ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~ 作:ZERO(ゼロ)
その顔を忘れた事は無い。
何よりあの歪んだ哂いを忘れた事は一度たりとも無い。
いや忘れられる訳がない―――その存在はかつて、自分の大切な幼馴染を喰らった存在なのだから。
「――――――シェェェェェェシャァァァァァ!!!!!!!」
放たれるは強烈な殺意、それだけで大気は鳴動する。
スティーブンから凡その話で並行宇宙が歪む原因が堕ちた創造主の残滓だとは聞いていた。
この東京に来て、色々な依頼の中で色々な下種を始末してきた―――故に少々の事では感情を露わにする事は無いと思っていた、其の筈だった。
だが、此奴だけは無理だ―――
狡猾で獰猛な蛇の王……多神連合によって目覚め、人間の如く成長し、世界そのものになろうとした存在。
多くの者の命を喰らい、アサヒの魂を喰らい、のうのうと嘲笑っていた此奴だけは。
『クククク、良いねぇ……そのボクに向けられる殺意、最高だよ。
やはり愉しいよ、君を出し抜いて“あの時と同じ状況にする”ってのはさ……中々美味しい魂だったよ?』
見下す哂いをアキラに向けるシェーシャ。
呆然としたリアスらや睨む多神連合の幹部三人の姿を見ながら彼は思いを馳せる。
初めてこの世界で目を覚ました時、彼は目的が果たされなかった事を悟る。
抱いた感情は悔しさより、あの『多神連合』と言う連中は己の力を以ても何も変えられなかったと言う失望感の方が強かった。
かつてフリンの姿をし、信仰や尊敬の念を集め成長したシェーシャにとって『役立たず共の所為で何も成せなかった』と言う敗北感は相当なものだろう。
やがて失望感が他者、特に多神連合に対する嘲りや憤りに変わったのも当然だろう……シェーシャの自尊は死を経験した事でより一層強まったのだから。
再び生を得た時、強大だった彼の力は弱く衰えていた。
退化したと言う事だろう、まあ己を宇宙の理を変える事が出来る程の存在へと昇華していたのには愛されたのだから当然か。
一般的な悪魔程度の力まで落ちてしまったシェーシャが最初に行った事、それは力を取り戻す為の依代を得る事であった。
それに彼の再び生を受けた場所は臭いこそ違えどかつて居た東京を思わせる場所であった為、人の姿を得た方が何かと便利だと思ったのだ。
―――丁度その時に都合の良さそうな連中を見つける。
シェーシャの生まれ変わった近くに住んでいた一家を彼は躊躇なく喰らった。
『助けてくれ』と叫ぶ男を哂いながら喰らい、泣いて子供の命を救って欲しいと懇願する女を嘲りながら喰らい、最後に恐怖で泣き叫んでいた子を楽しそうに苦しめながら喰らう。
甘美だ、最高だ―――シェーシャは其処で大切な事に気付く。
相手を苦しめ、絶望を味合わせ、最後の最後で魂を喰らうこの行為こそが最も愉しいと。
その時から彼は唯喰らうのではなく、相手を信頼させて絶望させてから喰らうと言う行為を続ける―――最初に喰らった少年の姿を借りて、だ。
時には哂いながら初めての親友を喰らい。
時には泣きながら初恋の相手を喰らい、時には慕ってくれた幼子を優しく撫でながら喰らう。
唯愉しい、唯面白い、唯々愉快だ。
信じる者に裏切られたと理解した時の人間の最後の顔程、見て甘美に感じるものは今まで無い。
どうしてもっと早く知らなかったのか、この沸き上がる快感を―――シェーシャは今更ながら後悔していた。
言うまでも無い、説明するまでも無い……蛇の王は狂っている。
人間を学習し成長した故に、その本質は誰よりも頭のイカレた存在となてしまっていた。
勿論それだけではなく、堕ちた創造主の残滓が狂わせたとも言えるが……狡猾さは元々兼ね備えていたのだ。
だがイカレっぷりに拍車の掛かった一番の理由は―――彼の得た、彼を狂わせる程の“凶暴な力”だろう。
何時、その力に気付いたかは覚えていない。
最初に違和感を感じたのは―――最初の犠牲となった家族を喰らった時だった。
其処から他者を陥れ、絶望を味合わせ、苦痛に満ちた甘美な魂を喰らえば喰らう程にその違和は強くなる。
やがてその凶悪な力を認識した時、シェーシャはかつての東京の頃の存在から変質していたのだ。
彼の力を狙って来た愚かな鴉達が居たが、苦も無く返り討ちにした。
喰らおうとした際に惨めに命乞いする姿を見、悦に入りその者達を奴隷とした、己の“餌”を探させる為に。
力と甘美な餌を求め策を弄してこの町の支配者の下僕となり、更に凶悪な力を得た―――機も熟し、そろそろ馬鹿で愚かな主とその僕達を喰らおうとした矢先、シェーシャは忘れられぬ気配を感じ取る。
そいつは三度も己を殺した奴だ。
一度目は渋谷宮下公園、二度目は池袋首都高5号線、三度目は宇宙の卵となった己。
力を得、己以外を餌か滓か程度にしか考えないシェーシャにとってあの屈辱は忘れたくとも忘れられない。
だから再び姿を見せる時は―――最も屈辱的な方法で殺して喰らってやろうと誓っていた。
……そして物語は今へと至る。
『ククク、どうだい?ボクの考えた趣向は?
