ヴァルキリーズの物語(仮)   作:メタフ

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第1話

 稀代の天才である篠ノ之束が開発したIS――インフィニット・ストラトスという飛行パワード・スーツが注目されるようになったのは、一つのとある出来事が切っ掛けだった。

 それは十年前に地球に99.999パーセント衝突するとされた巨大隕石を、白い甲冑のような機械に身を包んだ一人の女性が、その大剣で一刀両断に切り伏せたという……まさに漫画やアニメでしか見られないような、信じられない神の所業。

 宇宙空間で両断された隕石はそのまま軌道をずらされ、地球に飛来することはなかった。

 そして隕石の欠片が流れ星となって大気圏で消滅していくその神秘的な夕刻の空へ、女性は消え去って行った。

 その日の出来事は白きIS――『白騎士』がもたらした奇跡ということで、一般的に『白騎士の奇跡』と呼ばれ、地球滅亡の危機を救った白騎士は世界中から英雄と称され、今現在も称えられている。

 

 さて、そんな『白騎士の奇跡』の一件以降、世界中が我先にとISの技術を自国に取り入れ始めた。

 無理もない。

 なぜならISは巨大隕石を迎撃できるほどの性能を秘めているのだから。そんな圧倒的な力を持つ『兵器』を世界がほっとくわけがなかったのだ。

 開発者の篠ノ之束曰く、ISはあくまで宇宙事業を想定して産み出したものらしいのだが、世界はそんな彼女の思惑通りにはいかなかったようだ。

 そして、ISの開発が進むにつれて明らかになるISの過剰ともいえる性能の高さ。世界はそのISの性能に心酔すると同時にその性能に恐れを抱いた。

 間もなくしてISの軍事利用を()()()()()禁止する『アラスカ条約』が締結され、事実上ISは核と同じように使えない兵器(抑止力)という扱いになった。そこからさらにてんやわんやあって、各国の思惑からISは『スポーツ』として、その操縦者とIS技術の力量の競い合いが行われるようになったのだが、しょせんただの一般人である俺にはそこのところの詳しいことはわからない。

 

 ――以上、俺の唐突に始まる思考終わり……という訳だが、なぜ俺がこんなどうでもいいような事を考えていたのかには理由がある。

 それは――

 

 「……ねぇ、あれが噂の男子?」

 「……そうそう」

 「……やっぱ、男の子っておっきいわねー」

 

 ――周囲で展開された認めたくない現実から目を背ける為。……つまり現実逃避のためだ。

 周囲から突き刺さる()()の視線に俺は重く机に項垂れる。

 

 「はぁ……」

 

 今日は高校の入学式だ。それでありがたいことに見事、進学することに成功した俺はこうして高校一年生、記念すべき一年目の教室にいるという訳だ。

 そして俺の周りに座っているのは女子女子女子。

 後ろをみても横を見ても前をみても斜めを見ても、どこを見ても女子しかいない。――あ、隣の席の女子と目が合った。

 

 「っ!」

 

 黒髪で色白の、見るからにレベルの高い女子は、俺と目が合った途端、明らかに動揺した気配を見せたが、すぐに微かに笑みを浮かべてぺこりと会釈をしてきた。

 

 「ど、どーも」

 

 釣られるように挨拶を返した俺は、そのまま見つめ合っている訳にもいかないので未だ担任の来ない教壇を見やる。もうSHR始業のベルは鳴っているのに、ちょっと遅くないか?

 とその時、ウィンとスライド音が鳴り響き、一人の小柄な女性が「遅れてしまって申し訳ありません~!」と教室に入ってくる。

 

 「少しお腹の調子がよろしくなくて……。あ、全員揃ってますね? それじゃあSHRはじめますよー」

 「……」

 

 しかし、そんな担任(どう見ても子供が無理しているようにしか見えないのだが)の呼びかけにクラスからの反応はない。せめて俺くらいはと思うのだが、いかんせん俺にもそんな余裕はない。

 なぜなら俺は今、途方もない境地に立たされている。

 クラスメイトは全員女子で……いや、そんなことは(どうでもよくはないが)どうでもいい。俺が立たされている根本的な立場からしてみれば、そんなことはささいなものだ。

 ここでいきなり話は変わるが、先に述べたIS――インフィニット・ストラトスはどういった理由か女性にしか動かせない。

 そんな女性たちを教育するために設立されたのが今俺がいるここ、『IS学園』であり、言うまでもないことであろうが、原則ISは女性にしか動かせないのだから、IS学園にもまた原則女性しか入学しない……はずなのだ。

