ミックス・ブラッド   作:夜草

29 / 91
錬金術師の帰還Ⅵ

パエトーン

 

 

 ある北欧に伝わりし、最古の英雄譚。

 『戦いの狼(べオウルフ)』と呼ばれる英雄に片腕をとられた咎神の末裔たる魔獣『沼の龍(グレンダ)』。

 その『沼の龍』には、母親がいた。

 それは魔獣でありながら、巨人であり、龍族であり、魔女である、と言われる母親は聖剣さえも弾いた。人が造り出した武器の通じず、それも触れた武器を溶かす肉体を持っていたという。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 『聖殲』

 かつて『天部』と呼ばれた古代超人類とカインと呼ばれる異世界の神との争い。

 歴史的な事実として、認められる学説ではないが、一方で、人類が扱う魔導技術の多くは、その『聖殲』の痕跡に根差しているのも事実だ。

 魔具――獅子王機関の剣巫が使う『七式突撃降魔機槍(シユネーヴァルツアー)』も古代の宝槍を核として製造され、魔術や呪術―――そして、錬金術もそれにあてはまる。

 もう何千年も前に終わったとされる戦争の遺産。だが、戦争とは当事者のどちらかが死に絶えても繰り返されるもの。『天部』は滅びたとされるが、この世界には魔族も魔術も残っている。

 

 カイン、すべての魔族の創造主と言われ、そして人類に魔術と科学を与えたもの。いわばこの世界の法則は、この咎神の遺産に支配されているといってもいい。

 

 『完全なる人間』――すなわち、今はこの世界より滅びたとされる“神”として造り出された『賢者』は、咎神の遺産たる錬金術を究めた果てにある存在。そして極限まで突き詰めた錬金術は、その枠をはみ出し根源にまで遡り、いずれはカインに至る―――そう、『賢者』は計算している。

 

『カカ……カカ…カカカ……何を畏れる我よ。唯一完全なる存在にそのような感情(もの)は不要である』

 

 母なる海より資源を集め、さらなる進化を続けている肉体<賢者の霊血>。

 形こそ人間と酷似しているが、そこに目も耳もない。滑らかな曲線に覆われた全身は、美術室に置かれたデッサン素体のよう。でありながらも、人がそこに美を見出す黄金比で構成されたシルエットは異様な美しさを放つ。

 そして、眼の代わりに全身の至る所に<錬核>に似た球体が埋め込まれており、今、それらが標的に向けている。

 無機質でありながら、貪欲に餓えた鬼のような視線。己より完全なるものを許さず、あらゆる生物の進化を否定する『賢者』を前にして、それはかすかにも揺らいではいなかった。

 

「やめるのだ」

 

 <守護獣>の羽毛皮で織られた白衣を纏う『魔人』

 金人狼であった時よりも、人間に限りなく近しい肉体でありながらも、身に秘めた神獣と肉を喰らった龍族の力を解放している常識外の怪物。

 かつて、ある哲学者が唱えた『最大多数の最大幸福』――理想の楽園のために、あれは戦闘を義務付けられたもの。

 咎神が最後に創ろうとした、抑止力―――

 

「実力の違いは分かるだろ。頭がいいんだよな、オマエ。壊れたいのなら、かまわない。でも、少しでも生きたいなら血を抜いて封印されるほうがいい」

 

 理解した、故に同情する。

 訳も分からぬまま完全な存在として創り出されて、その挙句に全身の血を抜かれて270年も封印された。その長い年月に思想思考が唯我独尊に固まるのも無理はない。

 

「―――それとも、もうそんなこともわからないくらいに壊れちまったのか?」

 

 その言葉を聞いているのか、いないのか。『賢者』の返答は自らの腕を巨大な刃へと変形。単分子刃に匹敵する鋭さと、日本刀の粘りとを備えた、完全なる剣撃の顕現。

 それをさらに無数に増殖させて振るわれる猛威は、万物を1mmずつに刻む烈風と化して―――逃げ場なく追い詰めるよう、『魔人』を嵐の刃圏に閉じ込める。

 

『カ……カカ……理解(わか)らぬ。不完全なる存在の理屈を語られようが我は理解できぬ』

 

 ここで生与奪権があるのは、『賢者』であると。吹き荒れる嵐。

 あまりに速く鋭すぎる触手の軌跡は、宙に切断線を走らせるのを見て、やっと理解できるほど。狂喜乱舞する切断線は、一秒足らずに数百の弧を刻んだ。

 それを傍で見たものは、あの魔人は肉片一つも残らぬであろうと想像しただろう。

 だが嵐が収まると、その予想が裏切る光景が現れる。

 それは、無傷のまま――“今も船にはかけ続けている聖護結界を自身は纏わず”――着ているその白衣の誇りを払う魔人。

 ―――そして、刀身であった賢者の触手がすべて溶けきっていた無残なもの。

 

「いいや、オマエは踏み外しているけど、完全とは程遠い存在なのだ」

 

 神獣魔獣の中には時に、人類の文明そのものを拒絶する特異点が現れる。

 彼の大英雄が、第一の試練で対峙した獅子の怪物は、人が生み出したあらゆる道具が通用しなかったという。

 

 人類最初の殺人者である咎神(カイン)が残したのは、武器、そして、魔術だけではない。その罪咎で受けた呪。それが特に顕著に表れたというその末裔は、その肌に人の造り出した武器を否定する。

 

 <守護獣>が変形したその着物。それは武器に対して絶対の耐性を誇ったのと同じ性質と能力―――すなわち、“情報”をそのままに加工された裘。

 この殺神兵器として完了した魔人に、武器に変形された攻撃は一切通用しないだろう。

 

 ―――だが、それでも。

 

 『賢者』は、己の勝利を疑わなかった。

 獣龍の皮衣が、人理を否定するものであることを理解した。それでも、不滅の肉体に無尽蔵の力、溶かされた触手も秒で復元する。そして、この霊血は万物を取り込む―――

 

『カカカカカ―――世界ごと我の一部となれ』

 

 重金属粒子砲が放たれ、それに物理衝撃を遮断する生体障壁の<疑似聖楯>で防ぐ。その一瞬生じた隙に、再び触手を滑り込ませる。次は斬りつける(ぶき)ではなく、『賢者』の手としてその肉体に絡みつかせる。

 そして発動するのは、生物を無機物に変える錬金術の物質変成。

 それは不老不死の真祖であろうと確実に無力化する。ひとたび物質変成に掛けられたものは、もはや魔力は働かないただの金属(モノ)になる。

 

 

「ああ、わかった。オマエは壊さなくちゃいけないんだな」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 それは、本体より切り離されて、独自の意思を持ち始めた。

 人間に振るわれる形であれという制限より外されし、その肉体は本来の姿に戻る。不滅の身体に、本体にあった魔力を根こそぎ奪うことで。

 だが、足りない。

 再現されたのは『殺龍剣』で屠られた最も強い魔獣のみ。屍の山を築き上げて、醸造された怨念は、まだある。それらを再現す(よみがえらせ)るには、もっと魔力が―――生贄が必要だ。

 

 それの自我が芽生えて、まず満たすべきはそこだと判断した。

 そして、知っている。守られていた叶瀬夏音を狙わずとも、人工精霊に加工されていたとき、それは“旨そうな(にえ)”を押さえつけていたことを。

 

 長いひとつ首を伸ばして高らかに咆哮する錬鉄の竜は、突き破られた操舵室にいる姫柊雪菜にその咢を向ける。

 下半身は、金属に変えられて立ち上がることもできず、うつ伏せから上体を反らしてその全容を雪菜は見た。

 

「くっ」

 

 聖護結界の生体障壁がかけられているとはいえ、その聖護結界がかけられていたはずの操舵室を破ってきた錬鉄の竜。もともと、これほどの結界をそう長時間もかけられるはずがないとみていた剣巫は、自身で打開する術を検討していた。

 だが、できない。

 たとえここにあらゆる魔力を無効化する槍があろうとも、金属に変えられてしまった下半身を元に戻すことはできない。魔力の働いていない、ただの金属であるからに。

 

 逃げ足も動かず、竜に対抗できる武器もない。

 誰かに助けを求めようにも、一体誰が―――

 

「え!?」

 

 しかし窮地にいた雪菜は、どこか間の抜けた可愛らしい声を洩らした。

 何故ならば、雪菜の眼前にいた錬鉄の竜を、横から体当たりをぶちかました雷光の獅子が現れたのだから。

 そして、

 

「姫柊! 無事か!」

 

 それを従える世界最強の吸血鬼。

 

「先輩……」

 

 見開かれた大きな瞳に暁古城の姿を映した雪菜は、目の端に涙を浮かせてその名を呟いた。

 そして、半泣きのまま、駆け寄ってくる彼に向って、

 

「なんで先輩がこの船にいるんですか!?」

 

 上半身だけのひねりを加えて、手に握ったナイフのグリップ部分を叩き込んだ。

 ごふっ、とご立腹な監視役の一発は、ちょうど鳩尾を突いたようでめちゃくちゃ痛い。

 呼吸が止まりながらも、雪菜の手を掴んだ古城は、言う。

 

「んなの、姫柊たちを助けに来たに決まってるだろ!」

「そんなことを頼んだ覚えはありません!」

 