他の悪魔に気を取らせている間に自分の住んでいた町が滅びに瀕する、最高の御楽だよ君達のその顔は。
さあもっと絶望しなよ、もっとボクを恨んで憎んで愉しませなよ―――アーハッハッハッハッハッハ!!!!』
町中から立ち上る光の帯……駒王町に生きる人々の魂を吸収しながら高笑いするシェーシャ。
大量の魂の中には明らかに普通の人間よりも強い輝きを持つものもある、恐らくそれはこの町に存在する人間以外の何かだ。
片っ端から吸い尽される魂―――その中にはリアスの幼馴染にしてもう一人の駒王町の統治者、ソーナ・シトリーとその眷属達も含まれていた。
「巫山戯んなよテメェ!! 上等だ、あの時と同じく今度も地獄に送ってやる!!」
引き抜い拳銃の引鉄を連続で引くアキラ。
片手で持つには大き過ぎる魔銃“メギドファイア”―――世界を滅ぼす程の力を持つ魔銃から放たれる魔弾は、敵総てを遍く滅ぼし尽す。
アキラにとっては仲魔達や愛刀の次に信頼を寄せる銃、だがその弾はシェーシャに届く前に消失した。
「―――何っ!?」
『おや、何かしたかい神殺し? 無駄さ、君のその玩具はボクには通用しない……残念でした、アハハ!!』
シェーシャの身体には『天羽々斬剣』か『天叢雲剣』しか通用しない。
そのような事態にかつて陥ったアキラだったが、今は『宇宙の卵』の中で戦った旧ダグザから得た『運命の石』の効果で全ての障壁や防御を貫通可能になった筈。
なのにその攻撃が通用しないのは一体どういう事だ? アキラは怒りの感情で熱くなっている頭をクールダウンしてからシェーシャに向かって連続して魔弾を撃ち込む。
アキラは怒りに熱くはなるが、冷静に対処する事の出来る心も持っている―――しかし結果は同じ、魔弾はシェーシャに届く前に一発残らず消えてしまう。
「(……馬鹿な、どういう事だ? 奴はこの町の魂を取り込んで自分を強化してるのか?
おかしい、魂を取り込んでも俺はダグザの力で全て貫通出来る筈……それが触れる前に何故消える?
何だ、何かがおかしい、何か見落としている事があるんじゃないのか……?)」
考えるように周囲に目を向けるアキラ。
其処では呆然としていたリアスが何かをシェーシャに言っている―――彼女は騙されていた事に気付いていなかったのだろう。
ふと其処で別の場所に目を向ける……目に入ったのはアキラの信頼する元多神連合の三柱、全員が戦闘準備をして今か今かとアキラの命を待っていた。
だが其処でアキラはおかしな事に気付く―――
何故だ、何故……強大な力を持つ筈の三柱から感じる力が、下位の仲魔並に弱い?
