ブレイブボーイ・ストーリー   作:スヴェート

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零章 運命は動き始める
プロローグ


「とうさん‼︎かあさん‼︎行かないでよ‼︎置いていかないで‼︎」

 

10歳を満たない幼い顔つきをした黒髪の少年は涙を流しながら、両親の元へ辿り着こうと走る。

 

「ごめんなハル」

「ごめんなさいねハル」

 

しかし、ハルトはその2人には追いつけない。どれだけ走っても追いつけない。2人はハルトに背を向けどこかへと歩いてしまう。

 

「とうさん‼︎かあさん‼︎」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

広々と見渡す限り広がる草原を三台の馬車がゆっくりと進んでいる。荷台の中には瓶や剣など様々な物を積んでいることから旅商人だということを窺わせる。

 

「ーーッ!ハァハァ……夢か」

 

ガラガラ、ゴトゴトと馬車の鈍い音でハルトは目を覚ました。昔よりも髪は伸び、あどけない顔つきも無くなっていた。

 

「ふぅ」

 

久しぶりに昔の夢を見たせいか、気分はあまり良くない。鼓動は早くなっており、背中は気持ちの悪い汗をかいている。上体を起こし外を見ると、空は雲ひとつなく青い空が広がっている。暖かな太陽の光が辺りを照らし、心地の良い風が頬を撫でる。

 

「お!ハルおはよう」

 

不意に好青年を思わせる和やかな声が聞こえてきた。嫌な気分はもう無くなっており、ハルトは声がした方を振り向く。そこには茶髪の青年が柔かな笑みを浮かべながら座っていた。

 

「おはようギルさん」

 

青年の名はギル・ブランディッド。

この旅商人集団のリーダーであり、ハルトの育て親でもある。その柔和な整った顔立ちから女性から好意を寄せられることも多く、旅商人として観察眼や交渉術といったスキルも高いというかなりの完璧超人である。

 

「父さんって呼んでくれっていつも言ってるだろ?」

 

「僕もいつも言いますが、この呼び方で慣れてしまったので大丈夫です」

 

「えー、そんなこと言うなよぉ〜。な?一回だけ。先っちょだけでいいから」

 

「先っちょだけって何ですか⁉︎まぁ、それより次はどこの街に行くんですか?」

 

「んー、そうだなぁ。とりあえず品物も少なくなってきたし、大きな街で補充しないとな〜」

 

「隊長〜。交代っすよーってあれ?ハルも起きてたんすか?」

 

そんな会話をしていると、不意に馬車が止まり気の抜けたような声が聞こえてきた。そちらを向くと寝癖のような癖っ毛がついた髪をした少女が入ってきた。

 

「おはようメルさん。さっき起きたばっかりだけどね」

 

少女の名前はメル・カリギュウス。

ハルトより二つ年上で姉のような存在である。いつもマイペースで振り回されることも多々あるが、なんだかんだ面倒見が良く優しい少女。

 

「そうっすか。じゃあ綱の方よろしくっす」

 

「りょーかい。ほら行くぞハルト」

 

「はいはい。じゃあメルおやすみ」

 

「ハルも頑張ってください」

 

ハルトが操車をするために外に出ると、既にギルが座って手綱を握っていた。その隣に座りもう一つの手綱を握ると馬車か動き始めた。慣れた手つきで操車をしながら周りの草原を見渡していると、たまに野うさぎや鹿などが見える。そんないつもと少し変わった景色を眺めているとギルが話しかけてきた。

 

「今日はなんの夢を見たんだ?」

 

「え?なんでです?」

 

「お前が魘されてたから気になってな」

 

ギルは心配そうな顔をしながらハルトに聞いた。ハルトは無意識に夢の内容を思い出し、悲しそうな表情になりながらギルに答えた。

 

「そうですか。……昔の夢を見ました」

 

「…ッ!悪いな、嫌なことを聞いて」

 