 バッサリと好意を否定。さっき後輩には普通に感謝されたのに、古城は、うぐ、と地味に落ち込む。

 

「先輩まで危ない目に遭ってどうするんですか!? それにこの船に駆け付けるのだってきっと普通の手段じゃないんでしょう!」

 

 生真面目な彼女は、絃神島に航空戦力がないことを当然知っており、南宮那月の空間転移にも限度があることを知っている。なのに警備隊よりも早くに駆け付けられたことを、これまで監視してきた経験より推理。

 ミサイルで突っ込んできたところを見ずとも、予想がつくのだ。

 

「いや、ちゃんとした移動手段だぞ。試作型航空機っつう……」

 

「ならなんで目をそらすんですか先輩!」

 

 眉を吊り上げて雪菜に睨まれて、思わず天を仰いでしまう古城だが、途方に暮れている時間はない。

 

「言い争ってる場合じゃねェ。クロウに『賢者』を任せちまってるし、こっちにもまだ」

 

 雷光の獅子に頭を吹き飛ばされたはずの錬鉄の竜が、再び迫る。

 それもそのサイズを一回りも大きくして、完全同一形状の竜頭を二つに増やしている。

 古くに語られる異形の蛇、欧州にいたとされる双頭の竜の似姿のよう。

 その鋭き爪牙の一本一本に込められる魔力の質は、妖刀魔剣も同じ。

 おそらくは不定形な霊血の肉体に形を変質させてしまうほど、魔獣魔族の呪念が馴染んできているのだろう。

 

疾く在れ(きやがれ)、<龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)>!」

 

 古城が新たに呼び出した眷獣も、同じく双頭の龍。その力はすべての次元ごと空間を喰らう次元食い。獅子の雷霆にも耐えうるほどの不滅の肉体を持とうが、構わずこの世界より消滅させる力だ。

 絡み合う水銀色の双頭龍は、巨大な咢を広げて錬鉄の双頭龍に襲い掛かった。が―――

 

「なに!?」

 

 古城が純粋な戸惑いの声を洩らす。空間そのものを抉り取るはずだった<龍蛇の水銀>の攻撃が、錬鉄の鱗鎧に届く前に弾かれる。

 激突の衝撃に鉄竜の巨体はたじろぐも、その表面はほぼ無傷。<第四真祖>の眷獣が喰いきれなかったのだ。―――その闇色のオーラに阻まれて。

 

「姫柊、今のは……!」

 

「はい。同じです。<闇誓書>のときと……!」

 

 眷獣に対抗するには、より強大な魔力をぶつける他に、もうひとつ――魔力の完全無効化がある。だからこそ<第四真祖>の監視役である雪菜には、魔力無効化能力を持つ『七式突撃降魔機槍』が与えられている。

 そして、古城たちの知る限り、魔力無効化を可能とする手段は、『七式突撃降魔機槍』以外にももう一つあった。

 それは、仙都木阿夜が使った<闇誓書>。

 『異能の力が存在しない世界』で絃神島を塗り潰すことで、彼女は<第四真祖>の眷獣を無力化した。

 

「そもそもあれは錬金術が造り出したものにしては、逸脱しています」

 

 雪菜は言う。

 独自の意志を持っていた魔剣を材料にしようとも、無機物を生命へ変える。剣鋼と生命の等価交換。それは人間が扱える技術の領域を超えている。そんなことが可能なのはまさに神の御業だけだ。

 

 それほどに『賢者』の錬金術が“神”に近づいたものなのか―――それとも、天塚とコンタクトを取っていたそれと同じ闇色のオーラを纏った『人狼』が、殺龍剣に何かを組み込んでいたのか。

 

 雪菜や古城にそれを知る由もない。だが、それが脅威だというのは理解し、そして、それを打開する術も……

 

(<雪霞狼>……)

 

 先輩が肩に背負うギターケース。

 あれはきっと師家様に預けていた剣巫の武神具。あらゆる結界を切り裂き、全ての魔力を無効化する神格振動波の輝きを放つ破魔の銀槍は、<闇誓書>の力をも打ち消したことがある。

 だが、今の雪菜では―――

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA―――!!!」

 

 

 錬鉄竜の双頭の咢から閃光の息吹《ブレス》!

 重金属粒子砲だ。

 周囲の空間ごと薙ぎ払わんとする灼熱の閃光の帯は、直径数mにも及ぶ野太いもので、それが二門。ひとつならば、<獅子の黄金>の力で防ぐこともできたが、もうひとつは―――

 

「ぐほっ……!」

 

 手を突き出していた肩から腕、それに胸と腹部の右半身が吹き飛ばされた。

 身動きのできない雪菜を庇い、そこを動けずに直撃を受ける。最後まで魔力を振り絞り抵抗し、雷光の獅子が身を盾にしてくれたが、それでも竜の吐息が突き破った。

 血の塊を吐き出し、脚の力が抜けて両膝から頽れる。

 激痛だけで全身の神経が焼き切れてしまいそうで、視界が完全に真紅に染まっている。

 

「先輩ッ!」

 

 肘をついて古城の下へ這いよる雪菜。

 古城がかろうじて意識を保てたのは、彼女のおかげだ。あの一瞬で古城の服の袖を掴み、体勢を引き倒していなければ、左胸の心臓部までもやられていた。古城はわずかに感覚の残った左手で血を吐いた口元を拭いながら、大丈夫と獰猛に笑って見せる。

 それでも致命傷であるには変わりない。強力な生命力を持つ獣人や、『旧き世代』の吸血鬼でも、このままでは戦闘を続けることはできない。

 残る左手で雪菜の身体を掴み、まだ再生途中――魔力の塊でできた得体のしれない肉のような右半身を引き摺りながら、まだかろうじて聖護結界の張られている船室内に逃げ込むも、それもいつまでもつか。

 吸血鬼の真祖が持つ、呪いにも似た超回復力の恩恵があろうとも、そうすぐには治せないし、治ったところで、あの錬鉄竜を倒せる手段がないのだ。

 

「姫柊、無事だな……?」

 

「はい、わたしは。でも、このままでは先輩の体力が―――」

 

「そうか」

 

 言って、古城の唇から鮮血が零れる。やはり今の傷ついた古城の身体では、眷獣の制御は荷が重く、竜はすぐそこにいる。

 このままではやられる、と―――閃光が駆け抜けた。

 

 

「―――(ぬし)たち頭を下げろ」

 

 

 古城たちの背後より、錬鉄竜に向かって。

 それは双頭のひとつを呑み込み、消滅させた。

 

「ニーナか? あんたその体は……!?」

 

「弟子の天塚にできて、師である(わし)にできぬことはない」

 

 その声が聞こえてきた方を向くと、そこには小さな少女――元になった藍羽浅葱の面影を残す、小学生ほどの身体となったニーナ=アデラード。

 

「そして、重金属粒子砲が、奴らだけの専売特許ではないぞ」

 

 その両手より再び閃光が放たれる。

 凄まじい熱量と膨大な電磁波を撒き散らす、重金属粒子のビーム砲撃。残る双頭のひとつを真っ直ぐに貫き通す、灼熱の光の槍―――

 魔力を使ったが錬金術で物質変換されたその重金属粒子砲自体は純粋な物理現象である故、その闇色のオーラの干渉を透り抜けて、亜光速にも達するその砲撃は、狙い違わず錬鉄竜を撃ち抜いた。

 真理の探究が目的である錬金術師にとって、戦闘は本分ではないとは思っていたが、ニーナ=アデラードは、齢270歳を超える古の大錬金術師。やはり、常識外れな存在であるらしい。

 だが……二発目を放ち終えて、ニーナの身体が砕けた。

 

「……すまぬ。妾の力では、奴に止めを刺すことはできなかったようだ……」

 

 二つの状況を同時に把握するために、その身を別けて複製体を造り上げたのだろう。しかし、ただでさえ魔力霊血の足りていない肉体で、そのような無茶をすれば存在が危うい。劣化した金属生命体が、人間の形を保てなくなる。

 

「早く……逃げろ」

 

 最後にそれだけを言い残して、ニーナの言葉が途切れた。彼女の声はもう聞こえない。

 頭を吹き飛ばされた錬鉄の竜は、ニーナの攻撃により消し飛ばされた欠損部を補うのに霊血の残滓をかき集めており、時間がかかるようだがおそらくあと数分も経たないうちに、活動を再開するだろう。その間に、古城の身体は回復するだろうが……

 雪菜が意を決して口を開いた。

 

 

「先輩、ひとつ賭けに出ましょう」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 カインの親であるアダムの話。

 『知識』を得てしまう『原罪』を犯した原初の人間(アダム)らは、楽園より追放され、地上に落とされることになった。

 しかし、彼らが互いに互いが裸であることを“知って”しまい、道徳的にも霊的にも無防備な原初の人間らを、神は憐れみ、

 楽園より離れる前に、獣を屠り、『皮の着物』を与える慈悲を見せた。

 『皮の着物』こそが、『知識』を得て、地に堕ちた人類が最初に手に入れた、神が造り上げた物。

 そして、まだ楽園にいた頃に与えられた、『楽園』の残滓をもつものでもあった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 黒ではない、白の波紋が場に浸透して、奇蹟が起こる。

 

 

