ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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一章: 旧校舎のディアボロス~終わりと始まり~
第六話


これは『聖女』と祭り上げられた少女の悲しき軌跡と末路。

とある地方に生まれたその少女は直ぐに両親から捨てられ、教会兼孤児院でシスターとして育てられたのだそうだ。

信仰深く育てられた少女に不思議な奇跡の力が宿ったのが丁度八歳の頃の事である。

 

怪我をした子犬を不思議な力で助けた後、カトリックの教会に連れて行かれた少女。

人を癒すその力から“聖女”と崇められていたと言う、少女本人の意思など一つも関係ないままに。

 

最初は嬉しかった、自分の得た力で多くの人々を救える事が。

自分の意思とは関係なく治癒の力を宿した『聖女』として担ぎ出されたとしてもだ。

元々怪我をした誰かを癒す事は嫌いではなかったし、教会の関係者も良くしてくれた。

 

―――自分の力が人の為に役立つのがどうしようもなく嬉しかった。

 

だが、少しだけ寂しかったのは否めない。

自分自身には心を許せる友人が一人も居なかった事、誰もが大事にしてくれて優しくしてくれても、彼女の友になろうという者は一人もいない。

その理由も理解は出来ていた―――裏で自分の事を異質な、悪い言い方をすれば『化物』を見るような眼で見て居たと言う事を。

彼女は『人間』としてではなく、一種の『人間の形をした別の生き物』と言う感じで周りから見られていたのだ。

 

……そして転機は訪れる。

偶然だが彼女は自分の近くに現れた悪魔を、何の疑問もなく癒してしまったのだ。

彼女とすれば傷を負った存在ならば例えそれが悪魔であろうが何であろうが関係ない、見捨てるなどと言う選択肢は最初から無い。

生来の優しさ、そして何の価値も無く捨てられたという思いが彼女を駆り立てたのだろう。

 

だがそれこそが彼女の人生を反転させる結果となった。

癒しの力とは神の齎せた産物、故に悪魔を癒す事など出来る筈が無いと言う考えが常識として認知されていたからだ。

 

過去、その様な力が存在しなかった訳ではない。

しかしそんな神の加護を受けない悪魔や堕天使を癒す事の出来る力、それはあまりにも異端過ぎる力故に恐れられていた。

 

人から闇に傾倒した存在―――『魔女の力』として。

 

この事が切欠で彼女は呆気無くカトリックから捨てられた。

かつて聖女として崇められていた少女は悪魔が治療出来ると言う、高がそれだけの理由で必要ないモノとして捨てられたのだ。

 

間違っても神への祈りを一度も忘れた事は無い。

間違っても神への感謝も一度も忘れた事も無い。

なのに彼女は捨てられる羽目となった、あれ程信じた神は救いの手を差し伸べてはくれなかった。

 

そんな少女に手を差し伸べた者が居た。

勿論それは彼女を捨てた“カトリック”ではないし、ましてやかの者らと敵対する“悪魔”でも無い。

ならば神に対する反逆者である“堕天使”や、神への信仰を捨てた“はぐれ悪魔祓い”なのか―――いや、その何方でも無かった。

 

少女に手を差し伸べた存在、それは―――

 

 

●●●●●

 

 

「やれやれ……本当に久しぶりの日本だな」

 

のんびりと頭を掻きながら呟く青年―――

それは数年前に東京から己の仕事の都合で海外に出ていたアキラであった。

数年の歳月は幻術を使わねば幼い子供だった彼を青年と言っても過言ではない年頃へと成長させる。

彼は既に術を使う事無く、素のままでかつて好んで着ていた黒ずくめの衣装を着られるまでになっていたのだ。

まあある意味、あちらの東京よりも栄養満点な食事が多かった事も成長の要因とも言えるが。

 

「さて取り敢えず戻って来たからには先に挨拶に行かねぇと、確か指定場所は……」

 

懐から愛用のスマホを出すと『依頼主』との集合指定場所を確認するアキラ。

この依頼主はマサカド公が正体を偽ってやっていた斡旋屋以外に良く仕事を斡旋してくれた人物だ。

表の仕事も、裏の仕事も、色々な仕事を依頼してくれた事から付き合いは長い―――更に『人外ハンター』関係の仕事もくれていた事を考えれば、恐らくはアキラに『近い仕事』をしてるのだろう。

