ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~ 作:ZERO(ゼロ)
更に文中に性的描写を思わせるニュアンス(いや寧ろそのもの)が描かれていますので苦手な方はスルー推奨いたします
―――日時はあっという間に過ぎ、時は約束の日より一日前。
しかし少なくとも課せられた十日と言う日時以上に充実した修行を終えたリアスとその眷属達は、明日に迫った『運命の日』の為に早々と床に就いていた。
だが眠れないのだろう―――リアスは一人、割り振られた己の部屋で戦術指南の本を読み続けている。
(因みに襤褸屋の様な宿泊施設の中は魔法によって空間が歪んでおり、高級ホテルの如く広い)
「……なんだグレモリー、まだ起きてたのか?」
掛けられた声に目線を向けると、其処には黒いコートを羽織ったアキラが居た。
闇夜に溶け込むかの如き漆黒の衣装―――あたかも“死神”を連想させる姿になった彼が何をしているかなどリアスは知らない。
一度だけ聞いた事はあったが、その際には『野暮用だ』という一言で済まされてしまい以降は聞いていない。
勿論、彼女なりに興味はあったが……言いたくない事一々聞くと言う趣味はないし、そもそもアキラには色々な面で力を借りている、そんな恩義的な思いもあった故だ。
「ええ、目が冴えちゃって。
明日が私にとって『審判の日』って言っても過言じゃない日になるんだから早く休むべきなんだけど」
戦術の書かれた本を静かに閉じると大きな溜息を吐くリアス。
本の近くには地図やフォーメーションの書かれた紙が置かれている……何度も何度も書き直しているのか、紙はくしゃくしゃになっていた。
本来ならばリアスの読む戦術の本は多くの戦いを研究した上で編み出されたマニュアルのようなもの。
レ―ディング・ゲームに出ている数多くの上級悪魔の戦い方の傾向と対策、それに併せた戦術やフォーメーションを事細かに書かれている『指南書』だ。
恐らくこれがあればレ―ディング・ゲームの初心者であるリアス達であっても良い戦いが出来る可能性はある。
だが……前に書いたかもしれないが、今回は相手が悪過ぎるのだ。
フェニックス、その名を知らない者は恐らく少ないだろう。
ゲーム、漫画、映画、伝承、神話―――多くのものに存在を取り上げられる“伝説の霊鳥”。
曰く『流す涙は如何なる傷をも癒し、其の身に流れる血を飲めば不老不死を得る』とされる。
命を司りし聖獣、灰になろうとも再び転生し蘇る不死身の炎を宿す霊鳥、死を知らぬ不死者―――そんな存在とライザーとライザーの眷属はほぼ同意義の存在なのだ。
……つまりリアスとその眷属達は“幾ら傷付けても瞬時に傷を治せる”且つ“骨すら残さない業火の一撃を放つ不死身の化物達”と戦わなければならないと言う事である。
「……恐らくお父様はこうなる事を見越してフェニックス家を婚約相手に選んだんだわ。
例え断ったとしても『身内同士のレ―ディング・ゲーム』という選択肢を用意して、その相手に勝てる筈のない相手を宛がう―――確実に結婚する道しかないって袋小路に追い込む為に」
更に彼女の言葉を補足するならライザーは公式のレ―ディング・ゲームにおいて不敗。
冥界上層部との癒着も勿論あるが、倒しても倒しても蘇る『不死身』と言う力は正に脅威なのだ。
普通の悪魔ならばどんなに強大な存在であれ行使出来る力には必ず限度がある、しかしフェニックスにはそれはほぼ無い……チート級にして最強級の筆頭、それこそがライザー・フェニックスである。
勿論、八百長に近いフェニックスを倒す事が出来ない訳ではない。
不死鳥の再生力を上回る圧倒的な力で圧し潰すか、何度も何度も立ち上がって来る存在の精神を圧し折るまで倒し続けるかという二択だ。
