ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~ 作:ZERO(ゼロ)
第一話
ある孤児院の前に放置されていた赤子―――その少年は幼い頃から感受性の強い子だった。
少年は誰とでも直ぐに打ち解け、色々な事情を持って孤児院に預けられる他の子達の殻を打ち破っていく。
周りの同年代の子供達も少年に直ぐに心を開く……それは恐らく、少年の掛値なしの優しさ故だろう。
誰かが笑っていれば共に笑い、誰かが泣いていれば共に泣き。
言うのは簡単で、示すのは誰よりも難しい行為を少年は誰よりも普通に行っていた。
決して後ろめたい部分もなく、決して好かれようと思って行っている訳でもなく、唯普通に人として何よりも大切なものを尊ぶ心を誰に教わるでもなく少年は己に備えていたのだ。
そう、絆と言う大切なものを―――
しかし少年には一つだけ変わった部分があった。
どう見ても幼い少年にしか見えない筈なのに、時に遠くを見つめる瞳は大人のそれを感じさせる。
『まるで望郷の念に浸る者のようだ』……孤児院の経営者にして神父であった人物はそう少年を表現した。
また誰に対しても寄り添える少年であったが、かつて一度だけだが神父の娘が少年がいつも肌身離さず持っていた『スマホ』を冗談で勝手に持ち出した時だけは烈火の如く怒りを表したと言う。
その激怒ぶりは普段の少年からは想像出来ない程であり、暫くは慕っていつも後ろを付いて回っていた歳近い妹の如き神父の娘と一言も口を利かなかった程。
最終的には泣いてばかりいる娘と少年に事情を聞き、少年も大人げなかったと納得して謝り事無きを得たが―――神父もあれ程の怒りを表した少年を初めて見た。
恐らく孤児院の前に捨てられていた時から共にあった物故に、自分にとっては分身のようなものだと感じていたのか……若しくは顔も知らぬ親との絆とも言えるものなのだろうと牧師は解釈したらしい。
そしてもう一つ、少年は幼い頃から主(キリスト教)に対して全く敬う素振を見せない。
孤児院とは言えど一応はカトリック系の場所である為、幼い頃から敬虔なキリスト教の信徒として教育をして居た筈だが―――他の子供達は熱心に主の教えを勉強するのに、少年だけはいつもサボって何処かへ隠れてしまう問題児であった。
しかし『主の教え』とは強制的に植え付けるものではない。
他のキリスト教徒達がどう考えているかは知らないが、少なくとも此処の神父はそこまで狭量ではなかった。
……寧ろ、カトリック系の牧師が営む孤児院にそう言う破天荒な問題児が居ても面白いと考えるタイプの温和な人物だったのだ。
何故、そのような部分があるのか少年には理解出来よう筈もない。
それが普通だと少年は思い、毎日毎日を本当に『普通の少年』として生きていたのだから。
しかし少年が孤児院に拾われて七回目の誕生日を迎えた日、彼の運命は予想外に早く急転する事となる。
そこで彼は知る事になる―――己の全てと、己のかつて行った偉業と、己が成すべき事を。
●●●●●
「……はあっ……はあっ……はあっ……」
涙ぐみ、息も絶え絶えで幼き少年は物陰に身を潜める。
此処は人気の無い廃墟、その最奥とも言える場所で己の無力さに打ち震えていた。
何故こんな状況になったのか、それはなんて事もない些細な切っ掛け―――好奇心旺盛で腕白な少年ならば誰もが『秘密基地』と言う子供だけで集まれる秘密の場所を作る事に憧れを抱くだろう。
偶々、少年が嫌いでいつもサボっているキリスト教の教えを勉強する時間に孤児院を抜け出し、丁度人も近付きそうもない鬱蒼とした森奥で廃墟を見つけたとしたらどうするだろうか?