何やらアキラが海外で色々な戦場を『傭兵』に近い立場で渡り歩いてた頃に“新たな仕事”に就いたらしいが……詳しい事は聞いていない。

 

「ま、待ってくださ~い、アキラさ~ん……はうわっ!!?」

 

ふと其処でアキラの名を呼ぶ声が聞こえる。

パタパタと聞こえる足音と何かを引き擦る音、どうやら大きめのトランクを引いて居るらしい。

清潔感と清らかさを表すかの如き白のシスター服、頭をすっぽりと覆う同じく服と併せた白のヴェール。

慌ててたのだろう、盛大にずっこけるとそのままヘッドスライディングしながらアキラの横に滑ってきた。

こけた勢いで被っていたヴェールが飛んでしまったらしく、金色の美しい髪が露わになっている。

 

「……何やってんだ、本当に」

 

空に舞ったヴェールを苦も無く掴むと、金髪の少女に被せてから手を差し出すアキラ。

少女は鼻の部分を可愛らしい手で擦りながら涙目で呟く。

 

「ううう……い、痛いです~」

「心配すんな、痛いのは生きてる証拠だ」

「酷いです~!! 支えてくれても良いじゃないですか、アキラさん~!!」

「ハイハイ、まあそんだけ元気なら怪我はしてないようだな」

 

差し伸べられた手を握り返す少女が拗ねたような表情でアキラを見る。

対してアキラはそんな視線など何処吹く風……軽々と少女を立ち上がらせると、倒れていた大き目のトランクを肩に担ぐ。

 

「取り敢えず日本に来るのは初めてだろ、案内がてら依頼主の指定場所に行くぞアーシア」

 

アキラの言葉にアーシアと言う少女から『くうぅぅぅ』と言う音が聞こえた。

表情を見ると赤く頬を染めて居る所を見ると、本人としても不本意な音だったと言う事だろう。

赤くなったアーシアを見つめながら肩を竦めたアキラは、持っていたスマホを上着に仕舞うと言葉を飛ばす。

 

「どうやら仕事の説明の前に腹ごしらえした方が良いらしいな、ウチの姫さんは」

「も、もう―――し、仕方ないじゃないですかアキラさん!!」

「だからあれ程、先に腹ごしらえしとけって言ったのによ」

「だ、だって、アキラさんいつも『お前は主へのお祈りとやらが長い』とか言うじゃないですか~!!」

 

身長に差がある故か、まるで兄妹の喧嘩のように見える二人。

因みにアーシアはアキラと一歳しか歳が離れていないが、その外見からもっと年下に見られがちだ。

まあ彼女を取り巻いていた『環境』と言う奴が、少女の成長を妨げていたとも言えるだろう。

 

アーシア・アルジェント。

かつては『聖女』などと呼ばれ、正教会から崇められていた少女。

しかし持って生まれた優しさと特殊な力により『魔女』と掌を返され、身勝手で見捨てられた悲しき少女だ。

少女と会ったのはアキラが海外に渡ってから直ぐの事―――偶々立ち寄った町の片隅で餓死寸前の状態で倒れていた所を救い、行く場所も帰る場所も無いと言う事で『一緒に行くか?』と誘ったのが切っ掛けである。

最初の頃こそ長旅に成れていない為か辛そうにしていたが、多くのものを見たり聞いたり経験したりとしている内に少女は色々な価値観を知り、心身共に強くなっていった。

今となっては彼女の能力もあり、アキラにとっては相棒(パートナー)の如き存在となっていた……かつての相棒であり幼馴染のアサヒを彷彿させる程に。

 

「まあ食わんで良いなら別に良いが?」

「えっ……(ぐぅぅ……)……ごめんなさい、お腹空きました……」

「だったら早く行こうぜ、依頼人を待たせても拙いしよ」

 

アーシアと共に歩き出すアキラ。

何年も歳月の流れた駒王町は昔に比べても店が多くなっている、時の流れとは感慨深いものだ。

久しぶりに物思いに耽っても良いが―――連れの腹ペコの姫様の腹を満たしてやるのを先にした方が良いだろう。

それに依頼人を長く待たせるのも好かない、アキラはアーシアと共に適当な料理屋に入る。

 