だがそれには前者の場合は『この世界の神級の力』が、後者の場合は『ライザーの膨大なまでの精神力を圧し折る持久力』が前提条件となる。
併せて彼の眷属も彼と同じように『不死身』である、その連中も蹴散らさねばならないとなれば確率は極限まで低くなってしまう。
アキラが『アンティクトン』でもブチかませば話は別だが、はっきり言えば時が止まっている空間でどんなに修行を繰り返した所で『焼け石に水』なのが現状だ。
それでも、例え勝てる確率が極めて零に近い確率だとしても―――リアスには諦めたくない理由があった。
「―――滑稽に見えるかもしれないわね、アキラ君。
私の我儘で駄々を捏ねて、まるで子供みたいに絶対勝てない相手に無謀にも挑む姿なんて。
本来ならば上級悪魔の家に生まれた時点で、家の事情を考慮すれば無下に断る事なんて不可能よ……ライザーは下種だけど、フェニックス家は全ての面でグレモリー家の上の一族だもの。
冥界上層部の覚えも良いし、その気になればグレモリー家を御家断絶に追い込む事だって出来るでしょうね―――お父様もお母様それを理解してるから逆らえないって部分もあるでしょうから」
悲しげに呟くリアス、彼女も彼女なりに『貴族』に生まれた事に諦めの如き感情を抱いてるのも事実。
それに両親には感謝の念を抱いている、煩わしく思う事もあるが自分を心から愛してくれる大切な家族なのだから。
その両親が路頭に迷うような状況になる事を望みはしない―――だから彼女の願いは所詮、我儘だ。
されど、彼女の我儘は真摯な願い。
現実から逃げる事の出来ない袋小路に追い込まれた籠の鳥。
―――そんな檻の中で囀る鳥が、自由に天を舞う事を夢見ても誰も文句は言えまい。
「でも……私は『グレモリー』の人間としてじゃない。
唯の『リアス』、ただの一人の少女としての自分を……グレモリー家のリアスとしてではなく、私自身を愛してくれるヒトと結ばれたいの。
グレモリーとしての誇りも勿論大切だけどね―――それが私の二つある内の一つ目の我儘(ユメ)」
本来は一つしかなかったリアスの夢。
かつて愚かだった己は自分の事しか考えていなかった。
しかしベル・ベリトによって絶体絶命の状況に追いやられた時に気付けたもう一つの夢、それを彼女はアキラへと語る。
「もう一つの我儘(ユメ)―――それは私の大切な家族のような仲間に恥じないような“王”になる事。
愚かで、自分勝手で、無様だった私を身を挺してまで生かそうとしてくれた大切な人達に胸を張って歩んで行けるような優しい王に……多分それはライザーと結ばれたら絶対に叶える事が出来ないわ。
だからこそ私は抗うの、無茶でも無謀でも―――例え己の実力が通じる事無く負けたとしても、自分の誇りを貫き通せればきっと納得出来ると思うから」
リアスの悲しげに笑う表情にアキラは察する。
恐らく彼女はライザーに負けたとしたら大切な眷属達との契約を解除する心算なのだと。
犠牲になるのは自分一人で良い―――かつての彼女ならば決して考える事の無かった思いを心に抱き。
そんな悲痛とも取れる彼女の告白にアキラは掛けていたサングラスを仕舞うと口を開く。
「―――なら思い切りやって来い、悔いが残らない様に全力で。
お前が覚悟決めてるなら俺から言える事はもうねぇ、お前らがどれだけ強いか冥界の阿呆共に思い知らせてやれ。
心配すんな、後の事は任せろ……俺が確りケツ持ってやる、恐らく思っている様な事にはならんだろうがな」
アキラの言葉に首を傾げるリアス。
彼とすれば既に情報はある程度出揃った―――後はお披露目の時を何時にするかと言う事だけ。
其処で彼が思い付いたのはグレモリー家とフェニックス家の非公式のレ―ディング・ゲームの場だった。
調べた情報によればリアスの兄は冥界で『四大魔王』と呼ばれる重役、更に妹を溺愛している人物らしい……ならば妹の未来を決めるイベントに顔を出さない訳がない。
