「…もう朝か」
ハルトは木々の隙間から差し込む太陽の光を浴び、目を細めるながらギルのお墓をボンヤリと見つめながら呟く。
ハルトはあれから一睡もせず、ギルの遺体を火で燃やした。ギルの着ていた着衣でギルの骨を包み掘っておいた穴に埋めた。抱えて持てる程度の石に護身用の剣でギルの名前を彫り刻んだ。
(ギルさん。本当に死んじゃったんだな)
ハルトはギルがまた笑いながら、何泣いてんだよと軽口を叩くことを想像するが、それは二度と叶わないということを感じた。ハルトは立ち上がると、ギルのお墓の前に腰を下ろした。
「ギルさん。俺はあなたと出会えて本当に良かったよ。両親に捨てられて、悲しんでた俺に声をかけてくれた時は本当に嬉しかった」
色んな記憶が脳裏に蘇り、再び涙を流す。
「絶望していた俺に色んな景色を見せてくれて、色んな人と出会わせてくれて、色んなことを教えてくれて…ありがとうございました!」
ハルトは涙をボロボロと流しながら、お墓に向かって頭を下げる。「はは、泣き虫だとからかわれるぞ?」と不意にギルさんの優しい声が聞こえてくる。バッと頭をあげると、お墓の前にギルさんがいつもの優しい笑みを浮かべながら立っている。
それは幻覚なのだとわかっていても、涙が止まらない。
「ギルさん。……俺……」
ハルトは助けらなくて、父さんってもっと早く呼んであげられなくて、護ってあげられなくて、と色んなことを謝ろうとするが、頭にポンと手を乗せられた。
『楽しんでこい。』
ギルは慈愛の満ちた目でそう告げた。その姿に涙が出そうになるが、グッと堪える。ハルトは強引に涙を服の袖で拭うと、ニッと笑顔を作りながら言う。
「行ってきます父さん!」
ハルトはギルのお墓に背を向けながら歩き出す。腰にギルの愛剣をぶら下げながら、新たな旅へと。
振り返ることない。それが今の自分に出来る親孝行だとハルトは信じているから。
最後の約束を果たすため、ハルトは迷宮都市オラリオへと旅立った。
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「ハァハァ」
あれから一週間経つが、ハルトは街どころか集落にさえ辿り着けないでいた。食料も水も地図も全てあの火の海で燃えてしまった。その上、火傷や裂傷などの傷を負っており、体力はすでに限界を迎えている。一週間という期間、手当も食料もない状態で生きている方が異常だった。
「ハァハァ、ぐっ」
ハルトは腹部の痛みに耐えられなくなり倒れる。しかしその度にギルの顔が頭を過ぎり、もう残っていないはずの体に力が溢れる。それは自分に対する怒り。ギルを命の恩人にして親を死なせてしまった自分への。
「その年でそんな顔ができるとわなぁ」
不意に厳格そうな声音が聞こえてきた。そちらを向くとそこには白髪に白い髭を生やした老人が立っていた。歳に似合わないガッシリとした体つきをしており、ハルトよりはるかにでかいことがわかる。
ハルトは朦朧とする意識の中で老人に言う。
「生きたい」
たった一言。されど一言。その言葉を最後にハルトは目を閉ざした。老人はその一言に秘められた感情を感じとったのか、厳つい顔が笑顔に変わり答えた。
「休め、若き者よ。儂はお前を生かそう」
この二人の出会った瞬間、世界のーー運命の歯車はカチッとまるで抜けていたピースがぴったりとはまったような音をたて動き始めた。