依頼人との指定場所―――駒王町にある私立学校・私立駒王学園。

この場所にてアキラは多くの思惑の交叉する“新たな戦場”へと一歩足を踏み入れる。

 

※※※※※

 

「久しいな、アキラ……海外でも大分活躍していたと聞いている」

「そりゃ耳の早いこって、まあ“アンタ”なら調べんのも訳ないと思うがね」

 

此処は東京都駒王町にある私立高校、私立駒王学園の学園長室。

依頼人はこの学園で今年度から学園長となったそうだが、その人物は明らかに学校事業に向いては見えない。

黒のスーツを着こなす外見は確かに似合っている、似合っているが……その人物が顔立ちの整った女性である事が何処か歪さを与える。

しかも片手に長煙管を手に椅子に座る姿は凛々しくも見え、どちらかと言えば教職よりも銀座辺りで高級クラブのママでもやっている方が似合って見えるが……。

 

「しかしマダム……アンタ一体どうやって学園長なんてモンになったんだ?」

「まあ方法は色々さ、良ければ教えてやろうかい?」

「……いや良い、恐らく俺の場合は一生使う事のないであろう方法だろうからよ」

 

“マダム”と呼ばれた人物は小さく笑みを浮かべる。

所作一つ一つが一々決まっており、容姿の美しさも併せて異性はおろか同性にも好意を寄せられそうな人物だ。

しかしアキラは知っている―――“彼”が外見が決まっているだけの存在ではなく、『裏の世界』でも名の知れた人物であると。

 

マダム銀子―――それが『彼』の今名乗っている名である。

元々は銀座で色々な意味で有名な高級クラブ・クレテイシャスのママであり、同時に裏事情に詳しい人物だ。

更にその正体は裏の世界において世界的ネットワークの監視を行う存在であり……そして現代、特に日本において影から絶対的な信頼と発言権を持つ『葛葉一族』の目付け役である。

因みに勘違いしない様に先に説明しておくが、マダム銀子はれっきとした“男”だ―――何故女装しているのかは不明だが、その方が相手を油断させられると言う意図があるのかも知れない。

ついでに補足しておけば彼は結構な年齢であり、しかも葛葉の中では知らぬ者が居ない程に有名人なのだが……まあ今其処に敢えて触れる必要はあるまい。

 

葛葉一族、それは歴史の影から日本を護り続けてきた『悪魔召喚師』の一族―――

『一族』と銘は打っているが、実際は『組織』に近いと言った方が正確であろう……『ヤタガラス』と呼ばれる組織の中心に存在するのが葛葉一族である。

 

ヤタガラス……古来、日本神話において太陽の化身ともされる霊鳥。

日本の裏世界においては天津神の系譜に連なり日本という国家を霊的に守護する組織の名。

そのヤタガラスの中心、葛葉一族において最も有名なのが葛葉雷堂(クズノハライドウ)であろう。

大正の時代において幾度も訪れた帝都の危機を颯爽と解決し、その後も東京を影から守り続けた系譜。

特に『十四代目葛葉ライドウ』は有名だ……誰かの意図なのかは不明だが、今の歴史において彼の存在が語られる事は殆ど無いが。

 

古来より霊的に帝都(東京)を守護してきた組織であるヤタガラス。

日本に幾つも領地を持つ“悪魔”でさえも彼らを従わせる事は出来ず、遥か昔より恐れられてきた。

しかし現在においては世代交代が相次いだ事で彼らを知る若い悪魔は少なく、ヤタガラスないし葛葉一族も一々自分達の情報をいつ敵対するかも解らない者達に教える気も更々ない。

結果としてそれが葛葉一族のお目付け役である『マダム銀子』が駒王町における悪魔達の隠れ家とも言える『私立駒王学園』に楽に侵入出来た要因と言えるだろう。

―――考えてみればこの町に住む悪魔は一応は領地を護る領主なのだからそれで良いのかと思うのだが、恐らく若さ故に危機管理的なものが乏しいのではないだろうか?