あれから8年の月日が流れた。

ハルトは一人ぼっちで森の中を彷徨っているところをギルに拾われた。ハルトは拾われてからも悲しみに明け暮れていたが、ギルやその仲間たちの優しさに触れ、世界を回るうちに自分を取り戻した。そしてギルから旅商人としての生き方を師事してもらい、今に至る。

 

「平気ですよ。今はギルさんにメルさん、それにみんながいてくれるので寂しくないです」

 

ギルはその言葉を聞いて嬉しく泣きそうになるも、それを悟られないように笑顔で答えた。

 

「……よかったよ。ほら、湿っぽい話はここまでにして、次の街を決めるか!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ガハハハハハハ」

「おい!酒取ってくれ」

「自分で取れや酔っ払い!」

「言われてやんの」

「それでその後どうなったの?」

「それがさー」

「それはギャグだわ」

 

あれから太陽は沈み、ハルトたちは夕食に食べていた。

火を焚きその周りに円を描くように旅商人の仲間たちが座っている。ハルトの隣には酒を飲み完璧に酔っ払いと化しているギルとメルが座っており、旅商人の仲間たちと笑いながら飲み交わしている。そんないつもの光景を見つつ、ハルトはちびちびと酒を口へと運ぶ。

 

「なぁ〜、ハルゥ〜」

 

「ギルさんって酒臭っ」

 

「そんなこと言っちゃダメだよハルゥ〜」

 

「メルさんって酒臭っ。二人とも飲み過ぎてですよ?」

 

「「いいじゃんね〜」」

 

「ダメだこの二人」

 

ハルトは溜息を吐きつつ、いつものように絡んでくる二人を呆れながらも嬉しそうに見る。

しかし、その直後……

 

「全員逃げろ‼︎ゴブリンが来やがったぞ‼︎」

 

旅商人の一人が慌てたように叫ぶ。

全員がその瞬間、バッと立ち上がり己の乗ってきた馬車へと向かう。ハルトも自分たちの乗ってきた馬車へと走る。しかし

 

「きゃぁぁぁぁぁ」

「ヤベェ、群れできてるぞ‼︎」

「どういうことだよ‼︎囲まれてるぞ‼︎」

「ぐわぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「誰か助けてくれ‼︎」

「イヤァァァァ」

 

草原に叫び声や悲鳴が鳴り響くなか、ハルトは戦慄していた。ゴブリンに遭遇することは旅を続けていれば、幾度もあったが群れなんてものは一度も遭遇したことがなかった。

 

「全員武器を取って闘え!もしくは馬車を捨てでもいいから逃げろ!」

 

ギルが全体に響き渡るほどの声を張り上げた。いつの間にか焚き火の火が草原に燃え移ったようで草原が火の海と化している。ハルトは馬車から護身用の剣を取り出し、馬車から降りると目の前に醜い顔つきの緑の怪物ーーゴブリンが斧を持って立っていた。

 

「ぐぎゃ」

 

ハルトはゴブリンを見た瞬間にゴブリンの頭部に剣を振り下ろす。普通なら浅く刺さる程度なのだが、ハルトは今まで幾度となく、野獣やゴブリンなどの怪物と闘ってきたためか、一対一であれば遅れを取るはずはなかった。そう一対一であれば。

 

「な、なんだよこの数」

 

馬車を囲むようにゴブリンが迫ってくる。その数は3体や4体などではなく、10体を超えている。

ハルトはその光景に恐怖を覚えながらも剣を構え直す。

 

「ハル!」

 

「ギルさん!逃げてください!」

 

「お前を置いて行けるわけないだろ!待ってろ今助けるから!」

 

ギルはそう言うと腰に差している剣でゴブリンたちを斬りつける。ハルトの師匠だけあってその技量は高い。しかし、数の暴力の前では無意味だった。

 

「「ハァハァハァ」」

 

