灰と幻想のグリムガル―その先に見えるもの―   作:汐見

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3話

 ()()()()()()とにかく生き物を殺して生活しなければならないらしい。

 何て言ったか――たしか、そう。まず、見習いの義勇兵になって、ブリちゃんたちのオルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンに俺たちも所属する。それから、1人前の義勇兵を目指さねばならない。義勇兵が何をするかと言えば、戦いだ。モンスターと呼ばれる怪物が、多く存在するらしい。そして俺たちの仕事は、そのモンスターとやらを駆逐して、制圧すること。何だか、思っていた生活とかけ離れている。

 

「つまり」

 

 眼鏡の男が中指で眼鏡の位置を直した。

 

「正規軍が町を守っている間に、義勇兵団が打って出て、敵対種族やモンスターを討伐する。そういうこと?」

 

「簡単に言えば、そう」

 

 アズは考えることを止めかけた。まあとにかく、生きたければ戦えという事だ。義勇兵は小団《パーティ》を組むことが多いらしい。各々が情報を集め、敵を叩く。それが義勇兵団レッドムーンの仕事、という訳だ。ただ、選択の余地はあるらしい。断っても、どうにもならない。義勇兵になりたくないなら、出ていく事も可能だ。――きっと、二度と帰ってこれないだろうが。

 

「へえ…」

 

 ランタが、くりくり髪を引っかきまわして、平和主義だからと出て行こうとした。ブリちゃんは止めようとはしない。

 

 

 

「……でも、ここ出たあとオレ、どうすりゃいいんだ?」

 

「そこまでは責任持てないわよぉ」

 

 ブリちゃんはへらへらと笑う。ゾッとした。義勇兵団にならずして出て行ったところで生きられる保障がないんだ。

 

「……義勇兵にならないと、暮らせないんだな……」

 

 アズはようやく実感を得た気がする。冷や汗が出て、今にも膝が折れてしまいそうだった。

ブリちゃんはそんなアズに一つ視線をやった。

 

「見習い義勇兵になるなら。銀貨10枚、1人につき10シルバーずつあげるから、当分は暮らせると思うけどね。だから、そんなに震えなくていいのよ。それにあんた、中々見込みがありそうじゃない。なりなさいな、義勇兵に……ってあんた、もうなってるじゃないの」

 

 明らかにアズのことを言っている。冗談かとも思ったが、目が笑っていなかった。本気だ。見込みがある、と言われても何の事だかさっぱり分からない。ていうかなってる?俺が?……なんで?

 

「銀貨……そうか、お金」

 

 マナトが自分のポケットをまさぐった。当然、何も入っていない。誰もが手ぶらで、無一文だ。アズも確認してみたが、すっからかんでしょんぼりとした。ランタが、バイトでも……と顔を引き攣らせたが、ブリちゃんは大袈裟に肩をすくめてみせる。

 

「都合よく見つかればいいけどねえ。義勇兵以外の仕事もだって、結構大変よぉ? もしうまく雇ってもらえたとしても……」

 

 どうやら対してもらえないらしい。雀の涙のような給料と、雑用と世話が待っている。……やるとすれば、きっと文句も言えない立場なんだろうけど。選択は各自に委ねられているが、やるかやらないかと言われれば――やるしかない。具体的に何をするのかまるで分からないが、それらもきっと自分たちで情報収集して行動するしかないのだろう。

 ブリちゃんはカウンターの上に何かを並べはじめた。赤色の硬貨と、小さな皮袋が人数分。三日月が浮き彫りになった効果のようなものを1枚つまみあげて、説明を行う。

 

「これは見習い義勇兵身分証明章、通称・見習い章。そのまんま、見習い義勇兵としての身分を証明するものだから、なくさないように。まあ、持っててもたいしていいことないんだけどね。でも銀貨20枚、20シルバーでアタシから団章を買って、晴れて1人前の義勇兵になったら、それなりの特典があるわ」

 

「…身分をお金で買うのか?」

 

 アズは思わず聞いてしまう。

 

「そうよ。それがどうかした?」

 

「いや……」

 

 俺は特に文句はないけれど、丸刈りの男が不穏そうな声を出して「気に食わねえ」と文句を言う。

 