先程までは凶悪なまでの力を放っていた筈だ、彼らの力の大きさは闘った事のある己が一番良く知っている。
なのに何故―――ふと、アキラはこれと同じ状況になった事を思い出す。
確かあれは宇宙の卵の中に入って直ぐに張られたダグザの力を無効化する結界の中に居た時と同じ。
……不意にアキラは気付く、何故にシェーシャがあそこまで余裕なのかを。
「……そうかテメェ、此処にミトラが使ったのと同じ力を封じる結界張ったのか!!」
アキラの声に心底愉しそうにシェーシャは哂う。
そう、シェーシャはこの周囲……いや、この町全体を包むように力を封じる結界を張ったのだ。
『御名答―――中々早く気付いたようだから褒めてあげるよ、偉い偉い。
最初からこの町には予め君達の力を封印する結界を張っておいたんだよ、君らを確実に始末する為にね。
何故ボクがそんな力を使えるか不思議かい? なら冥土の土産に教えてあげるよ、ククククッ―――』
シェーシャは自らの手をアキラに見えるように掲げる。
手には紅い篭手の様なものが装着されており、其処からシェーシャを包むように禍々しいオーラが溢れ出す。
そして禍々しい黒き光の柱がシェーシャを包むように立ち上り、周囲を覆った―――
●●●●●
「クッ……無事か朱乃、それとグレモリーとその下僕二人!!」
「……!? どうして? その声……」
「な、何とか……何なの、今のは!?」
「クッ、クソ……う、腕が……」
「う、うぅぅ……痛い、です……」
突然襲った衝撃波によって吹き飛ばされ、壁に叩き付けられたアキラとリアス陣営。
見ればクリシュナ、ミロク、オーディンも衝撃波によって吹き飛ばされたらしく相応の傷を負っていた。
しかし三柱は立ち上がるとアキラの近くへとよろよろ歩いて来る―――ミロクが回復魔法を詠唱するが、どうやら力が封印されている為にほんの少ししか回復出来ない。
『主殿、どうやら結界の封印が私達にも影響を及ぼしているようだ―――』
『……拙いね、僕も力が入らない……ごっそりと力を奪われてしまった感覚だよ』
『不覚―――我が力も封じられたか、グングニルを維持出来ぬ……』
三柱の言葉を耳に、アキラは倒れ込む小猫の腹を触る。
触れた瞬間に顔を顰め、苦しそうに小刻みに震える―――その無表情な顔からは血の気が引き、呼吸も荒くなっていた。
戦場で何度もこんな症状の兵士をアキラは見て来た。
恐らく先程の衝撃波が原因で壁にぶつかり、肋骨が折れているのだろう。
しかもこの感じは最悪な状態なのは理解出来る―――口から吐いているどす黒い血を垣間見れば多分、折れた肋骨が内臓を傷つけているのだ。
このまま放置すれば確実に待っているのは“死”だ……リアスもそれを理解しているのだろう、余裕綽々ないつもとは様子が違い、どうして良いか解らない状態だ。
「小猫、小猫!! どうして、どうしてなの!? 何で、何でこんな事に!!? い、嫌ぁぁぁ!!!?」
少女が吐き出した黒い血にリアスはパニックになったのだ。
どうやら今まで自分の眷属がこれ程に傷付いた―――いや、命の危険に晒された姿を見た事が無かったのだろう。
パニックで叫ぶだけのリアス、アキラは彼女の胸倉を掴むと張り倒した。
「きゃっ!!?!? な、何をするのよ!!?!?」
「五月蠅ぇ、お前がパニックになってどうすんだ!!
お前は頭だろ!? 此奴の主だろ!? だったら泣き叫んでる暇があったら治療するなり手を貸すなりやる事があるだろうが!!」
アキラに張り倒されて多少冷静さを取り戻し、リアスは黙り込む。
その間にアキラはミロクに命を出す―――この状況下で、力が制御されていても少しは応急処置が可能だろう。
「ミロク、魔法使えるか!?」
『恐らくは―――しかし初級の回復魔法程度しか使えませぬ』
「それで良い、取り敢えず応急処置だけでもしねぇと死んじまう―――」
アキラの言葉にミロクは頷き、小猫の身体に手を当てると回復魔法を放つ。
一応それで命の危険は去ったのだろう、紙の如く真っ白だった表情に少しだけ赤みが帯びる。
だが、其処で一段落などしていられない……寧ろ今のアキラ達の状態では此処からが問題ばかりだ。
何故ならば―――彼らの視線の先、其処には凶悪なまでに巨大な禍々しい光を放つ七つ首の蛇の王が見下ろしていたからである。
「クソが……この状態であのクソヘビと遣り合えってのか、マジで最悪だぜ。
しかも何だあの姿ととんでもねぇ力は―――おまけに野郎の力がどんどん強くなってやがる」
―――目の前の巨大な七つ首の蛇王の姿となったシェーシャから感じる力がどんどん膨らみ続けている。
馬鹿な、在り得るか……成長するのは人間も悪魔も同じだが、あれ程急速で力が膨れ上がる成長など存在しまい。
疑問を浮かべた表情のアキラに対し、七つ首の蛇王シェーシャは獰猛な眼を獲物に向けながら言い放つ。
『クククク、アハハハハハ!!
