これは、嘘に触れて生きてきた数多い人間の中の一人の少年が、嘘についてを考えるお話。
ハピナさんが主催の《第二回ハーメルンSS小説コンテスト》参加作品です。
テーマ《悪意しかない嘘》
※一部の描写に若干の鬱展開が見られるため、タグ《いじめ》と《死》を追加しました。他に追加したほうがいいタグがありましたらご連絡ください。
これが原因でトラウマを発症させることを防ぐためですので、どうかご協力お願いします。
内容自体は嘘をテーマにした至って普通の作品ですので、いじめ等に関するトラウマをお持ちでない方はお気にせずにお読みください。
嘘とは、どういうものだろう。
あまり嘘についてを深く考える瞬間なんてない。だからこそ、僕にはそれが少し疑問だった。
一般的に言うならば嘘には二つ種類があり、吐いていい嘘と悪い嘘が存在する。善意から出る嘘と悪意から出る嘘だ。
だからといってそこに明確な定義はなく、感じ方や捉え方一つで意味がまるっきり変わってくる。
冷たい風が吹き付けるこの場所で、僕は考える。これでよかったのかと。
「ごめん! 大丈夫?」
中学生の頃、クラスメイトとサッカーをしていた時に、ある一人が蹴ったボールが勢い良く飛び僕の顔面に直撃した。頭を鈍器で殴られるような感覚に、僕は頭を抱えてしゃがみこんだ。
心配して近寄るクラスメイト。しかしあまりの痛さに僕はそれどころではなかった。
「あー、大丈夫、大丈夫」
僕はそれでも痛みを我慢して、笑顔で言った。少し上を向いて、鼻を抑えながらだったがクラスメイトは安心して、僕を抜いてサッカーを再開した。
大丈夫なわけがない。抜けた後も頭はグワングワンしているし、鼻血は止まらない。大丈夫だなんて、そんなの嘘だった。
しかし、迷惑をかけるわけにはいかない。僕はクラスメイトに、最大限の笑顔で嘘を吐いた。
他にも、たくさんある。
僕が高校生になった時のことだ。頭が普通程度しかなかった僕は、いわゆる平凡な高校へと入学した。僕の通っていた中学のレベルが結構高く、僕の友達はこの学校に誰一人いない。
周りがクラスメイトと打ち解けあうなか、僕だけ一人ポツンと、孤立していた。
「おい、ボッチ!」
ある日、いつもどおり教室の椅子に座って一人で昼休みを過ごしていると、数名の男子が僕を取り囲んだ。
「な、なんですか?」
始めて話すということもあるが、何よりもこの威圧感に僕は反射的に敬語で返していた。ゴクリと唾を飲み込む。
「お前友達いないんだよなぁ!」
「いつも一人孤独に座ってるし、マジで一人も友達いないわけ?」
「ハハッ、可哀想に」
目の前の男子生徒から飛び出すのは僕に対する罵倒の言葉。可哀想という言葉の裏には、嘲笑が伺えた。
際限なく飛び出す言葉のナイフは、全て僕の心に鋭く突き刺さった。
わかっていた。僕には友達と呼べるものがいなく、クラスから一つ浮いた存在だということを。そして、クラスメイトが僕の悪口を影で言い合っているということも。
僕は何も言い返さなかった。
その結果、事態は悪化した。
「おい、お前!」
一人の男子生徒が僕を呼んだ。
「何ですか?」
「今日さぁ、弁当忘れてきちゃったんだよねぇ」
そういう男子生徒に、僕は何を頼まれるのかなんとなく察して、しかし何も言わなかった。男子生徒は相変わらず嫌な笑みを浮かべながら、僕を見下すように見ながら言った。
「ちょっと購買行ってきてくんねーか」
「えっと……ごめん。今本当にお金持ってなくて」
僕自身も毎日弁当を持参してくる身で、財布なんて飾りのようなものだった。特に使う機会もないものだから、僕の財布のなかは非常時用に数百円しか入っていなく、そんな程度では購買で腹を満たすほどの量は買えない。
正直にそう伝えると、男子生徒は少し苛立った表情を見せて、ニヤリと笑った。
「本当か、お前。ちょっと見せてみろよ!」
「えっ、ちょっと!」
その瞬間、僕は首を締められた。微妙に暖かさを感じる男子生徒の手は、僕の喉を強引に抑え、僕は息苦しさに悶えた。その隙に男子生徒は僕のズボンの後ろポケットからするりと財布を抜き取る。
「チッ、マジかよ……。こんなもんしか入ってねーのか」
そして男子生徒が僕の財布の中身を勝手に覗いた。ようやく息苦しさから開放された僕は、その開放感と共に床に手を付いて倒れていた。
「まぁ、そうだよな! 友達いねーもんな!」
そんなことも気にせず、男子生徒は高らかと笑った。そして、僕の倒れ伏した姿を見て言った。
「うわっ、だっせぇ……。まあいっか。取り敢えず、仕方ないからお前の弁当でも貰うとするか」
そう言うとその男子生徒は机の横に掛けてあった僕のバックを開いて、あろうことか僕の弁当箱を、僕に許可もなく取り出した。
――やめてよ!