 

「まあそんな世間話は別に良いか……で? 俺に依頼したい内容は何だマダム?」

 

アキラを呼び出したと言う事は、それ相応の依頼があると言う事であろう。

しかもこの学園・駒王学園と言うのは冥界の有数貴族の一つである『グレモリー家』が活動の拠点としている場所だ……と言う事は“そこら辺”が関係している依頼だろう事は想像に容易い。

念の為に海外に行く前に調べたが、グレモリー家はこの東京の陰で人間を支配する悪魔の中では比較的に真面(まとも)な輩らしいが―――

 

「何、アンタにとっちゃ簡単な依頼さ」

 

軽くそう言いながら意味深な笑みを浮かべるマダム銀子。

実に嫌な予感がする、そんな風に考えるのは別に長い付き合いのアキラでなくても当然の事だろう。

マダム銀子の依頼―――それはアキラの想像通り、予感が的中した面倒な依頼であった。

 

 

●●●●●

 

 

「やれやれ……まさか、マダムもこんな依頼を寄越すとはね……」

 

アキラが日本に帰って来てから既に一週間―――

彼は私立駒王学園の教室の窓から興味無さそうに外を眺めている。

マダム銀子からの依頼は彼が学園長を務める駒王学園に生徒として編入し、悪魔側の動向を探る事だった。

 

今、『神の信徒(天使)』と『悪魔』と『堕天使』とが水面下にてお互いを牽制し合う状況が続いている。

現状においてこの東京は霊的にも立地的にも好条件の場所らしく、各陣営はこの地を得る為に躍起になっているとの事。

そんな中で彼らの戦いに巻き込まれ、多くの無力な人間の血が流れるのをヤタガラスとしては放っておけない。

其処で手始めに上級悪魔の一族の一つ、グレモリー家の拠点となっているこの学校で彼らの動向を探り、もしかの者らが人に害成す存在であったとしたら始末する事が出来る人材が必要であった。

 

―――つまり、其の為に白羽の矢が立ったのがアキラである。

海外で傭兵の如き仕事をしたり、日本で人外ハンターと言う仕事を営んでいる功績が認められたと言う事だろう。

更にマダム銀子はアキラの『裏の仕事』も知っている故、万が一に“仕事”を遂行するに最も適した人材だ。

 

後はまあ、老婆心と言う奴だろうか。

長く……東京が帝都などと呼ばれている頃から第一線で活躍していたマダム銀子。

其の頃にはまだ学生であったが、今の己を形成したのも『学校生活』と言う尊い青春があったからだ。

そんな彼が碌に青春と言う大切な経験をせず、殺伐とした世界を生き続ける若者を放っておける訳がない。

……と言うより、寧ろこっちの方が建前などない依頼の本当の理由である。

 

学生生活を謳歌させつつ、外敵から人間を護る。

正に『一石二鳥』と言った所だろう、実に『年寄り』らしい回りくどさだ。

勿論、己の事を頭が悪いと思い込んでるアキラだがマダム銀子の意図はある程度理解している。

口では嫌そうにしているが、かつての東京では経験出来なかった学生生活と言う奴を彼なりに謳歌していた。

……まあ本来学生として青春を謳歌する多感な時期に悪魔を狩ったり生活物資などを集め回っていた故か、何が青春で何が学生としての生活かを理解しているかは甚だ疑問だが。

 

「ねえねえ、また鳴海君あそこで黄昏てるよ」

「本当だ……帰国子女とか言ってたし、元々住んでた所が恋しいのかな~?」

「で、でっも、そんな所とあのワイルドな風貌……そこに痺れる、憧れるわ……ぽっ」

「ほんとよね♪ 木場きゅんといい、鳴海きゅんといい、同じガッコに通えてる私達って幸せだわ~♪」

 

何やらひそひそと話をしているようだが、五感が極限まで鍛えられているアキラの耳には普通に聞こえている。

まあ元々アキラは自分では気付いていないが容姿は整っている、しかも無口ながら昔から面倒見は良い……なので最初こそガラの悪さを恐れられたが、今となってはそれもワイルドで良いなどと言われていた。

 

因みに何故か『鳴海』と呼ばれているが、これには理由がある。

アキラは基本的に裏の仕事(賞金稼ぎ兼はぐれ悪魔狩り)の際に面倒事を考慮して本名を名乗っていない。

万が一に裏の世界で本名を知られてしまった場合、自分の周りの者達を巻き込む可能性だってある―――それを考えて学生生活の時も偽名を名乗っているのである。

更には裏の仕事の方に本名がバレてしまったら、はっきり言えば仕事が無くなる可能性も無いとは言い切れない為だ。

 

