ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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第二話

全ての記憶、言うなれば転生前の記憶と力が戻った後―――

アキラは元の七歳ほどの年頃の少年の姿に戻り、神父・紫藤トウジの営む孤児院へと戻った。

しかし己の力を思い出し、己の為すべきを思い出した事で彼や彼の娘・イリナや孤児院の子供達を巻き込む事を恐れて孤児院を出るのを決意する。

『クランの猟犬』クー・フーリン(愛称:クー)と彼の師にして高名なる魔術師・スカアハを秘密裏に召喚し、人間に変装させて里親として自分を引き取らせると言う方法を使ったのだ。

(行き成り行方不明になれば余計な心配をかける為、平和的な方法はこれしか思いつかなかった)

 

行き成りの里親候補が現れた事にトウジは訝しげな表情をしていたが、当のアキラが本当に懐いている姿を見て考えを改める。

一応は調べて見たが里親候補になった若い夫婦に怪しい部分は無かったし、アキラが本当の親のように懐いている姿を見て反対する理由などない。

 

しかし内心、トウジの心には淋しさの様なものがある。

思えば問題児とも言える人物だったが、彼のお陰で色々な事情を持って孤児院に来る子供達は笑顔が絶えなかった。

最初は心を閉ざしている子も、他者との間に壁を作っている子も、アキラはその壁をぶち破っていつの間にか仲良くなってしまう。

口で言うのは簡単でも、いざ行動に移すのは実に難しい事をアキラは7歳程度の歳で当たり前にやっていた―――恐らくあのような少年こそが最も『聖職者』に向いているだろう。

若しくは『教職者』、人を導くような存在となるのかも知れない……もしも里親が現れていなかったとしたら、トウジ自身が彼を引き取って自分の息子として育てていただろう。

……まあそれをしたとしたら、恐らく彼は最愛の娘・イリナから相当恨まれる事になっただろうが。

 

イリナが物心付いた頃からこの孤児院に居たアキラ。

誰に対しても分け隔てなく共に笑い合い泣き合える彼をイリナは本当の兄のように慕っていた。

いや、親の眼から見ても兄と言う存在を越えた感情を抱いていたのは明白だ。

 

―――しかし今日、アキラはこの孤児院を去る。

彼を引き取りたいと言っていた里親は夫婦で海外を拠点に仕事をしているらしく、直ぐにとんぼ返りしなければいけないらしい。

そしてこんな日に限ってイリナは前の日に些細な事でアキラと喧嘩し、顔も見たくないと珍しく駄々を捏ねてしまっていたのだ。

トウジも必死でイリナの機嫌を取るが彼女は『アキラおにいちゃんが謝るまで許さない』と一点張り―――そんなこんなしている内に別れの時は迫っていた。

 

運命は皮肉だ、平等などない。

だがそれでも人は運命を信じるのだろう、その先にどれ程の苦難や擦れ違いがあったとしても。

この時、トウジがアキラを引き取るという選択肢をもっと早く出していたとすればどうなっていただろうか?

……それは恐らく、誰も解る筈があるまい。

 

唯、一つだけ解る事があるとすれば。

どのような先があったとしてもアキラは変わる事無く己の道を進むだろう。

たとえそれが―――トウジやイリナと敵対する道であったとしても。

 

 

●●●●●

 

 

「……アキラ、元気でな。

私はお前に会えて、お前と共に皆と食卓を囲んで楽しかった……悪戯も今となっては良い思い出だ、新しいお父さんとお母さんと仲良くするんだぞ?」

 

「うん、解ったよ神父さん―――皆もありがとう。

俺、皆に会えて良かった……此処にイリナが居ればもっと良かったんだけどね……」

 

アキラはアキラなりに責任を感じてるのだ、イリナと喧嘩をした事を。

本当ならばもっと上手い方法があっただろう―――己が進んで行く道を考え、己の事を忘れさせる為の方法など。

喧嘩別れして嫌われれば自分の事をいずれは忘れる、イリナがある意味では『依存』に近い程にアキラを慕っていたからこそ尚更だ。

 

アキラは人との絆を尊ぶ人物である。

だがそれと同時に無関係な者を己の進む道の先に巻き込む事を嫌う、特にそれが本当に家族のように接してくれた者達ならば尚更だ。

彼の進むべき先は恐らくスティーブンの口振りからすれば平坦なものではない事は明白―――例えダグザの力を身に宿していたとしても何らかを切っ掛けに命を落とす事だって無いとは言い切れない。

そんな時に『力を持つ聖職者』とその娘を巻き込んでしまったら泣くに泣けまい……アキラは気付いているのだ、トウジが普通の神父ではない事を。

 

