ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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辻褄合わせ過多、例によって好まぬ方は読まない様に
因みに今回で『旧校舎のディアボロス(原作一巻)』は終わりです
プライベートの忙しさの関係で皆さまに作品をお届けするのが遅くなり、誠に申し訳ございませんm(_ _"m)


第十四話

~※※※※※~

 

『(……何だ、此処は……!?)』

 

全てが漆黒に包まれる空間の中で“彼”は目覚める。

実に不気味なその空間―――それは今まで彼が生まれ落ち、死ぬまでに経験した事のない雰囲気を醸し出す。

気配を向ければ何らかの存在は此処に居る筈だ―――しかし漆黒に包まれて居ながら底無しに何処までも広がっているかの如く感じる暗闇は歴戦の兵と言える“彼”の感覚すら狂わせていた。

 

巨体を揺らし歩き出す影―――

遥か昔の時代に“彼”はこの世に生を受け、幾重の戦いを繰り返し、気付けば霊長最強とも呼べる存在となった。

宿敵とも言えるもう一匹と共に『天』の名を冠し、向かう所に敵など居ない存在として在り続け、宿敵と雌雄を決する為に戦い続け……最後には神話の古き神々や魔王達を道連れに封印される。

 

“彼”は封印された『神の奇跡』と呼ばれる代物、神器となって多くの宿主の運命を歪めて来た。

望んで力を得る者は殆ど居ない―――多くは唯“宿主”として偶然選ばれて凶悪な力を得、時には欲望のままに、時には望まぬ力に振り回される。

 

だが結局、どのような宿主であれ迎える結末は皆同じ。

得てしまった力により人生を狂わされ、他を凌駕する力により恐れられ、失意と絶望のままに破滅していくだけだ。

 

―――彼の名は『ドライグ』。

かつての大戦において神・悪魔・堕天使の三勢力の乱戦に宿敵であったもう一匹の『天』の名を冠す龍と戦い続け、多くを巻き込んで滅ぼし、最後には協力した三陣営によって宿敵と共に封印された赤き龍。

 

前の宿主が死んだ事で新たな人物へと宿ったドライグ。

彼にとって宿主などはどんな存在でも良い、自らの悲願を叶える為の傀儡となるならば何でもだ。

だからこそ彼は新しく宿主となった存在の“心象世界”を我が物顔で闊歩し、宿主に自らの存在を認識させようとしているのだが……この何処までも続く暗い闇の中を幾ら歩き続けても何も見つからない。

 

『(クソッ……何故、何もない?

何処まで進めば良い? 何処に何がある? こんな場所は初めてだ―――今迄数え切れん程の宿主の中を見てきたが、こんな異様な心の中を見た事は一度も無い……)』

 

何処まで行っても景色は変わらないその空間はまるで無間地獄。

流石に何も無い状況に憤って来たのかドライグは抑え込んでいた怒りを解放し、周囲に凄まじい覇気を放つ。

神器、つまり無様ながら封印された己が宿れるのは人間か、それとも人間と他種族のハーフのみ―――ならば所詮、龍の力には耐え切れないと彼は考えたのだ。

……寧ろこれで宿主の心が壊れてくれれば面倒が無くて済むと言う考えがあった事も否めない。

 

しかし―――全てを包み込む闇は何も変わる事は無い。

ならば何度でも、この空間が壊れるまで覇気を放ち続ければ良いと考え再びドライグは力を解放しようとする。

されどその力が解放される事は無い……力を解放しようとしたドライグは、自分に向けられる圧倒的な殺意を込めた射貫くかの如き視線を感じ、まるで金縛りの様に一歩も動けなくなってしまったのだ。

 

『……がっ!? な、何だ……何だ、これは……!?