事前に通信機器をジャックする為の方法も想定済み、つまりライザーは冥界の上層部に匹敵する人物の前で集めてきた情報全てを暴露されると言う事だ。
―――流石に冥界上層部と繋がっているとしても、それに匹敵する存在に罪を知られれば言い逃れは難しいだろうし、もみ消しも難しいであろう予想される。
(因みに『殲滅』が目的だが、その前に罪を全て白日の下に晒すのがアキラのやり方)
「何でもない、つうかさっさと寝ろ。
寝不足で全力を出す気が無いなら構わんが、それはお前の望みじゃないだろ?」
いつもの様に言い終わると背を向けて去って行くアキラ。
彼のぶっきらぼうな言い方に少しだけムッとしながらも、自然と肩の力の抜けていたリアスは少しだけ微笑むと眠る為にベッドへと向かう。
……と、其処で不意にアキラは立ち止まると背を向けながら言葉を飛ばす。
「ああ、そうだ……俺には小難しい悪魔の社会なんざ理解出来ねえが、今のお前は嫌いじゃねえ。
お前の言う『グレモリー』って肩書じゃなく、リアス・グレモリー個人を好きだぞ―――あ、言っとくが『愛してる』方じゃないから勘違いすんなよ~」
背を向けたまま手を振りつつ今度は本当に去っていくアキラ。
途中、リアスの居る部屋から『ドタンッ!!』と言う何かが倒れる音が聞えたが気の所為だろう。
そしてその後、彼女の部屋から絶叫の様なものが響いたような気がしたがこれも気の所為だろう思われる。
「……まっ、あの“二人”の事は全てが終わってから話すか。
命に別状はねえが、相当な疲労の所為でまだ意識も戻らないしな……」
オンギョウキがライザーの犯罪の証拠と共に連れ帰った二人の少女の安否に思いを馳せ、自室に戻るアキラ。
兎角、治療関係についてはアキラに出来る事は何もない―――適材適所、そういった事を得意としている仲魔に任せるのが一番だ。
明日の為に準備する事は山程ある、其の為にまずは日課の武器の整備を始めるアキラであった。
―――尚、アキラの(本人にその気はないが)去り際に残した言葉を聞いたリアスは部屋の中で真っ赤に頬を染め、結果的にその所為で寝不足になってしまったのは言うまでもない。
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決戦当日―――
控室で静かに準備をするリアスと眷属達+『僧侶』としてのヘルプ枠のアーシア。
長期戦になる事を想定し、用意された食事や飲み物を腹に収めると準備体操などをしながら待っていた。
……まあリアスは食べるような気分ではなかったし、アーシアは昔からの癖で出されたものは一切口にしなかったが。
「……それにしても遅いわね」
ポツリとそう呟くリアス。
確かに彼女がそう言いたくなるのも理解出来る―――開戦の時間は既に過ぎている。
控室に案内されてから音沙汰無いと言うのは何故なのだろうか?
ライザーとすればリアスとの婚姻は願っても無い事だろう。
しかも今回の非公式のゲームはフェニックス陣営が出した条件だ、自信の表れだろうと容易に想像出来る。
まさか逃げたのか? 在り得ない、眷属数・実力・戦績どれにおいてもフェニックス陣営の方が遥かに上だ……そもそも逃げる意味がない。
ならば何か問題でも起こったのか? それも有り得ない、非公式とは言えどレ―ディング・ゲームはれっきとした貴族間の重要行事だ、何か問題があれば日を改めるだろう。
ならば何故、試合が始まらない―――そんな疑問に首を傾げるリアス、するとそこでアーシアが声を掛ける。
「グレモリーさん、何かおかしくありませんか?」
「アーシア? ええ、確かにおかしいけど……何かあったのかしら?」
何時まで経っても始まらないレ―ディング・ゲーム。
共に先程から感じるこのおかしな感覚―――何故だ、付近に誰も居ないように感じるのは気の所為なのだろうか?
