ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~ 作:ZERO(ゼロ)
例によって許せない方は御読みいただかない方が宜しいと思いますね
お許し頂ける方は本編へとどうぞ
なし崩しに決まってしまった親の決めた婚約者であるライザー・フェニックス陣営とのレーディング・ゲーム。
戦力的にも、人数的にも、実戦経験的にも明らかに劣るリアス達―――少しでもその“差”を埋めるには今ある戦力を強化していくしか道はない。
簡単に戦力など得る事は無いし、TVゲームのキャラクターの様に短期間で爆発的に強化出来る訳でもない……結局、人間であれ悪魔であれ『努力』や『修行』をせねば強くはなれないと言う事だ。
……まあ所詮、時間が短過ぎる故に『付け焼刃』に過ぎないだろう。
しかし何もしないなどと言う選択肢は元より彼女には無い、恐らくこれが最後のチャンスにであろうから。
無茶でも無理でも無謀でも勝たなければならない―――己の願いの為にも、眷属達の為にも。
其処で彼女が思い付いたのは『山籠りの修行』と言う古典的な方法であった。
だが此処で問題が一つ浮かび上がる……実はリアス、山籠り出来る場所に心当たりが無かったのである。
自分の実家が持つ土地や所有物件は数多くあるが、今回はリアス家の総意に逆らっているのだから流石にいけしゃあしゃあと実家の息の掛かった場所で修業をするなどと言う恥晒しな行為は出来ない。
されど彼女ははっきり言えば“箱入り”故に実家の息の掛かった場所以外の所など知らないし、今迄も自分の力だけで何かを成し遂げてきた訳では無い。
常に『グレモリー』と言う名が関わり、甘やかされ好き放題に近い生き方をして来た彼女には『グレモリー家』と言う力が無くては殆ど一人では何も出来ないと言う事だ。
―――そう言う意味ではアキラとは正反対である。
彼は生まれた時から孤児であり、決して恵まれた生活を生きていた訳ではない。
いや、寧ろ普通よりも苦しい生活を生き続けていた筈だ……喰うか食われるか、弱肉強食と言う名を冠する東京にて悪魔を殺さなければ生き残れないと言う現実を生きていた。
しかしそんな世界で彼は多くの人々と触れ合い、時には誰かを助け、また時には誰かに助けられ、結果的に最後には掛け替えの無い絆を育んだ仲間、心強い仲魔、多くの人々に慕われるまでに至ったのだ。
かつての東京で学んだ事を生かし、今も多くの伝手を持ち、己一人でもある程度の事を成せる自立した彼とリアスは正に正反対だろう。
そんなアキラの伝手で修行出来る場所と休める場所を用意して貰ったリアス達。
内心、何も出来ない己の情けなさに落ち込むリアス―――だが修行出来る場所を得たのだからそれを生かさねば意味があるまい。
気を取り直し、修行の支度を終えたリアス達はアキラに指定された地へと向かうのであった。
因みに補足しておけば、アキラはレ―ディング・ゲームには出場出来ない。
理由は幾つかあるが、その中で最たる理由は『只の人間を非公式とは言え格式高いレ―ディング・ゲームには参加させる事は出来ない』と言うグレイフィアの言葉であった。
一応、回復能力と言う希少な能力を持つアーシアは許可されたのだが……所持する力(※)を多くの者に知られるのは裏の仕事に支障をきたす可能性がある故に表立っては使えない。
それを考え、アキラなりの優しさから修行環境を用意したのだ……彼としては、リアス達自身の力で苦境を乗り越えて欲しいと言う思いもあったのだが。
※)ガーディアン、銃器精製、反動・運動量・重力ベクトル無効化
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「……一つ聞いて良いかしら、アキラ君?」
「ん? どうしたグレモリー? お喋りしてても修行にはならねぇぞ?」
「いや、勿論修業はするけど……此処は何処なの!? どう考えても普通の場所じゃないわよね此処!?」
朗らかに笑いながら答えを返すアキラ。
対し、怒鳴った後に再び周囲を見渡しながら明らかに絶句しているリアス。
しかし彼女の気持ちも分からなくはない……何故なら山籠りに来た筈なのに目の前は白い砂浜、青い海、青い空、照らす美しい太陽―――何故、其処らではお目に掛かれれないような美しいビーチに居るのだろうか?
「まあ気にすんな、此処ならかなり広いから色々な修行が出来る筈だ。
あ、因みに周囲を破壊するような技能とか魔法関係の修行したいなら事前に言ってくれよ?