 踏み締めていたその木の甲板が伸長し始めて、草木が生い茂り、蔓が船体を伝う。それだけではなくて、海上に浮かぶ船であるのに、鳥や獣の鳴き声もどこからか聴こえてくるよう。さあ、と風が歌い、天より祝福の光が射す。そして、その光熱を受けた甲板に花まで咲く。

 

『カカ……これは、『聖殲』の―――違う。これは―――』

 

 テラフォーミング、と言う言葉がある。

 もともとはSF用語で、火星などの惑星を人間が生存できるように作り変えてしまうことである。

 今、起こっている事象は、それに近かった。

 絶望の大地に降り立った原初の人間が帰郷に焦がれて、地上に楽園を求めたように。

 龍脈地脈を活性化させ、枯渇した砂漠に森林を繁茂して、果ては海に大地を造り出すような。

 小一時間も根付けば、この辺りは森になっていても不思議ではないような、そんな気配を『獣の着物』を纏う魔人は放っている。惑星の全てを金属化してしまいかねない『賢者』とは対照的なもの。

 

 そうそれは、『何もない異境(ノド)』ではなくて、咎神が理想郷と夢を見たかつて人間もその一員であった『自然のある亜異境』―――楽園(エデン)

 

『原初の、完全―――否! 否否否否否否ッ! 我は認めぬ……!』

 

 完全を目指す『賢者』に、その違う完全性を見せつけられたからか。明らかに怒気の篭った声が大気に満ちる。そんな『賢者』の安っぽい自尊心に、魔人は嘆息する。

 

「オマエ、都合の悪いものを見ようともしないで、それで完全だと言えるのか?」

 

『カカ……緘黙せよ! 『完全なる人間』たる我の下に緘黙せよ!』

 

 触手が巻き付き、侵食。しかし、魔人の肉体にかけようとした時と同じ、その万物を完全なる物質である鋼鉄に変える物質変換が、またも弾かれる。

 

 

「やっぱり、オマエは不完全だよ。人間は、不完全になって始まったんだからな」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 制御する。してみせる。

 もう二度と、あのような暴走はしない、そして、もう誰も殺させないために。

 

『瀕死から赤子になったクロウ君。先輩があの時、使った力はおそらく―――』

 

 

 

 吼え狂い、猛り狂い、さらに首をもう一つ増やし三頭となった錬鉄の竜は、全方位に対して、断続的な閃光放射をする。その中を疾駆するは、“金属化より下半身がもとに再生した”銀槍を持つ少女。

 

「<獅子の黄金>!」

 

 そして、“右半身が完全に再生した”世界最強の吸血鬼が眷獣を指揮して、彼女に攻撃が当たらぬよう相手に牽制を続ける。“高い霊媒素養の血”を飲んだ古城は、力を取り戻すだけでなく、さらなる制御力をも得ており、新たなる力を掌握した。

 

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る―――」

 

 三頭の錬鉄竜に接近しながら祝詞を紡いで、その霊力を<雪霞狼>に注ぎ込む。

 

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

 その霊視の見切りで、最後の閃光の吐息を躱して、雪菜の槍が、錬鉄竜の表面を覆う漆黒の薄膜を消滅させる。

 やはり<闇誓書>の時と同じ。ありとあらゆる結界を切り裂く<雪霞狼>の神格振動波は、魔力を無効化するフィールドそのものをも無効化する。

 しかしながら、決定力が足りない。槍ひとつで三頭になった錬鉄竜を解体するのは、剣巫であっても至難であり―――だが、これでもう、<第四真祖>の眷獣の攻撃を弾いた、闇色のオーラはなくなった。

 

「先輩……!」

 

 雪菜の声に応じて、古城は左腕を突き上げてみせた。その腕から噴き出した鮮血が、爆発的な魔力を帯びた青白く発光する。

 

「<焔光の夜伯(カレイドブラッド)>の血脈を継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ―――」

 

 あの時の頭を削るような痛みはなく、暴れ狂おうとする“負”の魔力を掌握して、その幉をしかと手放さない。

 

 

疾く在れ(きやがれ)、11番目の眷獣、<水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)>―――!」

 

 

 閃光の中から出現したのは、水流のように透きとおった肉体を持つ新たな眷獣。美しい女性の上半身と、巨大な蛇の下半身をもち、流れ落ちる髪も無数の蛇――青白い水の精霊(ウンディーネ)

 水妖の巨大な蛇身が、爆発的な激流となって加速する。鋭い鉤爪を備えた繊手が、“竜”の頭部を鷲掴みに握り潰して、海中へと引き摺りこむ。

 <第四真祖>の『11番目』の眷獣は水の眷獣であり、この莫大な量の海水すべてが肉体。

 そして、その力は―――『再生』と『回復』

 あらゆる存在を癒して、本来あるべき姿に戻す、吸血鬼の超回復を象徴する癒しの眷獣。

 

「GYAAAAAAA―――」

 

 海中に沈み、水妖に抱かれた“竜”が、もがき暴れる。

 その錬鉄の巨体が、強酸を掛けられた金属片のように溶かされていく。

 これは、破壊ではない。“あくまで再生”だ。錬金術によって生み出された霊血が元の金属に姿を変えて、殺龍剣に染みついた血霊がただの鉄屑に戻って、母なる海と大地へと還る。

あたかも母体に包みこまれた、生まれる前の胎児のように―――

 

「やはり、凄まじい……」

 

 ぞくりと全身を震わせる監視役の雪菜。

 もはやあれは癒しではなく、時間の逆行。行き過ぎてしまえば――生まれる前の姿にまで還す。

 強固な城壁を土塊に、高度な都市を不毛の大地に、優れた文明を原始以前に。

 災厄の化身たる<第四真祖>の眷獣に相応しい。

 今回はその時間を巻き戻すほどの『再生』に賭けてみたけれど、綱渡りであった。無事に金属化した身体も治ったけれど、下手をすれば、同級生のように赤子になるのではなく、生まれたことすらなかったことになりかねないもの。

 だが、その賭けに出ざるをえなかった状況であったのだ。

 

「先輩」

 

 “竜”を消滅させて、雪菜が古城に呼び掛けると、気だるげに顔をこちらへと向ける。力を多く消耗した反動からか、どことなくやさぐれた雰囲気だ。

 

「姫柊、怪我は?」

 

「大丈夫です。傷ももう塞がりましたから」

 

 首筋につけられた先ほどの吸血行為の噛み痕を押さえながら言う雪菜に、古城は居心地悪そうに視線を明後日の方へ向ける。そして、その場にずるずると膝をつく。慌てて雪菜は彼の隣に駆け寄る。

 

「……先輩!? 大丈夫ですか? もしかして、まだ回復しきれてなかった……!?」

 

「ああ、違う違う。ただの寝不足だ」

 

 気だるげなまま手を振って否定する古城、気を抜くと眠ってしまいそうなくらいに瞼が落ちかけている。

 

「昨日ほとんど寝ていないからな。こればっかりはしょうがねぇよ」

 

「そんなにクロウ君と凪沙ちゃんが気になったんですか? まさか寝てるところを覗き見て」

 

「そうじゃねぇよ! そうだったけど、そんなことしてねぇ! 昨日はニーナと」

「へぇ、昨日の夜から先輩が何をしていたのか興味がありますね。ニーナ=アデラードさんと知り合った経緯や、彼女が小さい浅葱先輩の姿をしていたことが特に」

 

 うっかり監視役の目を盗んでいた隠し事を洩らしてしまい、古城はこめかみに冷や汗を垂らして、にっこりと笑う雪菜から目を逸らす。しかし肩を貸している状態では逃げようがなく、いくら休暇中の彼女に心配を掛けたくないという考えがあっても、結果としてこんな風に騒ぎを拡大させてしまったら本末転倒。

 ……その気遣いが、けして嬉しくないというわけではないけれども。

 とかく隠し事をされるのは傷つくし、それにこちらも心配しないことなどありえないのだ。どんなに離れていてもだ。

 

 

「っと、んなことしてる場合じゃねェ。早くクロウに……あいつがまだ『賢者』と―――」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 人間が最初に手にした武器は枝。

 爪牙にあらざるもので生物の肉を刺し穿つ可能性を知った。

 

 ほぼ同じくして小石を手にする。

 投擲という概念の取得は、より遠く、より安全な位置から生物の命を討つという思考を、人間に刻みつけた。

 

 やがて、剣が世界に生まれる。

 最初は石器、次は青銅器、さらには鉄器。素材を変えていくたびに、人間の爪牙は獣たちを超えていき、

 咎神(カイン)の子孫たる鍛冶の始祖(トパルカイン)は、ついには神の御子をも殺す、殺神の刃を創り出した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 天然の精霊遣いであり、魔剣聖剣の鍛冶技能を持つとされる巨人種。その巨人種の心臓を喰らいし生まれた魔狼の血を引く者。

 そこに、『知識』――鍛冶の始祖が子孫でもある“咎神の情報”が入力(インプット)されれば、どうなるのか。

 

「……『原罪(これ)』が何なのか大体わかってきたし、そろそろやるのだ」

 

 活性化された甲板より生えた樹に手を伸ばすや、掴んだ枝がたちまち棘を生やし伸び上がる。強化呪術に、超能力の『香付け(マーキング)』による“情報”の付加。ただの枝が、魔槍の如く鋭い槍と化す。表面で弾ける雷光を見ても尋常でない力を秘めているのがわかるだろう。

 

「オレができるのは強化と死霊術に召喚術くらいで、詠唱とかもほとんどしたことがない―――」

 

 枝の槍を、思い切り投げる。

 

 <賢者の霊血>

 液体金属であり流動性があるも、鋼の硬度を持つその肉体。警備隊の包囲射撃を受けても穴を空けることもできず、呑まれて食われる。

 いくら強化しようと、人外の膂力で投擲しようと、樹枝の一刺が鋼を貫くことはありえず、逆にそこに込められた呪力を喰らい―――

 

「―――でも、“これ”には必要ないんだぞ」

 

 

 《Kyriiiiiiiiiiii(キリィィィィィィィィィィ)―――!