ゲーム前で緊張して感覚がおかしくなっているのならばそれは良い……だが、ハッキリ言えばリアスはこれっぽっちも緊張していない。
昨日の衝撃の告白(勘違いも含まれる)によって緊張などと言うものがぶっ飛んでしまったリアス、普段通り落ち着いているのだから感覚がおかしい訳がない。
「―――なら私が少し調べてきます。
グレモリーさん達は此処で様子を見てて下さい、何かがあったら直ぐに行動出来る様に」
呟くや否や、スカートで隠れる内腿につけられたホルダーから愛用の二丁拳銃を抜くアーシア。
入口は普通に開くようだ……周囲を警戒しつつ、部屋を出る。
何故だろうか、この嫌な予感は―――まるであの時と同じように感じるのだ。
かつて『蛇の王』によって一度滅びた駒王町、あの時の雰囲気に。
「(……私の考え過ぎでしょうか?
でも周囲に人の気配を感じないこの異常な状況は明らかに不自然です、念の為アキラさんに連絡を……)」
リアス陣営の控室のあった建物から離れ、アキラに連絡を取ろうとスマホを出す。
しかしまるで電波が途絶えているかのように彼女が持つスマホは一切起動しないのだ。
スマホを弄りながら難しそうな表情で考える素振をするアーシア……本来このスマホはヤタガラスの制作した特別製のもので、悪魔などの結界の中でも通信が繋がる代物である。
円滑な情報共有のツールであり、絶対的な信頼を持つものの筈だ―――それこそ電波が繋がらないなどと言う事は無い。
「まさか、グレモリーさん達は……」
言いかけたその時、不意に彼女の眼に入った光景。
それは―――今迄アーシアが居た筈の建物、つまりリアス陣営の控室のある建物がまるで生きているかのように脈動し、入口が塞がれてしまった姿だった。
※※※※※
アーシアが建物から外に出、アキラに連絡を取ろうとしたと同じ頃。
控室に残されていたリアス陣営にも異常が発生していた―――突然、朱乃・小猫・木場の三人が苦しみ出したのだ。
「えっ!? ちょ、ちょっと、どうしたの朱乃!? 小猫!? 裕斗!?」
行き成りの事に驚きの声を上げるリアス。
だが地に伏した三人はリアスの言葉に反応を返せない、それどころか急に痙攣の様なものを繰り返し始めた。
苦しそうに喉や腹を押さえ、明らかになにか“作為のある行為”をされたのは明白な様子である。
「ちょっと、どうしたの三人ともしっかりして!? だ、誰か、誰か居ないの!?」
声を掛けてもまた反応は示さず、寧ろ苦しむ様子はどんどん悪化していく。
慌てて周囲に助けを求めるが反応は返らず、その間にも三人の顔からは血の気が引いていた。
原因は不明、しかしこのまま放置しておいたら間違いなく三人は命を落とすだろう……それだけは如実に理解出来る。
―――不意に控室の床に形成される魔法陣。
感じる魔力や熱気から其処から出て来る人物は容易に想像出来る。
しかし何故今頃……疑問は浮かべど今はそんな事を考えている場合ではないだろう。
件(くだん)の人物、ライザー・フェニックスに救助を求めようとしたリアス―――だが、彼女を待っていたのは救いではなく許されざる仕打ちだった。
「ライザー!? 丁度良かった、朱乃達の様子がおかしいの……何か知って……」
しかし其処でリアスの言葉は途切れる。
自分を見つめていたライザーの表情が歪んだ哂いを浮かべている事に気付いたからだ。
何故哂っている? まるで滑稽なものを見るような表情で―――其処でリアスは考えたくないが、この状況に陥った理由を察する。
彼女は馬鹿では無い、愚かでもない、本来は聡明で先読みに長けた人物であるのだから。
「ククク、なあリアス? 俺は少し考えてみたんだ。
冥界でも最強クラスの筆頭が何で一々、素人同然の相手の為にレ―ディング・ゲームなんぞしなけりゃいけないかってな……どうせ俺が勝つのは明白なのに、無駄な事はしたくないんだよ俺は」
下卑た嘲笑いを浮かべるライザー。
表情が固まったままのリアスに対して言葉を続けた。
「近い将来、冥界を背負って立つ俺が自分の所有物になる女の下らねぇ意地なんぞに付き合うだけ時間の無駄だろ?