そもそも『賞金稼ぎ』を生業にする者は二つのタイプに分かれる。

一つは賞金首を狩る事で有名となり、富や地位や名誉を得ようとする者―――こういった者達は名を隠す事はせず、公式に胸襟稼ぎとして登録している者が多い。

もう一つは事情があって敢えて名を隠す者―――簡単に言えばこれはある種の組織や権力者などに雇われ、裏で犯罪行為をする為にバレないように名を隠している。

 

しかしアキラの場合は上記のどちらのタイプでも無い。

彼が名を隠す理由は単純明快で至極簡単……名を知られてしまえば“獲物”に逃げられるからだ。

当然だろう、裏の世界においてSSS級はぐれ悪魔や賞金首、果てには古き血筋の悪魔の一族すら悉く葬る“個人の賞金稼ぎ”……そんな化物に狙われて逃げ出そうと思わない者など居まい。

 

尚、彼が名乗っている『鳴海』と言うのはマダム銀子が昔世話になった人物の苗字らしい。

また身元引受人がマダム銀子となっており、例え二人を学園の支配者たるグレモリー家の後継者が怪しんだとしても調べるには相応の手続きが必要となる。

アキラとアーシアに有意義な学園生活と仕事をさせる為の配慮を考えれば、流石は海千山千の猛者達と渡り合ってきたマダム銀子だと言えるだろう。

 

「あ、アキラさ~ん!! 帰りましょ~!!」

 

ふと、アキラを呼ぶ声が聞こえる。

窓から下を覗き下すと其処には同じように駒王学園の制服を着て嬉しそうに微笑んでいるアーシアが居た。

物思いに耽っている内に大分時間が経ってしまったらしい―――のんびりと椅子から立ち上がると、アキラはアーシアの待つ校門前へと歩き出すのであった。

 

※※※※※

 

~side ????~

 

飾りつけや設備の整った何処かの一室。

其処で壁に鮮明に映る校門を出て行くアキラとアーシアを見つめる影があった。

映写機と言った映像を映す類のものはない、これは所謂“魔力”を使い“使い魔”の眼に映っている光景をそのまま映像化した一種の『千里眼』のようなものか。

 

「……あらあら、今回も気付かれてしまった見たいですわね」

 

穏やかな口調の影、女性だろう。

彼女が言う通り、先程まで映っていたアキラとアーシアの姿は既にない。

かなり遠巻きに監視して居た筈の使い魔の視線を感じ取られ、撒かれたと言う事だろう。

―――どうやら相当なまでに鋭い人物であるようだ。

 

「凄いです……最初の頃より遠く離れた場所で見てた筈なのに……」

 

今度は小柄で可愛らしい声の少女が口を開く。

そう、彼女達はアキラとアーシアが転校してきた初日から彼らの様子を窺っていた。

何故か―――それは彼女達の仕える主の指示である。

 

「部長、どうしましょう? あの二人とコンタクトを取るべきでしょうか?」

 

優しげな少年の声が『部長』と呼ばれた存在に聞く。

考えるような素振を見せるその影、どうやらフォルム的にも彼女も女性のようだ。

少しだけ光が反射して見えた美しい髪は血の如く赤く、指の添えられた口元も蠱惑的に赤い。

やがて考えが纏まったのか、紅髪の女性は眷属である彼らに指示を出す。

 

「そうね……学園長預かりの二人の転校生、十中八九『ヤタガラス』の構成員ね。

男の子の方は人間にしては鋭いようだし、女の子の方は気配からして希少な回復系の『神器(セイクリッド・ギア)』を持ってる。

女の子の方は相当な逸材だと思う、男の子の方も“人間にしては高い能力”を持ってそうだし、このまま放置しとくだけなんて惜しいわ……うん、決めた。

―――裕斗、小猫、明日あの二人とコンタクトを取って此処に連れてきなさい」

 

裕斗と小猫と呼ばれた少年と小柄な少女が頷き、取り敢えずこの場は解散となる。

紅髪の女性はそのままこの部屋に併設されているシャワー室へ向かう―――明日の事を考えながら。

と、その時……不意に彼女に話しかける腕白そうな少年の姿があった。

 

