聞きたいこと、と言うのはもちろん俺の事だ。
そう言えば、不思議な事がいくつかあって、ひよむーもブリちゃんも、何だか俺でさえ知らない俺の事を知っているようだった。あくまで、憶測だけど。
「どうしたの?」
ブリちゃんが、怪訝そうに見つめている。でも、何だかまじまじと見ているようでもあった。どうしてここに、みたいな。そんな顔。
「……その。変なことを言うかもしれないんだけど……。俺の事、知ってるのか?」
この世界に覚えはない。それは確かで、きっと覆らない。けれど、何だかおかしいのだ。見たこともないのに、見たことのあるような気がする。知らないはずなのに、知っているような気がする。
「……アタシもよく覚えてるわけじゃないから、落ち着いて聞いてね。混乱も、するかもしれないけど。あんた、以前ここに来たの、覚えてないかしら?」
「俺が、ここに?」
まさか、と肩をすくめる。身に覚えもない。記憶の一つさえも思い出せないのに、そんな事言われても。ブリちゃんは「そうよね」と困ったようにカウンターに頬杖をついた。
「でも確かにあんたはアタシから見習い章と革袋を受け取った。それに、聖槍士になったって報告ももらったわ。さすがにそのあとはどうなったか知らないけどね」
――との事らしい。……俺も、知らないけど。
◇
遅れて事務所を出ると、待たせていたハルヒロたちはああだこうだと話し合いをしていた。なんだか分からないけど、確かシホル――だったか。シホルが泣いていて、それをユメ……って子が背中をさすって宥めていた。どうしたんだろう。
「お」
ランタがこちらに気づく。続いてハルヒロたちも振り向いて、アズは手を振って駆け寄る。
「それで、どうしたんだよ?」
すかさず遠慮もなく聞いてくるあたり、ランタの性格なのだろうか。くわしいことは俺にも分からないので、あとでと言ってかわした。とりあえず、ハルヒロの案で義勇兵をつかまえて、話を聞くことにした。……のだが、ランタたちが動かないので、渋々と言ったふうにハルヒロが一人で行動にでた。泣いてるシホルたちも気になるが、ハルヒロ一人じゃ心細いかと思い、あとをついて行く。
「……アズ」
「一緒に行こうよ、俺もいろいろと見てみたいしさ!」
それに見知らぬ土地って、何だかわくわくするよな、と言うと、「そうだね」と頬を掻いて笑ってくれた。
ハルヒロとあっちこっちで迷子になりながらたどり着いた先は市場だ。屋台や露店がずらりと並んでいて、何だか面白そうだ。
食べ物に、衣類。雑貨に、装飾品。いろんなものがあって、行き来する人々を呼び込もうとあらゆる店から怒声のようにも聞こえる誘い文句が飛び交う。
「行ってみようか」
「うん」
ハルヒロの後をついて、市場を見て回る。どこからかいい匂いがして、二人して足を止める。肉。思わず凝視してしまう。串刺しにして焼かれている肉だ。向こうの店では鍋で何かを煮込んでいる。スープだろうか?別の店では山積みのパン、その向こうには、あっちには、と視界が回る回る。
どれもこれもおいしそうで、思わずよだれが出た。隣のハルヒロも拭って、お腹を鳴らす。ぐう、とお互いに顔を見合わせる。待たせてる人がいるけれど、どうにも堪えきれない。悩んだ末に、肉の串焼きに飛びついた。
「うめー……」
感嘆を漏らす。串の肉を頬張りながら、分かったことを整理していく。店員……が言うには、この銀貨一枚、つまり1シルバーは100カパーに値するらしい。それで、100カパーというのは銅貨らしい。100カパーは1シルバーに値する。今持っている銀貨で、何とかしばらくは食いつなげられるという事は分かった。でも、無駄遣いだけはよしておこうと胸に誓う。
ちなみに、記憶にないが俺は義勇兵らしいので、事情も踏まえせめてものとのことで5カパーは貰った。ハルヒロたちに比べて、懐がとても寂しいが、もらえるだけマシと言うものだろう。
加えて店員が言うには、ヨロズ預かり商会、というところを教えてもらった。行ってみると、どうやらお金や荷物を預かって貰ったり、両替もできるらしい。なかなか便利だ。もちろんのこと、預かり代もとられるのだけれど、そうしないと儲けもないんだろう、きっと。
ヨロズ預かり紹介を出ると、大層立派な恰好をしている人がいた。腰に剣とかつけてるし、義勇兵かも。ハルヒロが気合を入れて、声を掛けた。
道を教えてもらい、アドバイスももらった。名前はオリオンのシノハラと言うらしい。オリオン、というのは小団かなにかの名前だろうか?
シェリーの酒場、というのも教えてもらったが、そういう時間帯じゃない、何となく思ったが、夜に行くような店な気がする。
その後、迷子になりかけたが、マナトに拾ってもらい、事務所まで無事に帰ることができた。マナト様様である。
……恥ずかしいことに、俺たちは帰り道を覚えていなかったのだ。今度はちゃんと覚えておこう。
方針を少し変えてみました。矛盾などがあったら申し訳ないです。