 

 

 『香付け』で枝槍に込めた“情報”は、『鳴り鏑』。

 舞威姫は呪矢の風切り音による詠唱で、人間の限界を超えた高密度の魔方陣を描き出す。

 そして、その音は、かつての<模造天使>と化した叶瀬夏音の発声(さけび)のようで、霊血の肉体に枝槍が当たった瞬間、透き通るような碧い輝きが閃いて、吸血鬼の眷獣に匹敵する凄まじい魔力が解放される。大気が凍てつき、『賢者』の周囲が白く煙る。花弁のように雪の結晶が舞い狂い、純白の凍気に金属生命体は包み込まれて、氷山と化した。

 

「オマエ、金属だからかっちんこっちんにされるとダメなんだろ?」

 

『カカカ……通用せぬ。所詮、不完全な存在の術など』

 

 金属の性質の弱点をつく、凍結による封印。

 しかし、それも<賢者の霊血>にしてみれば一度体験し、既に破った策。不意をつかれたが、表面と内側に真空の断熱層を造り出す、魔法瓶の原理で本体の凍結を防ぐ―――

 

 

「じゃあ、通用するまでやってやるのだ」

 

 

 枝槍を投擲したと同時、樹より枝を取り、強化魔術と“情報”付加の超能力を行使。次々と樹より生えてきた枝が、あっという間に魔人を取り囲む。

 右、左、また右。それを繰り返す。

 目にも止まらぬ速度で両腕を振り回し、魔人が枝槍を撃ち放つ。

 

 《Kyriiiiiiiiiiii―――!

   《Kyriiiiiiiiiiii―――!

     《Kyriiiiiiiiiiii―――!

 

 天使の凄絶な絶叫を再現した『鳴り鏑』の特殊詠唱。

 いつの間にか、音が止まぬ内に、別の詠唱が割り込む。さらに別の方向から、輪唱のようにまた次の詠唱が響いてくるではないか。

 

『カ……―――』

 

 さらに、分身。

 樹を活性化させて枝を生やし、

 その枝を『鳴り鏑』と化し、

 <賢者の霊血>へ投擲する。

 それを三段式のローテションで回しながら、段々とその分身の数を増やしていく。

 

   《Kyriiiiiiiiiiii―――!  《Kyriiiiiiiiiiii―――!

 《Kyriiiiiiiiiiii―――! 《Kyriiiiiiiiiiii―――!

  《Kyriiiiiiiiiiii―――! 《Kyriiiiiiiiiiii―――!

 

 詠唱でありながら、息継ぎを必要としない『鳴り鏑』の特性。それを生かした連射。そして、数十に分身しても増殖を続ける常識外な怪物の生命力を持つ魔人。個人でありながら数の暴威を実現する。

 冗談じみているが、冗談ではなく本気であって、冗談が通用しない、道理を無視した圧倒的な『強さ』―――それがなければ、殺神兵器など名乗れない。

 

     ―――  ―――  ―――《Kyriiiiiiiiiiii―――!

    ―――  ―――《Kyriiiiiiiiiiii―――! 《Kyriiiiiiiiiiii―――!

   ―――  ―――《Kyriiiiiiiiiiii―――! 《Kyriiiiiiiiiiii―――!

  ―――  ―――《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii―――!《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiiiiiiii《Kyriiiiiii《Kyriii《Kyri《K《K《K《《《《《《《《《《―――――

 

 詠唱に詠唱が重なり、ついには地響きのような轟音となってこの海域内を埋め尽くした。

 すでに詠唱が終わっているはずの凍結魔術は発動されず、全ての詠唱が終わるまで空間内に力を溜め置いているかのようだった。

 だが、次の瞬間―――世界そのものが圧縮するかのような勢いで縮小を開始して―――半径数kmほどに渡って、フェリー周辺の海が氷結した。聖護結界が展開されている船内は絶対零度に凍える冷気とは遮断されて無事であるも、氷河期に転移したかのように、景色が一変する。そして、重唱となった凍結魔術を、一点に浴びせられた金属生命体は、

 

『カ――カカ―――まだ―――』

 

 不滅の肉体を、完全に停止させることはかなわずとも、確実にその動きは鈍った。触手を使った攻撃ができぬほど、液体金属特有の伸縮が固まりついている。そして、何よりも海底深くまで凍りつかされてしまい、錬金の対価にする貴金属を海水から摂取することができなくなってしまっている。魔法瓶の構造とは外界の接面を切り離すものであり、つまり、内側の本体部分は海に触れられない―――無尽蔵の供給源から断たれてしまった。

 それを理解している氷漬けにされた外殻を重金属粒子砲で突き破り、餌――高い霊媒素養の少女がいるフェリーへ―――

 

『カカ―――我に贄を捧げ―――』

「それを許すと思うのか?」

 

 しかし、そこには魔人がいる。

 振るわれる腕。気を固めて放つ霊弓術にて具現化される陣風に、『香付け』がされ、“情報”が組み込まれる。

 

 『知識』を得た人類は火を操るようになり、やがて光や雷でさえも発明家は神の領分より引き摺り落とした。

 

 『咎神の知識』を得て、『天部』をも超えた<過適応能力>は自然への支配力を増している魔人。

 轟嵐砕斧と呼ばれていたのと同じ不可視の飛ぶ斬撃。その目に視えない透明な刃は、“情報”を付加されて、それ自体がもう魔剣の如き『武器』となっている。舞威姫の武神具と同じ『疑似空間切断』という、標的の物理硬度に関係なく両断する、防御不能の一太刀へと。

 

『まさか―――我を―――本気で―――』

 

「できないことはない。一度は封印できたのだ。その“霊血()”が全部使い物にならなくなったら、オマエは止められるんだろ? こんなのオレにだってわかる簡単な理屈だぞ」

 

 銃弾も通じない鋼の肉体を持つ<賢者の霊血>が、斬り飛ばされる。

 そして、真空熱遮断の構造を取るよりも早く、斬ると同時に枝槍が撃ち込まれて凍結される。

 

 まずい。このままでは危険だ。

 <賢者の霊血>は数多の数に分裂ができる。そして、そのたびに力も分散されていく。無尽蔵に魔力を供給できる時であったなら、それは問題なかった。

 だが、今、解体された切れ端を凍結されていき、力が細分化され続けてしまえば、破壊されなくても、いずれ―――

 “神”はおろか、人間以下の存在として永遠にあり続けることになる。

 

「どこに逃げようと無駄だ。オレの『鼻』はオマエの“匂い”を覚えたのだ」

 

 魔人の炯眼に射抜かれて、『賢者』は硬直。そして、氷山を突き破り、飛び出したその黄金の巨人像を激昂に震わせる。

 

『カカカカカ―――逃げる、だと……! 完全なる我が、不完全な存在に恐れる、だと……!』

 

 本体が顔を出した瞬間、その出現を察知していた魔人は『疑似空間切断』の不可視の刃の乱れ撃ち。黄金の巨人像は細切れに両断される。否、両断される―――はずだった。

 だが、飛来した太刀風が触れる寸前、黄金の巨人像の全身を漆黒のオーロラが包み込む。

 

『我は“神”ぞ。恐れるのは、そちらである……!』

 

 ガラスが砕けるような音と共に、『疑似空間切断』の太刀風が砕けた。

 霊弓術の気刃に戻され、その鋼の肉体に食い込みかけるも虚しく弾かれる。

 

 錬金術の枠を超えた先にある、力。

 そう、“神”――『咎神』が振るった『聖殲』の再現。まだ、完全には程遠いものだが、それは魔力を根絶する『異境』を呼び出すものであり、不老不死の真祖すらも例外なく魔力を打ち消される。

 未完成であるため、その分、展開するには消耗が激しく、

 完成するには、やはり霊媒が必要だ―――

 

 

「オレは、ご主人の眷獣だ。どうして、オマエなんか恐れなくちゃいけないのだ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「『たぶん壊せる』っつってたが……」

 

 こりゃ手助けは必要なさそうだな、と口の中で古城はつぶやく。

 <第四真祖>が“戦争”ということを追求した殺神兵器だったのなら、その“後続機(コウハイ)”は“戦闘”ということを究極した殺神兵器だろう。

 両者の力は似て非なるもの。比べることは間違っているのだろうが、それでも一対一でやりあえば、不完全な真祖は力を完封させられて叩きのめされることを、古城は予感させられる。

 

「金ぴか。お前には同情してやるよ。わけもわからないまま、完全な存在として創られて、その挙句に全身の血を抜かれて封印されちまったんだもんな。だから、自分が完全とは程遠い不完全な存在だって気づかねェし、クロウの最終勧告に最後の最後までわからなかった」

 

 魔力を無効化する『異境』を展開する、不滅の金属生命体。

 それを前にしても、やはり怯まない。

 

 沼の龍母の肉を喰らい、武器を拒絶する不壊の身体だから?