どうだ神殺し、どうだ多神の役立たず共―――これがボクの手にした力だ!!
元々はボクが演じていた最初に喰った餓鬼の持っていた力を、大量の怨嗟や憎悪や絶望で満たした魂を喰らう事で覚醒させた最高の力さ!!
何故ボクが長々と矮小な蟲螻共と話なんかしてたと思う? 簡単さ、ボクの持つこの力は時が経てば経つ程に己の力を上昇出来るからだよ。
―――それも知らずにまんまと引っかかるとは本当に馬鹿な連中さ、アハハハハハハ!!!!』
其処でシェーシャは中心の蛇の首をリアスの方へと向ける。
『お前にも感謝してるよ、ぶ・ちょ・う―――アハハ!!
お前が何も考えないでボクの思惑通りに動いてくれたお陰で、ボクは強大な力を得れた。
愉しかったよ、お前の御飯事に付き合うのは……後はボク信用させて、ボクを愛させて、ボクに依存させてから愉しく喰ってやろうと思ってたけど、其処だけが残念だよ』
正に最低のクソ野郎である。
だが本気で彼に対して眷属への信愛を向けていたリアスからすればどれ程のショックだろうか。
ヨロヨロと力無く地に座り、呆然とした目でシェーシャを見つめているだけだ。
彼女も理解している、この状況を生み出してしまったのは己だと。
自らの統治していた町を、自らが良く考えずに加えてしまった眷属が壊滅寸前に追い込んでいる。
―――自分の事しか考えてなかった、強い眷属を得て自分を取り巻く環境を変えたかっただけなのに。
それが結果的にこのような状況を生んでしまった、己の無知が取り返しのつかない現実を生み出してしまった事にリアスの瞳からは涙が流れ、譫言の様に言葉を繰り返す。
「違う、違う、違う違う違う違う違う―――
私が悪いんじゃない、私が悪いんじゃない、私が悪いんじゃない、私が悪いんじゃない……」
『そうだ、そうだよ、その顔が見たかったんだ!!
愉しい、本当に愉しい、最高だぁぁぁぁ―――アハ、アハハ、アハハハハハハハハ!!!
でももう十分さ―――そろそろ鬱陶しいからさ、さっさと喰ってあげるから死になよ!!!』
呆然と言葉を繰り返すリアスに巨大な尾を叩き付けようと振り下ろすシェーシャ。
立ち止まっているままの彼女には避けられまい……助けようにも朱乃達は足が動かない。
それでも必死に、強引に足を動かして地を蹴った時には既にシェーシャの尾がリアスの目前まで迫っていた。
「だ、駄目……母様、兄様……い、嫌ぁぁぁぁ!!!、逃げてぇぇぇぇ!!!」
「ぶ、部長―――――ッ!!!!」
朱乃と木場の悲痛な叫びが聞こえる。
特に朱乃の場合はその光景がかつて己が経験した過去と重なったのだ。
……更に己の奥底に罪悪感から封じていた記憶を一瞬だけ思い出したのだろう。
二人の悲痛な叫びにヨロヨロと伏せていた顔が上を向く。
向かってくる巨大な尾を垣間見、それでもリアスは諦めたように目を閉じた。
これは責任だ……この期にを及んで往生際悪く、責任逃れしていた自分への罰だと。
身体を襲う衝撃、吹き飛ばされるリアス。
ああ、死んだのか―――自分の細やかな夢すら叶える事叶わず、何も返る事無く自分は死んだのか?
だが可笑しい、何故に吹き飛ばされる?
あんな一撃を受ければ潰されて終わりの筈だ、なのに何故横に吹き飛ばされる?
