ミックス・ブラッド   作:夜草

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新たに召喚する眷獣を入れ替わりで変更


黒の剣巫Ⅴ

回想 彩海学園最寄駅付近 空き地

 

 

 異様な光景であった。

 ストリートバスケ用のボロボロのゴールで、二人の少年が一対一(ワンツーマン)で競い合う。

 片や転校してすぐバスケ部のエースとして認められた灰色の髪の少年。その相手は、一つ下の後輩で、ドがつくほどバスケ素人の厚着の少年。

 それが“真剣勝負”している。

 

『いくぜ』

 

 ド素人を相手するエースの表情に、嘲りの色はない。どころか、この常夏の温度の中にあってもなお熱を感じるほどの強い闘志を、真っ向からぶつけている。同じコート内にいて審判を任されているエースの悪友にもひしひしとそれが伝わるくらいだ。

 

『らッ!』

 

 チェンジ・オブ・ペース。刹那のうちに、全てが加速。エースの得意技。

 後輩の左側に向けて、大地を貫くように足を踏みだすエース。反射的に身体を入れて進撃を阻みにかける後輩。

 

『ぬっ』

 

 一歩前に踏み出したエースが、二歩目を、逆側に。

 ドリブルの開始と同期して、進行方向を後輩の右手側へと、瞬く間に切り替える。

 ―――ジャブステップ。専門用語を使わずわかりやすく言うなら『足踏みフェイント』。

 ある程度習熟したバスケ選手なら誰でも使えるような、ごく基本的なテクニック。だが、エースはその技ひとつで都内の強豪と渡り合ってきた。

 おそらくこれまでの公式戦でエースのジャブステップを運任せでなくフェイントを看破できた人間は、まだいない。踏み出しの大きさからは信じられないほどのスピードで繰り出される切り返し。ディフェンス側に決め打ちをさせないシュートレンジの広さ。そしてなにより、フェイントをフェイントと思わせない天性の迫力と言うか、絶対王者の威圧と言うか、凄み。これにかかれば、基礎技術がたちまち必殺のムーブとなる。

 チームの総合力が足りないせいで都大会で踏み止まっているが、エースは全国区でも活躍できる逸材だ。実際、都大会優秀選手にも選ばれている。

 彩海学園中等部が誇るエースを前に、崇めるように尻餅をついた選手は数知れず。バスケ素人の後輩相手にこれは容赦ない―――

 

 

『な……』

 

 

 まるで時代劇の決闘シーンのように、エースと後輩の身体が一瞬だけ交錯し、離れる。

 そして、一歩、二歩とフルスピードのまま駆け抜けて、エースはようやく気付く。

 自分がもうすでに、手元からボールを失っていることを。

 振り返れば、後輩がその右手一本でボールを掴んでいる。“拘束具”である手袋をつけたままの右手で。

 

 この一対一。

 劣勢に追い込まれつつあるのは、エースの方だった。

 必殺のジャブステップも一度目は躱せた―――しかし、二度目以降は通じていない。

 完全に十八番のフェイントを見破られている。

 

『はぁ……はぁ……』

 

 息は荒く、腰を下ろしたくなるも、そこは膝に手をついて、姿勢を立たせたまま維持させた。

 顎に伝う汗を拭いながら、エースは後輩を見る。

 コートに帽子に首巻をつけた厚着だというのに、少し呼吸が早い程度でバテた様子がない。そして、“この前、つけた学生の手指を捻じり上げた手枷”――手袋も取ってすらいない。そんな“ハンデ”もとらせることができないでいるのだ自分は。

 

『次は……お前の番だ』

 

『……う』

 

 後輩を促し、攻め手守り手の立ち位置を入れ替える。

 今、ストリートバスケ用のコートには、審判役の悪友と点数係のマネージャーの他に、呼んでもいないバスケ部の学生らが何人か観ていて、“耳の良い”悪友くらいしか気づいていないが、エースの妹も遠くから見守っていた。

 その女子の後輩たちから最初は黄色い声援が飛んでいたコートも、今は無言の悲壮感が漂っている。

 

『いくぞ』

 

 捻りのないダックインから、レイアップ。全てが終わるまで、エースは首を振ることしかできなかった。

 ネットを射抜くのを、エースはその場から一歩も動けずに呆然と見やる。

 