く、苦しい……何故だ、この体を襲う寒気は、何だ……い、息が、息が……出来、ん……』

 

今まで感じた事のない、直接心臓を握り締められているかの如き感覚。

ドライグが感じた事がある訳があるまい―――己が持つ暴威のあるがままに生きていた霊長最強である龍、その中でも『二天龍』と呼ばれた彼が今まで感じる事の無かった感情。

 

―――それは『恐怖』。

ドライグは長き時を生き、封印される時すら感じなかった“恐れ”を今この場所で知ってしまった。

それはある意味では仕方のない事だったろう……彼が宿った宿主は今迄の存在とは天と地の、いや寧ろ砂利の一粒と宇宙の差程に違い過ぎるのだから。

 

『―――囀るな虫螻、耳障りだ』

 

声のした瞬間―――ドライグを射抜く視線が暗闇の中で幾百、幾千、幾万も見開かれる。

向けられた大量の殺意にドライグは息も出来ずに固まってしまう……殺される、今まで一生味わう事の無かった感覚に押し潰されてしまいそうだ。

 

『我らが主たるお方の心象に土足で踏み込むとは……余程死が望みのようだな、ケガレよ?』

 

再び響く声、続くように先程とは反対側の闇に大量の視線が見開かれた。

声を聞いただけで弛緩する、動き出そうとしても一歩も動けず、呼吸すらまともに行えない。

在り得ない、在り得ない、在り得ない―――困惑するドライグを他所に、二つの声は声を荒げる。

 

『フン……貴様の主はあの堕ちた『創造主を名乗っていた化物』だろう、神の戦車。

引っ込んで居ろ―――貴様の如き『駄神の木偶人形』が姿を見せるな、あの虫螻ごと消すぞ?』

 

『奴は主に非ず、真なる主は彼のみだ……貴様こそ囀るな、先に貴様を消してやろうか悪魔王。

いや違うな……悪魔王などと名乗るのも烏滸がましい、成り損ないの影法師が』

 

途端に放たれる殺意の濃度が強くなり、ドライグは必死に消えそうになる意識を堪える。

まさに一触即発―――何かの切っ掛け一つでこの場は地獄絵図へと変わるだろう、あそこに居る存在達に比べたら自らがどれだけ矮小な存在だろうか?

 

だが、彼らの一触即発の空気は予想外の展開を迎える。

どう考えても桁違いな存在同士、彼らを止めれる者など存在しないと思っていた。

そんな雰囲気を醸し出している二柱に向かって、命知らずにも静止の声を掛ける存在が居たのだ―――

 

※※※※※

 

『五月蠅いホー、ハゲにツギハギ……誰の許可を得て此処で喧嘩しようとしてるホ?』

『あんまり騒がしくするなら、私達が相手になるけど……どうするのよさ?』

 

其処に現れたのは明らかに先程の声の主よりも矮小に見える二つの小さな影。

一体は雪だるまの如き姿をした存在、もう一体は背中に大きなバルーンの如き羽を生やした妖精。

贔屓目に見ても先程の存在達とは足元にも及ばないように見えるが、彼ら二人に声を掛けられた二柱は小さく溜息の様なものを吐くと殺気を抑え込む。

 

『神の戦車、奴らの顔に免じて此処は引いてやる……あの二人に感謝しろ』

『それは此方の台詞だ悪魔王―――精々、その首が胴と繋がっている事を喜ぶが良いわ』

 

言葉と共に圧倒的な気配は消え、追従するようにドライグを射抜く幾千・幾万の視線も消える。

何とか息を出来るようになったドライグは荒い息をしながら目の前に浮いている妖精の少女に目をやった。

どう見ても矮小な存在であるちっぽけな妖精だが、その小さな体躯から有り余る程の禍々しい気配を感じる……恐らく戦っても瞬殺されるのは幾らドライグでも簡単に理解出来てしまう。

 

当然だ、彼女は本当に最初の頃から“この暗闇の世界の主”と共に居た。

初めて会ったのは何時頃だろうか? そう、それは自らの母とも言える女王の為に問題を解決しようとした時だ。

あの頃から彼女はずっとあの少年と一緒に居た……足りない部分を補う為にどれだけ苦労したかを今でも鮮明に思い出せるし、その努力が結果として彼女を本来の種族から昇華させた。

共に居た雪だるまの妖精も同じく努力し―――最終的にはこの二人は凶悪無比な力を持つ“魔人”にまで変わり果てていたのだ。

 

 

……勿論、後悔も未練も無い。

これは自分達で選んだ選択だ、誰かに強要されたものではない。

自分達の意志で、自分達の考えで、主であるかつての少年と共に歩いていけるように。

そう、超越者・神藏晃と共に生きていけるようにと―――

 

 