 原初の人間に与えられた楽園を呼び込む皮の着物を纏うっているから?

 鍛冶の始祖の情報により、自然すら武器に変えられるから?

 

 ではない。力があるから、殺神兵器なのではない。

 

 『原罪の知識』を得て、“神”の力をよく知った上で、それでも戦いを挑めるからこそ、あの後輩は殺神兵器として完了できたのだ。

 

「―――そして、オレは、殺神兵器だ。滅ぼされるのは、“(オマエ)”だぞ」

 

 魔人の口が開けられ、その口腔が金色に光っていく。

 

 それは、炎。神獣の劫火の輝き。

 そして、そこに純白の神気が混ざり始める。

 

 バギン! と凄まじい音を立てて、魔人の口前に砲台の如く三つ重なった魔法陣が展開される。

 

 あれはまさか、と破魔の槍を持つ剣巫は瞠目する。

 

 溶鉱炉のように黄金と純白が溶け合う口腔より気炎を発しながら、口前の魔法陣はゆっくりと廻り、段々と加速しながら高圧電流の爆発を起こして、四方八方へ雷を飛び散らす。

 あの陣図の意味、そこに組み込まれようとする“情報(におい)”が何であるか、<雪霞狼>の担い手は誰よりも早く一目で理解する。

 

 『戦いの狼(べオウルフ)』が、人の聖剣が通じぬ沼の龍母を斃したのは、その住処に在った、全てを焼き払う炎の波を放つ、霧の巨人の剣だったという。

 『原初の人間(アダム)』の、楽園(エデン)への道を閉ざしたものは、守護天使の煌めき回転する炎の剣だったという。

 『鍛冶の始祖(トバルカイン)』は、隕鉄より神殺しとなった槍だけでなく、もうひとつ、一振りの剣を造り出していたという。

 

 神獣の劫火に『香付け』されるのは、耐性に関わらず刃を通し、神格にて異境を燃やし、そして、古代の宝槍と同じである―――『神格振動波』の“情報”だ。

 

 

 ゴッ!! と灼熱の龍の吐息のような勢いで巨大な剣が吐き出された。

 

 

「―――っ! 先輩、下がって!?」

 

 その声に思わず顔を覆い、傍で見守っていた古城らが息を止める。

 黄金と純白が完全に混ざり合った、白金(プラチナ)の剣の形をした焔。それは金属さえ融かす高温でありながら、船の転落防止用の柵から身を乗り上げていた雪菜の肌には火傷一つできなかったほどに、剣形に炎は集約されていた。文字通りの奇蹟。魔性を滅するためだけに生まれた、聖なる炎。ありえない色を現実に広げて、天上から降り落ちた花弁の如く、聖炎の剣は突き立った『賢者』を呑み込んだ。

 効果は、絶大だった。

 魔力を無効化する闇色のオーロラは蒸発し、魔導生命体である<賢者の霊血>は融け始めて、さらには極限まで冷やされてからの高熱に金属性質からも崩壊され、どおっと『賢者』の身体を縮ませていく。

 『神格振動波』の輝きを前には、いかな怪物の不滅といえど無力と化すか。

 まとわりつかれた黄金の巨人像はのたうち、喉を持ち上げ、奇怪な声を上げた。

 絶叫とも、悲鳴ともつかない声だった。

 

『カ……カカ……理解……理解した……』

 

 みるみるうちに、身体を半分以下にまで融解されながら、『賢者』は残る9割の身を切り離して反転した。

 

「逃がさないぞ」

 

 一度捉えた獲物は逃がさぬというように、空間跳躍じみたその俊足で追い、その左手の五指が噛みつくようにようやく露わとなった本体の核を掴みとる。

 髑髏だけとなった『賢者』は、その漆黒の霞の“壊毒”を纏わす毒手に握り潰されながら、消滅する間際に呟く。

 

 

『……その力は……カインが……絶滅させるための……』

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 戦闘が終わった。

 が、天塚に機関部を壊されたフェリー『パエトーン』に、最後の火炎で大半が溶かしつくされたとはいえ周囲は流氷が浮かぶ、北極とは程遠い南国の海なのに氷海で、身動きができない状況でおとなしく救助を待つしかない。

 とはいえ、あれだけ苛烈な『賢者』の戦いがあったにもかかわらず、しっかり聖護結界が張られていた船体は無事であり、乗客たちの安全は確保されている。

 で、

 

「―――さて、先輩。救助(おむかえ)の船が来るまでたっぷりと時間があることですし、昨夜のこととかいろいろ事細かに説明してもらいます」

「ひ、姫柊さん」

「今回のことでよくわかりました。やっぱり私が少しでも目を離すと、先輩はすぐに危険なことに首を突っ込んで、知らない女の人と仲良くなるみたいですね」

「いや、待て。その理屈はなんかおかしいだろ!?」

「ええ、反省しました。これからはもっと監視を強化しないといけないみたいです」

「勘弁してくれ……!」

 

 向こうで同級生の監視役に説教されている先輩を遠目で伺いつつ、また『波隴院フェスタ』のときのように巻き込まれないよう、ゆっくりと音を立てずその場を後にする。

 

「むぅ、なんだかすっごく疲れたぞ」

 

 『賢者』を斃してすぐ<守護獣(フラミー)>は身体の裡より飛び出すように分離して異界へと帰っていき、同時にクロウの『魔人化』も解かれて、小柄な中学男子の姿に戻った。その反動からか、体が怠く、眠い。うとうとと転落防止用の柵に背を預けて、瞼を閉じかけていると、声をかけられた。

 

「大儀であったな。南宮クロウよ」

 

「ん」

 

 顔を上げると、そこに夏音に抱かれている人形のような小人がいる。30cm足らずの妖精のようなサイズで、オリエンタルな美貌の見知らぬ女性の姿をしており、そのふふんと偉ぶるように張る胸には深紅の宝石――<錬核>が埋め込まれている。

 

「古城、雪菜も戦ってくれたが、主が『賢者』を斃した。どうやら最後まで壊すかどうか迷ってくれていたようだが、おかげで妾はようやく270年の重荷から解放されたわ。礼を言う」

 

「なあ」

 

「ん、なんじゃクロウ? 何か褒美が欲しいのか」

 

「お前、誰だ?」

 

 向こうはこちらを知っているようだが、あいにくクロウには小人の知り合いはいないのだ。赤子の時の記憶もおぼろげであって、なんとなくその“匂い”には覚えがあるけれども。

 あまりに率直な疑問をぶつけられて、尻餅をつくように腰を抜かしてずっこける小人であるも、クロウとしてもボケたつもりはないのである。

 

「そ、そうか。そうだったな。そういえば、自己紹介したのはお主が赤子の時であった。失念しておった。おほん―――妾は、ヘルメス=トリスメギストスの末裔にして、大いなる作業(マグナス・オブス)を究めし者。パルミアのニーナ=アデラードであるぞ」

 

「減るメシ、鳥住めギスギスの末裔にして、曲がる茄子をぶすっを究めし者。パエリアのニーナ=アデラード?」

 

「自己紹介が長かったのは確かだが、そこまで聞き間違えられるのは初めてであるな。錬金術師にして夏音の院長様であったニーナ=アデラードとだけ覚えるが良い。気軽にニーナと呼んでくれてもかまわんぞ」

 

「むぅ、ごめんな。今、お腹が減って、全然頭が働かないのだ」

 

 見るからに飢え死にしそうな表情のクロウに、ニーナと夏音は心配そうにする。

 

「大丈夫ですか? クロウ君」

「なるほど。やはりあの力は相当に消耗が激しいようだな」

 

「う。ニーナも何かすっごく消耗したっぽいな。前はもっとおっきかった気がするぞ」

 

「うむ。瀕死であった不肖の弟子にいくらか“霊血”を分けてしまったのでな」

 

 左腕を『賢者』に消し飛ばされ、右腕は“竜”となって暴走。<守護者>を強引に奪われた仙都木優麻と同じようにその魔力回路はズタズタでこのまま流出され続ければ、死んでいただろう。ニーナがその身を分け与える“献血”で欠損部を埋めていなければ。

 

「天塚はもう何もできんよ。妾の“霊血”で縛っているのもそうだが、何より其奴自身にその気がないからの」

 

 『賢者』が消滅し、その束縛より解放された。その何が何でも人間に()りたいという欲求もなくなったのだろう。今後、天塚がどうなるかは知らないが、どうするか、どう罪を償っていくかは天塚自身が考えて決めなければならない。人間であるのならば。

 

「それで、残った“霊血”で人型を保つにはこの寸法(サイズ)が限界であったわ。生活するのに特に不都合はないがな」

 

「う。そうか……でも、ニーナのいた修道院ってもうボロボロだぞ?」

 

「主らのところに厄介になるつもりだ。夏音もおるしの」

 

「夏音、前にご主人にマンションで猫飼っちゃだめだーって言われただろ?」

 

「はい。ですから、マンションで飼ってもいいよう、南宮先生を説得して見せます」

 