それに痛みも感じない、そんな筈はない―――そう思い、リアスは閉じた目を見開く。
彼女の眼に映った光景、それは自分の代わりに全身中を血塗れにして倒れているアキラの姿だった―――
「……ぶ、じか……グレ、モリー……」
「ど、どうして……どうして!?」
全身の傷は見れば明らかに致死に近いのは解る程に酷い。
恐らく潰れていない所を見ればシェーシャの攻撃が直撃していなかったようだが、それでも瀕死の重傷だ。
更に見ればオーデン、クリシュナ、ミロクも壁に叩き付けられ虫の息だ―――彼らも主であるアキラを庇ったのだろう。
「どうして、どうして私なんか助けたのよ!?
私なんか、私なんか死ねば良かったのに!!? どうして、どうしてよ……どうして!?」
何故庇う、何故自分を助ける。
助けられる価値など無い、この町を滅亡に瀕しさせたのは自分だ。
涙を流しながら言葉を繰り返すリアスに、アキラは苦しそうに呟く。
「五月、蠅ぇ……仕方、ねぇだろ……身体が、勝手に、動いたん、だ―――
それ、に……俺、は、もう……二度と、御免、だ……あの、クソ、蛇に……殺される、奴、を見る……のは。
……!? クッ……ダグ、ザ……済ま、ねぇ……俺、は……」
見ればアキラの懐から綺麗な飾り石の様なものが転げ落ちていた。
石は真っ二つに割れている―――これは『運命の石』と呼ばれる代物で、ダグザと戦った際に得たものだ。
ガーディアンの力が覚醒した際に媒介となり、更に全ての障壁を貫通出来る能力も併せ持っていたアクセサリーである……それが割れたと言う事はガーディアンの力も貫通能力も使えなくなったと言う事。
今の瀕死の状態のアキラにとってガーディアンの力、つまりダグザの力が使えないのは致命的である。
ダグザの力が使えるとすれば瀕死の状態であっても復活する事が可能だ、しかしそれが使えないと言う事は完全に『生身の人間』と同じ状態だ―――待つのは“死”しかない。
更に相手の相性関係なく障壁を貫いていた『貫通攻撃』が無くなるのはかなりの痛手だろう。
だがそれでも身体が勝手に動いてしまった、かつて自分を救ってくれたアサヒと同じように気付けばリアスを突き飛ばしていた。
恐らく見殺しにすれば瀕死の重傷を負い、生死の境を苦しみながら彷徨っている事など無かっただろう。
……しかしそれは出来なかった、見殺しに出来る訳がない。
甘いだろう、愚かだろう、哀れだろう、その所為で死にかけてる。
それでもアキラはこの東京に転生した時に誓ったから―――この掌で護れる者は護ると。
例え相手が悪魔だろうが天使だろうが関係ない、自分の間違いに気付いて再び歩き出そうとする者を救うと決めていたから。
『あ~あ、馬鹿だね神殺し。
もう虫の息じゃないか、これからボクがあっちの東京で味わった屈辱を倍返ししてやろうと思ったのに。
本当に最悪だよ君達―――ボクのこの高ぶった感情の矛先を何処に向ければ良いんだい?
まあ良いか、どうせ芥屑程度の地に這う芋虫共を殺したって気も晴れない……妖精やサムライや阿修羅会やガイア教のお前の仲間とか言う連中を喰えないのは残念だけどね。
君を喰えば少しはボクのこの高ぶった感情も満たせるかな? アハ、アハハハ、アハハハハハ!!!!!』
中心の首をゆっくりと伸ばし、巨大な口を開けて瀕死のアキラと横のリアスを喰らおうと迫るシェーシャ。
このままではアキラとリアスは確実に喰われる、しかし周囲には助けに向かえる存在は居ない。
抗う事も出来ずに喰われると思われた、まさにその時―――
不意にシェーシャのアキラ達に迫っていた首が横から衝撃を受けて吹き飛び、大地に叩き付けられた。
『ガアァァァァ!!?!? だ、誰だ!!? ボクの邪魔をしたのはダレダァァァぁ!!?!?』
叩き伏せられた地から頭を起こすシェーシャ。
大地は無残に罅割れ、建物や家屋は衝撃波で悉く破壊され、それだけで町は半壊した。
しかしそんな事など今のシェーシャには些事だ、彼は衝撃を受けた方向に獰猛な目を向ける。
―――其処に居たのは、身の丈を超える巨大なライフルをスタンディングスタイルで構えているアーシアの姿だ。
『お前、お前か……お前がボクの邪魔をしたのか、このメスガキがぁぁぁぁぁ!!!!』
怒気を込め、アーシアのいる場所へ襲い掛かるシェーシャ。
迫る巨大な蛇の王の首にアーシアは冷静にライフルから薬莢を排莢すると、再び構えて引き金を引く。
銃口から放たれた戦車の装甲すら簡単に撃ち貫く銃弾はシェーシャの首を先程と同じように吹き飛ばす。
……普段は優しく慈愛に満ちた笑顔を浮かべる少女の顔は、見つめるだけで震えが走る程に殺意に満ちていた。
「許さない……私は貴方を絶対に許さない!!