荒らされるの嫌がるからよ、此処の主のメフィスト……其れと飯食べたい時が来たら早めに言ってくれ、ウチのコックのニスロクが腕を振るってくれるから。
後は風呂か……取り敢えずヴィヴィアンとキキーモラとシルキー辺りにでも頼むか、マーラ様が覗きしない様にミロクにでも結界を張って貰うとして……ブツブツ……」
……何か聞かない方が良い名前が幾つも出て来た気がするが。
そして多分、アキラが呟いた人物達の名前には得てして質問を返さない方が良いのだろう。
彼と正常心のままに付き合っていくには見ざる聞かざる言わざるの精神が一番良い。
―――何も聞いていない。
此処のビーチの持ち主が冥界でも有名な悪魔と同名である事も、コックが現四大魔王の一柱であるベルゼブブの祖先である『暴食の王』の専属コックなのも。
しかも風呂の用意してくれるのがロシアとイングランドに伝わる家事の妖精、かの聖剣を齎せた湖の妖精なのも聞き違いだ。
更に覗きをするなどと不名誉な事を言われてるのが煩悩の魔王の名前なのも気の所為だ、絶対に気の所為だ、気の所為だとしておこう。
「ああそうだ、忘れてた。
此処は時間の概念が止まってるから修行に満足したら『Verweile doch, du bist so schon(時よ止まれ、お前は美しい)』って呟いてくれ」
そう、此処は時の概念が止まっている場所だ。
望めばそれこそ何年、何十年、何百年、何千年に至る時を幸福のままに永遠に生き続ける事も出来る。
かつてのアキラもこの空間に囚われた事もあったが、彼自身の精神力と仲間達の支えで脱出し、最後にはこの世界の主たる魔王メフィストを屠った。
其処からメフィストを仲魔とした後、何度となくこの空間を利用し、所謂『血の滲む様な努力』などと言う言葉が生易しく感じられる程に修行を重ねて今に至る程の『力』を確立したのである。
リアス達は驚いているが、はっきり言ってアキラにとってこの場所は娯楽の為の場などではない。
此処は修行場―――いや苦行の場と言い表した方が正確であろう、正直言うなら『地獄に最も近い楽園』である。
まあそんな場所に招待した時点でそれなりの信頼をリアスに対して持っていると言う事だ。
「ま、此処なら時間が短くても存分に鍛え直す事が可能な筈だ。
俺はレ―ディング・ゲームとやらのルールで参加出来ないからな、代わりにこの位の手助けしても罰は当たらねぇさ」
言い終わるとそのまま歩き出すアキラ。
向かう先にはこのようなビーチには似合わない、まるで昔話に出て来るかのような一軒家。
どうやらあの場所が宿泊する為の場所のようだ……他に建物は存在しない故、休憩はその場所でしなければいけないらしい。
ふと其処で一度立ち止まるとアキラは背を向けたまま口を開く。
「あ、悪いが俺とアーシアは野暮用があるから暫く留守する。
何か用事があるならこの場所で日が沈んだ位になったら来てくれ、場所はあそこだ……とは言っても、此処にはあの建物しかないがよ」
正直言ってアキラもアーシアも学校に通っていない時間は実に忙しい。
何せ本業の仕事はひっきりなしに来る、表の仕事である探偵(というか便利屋?)の方も『迷い猫探し』やら『身辺調査』やらが数多く依頼されている故に。
更にはマダム銀子から依頼された裏世界に蔓延し始めているドラッグ・Infernoの件もある故、ゆっくりなどしている暇がないのだ。
……とは言え、己の直感が正しければマダムからの依頼の方は近い内に結果が出ると思われる。
前にも書いたがアキラは昔から“偶然”と言うものを信じないし、感じた疑問を放置する程愚かでもない。
用意周到に情報を調べ上げ、臆病な程に準備をしてから事に挑むというのが彼のスタンスだ。
裏の業界において長く賞金稼ぎを続けられる秘訣は『実力』だけではない。
危険を回避する為の用意、状況を理解する為の洞察力―――そして最終的には『運』も必須である。
そういった意味ではアキラは『賞金稼ぎ』として最も適した人物だろう。
「さて……そろそろ“アイツ”からの報告が来る頃か」
小さく一人呟くとアキラはアーシアと合流するとのんびりとした足取りで何処かへと向かっていく。
最初こそ呆気に取られていたリアス達もまた、少ない時間でレ―ディング・ゲームに勝つ為の実力を磨くべく、各自で修行を始めるのであった。
●●●●●
「チッ、やはりあの時感じた既知感は間違いじゃなかったって事か」
メフィストの創った修行場から出た後、駒王学園の学長室で紙束を見ながら苦々しく呟くアキラ。
隣で背伸びしながら覗き込んでいたアーシアも、同じような紙束を見ていたマダム銀子も表情は険しい。
「―――やれやれ、全く以て碌でもない事をしてくれたもんだねあのお坊ちゃんは。
“悪魔”が欲望に忠実なのは昔から知っているが、此処までやってくれると最早救いようが無いね」
彼らが目を通していた紙束は『報告書』である。
アキラがかつての東京から信頼し、隠密行動や情報捜索などを任せる仲魔の一人・オンギョウキの記したもの。
その内容は余りにも身勝手で、余りにも自己中心的で、そして余りにも救われる事のない内容だった。
何せ読んでいるだけで胸糞悪くなる内容、アーシアなど憤怒と悲哀の織り交じった表情のまま震えている。
恐らく無垢なままの頃のアーシアならば一生知る事のなかった内容なのだから仕方ないのだが。
「どうして……どうしてです!?