『あ、あああああ……』

『ホ? あ、コイツヤバイホー……放置しといたら消えちゃうホー』

『あら、私達の“魔気”に囚われ掛けてる……仕方ないのさ、取り敢えず向こうに』

 

一方、存在するだけで弱き者を消滅させてしまう程の力を得た二人は早々表に出る事は無い。

彼らの役目は言うなれば“内面から主であるアキラを支える事”だ―――特に宗教や関係などを無視し、アキラの元に集った仲魔達には小競り合いが多い為か、それを止める為の存在が必要不可欠なのである。

―――何せ、当人達にとっては高々『小競り合い』でも、下級の仲魔達にとっては死活問題となってしまう可能性がある故に。

 

二人の元妖精からすれば、目の前のドライグなど最下級の存在程度にしか感じない。

その力で良くこの場所に居られたとも思う、上級の仲魔達の魔気や覇気に囚われたら間違いなく狂うか死んでただろう……ある意味、ドライグは運が良かったのだ。

気を失ってしまったドライグの尾を掴み、二人の元妖精は深い暗闇の奥へと向かっていったのであった。

 

 

●●●●●

 

 

駒王町を襲った未曽有の大破壊から明けて翌日―――

自ら達の縄張りである駒王学園旧校舎の屋上から周囲に目を向けていたリアスは大きな溜息を吐く。

蛇王シェーシャによる被害や、自らが調べずに眷属としてしまった兵藤一誠を思ってではない―――勿論、そう言った部分もある事は否めないが。

彼女が溜息を吐いた理由、それは―――未曽有の大破壊によって全壊した筈の町が、高々一日で何もなかったかの如く元の姿に戻っていた事に対してだ。

 

「……本当に無茶苦茶ね、彼は。

全壊した町や奪われた命を“あんな方法”で元に戻すなんて……我ながら、彼と会った最初の頃の自分を殴り付けてやりたい気分だわ……」

 

しみじみとそう言うリアス、規格外という言葉は正に彼の為にある言葉だろう。

……まさか北欧神話の運命の女神ノルンやギリシャ神話のモイライ三姉妹を召喚し、駒王町を大破壊の前の状態に戻すなどと言う方法を使うなどとは誰も考え付くまい。

時を遡らせて人の命や破壊された現実を覆す、言うなればそれは正に『神の所業』と言って間違っていない程に無茶苦茶で荒唐無稽な話である。

まあ恐らく、この事を誰かに語った所で『頭は大丈夫か?』と心配されるだけだろうが。

 

大破壊以前の状態に遡らせて元に戻した事でその記憶が残っている者はリアスと眷属達だけだ。

恐る恐るリアスは幼馴染にしてもう一人の駒王町の統治者である駒王学園生徒会長ソーナに話を聞いたが、彼女は昨日の事どころかリアスの元に居た『兵藤一誠』と言う人物の事すら覚えていなかった。

 

自分達が見た光景は夢か幻だったのか?

いや、しかし……あの時味わった恐怖も、衝撃も、そして何より気付けた大切な事も決して嘘ではあるまい。

寧ろ嘘になどしたくない―――大切な仲間に大切な友達の存在に気付けた事実を。

 

「だけど、本当にどうしようかしら……彼の事。

お兄様にこれ以上余計な負担を掛けさせる訳にもいかないし、かと言って放置も出来ない。

私の眷属になんて絶対出来ないし、ソーナに任せる訳にもいかない―――だけど他所の組織に目を付けられたらそれこそ本末転倒だし、う~ん……」

 

頻りに頭を抱えて悩むリアス、それ程に鳴海アキラ(神藏晃)の存在は大き過ぎた。

一応、アキラの目的と正体不明の力の事は軽く説明されたが、肝心な事は何一つ説明される事は無い。

勿論、力の事や目的を語ってくれたと言う事は最初の出会いの時とは違い多少の信頼を得たと言う事だろう……しかしそれでも語れない事が多いと言う事だ。

 

彼の存在は確実に切り札となるのは間違いない。

しかしトランプも切り札の使い道を誤れば自分や自分の間有の人々への被害へと繋がってしまう事も明白。

既に『駒王町の統治者』と言う任を退いたリアスにとって、大き過ぎる力とは余計な災いを起こす切っ掛けとなってしまう―――それは出来るなら避けたかった。

 