「そんなこと言ったって、お金がないとご飯も食べられないし、着るものだって手に入らない、何もできないんだから、しょうがないじゃない。いやなら野垂れ死ねば?」

 

 まあ、その通りだ。何をするにも、お金が必要だ。やるしか、ないんだ。

アズは真っ先に見習い章と革袋を掴みとろうとしたが、ブリちゃんに手を叩かれた。ちょっと待ってなさい、と視線で窘められる。銀髪の男が少しだけむっとした様子で、続いていく。ハルヒロたちは、どうやら遅れつつも受け取りに向かっていた。

 

「受け取ったわね」

 

ブリちゃんがわざとらしく笑みを浮かべ、手を叩く。

 

「おめでとう。これであんたたちは今から見習い義勇兵よ。しっかりがんばってちょうだいね」

 

「何だか微妙な気持ちだけど…、いろいろありがとうブリちゃん」

 

 何があろうと、お世話になったのは確かだからお礼を述べると、ブリちゃんはにこにこと怪しい笑みに切り替わって、ねっとりと嫌な雰囲気を醸し出した。う、うわあ……思わず、後ずさる。

 

「お礼なんていいのよぉ。あんたもしっかりやんなさい、諦めなければいつしか必ず見えてくるものがあるわ……」

 

 よくわからないアドバイスをもらった。ブリちゃんはあまりお近づきになりたくないが、ありがたい。その言葉を忘れずに、胸にしまっておこうと思った。

 

――と、突然鈍い音が聞こえて、振り返ると丸刈りが尻餅をついていた。どうやら、銀髪の男が殴りかかったらしい。茫然と眺めていると、俺にも殴りかかろうとして来て、とっさにしゃがむ。頭上で、「ヒュッ」という軽快な音と共に、男は立てと言った。立ち上がろうとした丸刈りを、すかさず蹴飛ばして床に這いつくばらせ、そのすぐ後に足を引っ掛けられたアズがどすんと転ぶ。ええ……?追いつけない状況に、困惑する。周囲は見ていて、恥ずかしいような、助けてくれと叫びたいところだ。

 

「……何のつもりだ、この野郎」

 

「おまえ、最初に見た時思っただろう。こいつは自分より強いか弱いかって。それにそこのお前は……、とにかく、答えを教えてやる。おまえら、立て」

 

 丸刈りは、あっけなく崩れ落ちた。もちろん、奮闘はした。ついでのように俺にも殴りかかる、蹴る。背中に膝がめり込み、反射的に唾液が垂れかける。殺す気か、お前。俺はただ、見てただけなのに……。隙を見て、拳に力を入れて顔面をぶん殴る。やるなら、やり返す。当然のことだ。あたったのは一発だけで、それからすぐに膝をついて転げまわった。吐きそう……。

 

「……おまえの一撃、なかなかだ」

 

 殴った頬をさすって、赤く染まっている。どうやら効いたらしい。

 

「名前を教えろ」

 

 アズは横になったまま、名乗り上げた。「アズ…だけど。お前は?」

 

「レンジだ。俺についてこい、アズ」

 

「え……?」

 

 まさか、誘いがくるなんて思わなかった。ブリちゃんが先程言っていた、義勇兵は小団を組む、という話からだろうが、暴力的すぎる。

もっと、穏便に済ませられなかったのか、とアズは丁重に断った。レンジみたいな強い奴がいたらきっと安泰だろう。でも、とてもじゃないが合う気がしない。

 

「そうか、惜しいな。あとは――」

 

 そのあとにも幾人か値踏みするように事務所内を見まわして、数人を引き連れて出口へと出て行った。俺のほかに、8人が取り残されたが、その後チャラ男もといキッカワ情報収集に行くといって扉を出た。そうして俺を含めまた7人だ。それからマナトも出て行ってから、外からクズオカという男が現れて、モグゾーまでを引きずって連れて行ってしまった。残ったのは、5人。

 

「あんたたち、いつまでそこにいるつもりなのよ。アタシだって仕事があって忙しいし、いいかげん追い出すわよ?」

 

 ランタがハルヒロたちを見て、「出るか」と言った。「おまえも」

アズも手を招かれたが、少しだけ待ってほしいと言うと、外で待ってるからと事務所から出て行った。

 

 

 

 

――ブリちゃんに、聞きたいことがある。

 

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