何で、何で関係の無い人達をこんなに巻き込んで平気な顔をしていられるんですか!?
自分の身勝手でその人達の人生を奪った挙句、飽きたら今度は勝手な都合で捨てるなんて―――ッ!!
許せない……グレモリーさんの事が無かったとしても絶対に許せないです、アキラさん!!」
アーシアが憤慨するのも無理はない、報告書の内容はそれ程に酷い内容だった。
ターゲットである人物は気に入った女性を策を弄して追い込み絶望させた挙句に孤立させる。
孤独に苛まれる女性を言葉巧みに誘惑し、自らと契約させ、逃げる事の出来ない状況を作り出した後、ある手を使って一生己から離れられない様に追い込むのだ。
其れは表立っては何の効果も無い様に見える一種の媚薬作用を持つ興奮剤。
しかしその実、成分に極微量……まさに調べても検知不可能な程の量の『常用性の成分』が含まれていた。
勿論それは微量であれ現世に存在する『薬物』の成分とは比較出来ない強さを持つ麻薬―――
常用性・依存性は無いと銘打たれていても、蓄積される事で最終的には“摂取しなければ生きていけない身体”となってしまうドラッグ。
検知出来ない程の微量な成分は冥界においても天界においても希少な物質。
永遠に生き、傷を負ったとしても炎と共に再生する冥界の古参貴族が創り出した―――『不死鳥(フェニックス)の涙』と呼ばれる回復薬の成分と同じ。
その劇薬の名は“知らず知らずに不死鳥の炎により永遠に焼かれ苦しむ地獄”を皮肉って製作者により名付けられた。
―――『Inferno』と。
……此処まで語れば裏世界で蔓延し始めているドラッグの出所は理解出来たであろう。
そう、Infernoは冥界において稀少にして有数たる古参貴族である『フェニックス家』から齎されたものだ。
まさか冥界において『フェニックスの涙』と呼ばれる回復薬を生み出して富と名声を得たフェニックス家がイカレたクスリを生み出していたなどと考える者は殆ど居まい。
いや寧ろ、当のフェニックス家すら裏世界を騒がしているドラッグや女子の失踪事件に関わりがあるなどと言う事を知る筈もあるまい。
何故ならこの二つの事案はフェニックス家の与り知らぬ場所で動き続けていたのだから。
『フェニックス家の親族』と『冥界上層部の老害達』によって画策され、実行されてしまった愚かな計画。
地位を欲し、力を欲し、優越感を得たかった一人の男と、それを利用する事で欲を満たしたかった者達が進めた下劣な行為。
何人もの女性をモノの如く扱い、快楽と薬漬けにした挙句、家畜の如く売り払う。
彼らの齎した行為の結果―――多くの者達は命を落とすか、気が狂って廃人となるか、家畜以下の生活を送り続けるかという現実を生んだ。
犠牲者達は幼子の如く状況を理解出来ずに快楽に溺れ、現状を理解出来ずに死ぬか狂うか唯生かされているだけという現状が唯一の救いだろうか……いや、決して救いである筈が無い。
生き地獄の如き現状を生み出し、己の欲の為に他者を犠牲にするその人物。
真っ先に殺すべき下劣で畜生以下の悪魔―――その人物はレーディング・ゲームにて結果を示し、冥界上層部に気に入られている件(くだん)の人物だ。
「―――ライザー・フェニックス、フェニックス家の三男坊が随分と碌でもない事をしたもんだね」
マダム銀子は表情を変えずに、明らかに明確な怒りを込めて報告書に記された名を呟く。
感情表現は少ないが、東京がまだ帝都と呼ばれていた頃の時代から平穏に生きる者達を導き護り続けて来た者でさえ今回の事案程に身勝手で救いようのない『加害者』は見た事が無かった。
罪には罰を、畜生には相応の末路を。
例え相手が有数の貴族であろうが、何処かの国の王であろうがそんな事は関係ない。
畜生へと堕ち、死ぬべきを失い、己が信念を失った愚者に対して振り下ろされる断頭の刃―――それこそが『アキラ』の役目であり仕事であるからだ。
しかしこれだけの報告を受けて尚、解せない部分も正直ある事は否めない。