 クロウと夏音の会話に、ペット扱いするな、と古の大錬金術師が、むくれたように腕を組む。

 と、

 

 

「そんな時代遅れのアンティーク、どこぞの骨董品店でも置き場がないぞ」

 

 

 唐突に、皮肉交じりに虚空より登場する女性。

 疲労困憊なクロウであるも、その声には気合を入れて目を覚まさせる。

 

「まったく、目つきの悪い小娘に押し掛けられたばかりというのに、また居候を増やすつもりか」

 

「ご主じ……ん?」

 

 も、ぽかん、と固まる。

 何故ならば、現れたのはいつもの西洋人形のようなゴシックドレスを着飾った小学高学年の少女ではなくて、白シャツにタイトスカートの似合う大人な女性。バインバインの熟れごろ女教師になっているのだ。

 そんな困惑するクロウを見て、その女性――南宮那月は、ふ、と微笑を浮かべる。

 

「なんだ馬鹿犬、仔犬となったと聞いたんだが、戻ってるではないか」

 

「ご主人はなんか大人になってるけど……」

 

 戸惑う様子のサーヴァントに、那月はおっと眉をわずかに上げる。

 

「そうか。いつまでも馬鹿犬は馬鹿犬のままだと思っていたが、色を知るようになったか。これは古城に付き合わせた悪影響だな。やれやれ、困ったものだ」

 

 聞こえていれば、当人から猛抗議が来そうな発言であるも。

 しかし言いながらも、愉しげに口端を吊り上げる那月。

 そして、ただでさえ目立つ胸の膨らみを余計に強調するように腕を組み、いつものように尊大に胸を反らす。先ほど、教え子が食いついていたそのポーズをとる。そんな主に、

 

「ご主人、あんまり無茶しちゃだめだぞ」

 

 と眉をハの字にして、気遣うクロウ。

 ぴきり、と固まり、口端を吊り上げたその頬を引くつかせる那月。

 

「本当はちっちゃいんだから、あんまり違うイメージは(身体に)ダメだぞ」

 

 これは、けしてその見栄っ張りのことを言ったのではなく、この大人の状態を維持するのは普段よりも疲れることを知るからこそ、クロウは心配して言っているのである。

 ただ色々と間が悪いし、言い方も悪かったかもしれない。

 そうして、笑みは確保しつつも冷淡にその質を変えながら、主は組んだ腕を解いて、扇子を手に取り。

 

「ど、どうしたのだご主人……なんか顔が怖―――ぐぼぁ!?」

 

 きょとんと首をかしげるその横っ面に空間衝撃の術をぶち込まれる。

 3、4mも吹き飛んで受け身もとれずに転がるクロウは、疲労困憊もあってか、綺麗にノックダウンして―――そのまま、柵を超えて海に転落。

 

 

「この程度のシゲキに参るとは、『男』を名乗るにはまだまだ子供だな馬鹿犬」

 

 

漁船

 

 

 定員の都合上、装甲飛空艇に救助されたのは負傷者のみで、南宮那月は自力で動けない者を空間転移で船まで飛ばし、最後に霊力を多く消耗した夏音、ついでにニーナを回収すると、頭を打って気絶してるサーヴァントを放置して(海から鎖で引っ張り上げたが)去ってしまった。

 そんなわけで、クロウは気絶したまま古城らに運ばれて、後からやってきた旧式の漁船に乗せられたわけだが……

 

「ん……」

 

 ぱちくりと目を開けるクロウ。視界にまず飛び込んできたのは、海ではなかった。

 視界いっぱいにあったのは、大きな瞳。息が鼻にかかるくらい超至近距離で、制服姿の凪沙がこちらの寝顔を覗いていたのである。

 

「……………………………………………………」

 

「ん。おはよう凪沙ちゃん」

 

 と固まってしまっている凪沙からあっさりと離れて、ふわぁ、と欠伸をする思春期真っ盛りな年代であるはずのクロウ。寝固まった体を解すように伸びをしながら、頬を撫でて――まだズキズキする――から、頭を一回だけ回す。そして、一言。

 

「む。(海に落ちたから)なんか口の中が(しょっぱくて)変な味がする」

「―――してないよっ!?!?」

 

 これにはクロウもビックリするくらいの大声。耳元でやられてそれも五感の優れるクロウはより怯み、その間にも激情を爆発させる凪沙は、瞬発力抜群に舌を回転させる。

 

「その、最初は、気絶してるクロウ君を心配して看病してたんだけど、その顔を覗いていると何となく、いつのまにかいなくなったアダム君とどこか似ているような気がしてね! それと、これはたぶん夢、ううんきっと夢なんだけど! その、クロウ君の額に……(キス)をしたような気がしなくもないよう何と言うか―――そう! よく見たら背が伸びてる新発見があったりと気になって気になって注目しているうちに周りがだんだんと見えなくなって! ―――あれ、私、何言ってるの!? ごめん、クロウ君、何言ってるかわからないと思うけど、とにかく何にもなかったから! じゃね―――きゃっ!?」

「―――あぶない!」

「!?」

 

 舌は回るも足はもつれて、転びかけた凪沙を咄嗟にその右手を取って掴まえるクロウ。

 

「よくわからないけど、落ち着くのだ凪沙ちゃん。あんまり慌てるのは身体によくない」

「だ、大丈夫だよ。凪沙はもう元気だし、検査入院だってばっちりで―――」

「―――オレの目を見ろッ!」

 

 グッ、と凪沙の手首を握り締めたまま腕を引いて、肩に手を置いて強引に前を振り向かせ、目を合わせる。

 金色の目に捉えられた凪沙は金縛りにあったように動けず、しかしその自分の顔が映る――凪沙を真っ直ぐに見つめる瞳を前にしていくうちに、不思議と呼吸は落ち着く。クロウもその手に取る凪沙の手首から脈拍のペースが落ちてきているのを計り取っている。

 ……ただ、どうしようもなく胸の裡の熱だけは下がらずに上がり続けているけれども。それは実際の体温ではないため、クロウには勘付けない。ただただその真剣なまなざしは、彼女の不調を探ろうと必死である。

 

「………」

 

 しばらく見つめ合い、少女の火の出るような赤ら顔は、熾火となるように落ち着いていく。ただし炎が揺らめかず表面上は静かに見えてもそれはけして鎮火したわけではなくて、火が出るよりも炭の熾火の方が温度は高い。が、体調を気遣う少年は勘付けない。

 ポーーーーーー……と少女の視線にとろんと熱が篭り始めた時、『落ち着いたようだ』と判断した少年は声をかける。

 

「落ち着いたか?」

 

「う……うん。もう大丈夫」

 

 火傷しそうなくらいに熱く感じるその手が離れる。

 あっ、と思わず口から零すも、しっかりと掴まれていた右手首にはまだ彼の掌の感触が残ってるようで、我知らずに左手で右手首に触れていた。

 触れる―――というより、撫でる、と表現すべきかもしれない。彼の掌から伝わった熱を、消えてしまう前に指先でなぞっていく。

 けれど、その行為は少年からすれば、さすっているように見えて、

 

「ごめん。ちょっと強く握り過ぎたのだ」

 

 加減を誤ったと謝罪。それを受けた少女はそこでようやく名残惜しむように左手が右手首を撫でていることに気づいて、ぶんぶん、と首を横に振る。

 

「ううん! 違う、違うよクロウ君! 痛くなかったし、全然大丈夫! それにもともと凪沙が転びそうになったのが悪いんだし、それを助けてくれたんだから謝らないでよ。こっちは感謝したいくらいなんだから」

 

「そうか。なら、よかったぞ」

 

 それから、パチパチ、とクロウは瞬きをして、指摘。

 

「そういえば、リボンどうしたのだ?」

 

 ショートカット風にまとめるように結い上げていたのが、今は解かれている。そのせいか、いつもと違い長い髪を下している少女は少し大人びて見えた。

 

「え、あ、目が覚めたら、なくなちゃってたっというか……せっかく買ったコートもダメになっちゃったし、宿泊研修は中止だし。荷物は弁償してくれるって言ってたけど」

 

 そうとうへこんでいるのか、凪沙は大きく肩を落として溜息を吐く。

 

「ま、あれだけの事故で死人が出なかっただけでもラッキーだけどね。季節外れの流氷が激突しちゃうなんて、まるで映画みたいな話だよね」

 

 今回の賢者事件は、彼女の言うとおり、船が流氷に当たって不具合が起きたと説明されている。こんな太平洋のど真ん中で氷原があるのは信じがたいが、それを個人が引き起こした方が信じられるものはいない。張本人な少年はちょっとやり過ぎだと斜め上に視線を逸らして……また少女を見る。

 

「どうしたの? もしかして、何かついてる?」

『さあ、我に殺神兵器の本性を見せてみろ―――!』

 

 重なるは、やはりあの過去の幻影。そう、“あの時も”髪を下していた。

 それに少年は一度瞼をおろし、深く裡より吐き出すように長く息を吐いてから、首を横に振る。

 

「ううん。なにも、もうなにもついてないぞ。心配しなくていい。いつもと感じが違うからつい見ちゃったのだ。うん、何か大人な感じだ」

 

「そう? ……もしかして、クロウ君は……こっちの方が好みだったり……」

 

「好みと言うより、物珍しいのだ」

 

 とその回答を聞いた少女は白けたジト目を作って、つい、ポコッと少年を殴ってしまう。

 

「あた!?