大破壊が起こり、その原因であるシェーシャが討伐され、元の駒王町になってすぐ後―――

リアスは冥界を統治する四大魔王の一柱であり中心人物である兄サーゼクス・ルシファーに連絡すると、自らが駒王町を統治する事を辞退したのだ。

 

行き成りの妹の言葉に疑問を持つサーゼクス。

彼女が統治者を辞退したいと言う理由は『自分の身勝手さと矮小さと暗愚さを理解したから』との事だ。

自分は人の上に立てるような器ではないと―――その裏にあったのはアキラの存在、それと『眷属』などと宣いながら今まで確りと見ようとしなかった朱乃・木場・小猫らへの思いもあったのだろう。

まあ結局、サーゼクスと親友ソーナの必死な説得により統治者としては辞退するが、ソーナの駒王町統治の補佐と言う形で役職は残ってしまう事になったが。

 

リアスは一から自分を見つめ直す事を決めたと言う事だ。

だがこの先も彼女は色々な事態に遭遇し、その度に苦悩しながらも前へと進む道を模索していく事となる。

その道が険しいものか、茨の道か、泥塗れの道かは解らない―――しかしそれでも今の思いを忘れない限りの彼女ならば乗り越える事が出来るだろう、例えどんな細く険しいものでも道は続くのだから。

 

 

●●●●●

 

 

「―――よう、グレモリー」

 

不意に後ろから掛けられた声に振り向くリアス。

其処には何時の間に来たのだろうか、制服姿のアキラとアーシアが立っていた。

意図しない訪問者の出現に少々慌てるリアスだったが、別に相手はかつてと違い敵視を向けている訳ではない。

『敵視』と言うには語弊がある―――元から“敵”などとは思われて居なかったろう、言い表すなら『路傍の石』かそれ以下の認識しかされて無かった筈だ。

 

だが、ベル・ベリトの戦いの際にアキラのリアスに対する認識は変わった。

自分の大事な眷属……いや仲間の為に、恥も建前も捨てて助けを求めた姿には好感が持てたのだ。

前にも書いたがアキラは相手が悪魔であろうが、神の御使であろうが、堕天使であろうが、その人物が誰かの為に建前ではない本気の涙を流す事が出来る存在ならば決して命を奪う事はしない。

彼が狩るのは救いようのない下種であり、人を人とも思わない人外であり―――そして何より、己のかつて居た東京から滅び消えた筈の邪神となり果てた創造神の因子を持つ存在だけだ。

 

「連中もお前も大丈夫だったみたいだな、取り敢えず安心だ。

聞いたぜ、此処(駒王町)の統治を辞退したんだってな―――お前も色々と大変って事か、悪かったな。

あのチビ娘(小猫)も問題ないようだし、まあこれからも大変だろうが頑張れよ」

 

特に用があった訳ではないのだろう、言葉をかけた後に背を向けるアキラ。

彼は彼なりの方法で色々な事態に遭遇し、色々な事を経験せざるを得なかったリアスを元気付ける為に来ただけだ―――まあ元より、不器用な人物故に上手い事は言えなかったようだが。

 

「……一つだけ、聞かせて貰って良いかしら」

「……ん? 何だ?」

 

背を向けて歩き出そうとしたアキラに向かてリアスは言葉を投げかける。

立ち止まり首を横に向けるアキラ―――リアスは目の前の人間である筈の青年に呟くように言う。

ずっと疑問に思っていた、悪魔である彼女にとって理解出来ない事だった、だからこそ此処で聞きたかった。

 

「どうして私を……いえ、私達を貴方は助けてくれたの?

相手にはならない取るに足らない存在だったとは言っても、私達は貴方を一度は傷付けようとしたわ。

それにあの時もそう、自分の体を張ってまでどうして私を……何で他人の為に其処まで出来るのよ」

 

リアスの言葉に一度だけキョトンとした表情になるアキラ。

しかし直ぐに小さく微笑むと、彼らしい言い方で答えを返す―――それは決して建前ではなく、かつての東京に居た頃から一貫して貫き通してきたアキラの“誇り”。

 

「バカだなお前、何を訳の分からない事を言ってんだ?