憤慨し、顔を赤くしているアーシアを制しながらアキラはマダム銀子へと目を向ける。
アキラの表情に意図を理解しているのだろう、マダム銀子は再び表情を変えないまま口を開く。
「アキラ、私もアンタと同じように解せない部分がある。
件のフェニックス家の三男坊の事だろう? 気になって昔の伝手で私なりに調べてみたんだがね。
あの小僧は元々昔から女関係にはだらしなく傲慢で、多くの女を侍らしては愉悦を感じてたらしいが……持って生まれた能力については一族の中でも下から数えた方が早かったらしい。
所謂一族の中の『落ちこぼれ』で、自分のそんなコンプレックスから目を背けて逃げる為に傲慢な態度を取っていただけで本来は其処等の小悪党か小チンピラ程度の性格であったらしいじゃないか。
そんな輩が一族の裏でドラッグを作って蔓延させ、薬漬けにした女子を冥界の碌でなし共にあてがって地位と名誉を得るなんて生業を出来るものかね?
―――まるで“誰かに入れ知恵”されたかのような転身ぶりじゃないか」
マダム銀子の言葉に小さく頷くアキラ。
そう、確かにその通り―――アキラが調べた情報によれば言い方は悪いが『ライザー・フェニックス』と言う人物、本来は大それた事など出来ない“出来損ないの小心者”だったらしい。
“格式高いフェニックスの面汚し”。
フェニックス家の面々がどう思っていたかは別としても、幼い頃からライザーは他からそう呼ばれ続けていた。
持って生まれた力が先天的に脆弱で、妹・レイヴェルを含んだ四兄弟の中でも芥の如く魔力が低ければ当然の事。
彼の父も、彼の母も、彼の兄二人も彼の歪みに気付く事が出来なかった。
当然だろう―――彼らは謂れなき言葉の暴力に苛まれ、幼き心を擦り減らし続けていた少年を“見ていない”。
ただ悲しむ少年に“物を与え”、ただ憤る少年の“歪んだ願いを聞いた”だけの事だ。
愛を与える事無く物を与え、望むがままに振る舞う為の権力を与えるだけ。
恐らくその行動に完全に愛が無いとは言えないが、彼らが当たり前と思った行為が少年自身を歪めてしまったのだろう。
結果としてライザーと言う少年は壊れ、自尊心を満たす事だけを己の目的としてしまったのだ。
しかし確かにアキラの言う通り、昔のライザーは自尊心を満たす事だけが生き甲斐の卑屈な小心者だった。
所謂、金の力や家の威厳を使って好き勝手やっているだけの馬鹿なボンボンであり、自らの家が製造して富を得ている『フェニックスの涙』を利用して覚醒剤を作るなどと言う大それた事を思い付く訳がない。
―――と言う事は、考え付く選択肢は自然と狭まる。
「冥界の老害共に入れ知恵でもされたか。
それとも協力者……いやこの場合は“共犯者”か、その共犯者に唆されてるか。
若しくは……チッ、あのクソ鳥の情報ばっかで肝心な背後関係が一切見えて来ねぇな」
アキラの脳裏には“もう一つの選択肢”も浮かんだが、如何せん情報がライザーに集中し過ぎている。
当然ライザーも罪を犯しているのだ、相応の罰を与える事になるが……背後関係がはっきりしない現状では恐らく全ての責任をライザーに押し付ける形、つまり『蜥蜴の尻尾切り』になる可能性が極めて高い。
依頼は『薬物及び首謀者の全排除』だ―――背後関係も完全に把握した上で殲滅しなければまた同じ事を企む輩が出て来るだろう思われる。
「……仕方ねぇ、取り敢えずはライザー・フェニックスへの監視を増やす。
それとウチの連中(仲魔)をヤク漬けにされた奴らの捜索と奪還に回してこれ以上の被害者を抑える。
中々厄介なドラッグだが解毒出来るようだからな、そっち関係は俺とアーシアに任せろマダム。
後は背後関係を暴く方法だな―――正直気が乗らねぇが一つ策はある」
余り浮かない表情で呟くアキラ、確かに彼の言う通り調べる方法はある。
だがその方法は簡単に言えばアーシアを使った『囮捜査』だ、正直な話をすれば自分が潜入するのは何の問題も無いがそういった事をさせるのは気が引けた。
それに―――彼の考えている策は今直向きに努力を重ねて己の未来を変えようとしている人物の覚悟に泥を塗りつけるような行為に思えてならなかったのだ。