 最初は直接叩き込むダンクしかできなかった後輩。でも、今のはきちんとしたレイアップだ。

 体育でも集団競技になるとひとり省かれて、後輩の担任の国家攻魔師と拳法の組み手をしていると聞いている。バスケなんて、ボールを触ったことがあっても、ゲームしたことがないだろう。一対一をする前、エースがウォーミングアップしている間に、マネージャーから軽くルールを教えてもらいながら、シュートやドリブルの簡単な手解きをしてもらってるのを見ていたが、それでも実際にやるのは違う。

 

 だから、後輩は今、試合しながら先輩から見て学び取って、いやエースの技術を盗んで急成長しているのだ。

 

 そう、ただその常人離れした身体能力だけで、エースを圧倒しているのではない。

 

『……どうして、だ』

 

『ん?』

 

 よく妹に女心がわからない鈍感だと文句を言われるが、このコート――『よけいなものを持ち込むべからず』の聖域とさえ定めている自分の土俵の中では、違う。

 後輩はバスケに真剣に、夢中に、けれど、どこか遠慮されているのが、エースにはわかっていた。

 ……いや、そんなの、確認するまでもなく、こんな試合をする前から己を抑え込んでいるのはわかりきっていた。

 

『どうして、お前は怒らねぇんだよ!! こんなに力があるくせに、無抵抗に苛められてんだ!! なあ、悔しくないのか? あんなふざけたケンカを売られて、馬鹿野郎どもをぶん殴ってやらねーと、収まりつかないだろ!』

 

 

 

 学生生活最初の一歩を盛大に失敗したこの後輩は、この中高一貫校の学園で、『女子を泣かした怪物』になってしまった。

 被害者が年頃の少女ということで発奮した輩がいて、何かがあればそいつらが後輩を『怪物退治』と称して弁解の余地も与えずに“強硬策”を取ってくる。正義感丸出しの顔で、捕り物を見ていた学生らに笑みさえ振り撒いている。

 どうだ。怪物をひっ捕らえたぞ、と自慢したいのだろう。

 高等部の先輩方二人がかりで取り押さえたところで、後輩は軽く振り払えるだろうし、走って逃げるのも難しくないはずだが、そんな茶番に大人しく付き合っている。身に覚えのない罪で責められることほど不愉快なことはないというのにされるがままで、それでも口で抗議すれば、『怪物の癖に勝手に人間の言葉を話そうとするな』と暴力を振るわれる。

 なんて、理不尽だ。

 自分だったら押さえつけている高等部の先輩方二人を殴り飛ばし、さらに周りで囃し立てるその子分たちも殴り倒し、傍観してる野次馬も殴って、止める奴らもみんなぶん殴って、向かう敵すべてを全滅してやる、と思う。

 それでも、後輩はキレたことがない。

 だから、『魔族特区』暮らしで弁の立つマネージャーが論破して周りを黙らせる間に、自分と悪友らが割って入り高等部の先輩方を引き離すというやり取りがお決まりのパターン化して……警察沙汰となったことは一度もなかった(ちなみに彼の主人であるカリスマ教師は、一度も表立って止めたことはない。『獅子は仔を千尋の谷に突き落とす』のが調教ならぬ教育方針である主人は、子供のいざこざに大人が介入する気はないのだろう。見た目は子供であるが)。

 先日まで。

 

 事の発端は、バカげたものだ。

 

 『怪物退治』と言うのが如何に幼稚でみっともないお遊びだというマネージャーの論評が広まり、表だって殴って蹴っての暴力を使った“強硬策”で後輩を懲らしめることができなくなった。ストレス発散のサンドバックが取り上げられた形で、先輩方は面白くない。それで後輩ではなく、後輩の所持品を狙った。以前に、全校集会で校長よりも権威を持ってると噂される学園に派遣される国家降魔官のカリスマ教師より、『後輩の手荷物には絶対に触れるな』にと通達があった。今度はそれで『怪物から物品(おたから)を取ってきた』というつもりだったのか、それとも『返してほしければ自分たちに従え』と脅すつもりだったか。何にせよ、体育の間に、更衣室に忍び入って、後輩の制服やトレードマークとなっているコートや帽子に手袋を盗んだ。そして、なにを思ったのか、先輩方のひとりが後輩の手袋を付けてしまった。

 

 結果、彼は、しばらくの間、利き手で箸を持つことができない生活を送ることになる。

 