更に少年は困った事に悪戯心と好奇心が旺盛で、孤児院の友達達を吃驚させる為に一人で『秘密基地』の準備をしようとしていた為、このような場所を見つけられたのは僥倖であった。
しかしある意味では、この少年の行動が他の子供達を救ったと言える。
そしてある意味……他の子供達が居なかった事で、少年は己の秘密を『神側の信徒』に知られずに済んだのだろう。
『グフフ……ド~コ~ダ~? カクレンボハ、モウ終ワリダゾ~? ゲヘヘヘヘェ……』
奥底から恐怖を呼び起こすような声―――少年は必至で恐怖を堪えて口を押える。
近くを擦るような足音が響き、近くで扉を壊す音が響いた……怖い、震えが止まらない。
“アレ”を初めて見た時、気付いたら既に走り出していた。
バケモノ―――漫画やお伽噺に出て来る、子供にとっては初めてのトラウマになるような存在。
そんな存在に対して子供が出来る事は所詮、捕まらない様に逃げ出す事しか出来ないだろう……捕まれば最後、大人達が言う事を聞かない子供を嚇すように“食べられて”お終いだ。
再び扉を壊す音が響く、先程よりも近くで。
見つかったらどうなるだろう? まだまだ7歳程度の子供では死ぬなどと言う事は理解出来ないだろうが、少なくとも恐ろしい目に遭う事だけは理解出来た。
他に出れる所はないのかと頻りに周りを見回すが此処は廃墟の一番奥の袋小路、更に光は差し込んでいるが窓には格子が付いている。
例えば大人であれば格子を外すなり壊すなりと言う方法も取れたであろう、だが七歳の子供にそれをしろと言うのが度台無茶な話だ。
更に扉を破壊する音が響く、今度は隣で。
あのバケモノが近くに居ると思うと無性に涙が溢れて来る……我慢しなければいけないのに、我慢してもしきれない。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い―――少年に唯一出来るのは、声を上げないように必死で口を押えて涙を堪える事だけだった。
『グヒヒヒ……最後ハ、コノ部屋カ……サ~テ、随分遊ビニ付キ合ッテ腹減ッタカラナァ~……ギヒヒヒッ』
声が終わると共に破壊される壁。
恐怖で固まる少年は必死で声を上げそうになるのを堪え、物陰に隠れて息を凝らす。
隠れてやり過ごす事が出来れば何とかなるかも知れない―――そんな淡く儚い希望を抱いて。
『ウウン? 何デ此処ニモ居ナインダ……? クソッ、他ノ部屋デ見落トシタカ……グガアアアアア!!!』
思い切り壁を殴り付けるバケモノ。
その姿はまるで、子供がお絵かきで描くか粘土細工で創るような色々な動物が無秩序に組み合わさったような姿。
ずるずると触手の如き多足を引き摺りながら部屋を出ていく……どうやらこの部屋にではなく、別の部屋で見落としたのだと勘違いしたのだろう。
どっと汗が噴き出す、堪えていた震えが体中から溢れる。
しかし此処で腰を抜かしていたらまたあのバケモノが来てしまう、急いで逃げなければ。
だが少年は心の何処かで安堵していた、急いで逃げだせば大丈夫だと―――これがあのバケモノの下種な考えだと知らずに。
逃げ出そうとした少年の背中に何かがぶつかる、それが何なのか振り返ろうとしたその時―――
『安心シタカイ坊ヤ? ソウダロウネ、助カッタト思エバ当然ダヨネェ?
