眠たいのに一向に寝られない状態をキープし、
恐らく30分は経過しただろうか。
彼、『音無真白』にとってはいつもは負い目しか感じられない引きこもり生活だが、こういう時ばかりは有り難みすら感じる事だろう。
学校に行かないのだから寝る時間も、起きる時間も自分の思うままに動けばいい。
「……なんてわけにもいかないんだよな。この時間だ、恐らくそろそろ……。」
コンコン、ノックの音が弾む。
しっかりと予想は出来ていたはずなのだが、驚きで身体も弾む。
「……ましろ君?。」
呼びかけてくるのは幼馴染の声、
真白はいつも通りの無視で返す。
「……あはは、毎回思うんだけど無視はひどいと思うなぁ……。
あのね、ましろ君。
今日はすっごく大事な話があるんだ、だから出てきてくれないかな……?。」
「嫌だ。
……学校には行かないってずっと言ってるだろ。」
「んーん、違うの。今日はその事じゃなくてね……。
……実は私ね?ほのか……アイドルやろうと思うんだ。」
"スクールアイドル"
続いて彼女からでたのはそんな単語だった。
真白も存在は知っている、いや、知らないはずがない。
テレビを見ようと、ネットを見ようと、今やどこを見たってその話題しかないのだ。
理由はどうであれ幼馴染が新しい事に挑戦しようとしている、普通ならば応援の声でも掛けてやるべきなのだろう。
しかし、どうやらそれはできそうにない。
何故なら彼にとって、その存在は堪らなく不愉快な物で。
「それでね?ましろ君に、また一緒に曲を作って欲しいのっ……!!。
ほのか一人じゃ作曲なんてできないし、また一緒に音楽やりたいのっ!!。
だからましろ君……また、一緒に______」
「……不愉快だ。」
「……っ。
あ、あのねっ!まだ話の続きがあって……ッ!!!。」
「不愉快だって言ってるだろっ!!帰れよッ!!!!!」
「……!!!。
……うん、わかったよ。今日は、ごめんね……?また来るよ。」
御しきれなくなった感情が作り上げた静寂が、
彼女、"高坂穂乃果"が踵を返す音を鼓膜へしっかりと送り届ける。
母と穂乃果の会話の気配に耳を澄ましていると、
玄関の扉が開く音がカチャリと響き、
暫しの後、同じような音を立てる事で扉は来客に別れをつげた。
ようやく彼女が帰った事を確認したましろは思考の海へと沈みこむ。
いつもならばただ『学校に行こう』『外に出よう』などと説教に近い言葉を掛けてくる彼女なのだが今日は違っていた。
『スクールアイドルになる為の作曲を手伝って欲しい』。
そして、『昔の様に、一緒に音楽をしたい』。
彼女はこう言ったのだ。
何故だろう。あの時、あの事件が起きてしまった後。
真白はハッキリと伝えた筈なのだ。
「もう、音楽なんか、歌なんか聞きたくもない。ましてや作るなんて、二度とごめんだ……!。」
幼馴染の馬鹿馬鹿しい発言による苛立ちを覚えながら、
再度眠りに着こうと布団に潜り直す。
短い時間に嫌な事がありすぎた疲れからだろうか、目を閉じれば睡魔は一目散に襲ってきた。
暗闇の中、意識が薄れる。
音が遠くなる。
ようやく眠りにつけると安堵していたその時だった。
「ましろ。大切な話があるの。」
突如響いた母の声からは、普段より真剣さが感じ取れる。
無視すると恐らく面倒な事になるパターンだろうと真白は即座に理解する。
いや、きっと無視をしなくとも。
仕方なく重たい身体を無理矢理に立ち上がらせ、
睡魔に後ろ髪を引かれながらもペタペタと部屋の出口へと向かっていく。
「今日は一体なんなんだ……。」
これから起こる面倒事を、心の中で覚悟しつつドアノブに手をかけ、
そして今、開いた。
彼はまだ知らない。
今日の部屋のドアが、夢の出口へと繋がっている事に。
読んでくださりありがとうございました!