 後輩の手袋は、人間社会でいられるよう力を抑えるための『手枷』。あとで教えてもらったところによると、主人の魔女自ら強制ギプスじみた付けた手指を絞め上げる術を施した“拘束具(ゲルギャ)”だ。

 

 そんな『手枷』を自ら嵌めてしまった高等部の先輩方は怒り心頭。これを、『人間を嵌めようとして、怪物が仕掛けた悪質な罠』だと声高に叫んだ。

 学外にいる仲間たちを呼んで、これまでにない大規模な『怪物退治』が起こり―――ついに警察が来るほどの騒ぎとなった。

 そして、集団私刑(リンチ)を受けた後輩も『危険物の管理を怠った』と警察に連行される……

 

 後でその話を聞いたエースは腹が立った。

 停学処分を受けた先輩方にもだが、こうなった今も“人間を憎まずにいられる”後輩にも。

 

 

 

『お前がそこまで我慢して、どうあっても一線を踏み越えないように自分を抑え付けて、それで理不尽を味わらせてまでこんなところにいる必要があるのかよ!!』

 

 本物と紛うほどのフェイントではなく、気迫そのままに真っ向から。

 真正面にドリブルするエースは、思い切り後輩にぶつかった。試合であれば確実にファールを取られるほどの猛烈な当たり(チャージ)。しかし、ぐいぐいと反則無視して圧し込むエースに審判役の悪友は笛を吹かなかった。

 思いのまま叫ぶ親友の声を邪魔する騒音は、今はいらない。ぶつかり合う青春にそれは野暮というものだ(この理論のへったくれもないやり取りに、マネージャーは『泥臭いというか、汗臭いというか。もっと普通に話し合いでできなかったのかしら、あのバスケ馬鹿はもう……こういう体育会系のぶつかり合いって本っ当理解できないわね』と愛想はつかされてないけど、大きく溜息はつかされた)。

 

『確かに、ここに来てから窮屈だし、ずっと嫌な事ばっかだぞ』

 

 後輩は、そう言った。エースの体当たりを倒れずに受けながら。

 

『だけど、暁先輩はわかってくれたのだ。最初はダメだったけど、暁にすごく怖がられたままだけど、暁先輩はオレのこと弁護してもらえるようになったのだ。友達だってできたし、困ってると助けてくれる先輩もいる。だから、オレは馬鹿とか怪物とか言われたって、暴れてこの細い線なんか切りたくなんかない!!』

 

 見ず知らずの土地で迷子になった子供のように、顔をくしゃりとさせ感情のままに後輩は言った。

 

『オレはどうしてもそんなのできない……!!』

 

 後輩がこうなったすべてのドミノ倒しの最初のひとつを押してしまった自分も、彼にしてみれば仇と映ってもおかしくないのに。罵詈雑言をぶつけられるのだって当たり前であるはずなのに。

 そこまで言うのか。

 

『馬鹿野郎』

 

 エースはそこで吹っ切る。

 妹のトラウマほどではないが、この後輩から受けていた“獣人に殺されるイメージ”を、今こそ完全に捨て去る。

 

『俺がそんなことさせねーよ。俺はクロウの先輩だからな』

 

 後輩は馬鹿じゃない。怪物なんかじゃない。こいつは今、最も賢い答えを導き出したのだ。

 

 だったら、彼の先輩である自分が為すべきこと、導くべきことは、決まっている。

 一線を踏み越えたくないと震えて言うのなら、そっと押し戻してやろう。

 これからも先輩でいたいと願ってくれるのなら、やれやれと溜息吐きながらも面倒を看よう。

 それでこいつの居場所を守ってやる。絶対に受け入れさせてみせる。

 

『だから、先輩を舐めんな!』

 

 吼えたエースが肩からぶつかっていくようなパワードリブルで後輩をインサイドに押し込む。両足を踏み締め進行を拒む後輩であるも、しかし弱い。そのままリング下まで運ばれ、しっかりシュートを決めた。

 

『へっぴり腰じゃなくて、もっと思いっきりぶつかってこい。遠慮なんてすんじゃねぇぞ。お前の先輩はそんなにか弱くないわっ!』

 

 あっけにとられ、目を丸くする後輩に、先輩(エース)は不敵に笑って見せた。

 

『ほんとだ。全然か弱くなんかないな』

 

 泣き笑いと言うのは、今の後輩みたいな表情を言うのだろう。でも、泣いていてもとても嬉しそうだった。

 

 

