首にペット用の首輪を巻いている。顔どころか体型や髪型までまるでクローン人間のようにそっくりだが、それでも異なる点はいくつかある。
粗暴な口調でわがままな末っ子のような雰囲気なのが姉のライティア。
丁寧な口調で落ち着きのあるお姉さんのような雰囲気なのが妹のレフテール。
ぎゃあぎゃあと文句を言いつつも、何だかんだ言ってお互いのピザを取り合ういつも通りの姉妹喧嘩に発展する訳だが、そこに一声挟む者がいた。
「やーめろって。お前ら誰の金で飯食ってるか分かってんのか?」
「は?年に一度しか仕事しないニートが何言ってんだか」
「むしろ月々の生活費をバイトで賄ってる分、私達の方が稼いでますよね?」
「…………」
じゃあ勝手にしろ、むっすー、と頬を膨らませた少年の名は、サンタクロース。
それ以上でも以下でもない、子供たちへプレゼントを運ぶ正真正銘のサンタクロースだった。ただし、その肩書きには『特殊』という冠が付くが。
不満たらたらでピザを手に取ったサンタだが、その手から姉のライティアがピザを掠め取り口に入れてしまう。
「…………オイ。お前らは、ペットの分際でご主人様に対する礼儀はなってねえじゃねえのか?」
「そーいうサンタは、私達『トナカイ』に対する日頃の感謝を忘れてるんじゃねーの?」
「ですです」
そう言って、妹のレフテールもちゃっかりピザの最後の一枚を掠め取って食べてしまった。
三人の騒ぎ声を耳にし、隣のテーブルの女子大生っぽい集団が椅子を上から跨いでこっちに話しかけてきた。
「え、なになに!?もしかしてサンタクロースじゃない?服装が全体的に真っ赤だし!」
「(……しーっ!駄目だよ!サンタの正体を知った子供にはプレゼント届けちゃ駄目ってルールがあるんだから!そんな簡単にポンポン言っちゃあ!!)」
「うっわ、本物じゃん!久し振りに見た!!写真撮っていいですか?」
「(駄目だっつってんだろーっっ!!こら、SNS開いて早速投稿しようとしてんじゃねえ!!)」
慌てて女子大生っぽい子達の口を押えて周囲を見渡すが、平日の昼時だったので子供はいない。良い子はみんな学校の時間だ。
「えー、残念……。ってか、何でそんなルールがあるんですかぁ?『サンタクロース財団』の本部がノルウェーにあるのはみんな知ってるじゃないですかぁ」
「知ってるのは大人だけだし、作ったのは俺じゃないから分からないよ。サンタなんて世界に100万人以上いるんだからさ。はいはい、帰った帰った。ぷらいばしーで訴えるぞー」
「……まぁしょうがないかぁ。お仕事頑張って下さいね」
ぶつくさ言いながらも未練だらけの女子大生を追い払い、厄介事はめんどくせーといった風に完全にシカトを決め込んでいたライティアとレフテールをど突きながらファミレスを出た。
食事後、サンタクロース、ライティア、レフテールの三人は街をぶらぶらと散歩していた。
街路樹に巻きつけられたツリー状の電飾。
ミニスカサンタのコスプレをしたバイト少女など、街中がクリスマスの色に染まっている。
ちょうど小学生の登下校の時間に重なったのか、ランドセルを背負った小学校低学年の少年少女がぱたぱたと無邪気に道を駆けていく。
「ユータ、サンタさんに何頼んだ?」
「ケータイ!キシを育ててガイテキと戦うゲームしたいんだ」
「まじで!?ケータイか、すっげー……みっちーは?」
「おれはゲームとゲーム機!丸いロボットで戦うゲームがあるんだ」
「へー、いいなー。俺も早くサンタさん宛てにクリスマスカードを出さないと」
「え、加藤はまだ出してなかったの!?外国に届くまで時間かかるんだから早く出さないと間に合わないぜ」
行き交う子供達も、来たるクリスマスでのプレゼントについての話をしている子ばかりだった。
三人の横を通り過ぎていく子供達を微笑みながら見送り、ライティアは、