しかし現状において他に方法が無ければその策を取り得るしかないだろう、気が引けても仕事は仕事だ……これ以上放置しておいてはライザー達によってもっと多くの犠牲者が出てしまう。
大きく溜息を一つ吐き、肩を竦めるとアキラはアーシアに己の策を語る。
彼の言葉に最初はキョトンとした表情をしていたアーシアだったが直ぐに微笑みながら頷く。
多くを聞く事もせず、多くを語る事もせず、唯パートナーであるアキラを信じて動く―――其処にはかつての東京でアキラと共に戦っていた仲間達に匹敵する“絆”が確かにあった。
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「はあっ、はあっ、はあっ……」
まるで深淵の如き闇に包まれる鬱蒼とした森の中、寄り添うように進む二つの影が居た。
どうやら一人は歩き方から垣間見るに軽くはない傷を負っているのだろう、もう一人が必死に支えている。
「ひ、姫様……ボクに、構わず……逃げて下さい」
「何を、何を言ってるんですの!? 出来る訳ないでしょう!? 諦めては駄目ですミラ!!」
何かから逃げる様に懸命にミラを支えて先へ進み続けているのはフェニックス家の長女・レイヴェルだ。
力無く肩を抱かれているミラの方は身体中に浅くない傷が多く刻み込まれている、見れば直ぐ分かる程の深い傷もあった。
一体誰が彼女にこのような傷を与え、更にフェニックス家の姫とも言えるレイヴェルと共に何かから逃げる状況となってしまったのか?
「しかしお兄様が……どうしてお兄様があのような非道を……!!?」
彼女達二人が逃げている理由は極めて単純な理由だ。
そう、レイヴェルは知ってしまったのである……自らの兄が行ってきた所業の全てを。
実は彼女、兄・ライザーの様子が可笑しい事に疑問を抱いていた。
ライザーは確かに卑屈で自尊が強いだけの小心者、それでも女性に手を上げる様な真正の屑ではない。
あんな人物でも女性に対してだけは優しいフェミニストであり、女をモノの如く扱うような下種ではなかった。
しかし何時からだろうか、ライザーが女性に優劣を付けるようになったのは?
自分にとって有用な女性だけを眷属とし、次から次へととっかえひっかえするようになったのは?
外見は幼いとは言えレイヴェルも立派な淑女と言って良い年頃だ、眷属をコロコロ変えているという事実が示す事を理解してない訳ではない。
トレードと言う方法もあるが、本来は眷属となった者がそれを解除されるには“対象者の死”か“主の死”以外の方法はないのだから。
父や母や兄達は力のないライザーを煙たがり、腫物に触れるかの如き扱いをしていた。
そんな中でもレイヴェルだけは本当に心から兄を慕い、他の家族のとは違い普通に接していた。
他の家族の誰よりも支え合って生きていくという想いを強く持ち、笑いあっていたかった。
―――だからこそ信じたくなかった。
ふとした事からミラによって語られ、知ってしまった兄の行った下劣な所業を。
かつて眷属であったミラの姉は利用するだけ利用され、必要なくなった後に冥界の上層部達の慰み者として輪姦(マワ)され、それが理由で精神を病んで自ら命を絶った。
その原因にはライザーがフェニックス家の資金源でもある『フェニックスの涙』を元に作ったドラッグ・Infernoの実験体の一人であったと言う事も関係あるのだろう。
信じられなかった、いや信じたくなかった。
それでもミラの語る言葉と眼差しに嘘は感じられず、故あって悩んだが家族に相談しようとレイヴェルは両親の元に訪れる……だが其処で見た光景は彼女の想いを無残に打ち砕く。
苦しみながら薬を求める両親と兄達、下卑た哂いでその姿を見下すライザー。
既に手遅れだったのだ―――レイヴェルの望んだ『家族』という絆は、自らの兄によって千切られていた。
憤怒、絶望、悲哀、落胆、喪失感、数々の感情が一挙にレイヴェルに降り掛かり、彼女の悲鳴が木霊する……そこから先の記憶は曖昧である。