 それなのに俺は今、IS学園一年一組最前列中央の席にこうして項垂れながら座っている。それはどういうことかというとつまり――

 

 ――俺、宇野優人は世界で初めて男でありながらもISを動かせてしまった男であるということだ。担任の健気な言葉にクラスの誰も反応を示さないというのはつまりは――そういうこと。俺が原因なのである。

 

 「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 そんなうろたえ気味の担任のセリフを耳にしながらも、俺はまるで走馬灯のように過去の一連の記憶を思い返していた。

 どうしてこうなったんだと――。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「お兄ちゃん、試験、頑張ってねー」

 「おう、行ってくるな!」

 

 それは二月の中旬。俺は中学三年生。受験の真っただ中の時のことだった。

 その頃はちょうど雪が降り積もっていた時期でもあり、交通網に若干の不安があった俺は、妹に見送られ、少し早めに試験会場に向かったのだ。

 俺が受けようと思っているのは、自宅から自転車で通える距離・学力真ん中・学園祭が毎年あるという私立藍越学園。

 私立なのに学費が公立とほぼ変わらないくらい安いというのにも心が惹かれたのだが、何より俺がこの学校に進学したいと思った理由は、その藍越学園の卒業後の就職率の高さ。しかも優良企業が多く、その上地域密着型。俺の家は親父が居らず、おふくろが一人、家計を支えているという状態なのでありがたいことこの上ない。

 

 (せめて妹くらいは大学に行かせてやりたいし……そのためにも少しでもいい仕事に就かないいけないもんな)

 

 おふくろには感謝しかない。家計は苦しいことには変わりはないのに、こうして俺を高校に通わせてくれるのだ。これはますます頑張って、必ずいい結果を出さなければならない。

 ちなみに成績の話でいえば正直、藍越学園は余裕で合格できるだけの学力は持っている。中学の先生から県内でも有名な進学校の推薦をおすすめされるくらいには成績がいい。まぁ、俺は進学するつもりはなかったので、その話は遠慮させてもらったのだが。

 模試の判定はS。普通にやれば普通に受かるはず。

 

 (本当なら推薦で入るはずだったのにな……)

 

 原因不明の高熱にうなされた自分が恨めしい。いくら恨んだところで過去には戻れない為、気持ちは切り替えるが。

 電車で四駅ほど乗ったところにある多目的ホールが藍越学園の試験会場だ。カンニング事件のせいで試験会場が各学校ごとではなく、統一して行われるようになったのも去年のことだ。

 ところでこの多目的ホールなんだが、本当に複雑な造りなんだよな。地域出身のデザイナーにデザインを頼んだらしいが、デザイン重視で造るのは本当にやめてもらいたい。一応、このホールは公共の建物なんだしさ。

 しかしいくら複雑とは言っても地図はあるわけで、係員や看板の指示に従えば迷うということはないはずだった。事実、俺は余裕を持って試験会場である部屋に辿り着くことができた。

 

 (えーっと、ここだよな……)

 

 机に張られた試験番号と受験票に記された自分の試験番号を照らし合わせ、荷物を置いた俺は時間にも余裕があったので混まないうちにトイレを済ませておくことにした。

 そして男子トイレに入ろうとしたところで、それは起こった。

 

 「あっ」

 

 ちょうど入れ替わりで向かい側の女子トイレから出てきた一人のスーツを着た女性が、ポケットにハンカチを入れる際、そのハンカチを落としてしまったのだ。

 

 「あの、落としました――」

 「あーもう、ここ四時までしか使えないっていうのに、まったくもう――」

 

 何やら急いでいたのか、女性は俺の声に気付くことなく早歩きで立ち去ってしまう。

 一瞬、用を足すか拾うか迷ったが、まだ試験には時間があったので俺はそのハンカチを拾い、女性の後を追ったのだ。

 女性は一つの部屋に入っていった。仕方ないので俺も「失礼します」と挨拶をして、女性の後に続く。

 

 (あれ? どこいった?)

