世界が俺を求めてる 作:ゴーゴー
00 世界が俺の命を狙ってる
数メートル程の横断歩道。別段特別なところはなく、ただただ普通の横断歩道。信号機も普通で特筆すべき部分はまるでない。
時間は夕方。学生達が家路につく頃合いである。
現に女子小学生、それも低学年の少女達がワイワイとはしゃぎながら歩いている。
彼女達についても特に語ることはない。それこそどこにでもいる平凡な小学生だ。
「さきいくよー」
「まってー」
一人が走りだし、横断歩道へ飛び出した。横断歩道の歩行者用の信号機の色は――赤。
そして運悪く、トラックが迫っていた。
(……!)
(……!)
運転手と少女、驚く両者。
しかし、両者慌てず。
今すぐブレーキを踏めばギリギリではあるが横断歩道へ差し掛かる前で止まることができる。
少女の方もここで立ち止まらず走り抜ければ万一トラックが止まらなかったとしても轢かれることはない。
端から見れば事故寸前であったが、運転手と少女は事故の可能性は皆無と理解していた。それを実行する余裕もあった。
だから運転手はブレーキを、少女は次の一歩を、踏み出そうとしたところで二人の視界の中に一人の少年が現れた。
「……」
見るからに平凡、見るからに“やれやれ系”、見るからに転生しそうな雰囲気。
そんな少年はその“事故寸前”の光景を見ていた。
(轢かなきゃ!)
(轢かれかけてあのお兄さんに助けられて死んでもらわなきゃ!)
(そして死んだ彼を転生させなきゃ!)
運転手と少女、そしてその場面を偶然見ていた神様の心が一つになる。
彼をオリ主にしなければという使命感にかられた彼らは準備を始めた。
運転手はブレーキに向かっていた足をアクセルに向けて全力で踏み込む。
少女は駆け抜けようとしていた足を止めトラックの方へ体を向ける。さながら“迫るトラックに恐怖した少女”を演じてその場に座り込む。
神様はスムーズに転生できるように書類を作製し、前々から用意していた転生者への台詞のテキストを読み直す。
――後は仕上げを御覧じろってね!
三人の心はシンクロする。後は少年が少女を助けて代わりに少年が轢かれて死ぬ。そして神様により転生され、オリ主として別の世界で俺Tueeeするのだ。
運転手はこの後に捕まることを覚悟していた。
少女は自分の目の前で人が死ぬことによるトラウマを背負う覚悟していた。
神様は一人だけ優遇して転生させることによる天界でのゴタゴタを覚悟していた。
三者三様、背負うものは違えどそれでも等しく覚悟していた。
それは彼が紡ぐであろう俺Tueeeハーレムの礎となるため。
一秒とないその刹那、変哲のない横断歩道で繰り広げられるプロローグにすらならないプロローグのための一場面。その一瞬のための覚悟。
さぁ、出番だよ
君の
「は?」
「え?」
「あれ?」
そして吹き飛ぶ少女。鮮血を撒き散らし、その小さな体を何度も地面に打ち付けやがて動かなくなった。
運転手は唖然としてハンドル操作を誤り民家に突撃。
見るも無惨な結果となった。
「タンマ、ちょっとタンマ」
神様は予想外の出来事にテンパった。しかしそこは神様、記憶を消して事故直前にまで時間を巻き戻した。
何かの間違いかともう一度繰り返してみるが結果は同じ。
オリ主候補である少年は微動だにしなかった。
「おかしい」
「……この状況の方がおかしいかと思うんですけど」
仕方がないので神様自ら少年に接触。
「テンプレだろ! トラックとそのトラックに轢かれそうな少女いたら助けるのが普通だろ!」
「いやしかし俺の運動能力じゃ少女は助けられても俺が死んじゃうんですけど」
「それで良いんだよ!」
「良くないよ、死にたくないもん」
「ないもん、じゃないの。ここはスムーズに死んでくれないと物語が始まらないの、わかる? わかったら少女を助けて死になさい」
「嫌ですけど」
「何でだよ!」
「いや……貴方死ねって言われて死にます? 死なないでしょ」
「……」
「それにほら、助けたとしても少女にトラウマ埋め込んじゃうじゃない。目の前で人がミンチって小学生にはキツいと思うんだ。トラウマを抱えて生きるくらいならいっそ、ねぇ? 人としてどうかと思うんですけど、そもそも俺関係ないですし、余計なことして人生終えるのはちょっと……俺にも家族とか友人いますし。そりゃ、少女には悪いけど、見知らぬ少女より自分の命かなって」
「テンプレに従えよ! 始まんねーよ! いい加減にしろ!」
「……何が?」
「転生だよ! オリ主だよ! 俺Tueeeハーレムだよ!」
「……」
「こういうことだよ!」
神様パワーにより少年、無事に少女を助けて転生完了。
「親友にならなきゃ!」
「男女とか言われていじめられてるところを助けてもらわなきゃ!」
「中国から日本に来たばかりでカタコトでいじめられてるところを助けてもらわなきゃ!」
「喧嘩吹っ掛けて決闘で負けなきゃ!」
「ラッキースケベで男装バレなきゃ!」
「変なシステムに乗っ取られたところを助けてもらって嫁にしなきゃ!」
彼を巻き込まなければという使命感、ヒロインしなきゃという使命感。
「俺が何をしたって言うんだ……!」
逆に何もしようとしないのが悪いんだよ、オリ主しないのが悪いんだよ、と彼に“俺Tueeeハーレム”をさせるために世界が動く。
見よ、これが世界の強制力だ!