―――心から助けを求める奴を助ける事に一々理由が必要か? 少なくとも俺はそうは思わないな。

それにまあ助けるって誓った相手に目の前で死なれたら目覚めが悪い、だから体張っただけさ」

 

彼は決して弱者を導く聖人君主ではない。

誰も彼もを救える訳でもないし、今まで救いようのない下種共とは言っても多くの命を奪ってきた。

何時か命が尽きた時に彼が行く場所は間違いなく地獄、寧ろそれよりも救いようのない世界かも知れない。

だが、それでも―――彼は己の生き方を貫くと誓っている。

 

支えてくれた仲間達が笑って暮らせるように。

自分の周りの掌から零れていく命を少しでも救いたいと願った日からそれ以外の道を進む気も無い。

悪鬼と罵られようが、死神と恐れられようが、そんな事はどうでも良い―――それがアキラの決めた道だからこそだ。

 

そんな強い意志に、強い思いに、強い誇りに自然とリアスは惹かれていた。

彼女は我儘放題に生きていたし、本気で異性に惹かれた事など無い―――寧ろ、男など皆一緒だとも思っている。

しかしこの人物は違う、何が違うのかは“今の彼女”にはまだ分からないが、これだけは理解出来る。

 

今、この場所で彼を手放したら後悔する事になると―――

気付けば自然とリアスはアキラに向かって土下座すると、頭を下げていた。

 

「オイ、何の心算だグレモリー?」

「ど、どうしたんですか? あ、頭を上げてください~」

 

行き成りの行動に戸惑うアキラとアーシア、リアスには二つの思惑がある。

其の為には形振りなど構っていられない……その討ちの一つの手放したくない、共に居たいと言う強い思いが其処にはあった。

勿論打算的な部分もあるだろうが、それよりも何よりも“彼”と言う存在が目の前から居なくなる事が耐えられない―――人はそれを『愛』と呼び、または『依存』とも『執着』とも呼ぶ。

まあ今の彼女は己の感情の意味など理解出来ては居ないだろう、彼と言う存在を手放してはいけないと言う思いの強さだけがリアスを突き動かしていた。

 

「こんな事を頼むのはお門違いだと思うわ。

だけど多分、此処で言わなければ後悔する事だけは解る―――だからお願い、貴方達の力を私に貸して下さい。

私は、私は、朱乃や裕斗や小猫の見本になれる“主”になりたい、其の為には外部だけで私を判断しない貴方のような人物の支えが必要だから―――だからこの通り、お願いします!!」

 

口から出た言葉には嘘も偽りも無い。

もう一つの思惑、それは自らの眷属達に恥じぬ立派な主となる事。

彼女を知る者は誰もがグレモリー家と現四大魔王の血族と言う『威光』により本気で見てくれる者は居ない。

故に彼女は明らかに己よりも上の、建前も何もなく素で自分を見てくれる者を欲したのだ。

それにアキラは少なくとも主としての立ち振る舞いは己よりも遥かに高い、そんな人物を真近で見続ける事で自分自身に足りない部分を見出そうと考えたのだ。

 

……アキラにも彼女の本気が解らない訳ではない。

上に立つ者が恥も形振りも構わずに土下座などをする事がどれだけの屈辱かを十分に理解している。

其処までして彼女には叶えたい事がある、其の為に己を利用しようとしているとしても責める事など出来まい。

小さく肩を竦めると、アキラは頭を下げ続けるリアスに向かって言う。

 

「悪いが、俺は自分の事情でお前の眷属にはなれん。

まあその代わりに『依頼人からの依頼』って形でお前に雇われる事にするさ、しかも無期限でな。

ただし俺は他にも雇われてる人物居るから其の心算で、それと俺は嫌な仕事は嫌と断るぞ?