 

 部屋に入ると女性の姿が見当たらなかった……というよりは部屋の大部分がカーテンによって仕切られていて、見ることができなかったのだ。

 

 (なんだ、この部屋……)

 

 何か、勝手に入ってはいけない雰囲気満載のこの部屋であったが、ここまで来たからにはハンカチを届けないわけにはいかず、俺は意を決してカーテンを開け、奥に進み。

 

 ――その先には奇妙な物体が鎮座していた。

 

 それはまるで城に飾ってあるような中世の鎧のような代物だった。

 いや、厳密にいえばそれは鎧ではなく機械なのだが、その物がまとう雰囲気が神秘的であり、厳かであり……とても機械として認識できないのだ。

 まるでこの鎧自体が一つの意志を持っているかのような――そんな気さえしてしまう。

 

 ――知っている、これはISだ。

 

 『白騎士の奇跡』という歴史的出来事をきっかけに、世界に認知され、瞬く間に普及していった飛行用パワード・スーツ。

 地球を救った英雄――白騎士や、創り上げた開発者――篠ノ之束くらいは、いくらISについて疎い俺でも知っている一般常識だ。

 しかしこのISには致命的な欠陥があって、そのことから俺にとっては何の意味もなさない。

 

 「……男には使えないんだよな、たしか」

 

 そう、女にしか使えない。

 女以外には、この機械は反応いないのだ。言うなれば男の前ではこのISはただのマネキンであり、何もしない、できない、ただの物体だ。

 そんなことはわかっていることなのに。

 

 「……」

 

 俺はISに向けて足を一歩、踏み出していた。

 一歩、また一歩と、恐る恐る――けれども確実にISとの距離を詰めていく。

 この時、俺は一つの好奇心に支配されていたのだ。

 テレビや雑誌でしか見たことのないISを……あの英雄――白騎士が扱っていたISを今こうして目の前で見ることができている。

 もっと近くで見てみたい。

 できることなら、触ってみたい――。

 そんな純粋な思いに身体を支配されていたのだ。

 辺りを見回し、ISに向けてゆっくり手を伸ばし、触れる寸前で一度手を引っ込める。頭の片隅で関係者でもない一般人が勝手にISに触れてもいいのかという思考が脳裏を過ったのだ。

 しかし、それでもここで触らなければ、もう二度と、俺はISを触る機会などこないということも理解していた。

 

 (どうせ男が触ったところで何も起きないんだし、大丈夫か)

 

 そう開き直った俺は、ISの――その金属質の装甲にぺたん、と手を触れさせる。

 

 「!?」

 

 キン、と金属と金属が擦れあうような――何かと何かが接続されるような、そんな音が頭の中に直接鳴り響いたような気がした。

 そしてすぐ、意識に直接流れ込んでくるおびただしい情報の数々。数秒前までは知りもしなかったこのISの『情報』が、まるで長年熟知したもののように頭の中で理解できる。

 そして資格野に接続されたセンサーが直接意識にパラメータを浮かび上がらせ、周囲の状況が数値で知覚できる。

 

 「な、なんだ……? っていうかまさか……」

 

 ――俺、まさかIS動かしちゃってる?

 

 「は、はは、は……」

 

 俺の渇いた笑いが力なく部屋に響き渡り。

 

 「あなたなに勝手にIS起動して……え? えっ? えっ!?」

 「あ……」

 

 俺の当の目的であったはずの、ハンカチを落とした女性が部屋の奥から現れたのは、その時だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 「……」

 

 今、思い返しても、本当にあきれることしかできない。いったいどんなライトノベルの主人公だというのか。

 おかげで問答無用でIS学園の入学が決まり、当然のことながら志望校であった藍越学園の入学は取り消された(というよりは試験を受けさせてすらもらえなかった)。

 本当に家族には申し訳ないことをしたと思った。連日、様々な検査を受けさせられるは家のほうにもマスコミは詰めかけるは、本当に家族には迷惑をかけてしまった。

 動かせちゃったんなら、しょーがない。家のことは気にせず頑張ってきなとおふくろは言ってくれたが……これでもう一生、おふくろには頭が上がらないことになった。

 一応、無理やり、俺をIS学園に入学させるということで国からそれなりの額のお金が払われることになったのがせめてもの救いか。当然、全額家計の足しに貯金にしたが。

 

 「……くん。宇野優人くんっ」

 「は、はい!」

 

 今までぼんやりと走馬灯(?)を思い返していた俺は担任である山田真耶先生の呼びかけに反応が遅れてしまった。

 ガタン、と席を揺らした俺に山田先生は怯えるようにビクン! と肩を竦ませる。

 

