ハルトが爺ちゃんとベルと出会ってから半年の月日が経った。あれからハルトは驚異的な回復速度で少なくとも半年かかるはずだった怪我をたったの二ヶ月で治してしまった。
本来ならすぐにでも旅立つはずだったのだが、爺ちゃんが不治の病と呼ばれる病気にかかってしまったため、ベルと共に看病をしていた。しかし、病気は一向に良くなることはなく、とうとう一週間前に亡くなってしまった。ベルはそれからというもの部屋に閉じこもっている。
「ふぅ、どうしたもんかな?」
半年という短い期間だが、爺ちゃんは本当の孫のようにベルは兄のように扱ってくれた。二人のこの優しさにハルトは救われた。
だからハルトは今度は俺がと思ったのだが、全くいい案が浮かばない。そんなことを考えているとある事を思い出した。ハルトはこれに賭けてみることにし、ベルの部屋の前に移動した。ベルの部屋の前に着くと、ハルトは迷いなく部屋の扉をノックした。
「ベル。聞こえるか?」
「………何か用?」
ベルの声は今まで一度も聞いたことのないほど冷ややかなものだった。
「たった半年しか一緒に暮らしていない俺にはベルの悲しみは分からない。でもこれだけは言わせてくれ。お前が今したいことはなんだ?」
「……何も。何もあるわけないじゃないか!こんなことなら死んだほうがよかった」
扉がバンと開き、ベルが涙を流しながら出てきた。ハルトはベルの目を見た瞬間に昔の自分と重なる幻覚を見た。親に捨てられ、全てに絶望したあの時の自分自身と。
「えっ?」
ハルトはベルを抱きしめた。ベルはいきなり抱きつかれたことに戸惑いを隠せず、変な声を漏らすがハルトは気にせず話し始めた。
「ベル。頼むから死にたいなんて二度と言わないでくれ。俺はお前に生きていて欲しい。どんなに苦しくても生きていて欲しい。……何もしたくないなら何もしないでいい、苦しいなら逃げてもいい、立ち止まったり、後戻りしたりするしてもいい。それでもこの先、今日よりももっと苦しいことや悲しいことがあるかもしれない。死にたいってまた思うかもしれない。でも死んじゃダメだ。死んだら後悔も感謝も何もかもが出来なくなる。だからどんなことをしたっていい、誰かに後ろ指を指されてもいい、だから精一杯ベルはベルらしく己の道を生きろ。」
ハルトはまるで自分自身に言い聞かすようにベルに言った。ベルはその言葉を聞くと、しゃくり声になりながら言った。
「ごめんなざい。ハル兄!」
兎の少年はこの日、新たな誓いと夢を抱いた。
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一ヶ月後。
「ベル、本当にいいのか?」
「うん。もう決めたことだから」
ハルトとベルはお互いにバックを背負いながら言葉を交わした。
あれからベルも憧れの英雄を目指すために迷宮都市オラリオに行き、冒険者になることになった。ベルが英雄になりたいと言ったときはハルトも驚いたが、決意が本物のようだったので何も言わなかった。
「じゃあ行くぞ、ベル。これが俺たち二人の最初の旅だ。」
ハルトはニッと子供っぽく笑い、ベルに言う。ベルも返すように笑みを浮かべるが、すぐに消えた。ベルは家に向き直り、今までお世話になったためか、それとも爺ちゃんと暮らしてきた思い出があるからかは定かではないが、深々と頭を下げた。そして顔を上げた。その顔は今まで見たなかで一番かっこいいものだったとハルトは感じた。
「うん、行こう。ハル兄」
こうして二人は旅立った。
一人はもう二度と誰も失わないための力を手に入れるため。
もう一人は誰もが憧れる英雄になるため。