だから一番簡単に、一番平和的に、一番効率的に“事を終わらせる方法”を考えたって訳さ―――ククク、無駄に傷付かないで済む方法を考えてやった俺に感謝しろよリアス~」
……此処まで言われれば馬鹿であっても容易に理解出来る。
下種で、外道で、最低な人物だとリアスはライザーの事を思っていたがまさか此処までとは思わなかった。
そう、ライザーはレーディング・ゲームなどと言う面倒を行う事無く勝つ為の方法を画策していたのだ。
「正気なの貴方!? こんな手段、馬鹿げてるわ!!
確かに今回は非公式のレ―ディング・ゲームだけど、少なくとも両家の親類は見に来るのよ!?
恐喝と人質を利用なんてした所で必ずバレる、そんな事が判らない程に馬鹿じゃないでしょう貴方は!!」
罵声に近い言葉を浴びせるリアスだが、逆にライザーの表情は嘲る哂いを浮かべたまま変わらない。
簡単な事だ―――リアスの言葉を否定する事が出来るだけの“立場(チカラ)”を彼は持っている。
その為に多くの冥界上層部と癒着を繰り返し、己の生み出したクスリで狂わせた女達を宛がい、此処まで来たのだから。
「揉み消されるさ、全てな―――俺は元老院の連中と付き合いが深いからよ。
例え冥界の四大魔王の筆頭の“ルシファー”でも元老院の決定を無下には出来ねぇ事位理解してるよな?
それに此処は魔王様方が使う“結界”の中に近い空間だからよ、時間は開戦時間から殆ど流れてねぇんだぜ。
分かるよな、ゲームが開戦する前に“棄権”した所で誰も疑問に思わねぇんだ……今の俺には四大魔王に匹敵する力も使えるんだ、もう誰にも『フェニックスの面汚し』なんて言わせねぇ!!
あーそうだ、もう言う奴なんて居ねぇか……クククク、俺を馬鹿にしてた奴らも、厄介者扱いしてた親父やお袋、兄貴達も俺の意のままだからなぁ!!!」
ライザーの言葉にリアスの表情が変わる。
今、この男は何と言った? 両親や兄弟を意のままにしていると、確かにそう言ったか?
まさか―――この男は自分の歪んだ目的の為に家族すら犠牲にしたというのか?
「ああ、そうさ……あいつ等はもう意志を持たない玩具さ。
精々俺の目的の為に利用させてもらう―――ま、所詮既に目的を果たせば必要のないボロクズと同じだが。
唯一残念なのはレイヴェルだけは手に入らなかった事か、アイツも余計なものを見なければ死なずに済んだのに……お袋と一緒に犯して、あの面が絶望に歪んで壊れる所が見られなかったのが本当に残念だ」
哂いながら語られるライザーの言葉―――
目の前にいる人物は本当にあのライザー・フェニックスなのかと疑問に思う程に歪んでいる。
彼の過去を知るリアスからすればこれ程までに外道では無かった筈だ……この目の前にいる存在は何だ?