 「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介『あ』から始まって今、『う』の宇野くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 「い、いえ、全然そんなことありませんよ? 自己紹介しますから、先生、どうか落ち着いてください」

 「は、はひっ!」

 

 明らかに混乱まっしぐらな山田先生であるが、無理もないと思う。

 なぜならこのIS学園には俺以外に男子はおらず、俺というイレギュラーが入学するまでは事実上の女子高だったのだ。

 山田先生も女子生徒の扱いには慣れていても男子生徒と接触するのは初めてで、それ故に緊張しているところもあるのだろう。……八割くらい見た目の印象による判断なのだが。

 

 (先生にも悪いことしちゃったなぁ……)

 

 そんなことを考えながらも俺は席を立ちあがり。

 

 「「「……」」」

 (うおっ……)

 

 クラス中の女子の視線の圧力に思わず気圧された。今までも背中にひしと視線は感じていたのだが、やはり正面から受け止めるとなると、その威力は二倍にも三倍にもなる。

 

 「え……ええーと、宇野優人。ご存知の通り、男でIS動かせちゃいました……」

 「「「……」」」

 

 俺の言葉にクラスは無反応――と言うよりは、一文字一句聞き逃すまいと気迫に満ち満ちていた。

 その視線が表わす意味はすなわち、それで? ほかには? もっとほかにも話してよ、という好奇心に満ち溢れた視線だということ。

 

 「趣味は料理……っていうか家事全般、特技は昔、剣道を少しやっていたので、今でもたまに竹刀を振ることがあります……」

 

 うわあ、自分で言ってて訳が分からなくなってきた。自己紹介ってこんなに長いものだったっけ? 俺、あんまり人前で話すこと苦手じゃないはずなのに。

 クラスからは相変わらずの視線の弾丸。ううっ、これ以上はキツイものがあるぞ……。

 そんな俺に救世主が現れたのはその時だった。

 

 「たった一人の自己紹介に、いったい何分かけるつもりなんだ。次」

 

 そんなセリフとともにいきなり教室に入ってきたのは、すらりとした長身、狼のように鋭い瞳が特徴的な黒衣の麗人だった。

 その麗人の登場にクラスがまた違った意味でざわつき、俺もまた目の前に立つその人物に意識を奪われていた。

 

 なぜならこの女性の名は織斑千冬。

 三年に一度開かれるISの世界大会、通称『モンド・グロッソ』の初代総合部門・格闘部門優勝者。

 ブリュンヒルデ(世界最強)の称号を持つ、かつての日本国国家代表――かつてのヴァルキリーズの一人。

 

 しかし、俺の認識が正しければこの人は数年前の第二回モンド・グロッソの決勝でなぜか棄権し、そしてそのまま引退、以降行方が分からなった(というよりはメディアに出てこなくなった)はずだ。あのモンド・グロッソ棄権は大きなニュースになっていたので今でもよく覚えている。

 しかしこの織斑千冬がかの『白騎士』と並ぶくらい有名な人物というのもまた事実であり、なぜそんな有名人がこんなところに? というのが正直な思いだった。

 

 「いつまで立っているんだ、宇野」

 「いっつ!?」

 

 ぼんやりと立ち尽くしていたら、いきなり出席簿で頭を叩かれた。……ヤバい、この人、相当にスパルタな人だ。

 

 「す、すみません!」

 

 慌てて俺が席に座ったところで自己紹介が再開する。とはいっても突然の織斑千冬の登場により、クラスの半分近くはそちらに意識が向けられていたのだが。……あ、ちなみに残る半分は俺な。

 

 「次」

 

 その時、一人の生徒が立ち上がった。さっき、俺と目が合った時に会釈してくれた、黒髪色白の綺麗な女子生徒だ。

 彼女を見て、今思ったんだが……あれ、この顔、どこかで見たような……。

 その桜色の唇から、透明で瑞々しい声音が響き渡ったのはその時だった。

 

 「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 ぺこりと会釈し、にこりと微笑む。織斑? どこかで聞いたような……。

 

 「ま、まさか、あの織斑千冬の妹さん……?」

 

 見てみれば全体的な顔のパーツは似ている。唯一違うのは織斑千冬が狼のような鋭い釣り目に対して、織斑一夏のほうは見るからに優しげな柔和なたれ目だったことだ。

 

 「――ほぅ。この私を呼び捨てとはいい度胸だ」

 「はい?」

 

 振り向くとそこには鬼のような笑みを浮かべた織斑千冬の姿が。

 

 「あの、もしかして今さっきの口に出てました?」

 「ああ」

 「許してください申し訳ありませんでした」

 

 バシーン!