「うちらに届いたクリスマスカードも、さっきの子達みたいに心待ちにしてんのかね」
「知らね」
「冷たいですねえ、サンタ。夢を運ぶ者なんですから『子供達の笑顔を守りたい』ぐらいは言ってのけないと」
「それを知りたいから、わざわざ現地まで調べに来たんだろ」
そう言いながら、サンタは目線を隣に移した。
超巨大という表現が、大袈裟でも何でもなく文字通りの意味を発揮する、そんな豪邸。
都内から少し外れた場所に居を構えているせいもあり、300坪以上も広大な土地を私有している。
厳重に囲まれた柵の隙間から見た限り、屋敷の本館のみならず、別館やプール、天文台やテニスコートまで備えてあるというのだから、テレビで目にする有名芸能人の家よりも金がかかっているのが見て取れる。
それは一代で散る財力ではなく、社会的に確かに地位を確立した者が築く事の出来る城だ。
神童家。
世界で一、二を争う巨大IT企業『ピーチソフトウェア』の会長、神童明良の住まう家。
『ピーチソフトウェア』はパソコンでは競合他社に後れを取っているが、携帯電話の分野では圧倒的シェアを誇る。その関係で軍事ソフトウェアの分野でも多く受注しているため、他国のスパイやテロリストなどからデータや財産、命を狙われるリスクがあるとまで噂されている。
故に、会長の明良を含め、幹部達の邸宅は徹底的に強化されているのだ。
「紙幣を注ぎ込み私兵を雇う」なんてダジャレが流通する程に、屋敷の警備は徹底的に堅められている。
そんな強固な警備網を突破するため、サンタ達一行は事前の下調べを兼ねて街を散策していたのだ。
屋敷の中はともかく、外の庭のあちこちに防犯カメラが設置されている。庭には警備員が巡回しているし、あろう事か狩猟犬やセントバーナードまで放し飼いにされていた。
おそらく、家の人間かそうでないかを『匂い』で嗅ぎ分ける軍用犬だろう。捕まったら最後、次々と襲いかかられ肉を食い散らされてしまう。
まだ敷地にも入っていないのに、こちらの視線に気付いた警備員や軍用犬に睨み返され、サンタ達一行はいそいそと屋敷の柵を離れた。
「ここにアタックするのは相当骨が折れそうだなあ」
「じゃあやめんのか?」
ライティアは尋ねるが、サンタは返事を返さない。
ここに忍び込むのは、命を懸けるリスクが生じる。テロリストから防衛するために組み上げられた警備網なのだから、一般人が突入するのなんて不可能だ。
「まぁ、普通に考えれば五回は死ぬレベルだな」
「それは傭兵時代に培った勘?」
これにも、サンタは押し黙った。ただし、その目には自分の経歴を口にされた事に対する怒りの色が見て取れ、レフテールも思わず黙った。
警備員や軍用犬にこれ以上怪しまれても困るので、このままサンタ達一行は帰路に着こうという話になった。
三人が神童邸から帰る途中、道の向かいからとぼとぼと歩いて来る少女が目に入った。
神童未美。
神童明良の一人娘であり、今回、サンタへクリスマスカードを送った張本人であった。
サンタは改めて、クリスマスカードに書かれていた、少女の手書きの拙い字を思い出す。
毎年プレゼントについて書いているのに、ちっともサンタクロースが来てくれない。今年も良い子にしてたので、今年こそ私のお家に来て下さい。
そんな願いを訴えた少女だった。
サンタ達三人とすれ違いながら、彼女は曇り空を見上げて独り言を呟いた。
「今年こそ、サンタさんは来てくれるのかな」
返答はなかった。
ただし、すれ違い様にサンタクロースは心中で静かにこう宣言していた。
『必ず届けるとも』
・鎌池先生のサンプルメモ
《サンタクロースがメインとなる舞台、日本の地方都市へやってくる。サンタクロースとライティア、レフテールの無駄話でキャラ付けを確定させた上で、神童未美の下にはプレゼントが届かない事、彼女のために命を賭けてプレゼントを届ける決意までを描く》