後はそうだな、もしお前が弱者を虐げるような存在となったら俺は躊躇なくお前を殺す……それでも良いなら俺と“契約”しな」

 

彼と契約するには文字通り『覚悟』が必要だ。

悪鬼羅刹の如き力を持ち、人間であれ神であれ悪魔であれ堕天使であれ、そして富める者であれ貧しき者であれ、弱者を虐げる者は皆等しく皆殺しとする。

 

必要な覚悟、それは―――己が道を踏み外した時、殺されると言う事。

しかし己の理想を、己の信念を、己の誇りを貫き続ける限りは決して彼の刃が雇い主に向けられる事は無い。

……その言葉の意味を考え、理解し、リアスは小さく頷いた。

 

「解った、もし私の道が歪んだ時はこの首を差し出すわ……約束する、だから契約を結んで下さい」

「了解、契約成立だ―――あ、ちなみに契約料はそれな」

 

笑顔で紙を差し出すアーシア。

リアスは受け取った依頼料に書かれた依頼料を見、一回眼を擦って再度見直す。

―――しかし何度も見直しても金額は一緒、額は下手すれば新車の軽自動車が買える位だ。

 

「ちょ!? な、何よこの金額!?」

 

「いや何って依頼料だが? 当然だろ、無期限で雇われるんだからよ。

因みに言っとくがこれで“格安”だからな? 慈善事業じゃないんだから貰うもんは貰わないとな」

 

流石にその金額はリアスがポンと出せるものではない。

彼女、金銭感覚が少々狂っているとは言え……この額に対しては冷静になれたらしい。

因みにその後―――リアスの胃に穴が開く程の必死な金額交渉により、出世払いになったとかならないとか。

(尚、アキラは本当は覚悟を試す方法の一つとして使っただけで高い値を取る気はない……途中から余りにもリアスの狼狽ぶりと必死さに面白くなって冗談と言わなかっただけである)

 

 

●●●●●

 

 

~×××××~

 

「……フム、何かあったと言う事かな?」

 

小さく呟く荘厳な雰囲気を醸し出す偉丈夫、彼こそが冥界における長が一人サーゼクス・ルシファーだ。

彼は妹・リアスから突然告げられた『駒王町の統治者を辞退する』と言う言葉に首を傾げている。

 

リアスは幼い頃から我儘放題な娘だった。

勿論、甘やかした自分や父に責任もあると思うが、それでも責任感のある女性へと成長したと思う。

彼女に初めて統治する地が出来た時は心から喜んで居た筈だが……ならば一体何があったと言うのだろうか?

 

「サーゼクス様、お茶をお持ちしました……リアス様の件でお悩みですか?」

「ん? あぁ、済まないねグレイフィア―――ハハハ、顔に出てたかな?」

 

彼女の名はグレイフィア・ルキフグス。

グレモリー家のメイドにして魔王サーゼクスの妻、その正体は『番外の悪魔(エキストラ・デーモン)』と呼ばれる冥界屈指の実力者の一人でもある。

表情の起伏が少ないのが唯一の欠点とも言えるが、それでも夫の悩みを理解出来ると言うのは深く信頼し合っている証拠だろう。

 

「……サーゼクス様、そう言えばお手紙が」

 

「ああ、ありがとう……やれやれ、どうやら父上は“例の件”を早める心算らしいね。

全く以て、本当にリアスの幸せを考えているのか……フェニックスと繋がりを持つのが娘の幸せを奪ってまで必要な事なのかな、私には理解出来ないよ」

 

例の件―――それが新たな物語の始まりの切っ掛けとなる。

困ったように肩を竦めるサーゼクス、彼としては大切な妹には幸せになって欲しいと言う願いがあった。

しかし悲しいかな、冥界の長の一人とは言えどそう言った部分口出しをする事は出来ない……元々、サーゼクス自身も決まっていた許嫁を振り切って恋人となったグレイフィアと結ばれた身の上だ。

……流石に彼の一存で再び父親や母親の顔に泥を塗る訳にもいかないし、何より相手が名門の『フェニックス家』である故に例え『魔王』と言えどおいそれと口出しする訳にはいかない。

自分が口出しした事により両家の関係が悪化し、その小さな歪みから面倒な事に発展してしまう可能性だってあるのだから。

 

「サーゼクス様はこの度のリアス様のご婚礼の話に反対なのですか?」

 

「うん、そうだね……私としてはリアスに幸せになって貰いたいんだ。

フェニックス家の事を悪く言う気はないけど、あそこのライザー君には余り好感が持てなくてね。

聞いた話によれば無類の女好きで、他人の妻であろうが恋人であろうが自分の気に入った女性ならどんな手を使ってでも奪い取るような男の風上にも置けない人物らしいんだよ。

だけどその証拠はないし、レ―ディング・ゲームでも自分の特性を利用して勝利を掴み続けてる……上層の老人達は彼をいたく気に入っていてね、調べようにも調べる事が出来ない。