グヒヒヒヒ、最初カラ陰ニ隠レテタノニハ気付イテタヨ? 恐怖シテル後ニ安心シテ最後ニ絶望サセル……ヒヒヒヒヒ、ヤッパリコウシテカラ喰ウノガ一番美味イゼェ……ギャ~ハッハッハッハ!!!』
後に続いたのは肩から胸にかけて感じる激しい激痛。
全身の力が抜ける―――目線が痛みを感じた方に向くと、其処には本来ある筈のものが無かった。
腕がない、肩がない―――
足元にはお守りのようにいつも持っていたスマホが落ちていた。
液晶画面は罅割れ、画面は消えている……落ちた衝撃か、それとも化物にぶつかった時に壊れたのか。
痛みで全身は麻痺し、力も抜けていく、そんな状況で少年は必死に地に落ちた壊れたスマホに手を伸ばす。
何故此処までこれに執着するのか解らない、しかしそれでも……これは自分にとって一番大切な絆だった筈だ。
だがその手は届く事は無い
たった七歳の幼き少年の必死に伸ばした手は、壊れたスマホに届く前に力無く地に落ちる。
少年は理解した、これが死ぬと言う事だと―――それと共に願った、死にたくないと。
されどその少年の願いは神に届く事は無く、最後に目に焼き付いた光景は巨大な気持ち悪い口が迫るものだった。
―――罅割れ、壊れたスマホの液晶に文字が浮かんだ事にバケモノは気付くまい。
“program guardian system start up”
●●●●●
暗い、空間の歪んだ道―――
さながら踏切のようなものが曲がりくねった延々と続く道の上に少年は居た。
此処は何なのだろうか? 何処なのか解らないが道が途切れている為に上には登れない故、延々と続く道を少年は下り続ける。
何処まで下りても風景は変わらない。
だがそれでも下り続けた先に何かがあるのだろう、まるで取り憑かれたかのように歩き続ける少年。
やがて延々と続いた道は終わり、其処には駅の改札のような場所と、天に向かって昇る光の柱が眼に映った。
もう行くべき場所はない、ならばその先の光の柱の場所に行かねばいけないのだろう。
惹き付けられるように歩き出そうとした少年―――その肩を誰かが優しく押さえて止める。
振り返った少年の眼に映った人物の姿、それは何処かで見た事のある懐かしく感じる異形の存在―――
『そこから先はお前の行くべき場所ではない。
……フ、まさかこういった形で再び会う事になるとは思わなかったぞ小僧』
異形の存在は少年に優しく語り掛ける。
何処か見方によって特撮の怪人の如き姿をした異形の存在、その存在を認識した時に少年は全てを思い出した。
己の存在を、己の為すべき事を、己のこの世界の役目を―――
『少しばかり早いが思い出したようだな小僧。
お前の役目はこの並行宇宙と呼ばれる世界の“東京”を救う事、それが全てを捨ててでもお前が選んだ道の筈だ。
ならばこのような場所で道草を食っている場合ではないだろう? 戻るべき場所へと戻るが良い』
異形の存在が少年の頭に手を置くと集中するように目を閉じる。
触れた手先から少年に流れ込む暖かい何か―――それが“彼の力”だと知ったのは後の事だ。
それに併せて少しずつ姿がぼやけ、輪郭と光のみになっていく異形の存在……最後に消える瞬間、彼は少年に言葉を贈った。
『では一時の別れだ小僧、我(オレ)の力を用いてお前を現世へと復活させる。
何、心配は要らん―――お前は我が決して死なせはせん、かつての東京の時と同じくな。
我が親愛なる『神殺し』アキラよ、我の力とお前の育んだ仲魔との絆を以て東京を再び救え。
この世界に居る我は所詮分霊に過ぎぬが、我の力を存分に役立ててくれ』
彼の力全てが少年……いや、転生した神藏晃の身に宿る。
光り輝く肉体、幼く弱々しかった肉体はかつてのそれと同じく鍛え抜かれたものへと変わった。
そして―――その頬と右腕には、彼から貰い受けた力が紋章の如く刻み込まれたのだ。
「ありがとうダグザ―――お前の力、絶対に無駄にはしない」
虚空に手を向けるアキラ。
瞬間、何も存在しなかった空間にワープホールの如き次元の裂け目が現れていた。
躊躇する事無く現れた空間へと入り込む―――まずは倒さねばならぬ敵を倒す事、そこから第一歩は始まるのだから。