 案の定、出席簿で叩かれる俺。そんな俺をやや苦笑い気味で「あはは……」と見た後、織斑さんは再び口を開いた。

 

 「知っている人も多いかも知れませんが、今、宇野くんが言っていた通り、私はそこにいる織斑先生の妹です。……一応」

 

 最後に誰にも聞こえなくらい小さく何かをぼそっと呟いた時、その瞳に僅かに憂いのようなものが見えたような気がしたのは気のせいなのだろうか。

 しかし、その刹那の憂いは声をあげたクラスメイトによってすぐに消えてしまう。

 

 「うん、知ってるよ! 織斑さんって日本代表候補生なんだよね?」

 「雑誌で組まれた特集も見たよー!」

 「あ、私も見た! 『姉の後を継ぐ妹』って見出しで!」

 「千冬様にその妹さんである織斑さん、その上、世界で初めてISを動かせた男子がいるこのクラスって、何気に凄くない!?」

 

 まるで流行病(パンデミック)のように、瞬く間に女子達がきゃいきゃいと騒ぎ出す。今まで押し黙っていた分が一気に噴き出したといった感じだ。

 女が三人揃って姦しいと書くが、そうにしてもあっという間だ。

 織斑千冬はそんなクラスを、まるで鬱陶しいものを見るかのようにやれやれと頭を押さえた。

 

 「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

 ぼそっと一人呟く織斑千冬を尻目に「えっと、じ、自己紹介の続きしようよ」と自分が発端で始まったざわつきをどうにか収めようとする織斑さんの姿が見える。……ごめんなさい。元はといえば俺の口が滑らなければ、こんな事態にはならなかったはずですよね。

 なぜなら織斑さんの自己紹介はあの最初の挨拶だけで簡潔に終わる雰囲気があった。その時俺が「もしかして妹さん?」と言ってしまったばっかりに、織斑さんは自分が織斑千冬と姉妹であることを言わなければいけなくなったのだ。無視して着席すれば、俺の発言が浮いてしまうことを気遣って。

 二度目になるけど……本当にスマン。

 

 「静かにしろ!」

 

 後で謝れたら謝っておこうと心に決めたところで教室を織斑千冬の鋭い声が貫く。

 一瞬で静まり返る教室。流石です、ブリュンヒルデ。

 織斑千冬はちっ、と舌打ちしながら自分の腕時計を見やる。

 

 「まだ自己紹介も途中だというのに、お前らが騒ぐせいで時間が無くなってしまった。――仕方がないから、残った者は各自勝手にやっておくように。文句は言わせんぞ、ここIS学園の授業日程はただでさえパンパンに詰まっているんだからな」

 

 だからこそ入学初日から授業があるんですよね。はい、わかっていましたとも。

 

 「ああ、最後に私がこのクラス担任の織斑千冬。君たち新人に一年間でISの基礎をしっかりと叩き込み、二年三年に繋がる布石を築き上げさせるのが私の仕事だ。私の言うことは一文字一句全て脳のみそに完全に刻み込め。わからなければ訊け。訊いて意地でも無理やりにでも理解しろ。そして実りある一年間にできるよう精々努力しろ。いいな?」

 「「「はいっ、御姉様!!」」」

 

 今の織斑千冬の自己紹介により、俺はようやくなぜ彼女がこの場所に現れたのか理解した。

 どうやらこの織斑千冬こそが本当の担任だったようだ。ということは山田先生は副担任だろうか。……あのブリュンヒルデが担任とは、なんと豪華なクラスなのだろうか。

 とにかく織斑先生が言っていた通り、入学したからにはせいぜい頑張るしかない。

 迷惑をかけてしまった家族の将来の為にも、せめていい結果で答えなければならない。

 

 「……」

 

 ……ところでこのIS学園卒業先の進路って具体的にどんな進路があるのだろうか? とりあえず最低でも家計を支えられるくらいの安定した職には就きたいぞ。

 ああ、生い先不安だ。

 




 大まかな解説
・この世界において白騎士は地球の危機を救った英雄である。
・この世界において織斑一夏は女性である。
・この世界においてISを動かせる男子は宇野優人だけである。

 最後までお読みくださりありがとうございました。
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