貴方はこの町の皆さんを貶め、死者を冒涜し、事もあろうかアキラさん達を傷付けた!!
後悔させてあげます、私達“狩人(ハンター)”に手を出した事を!!」
連続して引き金を引き、銃弾を撃ち込むアーシア。
彼女の銃の弾丸はアキラのメギドファイアとは違い、あくまでも唯の実弾だ。
しかし一発一発『ある人物』によって術式を施されており、能力は『天叢雲剣』に近い。
「あ、あの子……唯のシスターじゃ無かったのね」
強い、恐らくあの少女一人でも自分達に勝つだろうと容易に想像出来る。
高が人間などと馬鹿にしていたあの日の自分が恥ずかしくて仕方がない―――しかし今はそんな事を言ってる暇は無かった。
何故なら、リアスの近くで血だらけで倒れていたアキラが痙攣し始めたのだ。
意識も無いらしく完全にお手上げの状態だ、このままでは死んでしまうと言うのにこの状況でリアスに出来る事は何もない―――無力だと己を憎む事しか出来ない。
『チッ、拙い……仕方ねえハゲネ、我らが主殿と融合して命を繋ぐ!!』
『―――御意!!』
丁度其処に合流するジークフリートとハゲネ。
自ら達の主の状態の酷さを理解し、光り輝くとアキラの中に吸い込まれる。
一瞬弱々しく輝き痙攣は止まるも根本的な解決とはならずに何とか命を繋いでいるだけの現状。
最悪の状況下、戦えるのはアーシアしかいない……しかし彼女の術式を施した弾丸も残り僅かとなっていた。
絶体絶命の状況、崩壊寸前の駒王町。
助けを呼ぶ事も出来ない状況で意識を失ったままのアキラ―――結界によりほぼ力を使えず、ガーディアン・ダグザの力を媒介にしていた『運命の石』も割れてしまう。
この状況でアキラ達はどのようにして圧倒的な力を持つシェーシャを倒すと言うのか?
―――それは次回に語るとしよう。
~×××××~
『―――このメールを見ていると言う事は、君に危機的状況が起きたと言う事だろう。
確かに君は強い、東京での戦いが一介の人外ハンターであった君を成長させたのだろうね。
だが独りで出来る事は限られる、君は絆を尊んで生きる中庸の道を選んだ筈だ、ならばその絆を信じなさい。
別れの時に僕が言った言葉は覚えているかな? 君と絆を育んだ人々は僕に任せて欲しいと。
君の意志を尊重し、彼らの記憶を改竄した―――だけど僕がしたのはそれだけではないさ。
最後に言っただろう? 心配要らない、君は独りでは無いからと―――』
皆様の温かいご意見・ご感想を心よりお待ちしております
【今回の改変(真4F)】
シェーシャ……彼の姿の一つであるアナンタを巨大化したような姿
ただし、コブラではなくver2のシェーシャ(人型に近くなった緑色の奴)が七つ首になったような姿―――はっきり言って気持ち悪い
性格はクソ野郎以下の下種の極み
はっきり言えばレイナーレやディアドラなんぞ此奴に比べれば可愛いもんである
彼の凶悪な力の根源は、最初に喰らった『兵藤一誠』の持っていた神器とリアスの使った悪魔の駒が原因
他者を虐げ、苦しめてから魂を喰らうのを愉しみとしていたシェーシャが取り込み続けた魂と『悪魔の駒』の力により赤龍帝の篭手が歪み壊れてしまった故
【アーシア】
本作で書かれていたスタンディングスタイルとは、クレー射撃などのように立った状態で狙撃をする体勢の事
因みに彼女の使うPzB38は戦車を貫く為に“固定状態で狙撃する”のを想定された代物であり、普通に考えて立った状態で狙撃するなど反動が強過ぎて不可能