何処か暗く、しかし賑わいを魅せる人里。何時もなら人の往来も多いその時間は、その日は大通りすら閑散としていた。
洗脳でもされたかのように、ある1箇所に人が詰まっていた。人里はおろか、妖怪の山や紅魔館などの、有力な妖怪さえ集まっていた。一部の妖怪は日常的に里に来る為、溶け込むように人ごみに混じっていた。一方基本的に特定の人以外とは触れ合わないような妖怪は、異質な雰囲気を醸し出し、周りの人からやや嫌悪的な視線を浴びせられている。しかしそれを心地よしとするか、無視するか。妖怪はどちらかの選択肢しか選ばず、その視線が途切れることはなかった。
突然、ざわつきが止まる。気がついた人から、それらを察した周りの人へと広まり、痛いほどの静寂が場を襲う。
注目される壇上の上には、赤を基調とした服に包まれた、博麗の巫女である博麗霊夢。そして、鎖の部分がやや長めの手錠で霊夢の手首と手首を繋ぐ少女。黒を基調とした、如何にも魔法使いと言った服に包まれた少女、霧雨魔理沙が姿を現した。
無言の圧力。それを大言したかのような場の雰囲気。静寂ほど緊張するものはない。それゆえか、元から引っ込み思案なだけか、魔理沙は後ろから霊夢にややくっつくようにして歩いてくる。
身長を見てみると、魔理沙は霊夢よりやや低く、身体つきも出るところがあまり出ていない。所謂成長期に入るか入らないか程度の歳であろう。それに比べれば、霊夢は出るところは出ており、年齢的にも少し上をいっているであろうと推測が出来る。実際には個人差がある為、そうとは言い切れはしないが。
「・・・」
無言で大衆を見下ろす少女、霊夢は、その石のように固く、威圧感のある表情とは裏腹に、細かく震え、後ろ手で魔理沙の服を掴んでいた。それに気づいた魔理沙は霊夢の耳元で小声で何かを喋る。それを聞くと霊夢は大きく深呼吸をし、覚悟を決めた目で宣言を行う。それはこの人々が集まっている最大の目的である、夏祭りが始まる合図であった。
☆
夏祭りの数日ほど前の、とある場所の話である。
「魔理沙、暑い」
そういうのは博麗の巫女、博麗霊夢。暑いと言うが正装である巫女服はキッチリと着ており、そして背中を黒い服を着る少女、霊夢がまさに今話しかけていた対象である霧雨魔理沙に、身体をあずけるようにしてピッタリくっつけていた。
小高い山の上に位置する博麗神社は、麓・・・正確には山の麓から数十分歩く程度の道のり・・・にある人里よりも、風は吹き、気温も低めだが、それだけでは夏の暑さには負けてしまう。汗で巫女服がベッタリ張り付くが、魔理沙にもベッタリと張り付くのはやめない。
「私はそれをそっくりそのままお前に返すことにする」
本を読みながら霊夢の声に返事をする。その魔理沙も首筋に汗が流れる。冬の熱いお茶は、暑い夏では川の清水を使うことによりやや冷えたお茶になっていた。そのお茶についての霊夢の評価はやや悪いものではあったが、熱いお茶を夏に飲むのは拷問でしかないと言うことでしぶしぶ使っている。
「全く・・・なんでこうも暑いのかしら・・・」
霊夢はそう言いながら、魔理沙の髪を触り、指先で弄る。その瞬間真剣だった魔理沙の顔が少し崩れる。
「決まってるだろ。夏だからだ」
夏祭りも迫る今、暦は既に8月に入っており、まだまだ暑さが厳しい。近く行われる夏祭りという本来なら夏を楽しむ為のイベントは、2人にとっては夏の終わりを告げるイベントとなっており、またあまりいい思い出もないイベントだった。
「はー・・・寝苦しいのよね・・・早く冬にならないかしら」
「夏よりも冬の方が好きだな。それにくっつきやすい」
指先どころか手のひら全体で髪を弄ぶ霊夢。魔理沙はその感覚が大好きだった。本を読みながら背中を合わせ、髪を触られ匂いを嗅がれる。その瞬間に悦びを感じていた。
どこか顔に綻びが浮かび、猫のように霊夢の頭に自分の頭を擦り付ける。霊夢も魔理沙もその行動は無意識のうちに行っていた。それは日常で、いつものひとコマで、毎日行うその動作の意味を、特に考える事はなかった。
「あー・・・いい香り・・・」
魔理沙の胸ほどまでの長さの髪を、最初は一房。物足りなくなり、量を増やしていく。その姿は薬物に手を出した人の一生を縮図としたかのようであった。
「そう言っても使うシャンプーなんて同じだろ?変わらないだろ・・・あー・・・でもいい匂い・・・」
抱えるようにしていた本を地面に置き、空いた手を使い霊夢の髪を一房。そして嗅いだ。
「なんでこう魔理沙っていい匂いするのかしら」
言いながら反転。引きずられた鎖と擦れる金属音が鳴る。そして霊夢は魔理沙に抱きついた。
「霊夢。ずるいぜ。そしたら私が何も出来ない」
不満そうな声は、満足そうな顔と矛盾していた。
全身を撫で回す様に、マーキングするように霊夢は魔理沙の匂いを嗅ぐ。最初は髪、そして首、肩、服。腋もしっかりと嗅ぎ、最終的には魔理沙の肩に顎を乗せ、頭を当てるようにくっつける。
本を読んでいたはずの魔理沙は既に本を開いたまま放り、幸福感に身を委ねていた
「・・・はふぅ・・・」
霊夢の幸せそうな声が漏れ、魔理沙は抱きつかれた腕を腕で包むように当て、目を閉じた。
呼吸が、伝わる心音が、魔理沙は霊夢が呼吸をすることによって起こる圧迫感を。霊夢は魔理沙の匂いや、腕を包まれる温かさを。それら全てを体全体で堪能し、相手を感じ合い、そのまま意識を無限の闇に浸からせることにした。
気づくと日は傾き、密着することにより更に暖まった身体からは服がべったりするほどの汗が出ていた。先に目を覚ました霊夢は汗の不快感を覚えつつも、魔理沙の汗の匂いという幸福を感じようとした。
しかし喉も乾き、やや鈍い頭から、水分を補給することが先決だと思い、魔理沙から離れる。それだけで魔理沙は目を覚まし、少し不安そうに霊夢を見る。魔理沙は霊夢に捨てられるのではないかと内心酷く恐怖にかられたが、
「水飲みに行くわよ」
喉の乾きにより若干掠れたその声は、喉が渇いた魔理沙の身に染みるように溶け込み、安堵感に浸からせた。
霊夢は先に立ち上がり、魔理沙も後を追うように慌てて立ち上がる。どちらからするわけでもなく汗ばんだ手を繋ぎ、魔理沙は鼻歌を歌いながら、霊夢はそんな魔理沙を見ながら。
それは異常なまでに。お互いがお互いを深いところまで心を埋める存在としており、もしそばにいなければ自殺をしてしまうであろうほどに強く太く、根を張っていた。
あらすじ?でも言ってますが、要するにはかなり面白くないと自負してます。なのですが、書き直しもこれの手直しは難しいので、出しちゃって、1から作り直すことにします。宜しくお願いします