 なにをするのだ、凪沙ちゃん?」

 

「なんでもないよ、もう! そんなんだから、クロウ君はクラスの女子から40点って点数がつけられるんだよ」

 

 とそんなことをうそぶいた凪沙に、クロウはややショックを受けた顔で、

 

「む。オレがいつもとってるテストの平均値くらいだ。そんなに嫌われてるのか?」

 

「そ、そういうわけじゃないんだけどね? もう何でこんなこともわからないのこの分からず屋って感じで……まあ、凪沙がさりげなくフォローしたから。“朴念仁”は、素“朴”で、信“念”を持ち、“仁”義のあるって……」

 

 凪沙が頑なに目を合わせようとせずなんだかだらだらと汗を垂れ流してるのが気になるが、彼女がこんな野放図なデマカセを口にしたりはしないだろう、とクロウは頷き、またまた凪沙の髪を見て、

 

「でも、オレはいつもの凪沙ちゃんがいいぞ」

 

「それって、その……普段が一番、ってことなのかな」

 

「うん。一番安心できる」

 

「やっぱり33点にしとけばよかったかな……」

 

 先ほどの大人版ご主人の時も思ったが、いきなり大人になられてもクロウとしては戸惑うしかない。

 なんて事情は理解されても、共感は得てくれないもので、不満そうにまた少女の頬がぷくうと膨れる。

 

「どんな髪型が満点なのかとか言われても、正直オレにはわからない。でも、いつも通りの凪沙ちゃんが凪沙ちゃんらしくていいと思うし、凪沙ちゃんらしい方がオレは好きだ」

 

「な……なんか髪を結うもの探してくるね!」

 

 急に船室から出ようとする凪沙は、部屋の入り口で立ち止まって、

 

「ねぇ、クロウ君」

 

「なんだ、凪沙ちゃん?」

 

「ごめんね。クロウ君、仕事があるのに、あんな無理、言っちゃって、凪沙が悪いよ」

 

 震える声で、つっかえつっかえに言う少女に、クロウは淡く苦笑してしまう。

 

「いいや……こっちがごめんだ。事情はあっても、オレが約束を破ったのは変わりないぞ。オレの方こそ言い訳のしようがないのだ」

 

「うん、変わらないね」

 

 断言して。続けて、告げる。

 

「たとえ、どんなことがあっても、私の気持ちはブレない。……クロウ君と仲直りしたいよ」

 

「うん。オレもだ」

 

 今回はストレスのたまる仕事で、すごく疲れたりしたけれども。

 仲直りができた。こうしてまた彼女と話せているだけで、ひどく、肩が軽くなる。

 少年は自分でもよくわからないが、少女が歩み寄ってくれることがとてもうれしくて、満面の笑みで応えられた。

 そして、そんな笑みを背中からも感じられた少女は目を瞑る。ふぅ、と熱い息を吐いて、逸る気を落ち着けさせてから、

 

「わたしはわがままで、怖がりで、ひどいことをして、何度も何度も謝るようなことばかりして、けれど―――それでも―――」

 

 少年には、まだ早いと理解している。

 だから、きっとそれで彼の気持ちが揺れ動くことはなくても。

 正しく意味を理解してもらえずに、独り相撲にしかならないだろうけども。

 なんてことのない一言に嬉しくなって舞い上がってるだけで、帰ってからベットで羞恥に悶えることになったとしても。

 ただ、この胸の裡には留めておけず張り裂けてしまいそうだから、いま伝える。

 くるり、と振り返って、この“戦争”の宣戦布告とばかりに凪沙はクロウに指差して、

 

 

「クロウ君のこと、好きでいてもいい?」

 

 

人工島西地区 高級マンション

 

 

『『獣王』の器が覚醒した、と……』

 

「ええ、四番目の真祖に三人の真祖が注目するのと同じく、ありえざる第八の大罪の登場に、世界に7体いる魔獣の王たちは長い休眠から覚めるでしょう。もうすでに『蛇』は活動を始めていると報告がいっているはずと思いますけど」

 

『ああ、『蛇』の器の準備はすでに進めている。それで、そちらはどうなっている?』

 

「残念。断わられてしまいましたわ」

 

『何を暢気なことを。すでに獅子王機関には目を付けられているのだろう。ならば、無理やりにでも』

 

「無理よ。縛り(ハンデ)があっても、『獣王』の器はそう取れるものではないわ。それに怖い魔女がついておりますのよ。……まだ、絃神島の国家攻魔官に計画のことを知られたくはないでしょう会長?」

 

『ちっ……だからと言って、諦めるつもりではないだろうな妃崎攻魔官』

 

「それはもちろん。太史局の上層部が、獅子王機関と話をつけ、私が『獣王の監視役』になりましたのよ」

 

 

 

「うがぁ~~~~~っ」

 

 ゾンビのように死にかけてる南宮クロウ。

 雨降って地固まり、仲直りできた暁凪沙とより親密になれた気がしたのは嬉しくて、身体が軽くなった気分だけど、腹は膨れない。赤子であったころの記憶がほとんどないため、クロウにとって、昨日の昼から何も食べていない。育ち盛りの少年にしてみれば、これは致命的な事態である。

 そんな空腹の後輩を見るに見かねて、赤子にしてしまったことへの罪悪感もあった先輩の古城がちょっと部屋によって、昼飯食っていけ、と誘ったのだ。が……

 ご飯の誘惑に負けず、その時に危険信号を発した直感に従い、主のいる自宅まで我慢すればよかった。

 最初は、料理上手な凪沙が、腕によりをかけると言ってくれてすごく期待したのだ。

 でも、先輩の部屋に寄ってみたら、異臭と黒煙が充満していて―――浅葱先輩の手料理(サンドイッチ)が待っていた。

 

 藍羽浅葱の幼馴染曰く、小学5年生の時に焼いたクッキーでクラス男子14人を病院送りにしたという壊滅的な調理センス。

 

 鉄の胃袋をもち、ゲテモノ的な料理にも耐性があるクロウは、古城らが怯む中で、空腹と言う最高の調味料(スパイス)を頼りに、一番槍で突撃していった―――そして、臨死体験をする。

 前に『美食家』に対して、『毒かどうかもわからないで口にするのは馬鹿だ』と言ったのがブーメランになって返ってきたが、言い訳させてもらえるのならば、

 出されたサンドイッチから漂う異臭によって、人以上の魔族の中でも特に優れた獣人種の鼻を超能力で拡張された嗅覚(スカウター)が、エラーを起こして測定不能(まひ)になっており、そこにあるのがどれだけ戦闘力なのかを計れなかった。そして、普通に調理すれば毒のない食材であれほどの劇物を作れるとは思わなかった。

 

 それでも一度でも手を付けたご飯は命の恵みに感謝して(冒涜的な料理であっても)完食するように躾けられていたクロウは、涙を流しながらも根性を出して、全部、食べた。結局、手を付けられなかった皆の分まで。

 

 その勇姿に古城らは感涙して、しばらく部屋に休んでいけと言われたが、消臭剤を巻き換気をしても異臭を感じるクロウはそこにはいられず、退散。

 

 で、西地区から南地区へ夢遊病のようなふらついた足取りで、どうにかここまで辿り着いた、ら……

 マンションの正面玄関前に、引越し屋の一台の小型トラックが止まっていた。そして、こちらを待ち構えるように、やや年上の少女――昨日出くわした六刃の妃崎霧葉が立っていた。

 

「あら、昨日振りね。南宮クロウ」

 

「お前、この前の……」

 

 その世の中に拗ねたような目つきを細めて、薄い微笑を作る彼女に対し、思いっきりしかめっ面を作るクロウ。

 

「太史局の六刃神官とかいうのは断ったはずだぞ」

 

「ええ、だから、私がここに派遣されたのよ」

 

 ―――政府公認の監視役として。

 

「本当なら、見習の本家に倣って、隣の部屋に住みたかったのだけど、最上階フロアはこの持ちビルのオーナーが独占しておりますもの。だから、最上階の一つ下のフロアに部屋を取りましたわ」

 

 このマンション、クロウはあまり気にしたことがないが、絃神島でも一等地に立つ高級物件。そして、ビルの家主(オーナー)は、獅子王機関を商売敵というくらいなのだから、同じ政府機関の太史局の人間にあまりいい顔はしないはず。通常でも高い家賃の、さらに倍の値段請求を吹っかけてきてもおかしくない。いや、入居お断りする可能性もある。

 それでも、押し通してしまえるのだから、これは日本国政府から正式に認められている任務なのだろう。

 

「きっと長い付き合いになるだろうから、<空隙の魔女>――あなたの主人とは友好的な関係を築きたいと私は思ってるわ。後で引っ越しの挨拶に伺わせてもらうわね」

 

 そういって、配達員と一緒に自分の部屋のあるフロアへ向かう霧葉を見ながら、

 

(絶っ対、今日のご主人は機嫌が悪いのだ)

 

 ものすごく家に帰りたくなくなったけど、これ以上主を心配させるわけにはいかない。今日は厄日なのだと嘆く第四真祖の後続機(コウハイ)であった。

 

 

 

つづく

 

 

スーパー

 

 

「今度の魔獣狩り(モンスターハント)、オレ不参加するのだ」

 

