閉ざされてしまった塔の扉に気づいた皆が、落胆する。けれどそれだけじゃない。
これからどうするのか。どうすればいいのか、見当もつかないからだ。そこに颯爽と現れる誰か。
「と、そこに、絶好のタイミングでえ……!」
甲高い女の子の声が響き渡る。全然、絶好のタイミングなんかじゃない。
「現れちゃうんですねえ、参上しちゃうんですよねえ、どこだーっ!? ここだーっ!」
――とてもじゃないが、仲良くなれる気がしない。そう思ってしまうアズだった。いや、もちろん気がしないだけで、俺は仲良くするつもりだ。どうせなら、ここにいる皆と友達になりたい。少なくとも、それだけは揺らがない。
「どこだよ!?」
といかにもチャラそうな男が立ち上がって叫んだ。女の子は、「慌てなーい、騒がなーい、なおかつ気を抜かなーい、毛も抜かなぁーい」などとアホっぽいことを言う。どうやら塔の裏手に居たらしい。趣味、悪いなあ……、俺たちの反応を、後ろからニタニタ笑ってたのかもしれない。はあ。
「どーもー。元気ですかー。ようこそグリムガルへー。案内人をつとめさせていただく、ひよむーですよー。初めましてー。よろしくね? きゃぴーっ」
「…よろしくな、ひよむー」
いざ行動せねば、信頼関係など築けない。即座に手を差し伸べてみると、「きゃっ!……あれっ?」などと少しばかり照れ、首を傾げた。「あなた、どこかで……」とよくわからないことを言っていたが、握手し返してくれた。何だよ、きゃって。
ひよむーは敬礼のようなしぐさをして丸刈りの男を宥めこんだ後、「そろそろ話を進めてもよいです? 仕事しちゃっても?」と言った。最初からそうしてくれたら、ややこしいことにはならなかったんじゃないのか。
「早くしろ」
銀髪の男が低い声で言った。威圧的だけど、ひよむーに臆した様子は見られない。中々肝が据わっている……のかもしれない。
「じゃ。仕事しちゃいますね?」
アズは空を仰ぎ見た。早く終わらないかな。――さっきよりも空は明るくて、黄昏どきとは言えなくなっていた。朝だ。まさに今、夜が明けようとしている。
「とりあえず、ついてきてくださーい。置いていきますよー」
二本の髪をぴょこぴょこと揺らしながら歩き出した。どこへ連れて行くつもりかは分からないが、丸刈り男を戦闘にそれぞれ歩き出した。
俺はまた後方の方でゆったりとついて行く。よく見ると、月が赤い。綺麗だが、赤い月など見たことがない。まるでルビーのようで、きらきらと輝いている。おかしい、ここは本当に、どこなんだ……?
連れられた先は、街だ。石造の建物が並んでいたり、木造ばかりの地区もある。道はまっすぐでなく、くねくねとしていて、見通しが悪い。
街の名前は、オルタナと言うらしい。やはり聞き覚えがない。人はそれなりに住んでいるようで、見たことのない服装だ。ていうか、俺たちが不審者かのようにまじまじと見られている。住民はと言うと、飾り気がなくて、みすぼらしい、と言っては失礼かもしれないが。
皆、記憶がないらしかった。せいぜい覚えているのは名前で、それ以外は
「名前…」
くりくりして、赤い髪の男は自分の胸元をとんとんと叩いた。名前はランタと言うらしい。記憶消失だという彼に、丘に居た時隣にいた茶髪の眠たげの目をした男が「記憶喪失だろ……」と突っ込みを入れていた。中々いいコンビになりそうだな、とアズは笑う。
目が合う。お互いに少しだけ笑って、自己紹介をした。茶髪の男はハルヒロと言うらしい。せっかくだから、ハルと呼ばせてもらう事にした。そう呼ばれたことはないらしくて、くすぐったそうにしていた。何か、良い奴っぽそう。仲良くしたいな、と思えた。ランタはうりうりとアズの髪をくしゃくしゃに撫でまわす。「なんかお前、いぬっころみてーだな!」いぬっころ?俺、犬なのか……?
それから後、爽やかそうな青年マナトにも声を掛けた。これが中々かっこいい。それからほかのメンツにも声を掛け合って、自己紹介を交わした。中々皆いい人そうだ。ぱっと見、だけど。
しばらくして、ひよむーが足を止めた。石造二階建ての建物らしい。白地に赤い三日月の旗と、看板がでていた。
「おれ……おる、たな……?」
オズが読み上げていると、ひよむーが看板を手で差し示して、「到着しました!」と声を挙げた。
「ここ、がっ! かの有名なオルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンの事務所ですよん!」
なるほど……そう読むのか。アズはぽんと手を叩いた。すぐにうながされて建物に入ると、広い部屋にテーブルとイス。奥にはカウンターがある。カウンターの向こうには、腕組みをして立っている男がいて、なかなかケバい顔をしている。ひよむーは男に一礼すると、ばいばーいと手を振ってドアを出て行った。え……?ここでいなくなるの?部屋は妙な緊張感が漂っていて、少し怖い。
ブリちゃんと呼ばれた男は、怪しい雰囲気を醸し出して、口を開いた――。