しかしその言葉は喉を締められた反動からか上手く声にならず、男子生徒は僕のことなど一切気にせずに、僕の目の前で弁当箱を開いた。
「うわっ……」
男子生徒の急な呟きは何を意味する言葉なのか。それは今までの経験から、なんとなくわかった。そしてこれから起こることも、とうとう僕だけではなく僕の親にまでその悪意が牙を向けるということも。
「やめてよ……」
今度は何とか言葉になった。しかしあまりにも弱々しいその声は、男子生徒には届かない。右手に箸を持ち、男子生徒はおかずを摘む。そして、そのおかずをおもむろに口の中へと放り込んだ。
男子生徒は一言、大きな声で言い放った。
「うわっ! ゲロまずじゃん!」
その瞬間何かが破綻したような気がした。
その言葉にクラスメイトはぞろぞろと集まりだす。
「なになに、どうしたの?」
「この弁当、あいつのなんだけどめっちゃ不味いんだけど!」
ギャハハハハと一斉に笑い出すクラスメイト。
僕は何も言わなかった。
不味い、不味いと言いながら、それでも食べ続け、そして完食し終えた男子生徒は最後にこういった。
「お前の母、めっちゃ料理下手だな!」
でも、それを綺麗に完食した男子生徒。顔色を悪くすることもなく、それを吐き出す動作までする男子生徒と、それに笑い出し同意するクラスメイト。
どうせ、これも全て嘘なんだ。ただ僕を虐め、ただ僕で遊びたいがための悪意ある大嘘。僕に精神的なダメージを与えるために、僕の親まで巻き込んだ、集団的な虐め。
先生はそんなクラスの異常事態を、なかったことにした。見て見ぬふり、若い先生だからクラスには割と人気な先生で、だからこそ嫌われることを恐れたのだろう。
だからこそ、この状況事態を嘘と勝手に認識した。嘘というものは放っておけば薄れていき、次第に忘れていくものだから。
嘘とは、どういうものだろう。
あまり嘘について深く考える瞬間なんてない。だからこそ今、この瞬間に少しだけ考えてみよう。
嘘には一般的に二つの種類があるが、結局のところよく吐かれる嘘は自分を守るための嘘か、自分を強く見せるための嘘しかない。どちらも他人を騙す、悪意のある嘘だ。
中学生の時に吐いた嘘は果たしてどうだろう。その嘘は他人に迷惑をかけないように吐いた優しい嘘だった。
しかしそれは外面的なものでしかなく、本当は自分に嘘を吐いて少しでも強く見せようとする人間のエゴだったのかもしれない。
高校生の時に吐いた嘘は果たしてどうだろう。
この虐めの主犯者は自分を強く見せるために、僕を集団の的にして嘘を放った。
それに乗っかったクラスメイトは自分を守るため、次の的が自分に回ってくることを恐れて嘘を放った。
そして僕自身も、自己防衛のためにその状況を黙認した。
辛く、苦しい現実を嘘で塗り固め、それを受け入れていたのだ。
だから、僕は考える。そして、誰もいない学校の屋上で、そっと口に出してみた。
「これで、良かったんだ」
その言葉は、下から吹き付ける強い風によってかき消された。
黒色のコンクリートが僕の視界を埋め尽くす。もう後戻りは出来ない。重力に身を任せたまま、僕はこみ上げてくるナニカを我慢することなく、そしてまた一つ呟いた。
「ざまぁみやが――」
それは最後まで呟かれることなく、代わりにぐしゃ、という不快音があたり一面に響いた。そして、落下地点には何もかもを失くした人形と中から破裂した赤色の液体、そしてコンクリートに黒く残る水滴だけが残った。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
今回はハピナさん主催の《第二回ハーメルンSS小説コンテスト》の方に参加させていただきました。
テーマは嘘と聞いた瞬間、設定が3つほど浮かび上がってきて、これは参加せねば! と思って書いてしまいました。自分の連載小説を待ってくれている方、本当にごめんなさい……。
少年は最後まで嘘を吐き通しました。その結果自殺による《ぶち壊し計画》を実行してしまった、ということです。
本当に意味がわからなかった人は感想で教えて下さい。または評価に1から3までが多数付いたりすれば、その時は活動報告にてしっかりとわかりやすく書きたいと思います。
こんな最高な企画を主催してくださいましたハピナさんには、感謝の気持ちで一杯です。本当に、ありがとうございました!
今回は第二回ということで参加者がかなり多いと思うので、大変だとは思いますが心から応援しています。頑張ってください!