●●●●●
『ギ、ギアアアアアアアァァァァァ!!?!?』
削り取られる化物の腕。
その先には所詮は餌に過ぎないと思っていた哀れな幼子は居ない。
己を見るその目は子供がするには鋭すぎる殺意を抱き、喰った筈の腕は何事も無かったかの如く其処にある。
しかもその姿は明らかに少年のそれではない、圧倒的な覇気を放つ青年の姿へと変わっていた。
『ナ、何……ダ!? オ前ハ一体、ナンナンダァァァァ!!!?!??』
驚愕する化物を尻目にアキラは地に落ちていた罅割れたスマホを拾う。
一瞬だけ光り輝いた後……壊れて居た筈のスマホは新品同然の姿となり、彼はコンソールを弄る。
目的のプログラムを見つけたのだろう、画面をタッチする……するとその背を守る様に、長身の槍を持った偉丈夫と三つ首の獣が現れていた。
『主よ―――帰還の折、お喜び申し上げる』
『元気ソウダナ主ヨ―――デ? アソコノ半端ナ悪魔ガ俺達ノ敵カ?』
「あぁ……どうも武器はまだ使えないみたいだからよ、今回は頼む」
獰猛な殺気と冷徹な殺気が一気に目の前の化物に向く。
在り得ない―――異形の化物は一応かつては名を知られた悪魔の下僕だった。
己の得た力に酔い、主を殺すとその肉を喰らって強力な魔力を得た―――並の悪魔なら太刀打ち出来ない力を。
其の筈なのに……目の前の二体を見た瞬間、己が強いなどと言う考えは一気に消えた。
逃げる、逃げなければならない、今まで欲望のままに生きてきた異形の化物が初めて感じた感情―――それは“恐怖”。
しかし逃げられる訳もあるまい、彼は運が悪かった。
『クランの猟犬』と『冥界の門番』と言う二体の狩人に狙われたのだから。
更に二体は非常に怒りを覚えていたのだ―――何故ならば、目の前の下種は『主』と信頼する漢の命を奪おうとしたのだから当然だ。
瞬く間に化物の両腕は牙によって食い千切られ、その腹を槍が突き穿つ。
絶望する程の激痛の中、力を持っていると過信していた己を二体の狩人が蔑むような目を向けていた。
あの目はずっと昔に向けられた事がある―――そんな目をされない為に力を望み、悪魔の下僕となってまで力を得た筈なのに……。
『マ、待テ!! 交渉シヨウ!! 助ケテクレ、俺ハマダ死ニタクナイ、死ニタクナインダ!!
オ前ガ望ムナラバ俺ノ力ヲ預ケル!! ナア頼ム!! 俺ノ力トオ前……イヤ、主殿ノ『神器』ガアレバ“鬼ニ金棒”ダ!! 俺モ、俺モ仲間ニ入レテクレ!!』
異形の化物の言葉を聞き、表情を変えたアキラが歩き出す。
『しめた』と異形の化物は思った事だろう―――恐らくこの輩は甘い人物だ、命乞いした相手の命まで奪うまい。
更に恐らくはこの人物は『神器持ち』だ……ならば此処は尻尾を振った振りをして傘下に収まり、頃合いを見て騙し討って力を得た方が得策だと考えたのだ。
生き残る為ならば一時の命乞いでも、無様な姿でも曝け出す―――全ては己が力を得る為に。
だが―――
「……悪いが仲魔には困ってない。
それにお前、そうやって命乞いした人間を何人殺してきた? なら『因果応報』って奴だ……斃(くたば)れ」
無慈悲に断頭台の縄は斬られる。
残るのは首が落ちるのみ―――呆けた表情のまま、異形の化物の脳天を槍が無慈悲に貫く。
『因果応報』『自業自得』……そんな言葉を思い浮かべながら化物は息絶え、灰となって消えた。
皆様の温かいご意見、ご感想を心よりお待ちしております
因みに端々にフレーズを入れたのでご理解いただけたかもしれませんが、この作品はメガテンシリーズとハイスクールD×Dのクロス作品ですね
ハイスクールD×Dの原作とも違うオリ設定も出てますが、どうかご容赦を
【アキラの性格】
アキラは絆を尊び、誰かの為に身体を張れる漢です
身勝手な悪魔や神や人間に対しては怒りを露わにし、手を汚す事も厭いません
しかしそれはあくまでも『身勝手な存在』に対してですので、悪魔であっても神であっても人と添い生きようとする者まで無駄に命は奪いません
……どこぞの悪魔を見れば『絶対殺すマン』とは違います、スキル群は『絶対殺すマン』ですけどね