いつの間にかハルトとギルは互いに背中を預け合うようにして剣を構えていた。その頃には悲鳴は聞こえてこなくなっており、火が燃える音とゴブリンたちの不気味な鳴き声が響いていた。ハルトたちの周りのゴブリンの数は最初より増しており、その合計は30。冒険者と呼ばれるものたちでもないとこの数を相手にするのは不可能だろう。

 

「……ハル。考えがある」

 

「なんですかギルさん?」

 

「二人で一点集中して突破するぞ。突破したらあの森の中まで走り込む」

 

ギルの指差した方を見ると、確かに森があるがそれは火の海の向こうだ。

 

「ギルさん。流石にそれは無理でしょう?」

 

「でもやらなきゃどちらにせよ死ぬぜ?奴らは火には近づこうとしないから時間は稼げるしな」

 

「じゃあギルさんにこの命預けます。合図お願いします」

 

「それじゃ、3、2、1、走れ‼︎」

 

ハルトとギルは同時に走り出す。ゴブリンたちもハルトたちに向かって飛びかかった。ハルトとギルは互いに右や左からくる斧や剣を弾き返しながら走る。

 

「ぐっ!」

 

「ギルさん!」

 

「大丈夫、掠っただけだ走れ‼︎」

 

ギルの前から迫る剣を弾きながら、ハルトはギルとともに走る。そして炎の海に突っ込んだ。頭がおかしくなるじゃないかと思うほどの熱量を浴びるが、無理やり体を動かし何とか炎の海を突破する。そしてハルトたちは森の中へと逃げ込んだ。

 

あれから森の中を走り続け、遠目で火の煙が上がっているのが見える。

 

「ハァハァハァハァ、や、やりましたねギルさん」

 

ハルトはあの絶望的な状況から抜け出せたことに笑みを浮かべながら、後ろにいるギルへと声をかけた。しかし、声が返ってこない。なぜ?と思いながら後ろを振り向く。雲に隠れていた月が森の中を照らし、そして倒れているギルを照らした。

 

「ギルさん‼︎」

 

ハルトはギルの元へと駆け寄り、倒れている理由を知る。ギルの胸には深々と矢が突き刺さっていた。それを見たときゴブリンたちのものだと言うことがすぐ理解できた。ギルの背中に刺さっている矢を抜き、止血をするために手で傷口を圧迫する。

 

「ギルさん‼︎ギルさん‼︎しっかりしてください‼︎」

 

「あ…ぁあ。ハル、ぶ…じで……よか……った」

 

ギルは息を絶え絶えさせながらも、ハルトの顔を見るとホッとしたように笑みを浮かべながら答えた。

 

「ご……めん…な。……や…く……そく……まも…れ…こうに……ねぇ…や」

 

「そ、そんなことないです‼︎俺、まだギルさんと旅したいです‼︎まだ知らないことだらけだし、ギルさんじゃなかったら誰が俺の面倒見てくれるんですか‼︎だから、だから生きでくだざいよ‼︎」

 

ハルトは最後の方で堪え切れなくなり涙を零しながらギルに訴えかける。ギルは笑みを浮かべながら答えた。

 

「お…まえ…と……出会えて………ほんと…うに……良かったよ。………おま…えは………む…かし……の俺に………似てた……から」

 

ギルはそう言うと自分の懐をゴソゴソと漁り、一通の手紙を取り出した。

 

「ハ…ル……よく……聞…け……この……手紙…を……ある人……に…渡……して…欲しい……名前は……ロキ…オラ…リオに……いる」

 

「分かりましから、一緒に行きましょうよ‼︎オラリオだけじゃなくてもっと色んな街に行って色んな景色を一緒に見ようよ‼︎だから目を開けてくれよ父さん‼︎」

 

「は……はは……やっ……と……父さん…って……呼んで……く…れ……」

 

「行くなよ‼︎行かないでくれよ‼︎父さん‼︎父さん‼︎うわぁぁぁぁぁぁあ」

 

ギルは最後まで言い切ることは無く目を閉ざした。静寂に包まれる森の中にハルトの悲しみの叫び声のみが響き渡った。

 

 

 

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