誰かを巻き込まない為に自らが悪となる。

嫌われる事で誰かを護れるならば、喜んで嫌われよう―――穢れを背負って生きるのは一人で十分だ。

だからこそ急に、それこそかつての記憶を取り戻した次の日に彼は暖かい己の帰るべき揺り籠から出る決意をしたのだから。

 

「……もう時間みたいだ、名残惜しいけどこれで」

 

そのまま車に乗り込むアキラ。

どうやってこんな車を調達したかは不明だが、恐らくスカアハが何かしたのだろう。

スカアハは交渉術もかなり高い、魔術など使わなくてもこの程度のものを用意するなど朝飯前だ。

……下手に魔術を使ってこの世界の『悪魔の軍勢』や『神の軍勢』に目を付けられて調べられても面倒だろう。

 

エンジンがかかり走り出す車。

トウジや他の子供達が見えなくなるまで手を振り続けるアキラ。

もうこれで会う事は無いだろう―――寧ろそれで良い、己の進む茨の道に誰かを巻き込むなんて真っ平だ。

勿論、喧嘩別れする事になったイリナの事は気になったが……自分の事など忘れて幸せになって欲しいと切に願う。

 

思えば人の幸せばかり願っている気がする。

それは多分、皆に笑っていて欲しいからだ―――其の為ならどんな苦難にだって立ち向かおう。

……それが俺を生かし、今まで導いてくれた仲間達や多くの人々の笑顔に繋がると願って。

 

 

走り去る一台の車―――その遥か後ろに一つの物語があった。

涙を流しながら必死で走り去る車を追い駆ける小さな影……それはトウジの娘でありアキラを慕っていたイリナ。

拗ねて自分の部屋に閉じ籠っていた彼女だったが、彼女の一番の親友とも言える人物からアキラが孤児院を去る事を聞かされて血相を変えて部屋から飛び出した。

 

父親の静止を振り切って必死に車の走り去った方向へと走り続けるイリナ。

だがそもそも大の大人であれ走る車に追いつく事など不可能だと言うのに、子供が追い着ける筈もあるまい。

 

「待って……待ってよ……待ってよ、アキラおにいちゃん!!

嫌……嫌だ、嫌だよ……もう会えないなんて、もう会えないなんて嫌だよ、おにいちゃぁぁぁぁん!!!」

 

絶叫の如き少女の少女の叫び、しかしそれは決して届かない。

何故、些細な事で喧嘩などしてしまったのか? 何故、拗ねていないで父親の話を聞こうとしなかったのか?

―――何故、ずっと一緒に居ようとしなかったのか? 後悔の念は消える事無くイリナの脳裏に浮かぶ。

 

少女は泣き続ける、その声が少しでも大切な人に届くように。

だが悲しいかな……か細く小さな少女の泣き声など雑踏に紛れ届く事は無い。

やがて泣き疲れ、声も枯れ、涙が枯れ果ててもイリナはアキラを乗せて走り去った車の向かった道の先を見つめ続けていた。

……そしてそれは、心配した父親が彼女を迎えに来るまで続いたと言う。

 

この後、イリナの事を考えたトウジは彼女と共に妻が小料理屋を経営するイギリスへと向かっていった。

当初は落ち込んでいたイリナも次第に笑顔を取り戻し、天真爛漫に笑うその姿にかつての悲しき別れを呼び起こす事もない……彼女は誓ったから、もう一度アキラに会うまで涙は見せないと。

更にそこからトウジは神父と孤児院の経営以外にやっているもう一つの仕事である教会エージェントの仕事が忙しくなった事で、孤児院の経営を同じ教会の牧師に任せる事になったのであった。

 

 

運命とは皮肉だ、それは人の未来を変える。

例えばアキラが覚醒する事無く、孤児院に居続けたとしたら何かが変わっていただろうか?

変わっていたかも知れないし、変わらなかったかも知れない―――しかし未来は結局どんな道を辿ろうとも同じ結末に帰結していた事だろう、それが遅かれ早かれだ。

 

そう、結局運命は大きく変わる事は無い―――

例え紫藤トウジが自らの経営していた孤児院を他の神父に任せなかったとしても、いずれは同じ事が繰り返されただろう。

 

―――後に『聖剣計画』と呼ばれる、非人道的な計画が。

 

 

●●●●●

 

 

時は三年程の歳月を経、舞台は東京の町の一つ『駒王町』へと移る。

この町に移り住んだアキラは、日々を己の修行と新しく始めた仕事へと費やしていた。

勿論、普段の十歳程度の少年の姿では仕事もヘッタクレも無い為、かつての『神藏晃』の姿に変えつつだ。

 