だがそんな事を考える暇など無い、語り終わったライザーはリアスに選択を示す。
―――それは究極の選択、いや若しくは最初から答えの決まっていた選択なのだろう。
「さてリアス、お前に此処で選ばせてやるよ。
もう理解してるだろうがお前の眷属の不調の原因は俺だ、正確に言えば俺の用意した食事だが。
あれには高密度の『フェニックスの涙』が含んである、薬ってもんが強過ぎれば身体に害を与える様に原液の『フェニックスの涙』には強烈な副作用があってな、あのまま放っておけばそいつらはのた打ち回った挙句死ぬ。
助ける方法は唯一つ、俺の持ってる中和剤を飲ませる事だ……お前が俺に跪いて助けを乞うなら此奴はくれてやるよ」
つまりそれは自ら『負けを認めろ』と言う事だ。
抗う事も無く、己が誓った誇りを貫く事も出来ず、夢をドブに捨てろと言われているのと同義。
だがもしそれを突っぱねれば自分の誇りであり、大切な家族の様な眷属―――仲間を見殺しにする事となる。
簡単に選べる訳がない……リアスにとってはどちらも大切なものなのだから。
「さあ選べよリアス、二つに一つだ。
俺の所有物になる事を選んで下僕共を救うか、それともあくまでも下らねぇ意地を貫いて下僕を見捨てるか。
別に俺に取っちゃどっちでも良いぜ、遅かれ早かれお前は俺の所有物になるしよ……さあどうすんだ、クククク!!」
かつての己ならばどうしたか?
恐らく悩み抜いた挙句の果てに答えを出す事が出来ずに泣き叫ぶだけだったろう。
愚かで、独り善がりで、自分の事しか考えていなかった己ならば―――
しかし今は違う、答えは最初から決まっている。
唯、言葉を口にする勇気がなかった―――自分の信念を、誇りを貫けない弱さに悔しさで胸が一杯だった。
だがそれでも……掌から溢したくなかった、大切な者達を。
悔しさに頬には涙が伝う、理不尽に屈しなければならない事への憤りで。
足元で苦しむ三人は己の命が尽きる事も理解している上で必死に弱々しく首を横に振る。
そんな三人に優しげに微笑み……リアスはライザーの前に跪くと、深々と頭を下げて呟いた。
「お願い―――この子達を、助けて。
私はどうなっても良い、貴方の所有物でも奴隷にでも何にでもなる……だから、お願いします」
その後の事をリアスは全てを覚えていない。
眼に刻まれているのは狂ったように哂うライザーの姿、下卑た哂いから発せられた最低な約束。
自らの所有物と他者に認識させる為に、結婚式の場で皆の前で彼女は『純潔を捧げる』と約束させられた。
……アーシアが戻って来た後、呆然としたリアスに声を掛けるまでは意識が飛んでいたのだ。
リアスはアーシアにアキラへの伝言を頼む。
今迄の礼と、眷属三人の事、アキラとの約束を守れずに『棄権』という道を選んでしまった詫び。
そして最後に―――今迄楽しかったと。
去っていく後姿を疑問に感じたアーシアは意気消沈していた朱乃から全てを聞き出す。
全てを聞いた彼女は怒り、そしてリアスを一人にしてしまった事を後悔する―――だがまだ遅くはない筈だ。
所詮アーシアにしてやれる事など高が知れているだろう。
だがその数少ないしてやれる事がリアスの為に、朱乃達の為に、ひいては己が己の手で護ると誓った力無き人々を護るための術になると信じ―――アキラへと連絡を取るのであった。
今回も難産でした―――他作品以上にライザーがクソ野郎になってて済みませぬ
いやーやっぱり最低なクソ野郎って自分の手なんか汚さずに脅迫なんかでけり付けそうだと思いまして
―――書いてて思った以上にクソ野郎でイライラしたのは悪くない
さて、今回の話もハッキリ言ってしまえば『黒幕』居ます
ライザーに力を与え、増長させ、復活しようと目論んでいる輩……正体はもうちょっと経ったら出てきますよ
前回は“蛇の王”シェーシャでしたが、今回は誰でしょうかねー……ま、お楽しみに
(勿論メガテン系ですよー^^)