『何を冗談言っているのかしら? 大罪の魔獣ベヒモスよ。『獣王』のあなたには是か非でも参加してもらわないと困るのだけど』

 

「別にそいつ今悪さしてるわけじゃないだろ? 南極でかちんこちんに凍ってるから、放置しててもいいんじゃないか」

 

『まぁ、太史局が早急に退治しなくちゃいけない必要はないわ。でもね、<空隙の魔女>と交渉して、ようやくサーヴァントを借りる権利を取れたのに、いきなり仕事を断られるのは困るのだけど。せめてこちらが納得できる、すでに支払ったレンタル料と時間に見合うほどの理由を言ってくれないかしら?』

 

「育休だぞ」

 

『………………はぁ!? どういうこと? あなた、まだ16よね?』

 

「そうだけど。なんかオレの子供ができちゃってたのだ」

 

『できちまったって、あなたねぇ……! 私の監視()を盗むなんて、一体どこの誰とつくった子供なのよっ?』

 

「それは―――あ、セールが始まった。ごめん、行かなくちゃ」

 

『待ちなさい! 何電話を切ろうとしてるの! 私はまだ納得してないわよクロウ!』

 

「じゃーな」

 

 

人工島南地区 マンション

 

 

 学生で子育ては、相当大変になるだろうと思われたが、手伝いにやってきてくれる医学知識のあるアスタルテと子供の面倒見のいい修道院を経営した大錬金術師のニーナ=アデラードや叶瀬夏音のおかげで、どうにか形になってきている。

 そして、今日もひとり、報せを聞きつけた旧友が部屋に訪ねてきてくれた。

 

「わぁ、久しぶりだねユウちゃん!」

 

「久しぶり、凪沙ちゃん。また美人になったね。見違えたよ」

 

「またまたー……そんなお世辞言っちゃって。こないだもそう言ってたよね」

 

「それくらい綺麗になったってことさ。やっぱり恋をするとそうなるのかな」

 

「もう! からかうのはやめてってば! それを言うならユウちゃんもでしょ」

 

 歯の浮くような気障でありながらも、妙に説得力のあるセリフを口から出すのは、仙都木優麻。凪沙と古城の幼馴染で、昨年の『波隴院フェスタ』ではこの暁家でお泊りをしたことがある。そのときは、魔女としての使命に縛られていたが、今回こそは彼女たちの友人としてやってきた。

 

「にしても、まさか凪沙ちゃんに先を越されちゃうとはね。彼は古城以上に疎そうだったのに」

 

「それはちょっと違うよ。私たちの細胞が使われたってだけで、凪沙が産んだわけじゃないし」

 

「でも、君たちが親として育てるつもりなんだろ? 婚約までしたそうじゃないか。なかなかできることじゃないよ」

 

 そうして、ベットに眠っている赤子の様子を見た後、

 

「それで、古城は?」

 

 そわそわと気になる彼の家でもあることから緊張気味の優麻。

 ちょくちょくと連絡は取り合ってはいたが、闇聖書事件で捕まって以来、顔合わせしてない。この婚約騒動も、彼から聞いて、“ある事”を頼まれたのだ。でも……

 

「あー……古城君、『こんな部屋(ところ)にいられるかー』って出てちゃって」

 

「え、そうなのかい」

 

「引き留めようとしたんだよ。……うん、それなら凪沙がクロウ君の部屋に移って、向こうでお世話になろうかって言ったんだけど」

 

 

 ドンッ! と隣の部屋の壁が叩かれる。

 

 

「それは、断固反対だって古城君が」

 

「なるほど。古城は隣にいるのか。ああ、だから……」

 

 壁の向こうが、もうなんか透視(イメージ)できてしまった優麻は呆れたような乾いた笑みを浮かべる。

 同じ部屋にはいられず、かといって妹を外に出したくない。その結果、お隣の年下の女の子の部屋に転がり込む。

 

 優麻が古城から話を聞いたとき、頼まれこと。

 それは、『波朧院フェスタ』の前日のときのように、空間転移の『門』を繋げることだった。

 一体それはどんな理由でそうなったかはメールで質問しても答えてくれなかったけど……

 

「うん、必要ないね。もう、いっそ壁を壊して穴を空けてしまえばいいんじゃないかな」

 

 ……何をやってるんだよ親友。

 わかってたけど、妹のことになると器量が小さいなアイツ。

 だいたい、監視役の部屋で監視してるとは……きっと監視役の娘は苦笑いに違いない。古城と二人っきりだというのにあまりうらやましくない状況である。

 

「古城はわかってないんじゃないかな。空間制御というのは本当に高度な術で、そんなことに使えるほど安いものじゃ」

「―――お邪魔します凪沙ちゃん。南宮先生からムツミちゃんに……あ、あなたは仙都木優麻さんでした?」

「ないんだよ。普通はね」

 

 ベランダから、突然現れた、お人形を抱きかかえた銀髪の少女叶瀬夏音。

 見れば、そのやってきたベランダには空間転移の『門』が造られている。おそらく、彼が住んでいた西地区の高級マンションの部屋と繋がっているのだろう。

 

(あの人は、もうなんだろうか? ダメだ、ボクには読めない)

 

 あの主従関係を見て、どれほど彼を大事に思っているかを知っているつもりだ。無断でその細胞を使われて、さらにその子供を押し付けられた。きっと怒るだろうなと思っていたけど……

 もう一度赤子が眠るベットを見れば、あの人のセンスっぽいゴスロリチックなベビー服や人形があるのだが、それほど怒っているのか?

 とにもかくにも、

 

「古城の奴は、本当にどうにかしないとな……」

 

 今の彼はこの『暁の帝国』の王である。たとえ表向きに存在が公表されず、裏でも采配を振るっているのが別の人間なのだとしても、その気になれば真祖としての実権を握れるだけの実力があるのだ。彼の意向次第では、この仲が引き裂かれることも可能だろう。

 

(まあ、でも、古城がそれをするはずがない。それにきっと……)

 

「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど、ずっと避けられてるんだよね。……そんなに古城君、クロウ君のこと嫌いだったのかな……?」

 

「いや、それは違うよ凪沙ちゃん。そうでなきゃ、古城は大事な妹を置いて部屋を出たりはしない」

 

「はい、私もそう思います。お兄さんは駄々をこねてるだけだと、院長様も仰っていました。それから―――」

 

 夏音が言う。

 『暁の王国』と結びつきの強い北欧アルディギアの第一王女ラ=フォリア=リハヴァインが、解決するための舞台を準備していると。

 

 

道中

 

 

「う~ん」

 

 凪沙から頼まれた買い物を済ませた帰り道。首を捻ってうんうん唸るクロウ。

 赤子の世話とか、凪沙との関係とか色々と悩みの種はあるも、話を付けなければならない先輩、古城と会うことができないでいる。

 部屋を出て行ったが、隣の雪菜の部屋にいる。だから、会いに行こうと思えば会えるはずなのだが、逃げられる。それも吸血鬼の霧化を使ってまで、しつこく追いかければ眷獣が邪魔をしてくる。なのに、隣の部屋にいる。そこを雪菜が引き留めてくれればいいのだが、何分、彼女は古城に甘いので、本気で逃げようとすればそれは止めないのだろう。また、浅葱が電子セキュリティを敷いているためこっそり近づくこともままならない。クロウとしても“匂い”を覚えているのでどこに隠れようとも延々と追い続けることはできるのだが……そこまで本気でやられると追いかけづらい。

 

『馬鹿犬が、自分で撒いた種だと認めたんだ。むざむざと帰ってくれば、去勢してやる』

 

 と言われてるため、主に助言を求めることはできない。

 ニーナにも相談したが『時間を与えてやれ。お主と会ったら、認めざるをえないからな』と言われ、中等部の時の担任であり師である笹崎岬に相談したらからからと笑われて、『ここ最近ご主人(センパイ)から深酒飲みに付き合わされて困ってたり』と愚痴られた。他にもいろいろと大人の知り合いに相談したが、解決策を教えてくれるような“相談役(セコンド)”は誰もおらず―――

 

 

「人の考えに染まり過ぎて、(ワレラ)のやり方を忘れたか南宮クロウよ」

 

 

 渋い声に振り向き、クロウは目を大きくして見張る。

 

「お前は……」

 

 初老でありながらも、古兵(ツワモノ)と呼ぶにふさわしい壮漢。

 以前よりも老けてるようで、髪と長い顎鬚は黒から灰色となっており、けれど、その体つきは逞しく、(ひぐま)のごとき印象が強い。クロウより頭ひとつ高い体に、これでもかと筋肉を詰め込んだようだ。黒の軍服を纏った姿は老紳士然としているが、圧倒的な覇気は隠せていない。

 

「何を悩むことがあるか。力で奪えばいい。真祖より、その大事な妹を花嫁にな」

 

 クリストフ=ガルドシュ。

 あの<蛇遣い>ディミトリエ=ヴァトラーと対等な相手として交渉し、黒死皇派を率いた獣人。ヴァトラーがいなくなったが、昨年に捕まっていたはずの益荒男が大きく口角を吊り上げた笑みを見せつけながら、クロウに言った。

 

 

「<黒死皇>としてではない、獣王であったころの盟友が果たしたかった夢―――そう、お前が真祖を倒すのだ」

 

 

 

つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。