レイヴェルが気を取り直した時、彼女は誰かに支えられて屋敷を逃げ出していた。
ボロボロで、今にも倒れてしまいそうなミラ―――語られた話によれば、殺されそうになったレイヴェルを必死になって助け出したのがミラであったという。
復讐の為に敢えて茨の道に足を踏み入れたミラ。
レイヴェルを放置しておけばライザーを殺す事も出来たかもしれない、だが彼女には出来なかった。
勿論ライザーもフェニックス家も憎い、しかしレイヴェルだけは別だ―――どれだけ粗末にされていても彼女だけはいつも自分を庇い守ってくれた、レイヴェルと言う存在にミラは救われていた。
復讐を果たす筈だった、全てを終えて養父母や義姉の居る場所に行く心算だった……しかしその思いとは裏腹に彼女はレイヴェルを救い、結果として瀕死に近い傷を負う事となってしまったのだ。
彼女達の耳に草木を搔き分ける音が響く。
“今”のライザーにとってレイヴェルとミラは邪魔者にしか過ぎない。
追い付かれたが最後、確実に消されるだろう……瀕死の傷と消耗の激しい状態ではないミラならば潜り抜けれたかもしれないが。
だが、そもそも此処を乗り切れたとしても二人には行く場所などない……それでも一縷の望みに賭け、フェニックス領を抜けてリアスの両親の治めるグレモリー領へと向かっていた。
リアスの両親はレイヴェルの事を本当の子の様に思い可愛がってくれていた、今回の顛末を語れば身を潜める場所を提供してくれるだろうし、何より他の領地で愚かな真似はしまい。
やがて鬱蒼とした木々の合間から光が差し込む。
フェニックス領の森を抜けられたのだろう、そんな安堵がレイヴェルに訪れていた。
―――しかし、運命とは実に皮肉なものだ。
「そ、そんな……こ、此処は……」
森を抜けた先、其処に広がっていたのは断崖絶壁。
他に逃げられる場所は無く、覗き込めば下が全く見えない程に深い。
飛んで逃げると言う方法もあるがミラを連れている状況ではそれも叶わない―――完全に手詰まりだ。
「―――もう追いかけっこは終わりですかレイヴェル様?」
響いた言葉に目を向ければ、其処には狂気に歪んだ目を向けるユーベルーナの姿。
その後ろには同じように狂気で血走った目をしたライザーの眷属達が其々の得物を構えて近付いてくる。
皆同じような表情で哂っている、気がふれた狂人の表情で近付いてくる姿は何処か蘇った死者の葬列の如く。
Infernoによって壊れた彼女達は普段は普通に見えど、既に二度と戻る事の出来ない領域にまで至ってしまっているのだ。
「ならば早く死んで頂けますか?
ライザー様からの命令で其処の薄汚い女共々始末しろと仰られておりますので♪
まあライザー様の妹君ですのでせめてもの情けで楽に死なせて差し上げますのでご安心ください♪」
言うや否や、掌をレイヴェルとミラに向けるユーベルーナ。
二人の言葉も状況も彼女達には既に関係ない、狂った彼女達にとってライザーの命令は絶対だ。
有無も言わさずに魔法を二人に向かって放つ―――どうやらミラが身を呈して庇ったようだったがそんな事はどうでも良い。
周囲に響く爆発音、立ち昇る土煙。
暫く時間が経ち、土煙が薄くなり目の前が確認出来るようになると其処に二人の姿はない。
爆発によって跡形もなく消し飛んだか、万が一助かったとしても下も見えぬ崖から落ちて命は無いだろう。
満足そうに狂気に満ちた目を崖下に向けていたユーベルーナ達はその場から去っていった―――遥か下の岸壁から生えていた腕の様なものがゆっくりと影の中に消えたのを確認すらせずに。
皆さんすっげー久しぶりです、全然投稿できずごめんなさい( ;∀;)
都合で長い事パソコンの無い場所で仕事してたので本当に遅くなりました
まあ後は私の文才の無さと遅筆が原因なんですけどね
なんか久しぶりに書いてて訳分からなくなりましたけど……(-ω-;)
ま、ぼちぼち続きも書いて来ますんで長い目でお願いします(o_ _)o))