「リアス部長、俺は何すりゃ良いんすか?」

「あらイッセー、ごめんなさい……えっと、じゃ貴方は朱乃の手伝いをしてあげて頂戴」

 

『イッセー』と呼ばれた少年は元気に頷き、部屋の外に出て行く。

彼は紅髪の女性リアスが最近眷属にした人物だ―――少々スケベだが可愛らしい下僕である。

しかも彼は神器の中でもかなり強力な類のものを得ており、レ―ディング・ゲームの眷属として将来有望株だ。

そんな人物を兵士の駒を八個消費したとは言えど手に入れられたのはラッキーであると言えよう。

―――リアス・グレモリー、彼女こそがこの駒王学園のある駒王町を統治する悪魔だ。

 

「フフフ、でもついてるわ。

神滅具を所持するイッセーを手に入れただけでなく、回復の力の神器持ちの娘が此処に転校してくるなんて。

それに恐らくあの男の子は学園長の秘蔵っ子ね、彼を手に入れられれば『ヤタガラス』の内情を知れるかもしれない―――神器も持たない唯の人間なのは残念だけど、良く見れば可愛いしね」

 

悪魔と言うのは意外と打算的な存在だ。

故に彼女は希少な回復の力を持つ神器を所持するアーシアと、目の上の瘤とも言える『ヤタガラス』の内情を知っていそうなアキラを自分の下僕にしようと画策しているのだろう。

とは言えども優先順位はアーシアの方が上だろう、何せ回復が出来る存在が眷属となればレーディング・ゲームもかなりの戦略が生まれる。

 

更に実力を付け自立すれば、今グレモリー家で画策されている問題から逃げる事が出来る筈だ。

まあいざとなったらイッセーか、それともまだ名は知らないがあの男の子を利用すれば良いと言う甘い考えもあった。

 

だが彼女は理解していない、何もかもを。

勿論、回復能力は貴重なものだ……それを神器として持っている人物が居れば余計に欲しいと思う程に。

しかし彼女は大事な部分をこれでもかと言って良い程に見落としていた。

 

恐らく自分の事や、年若い故に自分の与えられた領地を護る事で頭が精一杯だったのだろう。

冷静に考えれば理解出来る事だ―――唯の人間が『何キロも離れた場所から監視している使い魔を見つける事』など不可能な事が。

いや、よしんばもし監視に気付いたとしても……『何キロも離れた場所から広範囲を見渡せる使い魔を撒く事』などはどう考えても絶対に不可能な事を。

多分リアスは神滅具と呼ばれる、神をも滅する事の出来る強力な神器を持つ存在であるイッセーと言う少年を眷属に出来た事で舞い上がっていた感も否めないだろう。

……故に彼女は気付いていない、部屋から出て行く時のイッセーが不気味に小さく哂っていた事を。

 

 

―――そしてもう一つ。

 

「……どうして?

あの子を見ていると何か懐かしい……どうして、こんなに胸が苦しいの?

会った事なんてない、会った事なんてない筈、なのに……どうして、懐かしく感じるのかしら」

 

黒髪の女性、朱乃は胸を押さえながら頻りに首を傾げる。

彼女は既に記憶の彼方に封じ込めてしまっていた―――母が死んだ後、苦しみながら生きていた日々の中で。

それは多分、差し出された優しかった手を拒絶してしまったと言う後悔が関係しているのかも知れない。

 




皆様の温かいご意見・ご感想を心よりお待ちしております


【今回の改変(HDD)】
アーシア……原作では追放された後に堕天使及びはぐれ悪魔祓いの組織に拾われてます
しかし今作においては仕事で海外に来たアキラに助けられ、其処から共に旅に
真4Fにおけるパートナーの一人、アサヒに該当する回復系相棒
(尚、他にも特徴があるが此処ではまだ説明しないでおこう)


【人物紹介】
マダム銀子……その筋には最も有名な、帝都を護った十四代目美輪様
因みにアキラが名乗る【鳴海】と言うのは、美輪様が昔世話になった探偵の苗字
後、十四代目美輪様は超力戦艦マクロスを生身で太刀でぶった切るお方

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