どうやらダグザから得た力には一時的にだがかつての姿に戻る能力があったらしい。

『見た目は子供、頭脳は大人』な某名探偵と同じである……まあアレとは生きてる世界がそもそも違うのだが。

それに子供の姿のままではどうも格好付かず、スマホの機能も満足に使えない為に実にありがたい事である。

 

―――あれから三年、アキラは只管にこの世界の事情を知る事を優先していた。

どの世界でも情報は何よりの宝であり、新たな知識を得る事は並行宇宙に添うには必要不可欠だ。

其の為に仲魔達と共に始めた『人外ハンター』の仕事は実に役に立つ……それにそもそも仲魔達が色々な情報を集めてきてくれていた。

 

集めた情報からこの世界で分かった事。

所謂この世界は天界の神の軍勢、冥界の悪魔の軍勢と堕天使の軍勢が領地を奪い合う醜い戦争を繰り広げていた。

しかし三つ巴の戦に『二天龍』と呼ばれる二匹の力を持つ龍が乱入、龍との戦いによって三つの陣営は其々に多大な犠牲や被害を被ったとされる。

まあ一応は二匹の龍を倒す事は出来たらしいが、結局尋常ではない被害を被った其々の陣営に争いを続ける気力もなく、取り敢えずは休戦と言う形で幕を閉じた。

それでも互いに睨み合いを続け、水面下では着実に再びの戦の準備を整えつつあるそうだ……まさに愚かと言えば愚かの極みである、何故懲りないのだろうか?

 

因みに兵力の減った其々の陣営は其々の方法で戦力の増強を図っている。

特にその中でも悪魔の軍勢は被害が大きかった故、自分達以外の種族を悪魔に転生させて少数精鋭の悪魔の軍団を作る事に躍起になっているそうだ。

……『神器(セイクリッド・ギア)』と言う聞きなれない言葉もそれに関係しているのだが、今はまだそれは良いだろう。

 

 

今日もまた、アキラは大人の姿に変身すると変装を施してある場所に向かう。

そこは所謂―――『はぐれ悪魔』と呼ばれる賞金首達を狩る事を目的とした闇の斡旋屋であった。

 

「……おや旦那、仕事は恙(つつが)なく終わったようですね?」

 

何も言う事無く無言でカウンターの上に何かを包んだ袋を置くアキラ。

カウンターの斡旋屋の主らしき人物が袋の封を解くと中身を確認する―――袋から漂うのは鉄錆の如き悪臭だ。

確認が終わると封を閉じて奥に置くと、斡旋屋の主は分厚い“何か”が入った封筒をアキラに手渡した。

 

「ご苦労様です旦那―――

今回の分は預り金も多かったので時間が掛かるかと思われましたが……旦那には無用の心配でしたかね?」

 

小さく無言で頷くと壁に貼られた賞金首の手配書に目を向けるアキラ。

其処には多種多様、様々な姿をした怪物が描かれている―――そんな中で一つの手配書を取り、カウンターへと置いた。

 

「ええっと……旦那、次の獲物は最近主を殺して“はぐれ”になった奴ですね。

懸賞金の額は―――おやおや、まだはぐれに成り立ての割には随分と金額とランクが高いようだ。

余程危険な相手なのか、それともきな臭い何かがあるのか……旦那、本当にこの仕事で良いんですか?」

 

再び無言で頷くアキラ。

彼の様子に斡旋屋の主は肩を竦めると、手配書を渡しながら口を開く。

 

「まあ旦那が良いってんなら構いませんが、一応ご注意を。

こういうきな臭い仕事に限って面倒事が裏に関わってる事が多いですからねぇ……旦那にゃ余計な心配かな?」

 

……斡旋屋の主は知っている、目の前の人物がかなりの実力者だと。

何せ、本来なら危険故に受けたがる者の少ない『野良犬の始末』を率先して受け、何度も仕事を完遂してきた実績がある人物なのだから。

 

野良犬……それは『はぐれ悪魔』と呼ばれる存在の蔑称。

悪魔が作り出した他の種族を悪魔へと転生させるシステム、それは悪魔にとって便利ではあったがそれと共に脅威も生み出した。

 

誰も彼もが『聖人君主』と言う訳ではない。

悪魔という存在になると言う事は、それと共に凶悪な力を得ると言う事だ。

それが主の為に使われるのであれば良いだろうが、中には己の欲望の為に得た力を行使する者もいる。

欲望に忠実な事はある意味では最も悪魔らしいのであろうが、そんな悪魔が自由や更なる力を求めて主を殺めると言う事例が多発しているのだ―――つまりそれが『野良犬』である。