更にフェニックス家は『不死鳥の涙』で莫大な利権を得てる、その資金をいざという時の戦争の為の資金として当てにしてるんだろうね、あの老害達は。

フウ……『四大魔王の一角』などと呼ばれ、冥界の統治を任されている筈のサーゼクス・ルシファーともあろう自分が、老害達の勝手な横行を止められないなんて情けない事この上ないよ」

 

再び大きな溜息を吐くサーゼクス。

どの世界もそうだが、必ず余計な口出しをしてくる連中は居ると言う事だ。

サーゼクスはサーゼクスなりに冥界の悪しきそう言った部分を変えようと努力してきたが、結局は何も変わらない……何の為に『魔王』となったのか? これでは所詮はお飾りに過ぎないのではないか?

彼のそんな苦悩を見つめ続けて来たグレイフィアからすれば無念さは痛い程に理解出来る―――だが結局、幾ら悔しさに歯を食いしばっても、現状を変える手段が無い限りは何も変わる事は無い。

 

―――例えば、上層部の老人達を追い落とせる程の事件でもあれば。

しかしそんなものは老人たちは直ぐにもみ消してしまうだろう、彼らが消す事が出来ない程の決定的な証拠でも出れば話は別だが。

 

「やれやれ、そんな巧い話がある筈が無いか。

仕方ない―――私からそれとなく父上にリアスの婚礼を考え直すように文を送っておこう。

最悪、もしも婚礼の儀が進んでしまったら……その時は仕方ない、少々荒い手を使わせて貰おうか。

まあ出来る事ならやりたくはないけどね、確実に父上から勘当を言い渡されるだろうから……ミリキャスが大好きなお祖父ちゃんに会えなくなったら可愛そうだからさ」

 

其処でふと、サーゼクスは冗談交じりにグレイフィアにある事を呟く。

 

「そうだ……今、冥界で騒がれている“幻影の狩人”に老害共の暗殺を依頼するのはどうかな?」

 

「サーゼクス様……そのような戯言や噂話を信じておられるのですか?

在り得ませんよ、そんな存在が居るのならば等の昔に他の魔王様方が眷属とする為に目を付けられているでしょうし、そもそもアジュカ様の眼から逃れられる存在が居る筈がありません。

その事はサーゼクス様、貴方こそが一番良く分かってらっしゃる事でしょう? つまらないゴシップに飛び付くよりも現実的な手を画策した方が宜しいかと思いますよ」

 

確かにその通りだ、言い方は手厳しいが。

そんな噂話に飛び付くより、現実の事を考えねばなるまい。

サーゼクスは小さく苦笑すると、愛妻の入れてくれた茶を飲み干し、公務へと向かうのであった。

 

 

 

まさか彼もこの後に起こる事など予想出来まい。

サーゼクスやグレイフィアが『噂話』と断じた存在が、まさか自分達の最愛の妹の元に雇われているなどと。

そして……彼の存在が冥界はもとい、残り二つの陣営の現状と未来すら変えてしまうと言う事を。

 

『幻影の狩人』―――かつては多く語られるも今は噂話に過ぎぬ存在。

しかし彼は後にこの世界において最も有名な存在となる。

 

―――“世界を壊した大罪人”

 

―――“全てを喰らい尽す死神”

 

―――“人を超え魔へと至りしもの”

 

そして、その中でも最も有名なものは―――“神魔鏖(あくまごろし)”だろう。

彼がこの先で何を成すのか、それは誰にも解らない。




皆様の温かいご意見・ご感想を心よりお待ちしております


【補足】

ヒ―ホー君とナパイアちゃん
この子達、実は妖精でしたが色々な事情で魔人へと至りました
これは私が前に書いてた人修羅が主人公の作品のオマージュです、あっちの場合はピクシーでしたが
……だって今回、DLCだけ買っとけば凄い子作れるんですもん


尚、運命の女神ノルンはモイライ三姉妹と同じく三姉妹
北欧神話の運命を司る三姉妹がノルン(ウルズ、ヴェルザンディ、スクルド)
ギリシャ神話の運命を司る女神がモイライ三姉妹(アトロポス、ラケシス、クロト)
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