 

そういった存在は本来ならば潜伏先を統治する悪魔が始末するのが役目の一つ。

しかし中には面倒を嫌う者、自分には関係ないと関わらない者、地位と実力が伴わない者も少なからず居る。

そのような連中に変わって『野良犬』を始末するのを肩代わりするのが斡旋屋とそこで依頼を受ける賞金稼ぎの仕事だ。

 

だがはっきり言えばこの仕事、正直長続きはしない。

口で言うのは簡単だが、はぐれ悪魔と言うのは通常の悪魔とは別の手法で生まれた言わば変異種だ。

その力は時として普通の悪魔を裕に上回る事もあるし、普通の悪魔にはない力を持ち得ている事もある。

狩りに行ったが逆に返り討ちと言う事例も多く、更には賞金首のランクが上がる程にそれは顕著となっていく。

例えば何処かの組織に所属し、其処のエースのような存在であれば何人かは長く賞金稼ぎを続けている者もいるが、それでもその人数は数えられる程度。

それが個人での存在となれば長続きして居る者などまず居ない―――当然だ、組織であればバックアップも期待出来るが、個人では個々の力の身で戦い抜かねばならないのだから。

……三年もの間、高が個人で上位ランクの賞金首を狩ってる時点で狂気の沙汰とも言えるだろう。

 

「あ、旦那……今回も良いんですかい?

何か聞いた話じゃ旦那、悪魔のクソ野郎共や天界の使徒共や鴉の群れに雇いたいって打診されてるんでしょ?

しかも確かその中には冥界の魔王や鴉の幹部や神の御使い共も居るとか……」

 

斡旋屋の言葉に一度立ち止まって肩を竦める動作を取るアキラ。

それはそうだろう、先程書いた事情で個人で長く賞金稼ぎを続ける者などいない―――そんな中、個人で上級のはぐれ悪魔を始末する存在が居れば当然の反応である。

悪魔も天使も堕天使も大小違いはあるが打算的な存在だ、それ程の力を持つ存在であれば契約するか上手い具合に傘下に収める事が出来れば他の陣営より優位に立てると言う考えがあるのだ。

 

しかしアキラがそんな誘いに乗る筈もない。

三陣営、その中でも特に無駄にプライドの高い悪魔の貴族達は顔を潰されたと勝手に解釈し、刺客を送り込んだこともある……だがその刺客達は今まで帰って来た事は無い。

そんな危険さ、下手すれば己達に牙を剥かれる可能性を考慮した三陣営は懐柔策を取ったと言う訳だ。

 

「そんじゃ旦那、今回も宜しくお願いします」

 

声に片手を上げて返すアキラ。

今回の賞金首を狩る為に準備をせねばなるまい―――例え相手は成り立ての『はぐれ悪魔』であれ、過信は身を亡ぼす。

もう一度だけ賞金首の情報を調べた後、アキラは静かに歩き出した。

 

―――賞金首の名はSSランク賞金首『黒歌』。

主を殺して行方を晦ませて身を隠す『猫魈(ねこしょう)』と呼ばれる希少種の少女。

依頼内容は“Dead only(殺害のみ)”―――少々きな臭さを感じたアキラが情報を仲魔達に集めさせたのは言うまでもない。

 

 

 

 

冥界、天界、堕天使勢力にその名を知られる賞金稼ぎ・Nameless(名無し)。

圧倒的な強さでSSSランクの二つ名持ちの賞金首(はぐれ悪魔も含む)を幾人も始末してきた“個人”の賞金稼ぎ。

どんなに正体を調べようとしても決して情報は無く、本当に存在するのかと実(まこと)しやかに語られる存在。

t''oten grausam strahl(死を呼ぶ残忍な光)、Metzelei pfeil(殺戮の矢)、Teufel essen(悪魔喰らい)。

Tod zusammen schreiten Schatten(死と共に歩む影)―――まだまだ彼を表現する二つ名は後を絶たない。

 

その力を欲し、または危険視し、刺客や配下を送る者は数知れず。

しかしその者達が帰って来た事は一度もない―――天使、悪魔、堕天使は形無き存在を恐れ、彼をこう呼んだ。

 

“Gespenst Jager(幻影の狩人)”と―――

 




皆様の温かいご意見、ご感想を心よりお待ちしております
……因みに二つ名が全てドイツ語表記なのは私の趣味です……だって格好良いじゃないですか、ドイツ語って

【原作キャラ改変部分】

紫藤親子
父・トウジ……原作よりも真面目に
娘・イリナ……原作よりも少々可愛らしく
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