レヴィアタン

 

 

 世界最大級の生体兵器、その内部は航空母艦の格納庫にも似て広大で、そして、護衛の小型生体兵器が待機している。

 この空洞を古城と雪菜は、毛の生えた翼竜(ファードラゴン)の背に乗りながら滑空する。

 ここにくるまで、獣竜は何度か攻撃をもらうも、“兵器に対する絶対的な耐性”を持つ皮膚だからか、さほどの損傷は負ってないように見える。常人離れした反射神経を持つ雪菜も突入時に無理をしたもののほとんど無傷で済んでおり、古城も全身のあちこちにダメージがあるが、死ぬほどでもない、ゆっくり竜の背中で休んで傷の回復に努めている。

 

 時間は、ない。

 数十kmなど手を伸ばせば届いてしまうほどの巨体、そして、先の攻防で視界いっぱいを埋め尽くすほどの攻撃範囲をみれば、世界最強の魔獣が増設人工島を今にも沈めてしまうことができるのだ。一秒でも早く、結瞳を連れ戻さなければならない。

 

 そんな余裕のない状況で、<レヴィアタン>がいきなり停止した。

 ありがたいが、原因がわからないから不気味で、そんな戸惑う古城のポケットで、携帯電話の着信音が鳴る。

 

『古城、聞こえる?』

 

 まさか怪物の体内でも電波が届くなんて、と通信アプリから流れ出した浅葱の声に、古城は少し驚く。確かここは超強力な魔力障壁で遮断されていて、外界とは隔絶されているのではないのか。

 

『『ヨタカ』って潜水艇の通信機器を使って中継してるのよ。そっちもどうにか無事みたいね』

 

 この世界最強の魔獣に侵入するために改造された潜水艇を仲介に挟んで、こちらとの連絡を取り付けたらしい。そして、潜水艇の設備が使えるということは、彼女は敗色濃厚の電脳戦で見事に逆転勝利を収め、首尾よく『クスキエリゼ』の第一研究所のハッキングに成功したらしい。あいかわらず、とんでもない奴だな、と古城は呆れた声を出す。

 これで、<LYL>は、浅葱がのっとった。浅葱は『仮想第二人格』を無理やりに騙して、<レヴィアタン>を大人しくさせた。長くはもたないから、この状態もせいぜい、5分か、10分程度……

 

『あたしが抑えておけなくなったら、『クスキエリゼ』の研究所にいる煌坂さんにシステムを丸ごと破壊してもらうわ。それで<レヴィアタン>が攻撃する理由はなくなるはずだから』

 

 今の負傷した状態で戦闘についていけないことを悟った紗矢華が、苦渋を噛みながらも、クロウひとりに六刃の相手を任せ、<LYL>のある第一研究所へと向かった。

 そして、舞威姫として、最後を見極めたその時に矢を放てるよう、弓を構えて待機している。

 古城もそれは理解している。こうして、助け出せるチャンスをもらえるだけでありがたい。

 そうして、浅葱が『ヨタカ』――結瞳が<レヴィアタン>に潜り込む際に使った潜水艇で、宇宙船の原理と同じで<LYL>との中継ポイント――高確率で<リリス(結瞳)>がいる場所を案内(ナビ)され、それを受けた古城がフラミーに指示を出して―――辿り着いた。

 

 

 

 生物的ではない、スポーツカーのボンネットなどの有機的にデザインされた工業製品に近い雰囲気を持つ、<レヴィアタン>の内部。

 体内に鎮座する明らかに人工的な白い輝きを放つ、潜水艇。

 『ヨタカ』と船体に刻まれた文字を確認する間でもなく、その正体は明らかだ。

 そして、ハッチが開いていた潜水艇の内部を雪菜が確認するとそこに、青い潜水服を着た中年男性が、何かに酷く怯えるようにきつく目を閉じていた。

 おそらく、彼が、『クスキエリゼ』の会長久須木和臣だろう。死んではいないが、この先目覚めるかどうかも怪しい。目覚めてからもまともな精神状態ではいられないだろう。

 

「こんなとこまで追いかけてくるなんて、しつこいですねぇ」

 

 そして、久須木に悪夢を見せている下手人である『夢魔』は生体兵器の集団を従えて、古城たちの前に現れた。

 

「結瞳!」

 

 魔力で紡がれた鋭く尖った先端を持つ黒い尻尾を揺らし、背中には黒い翼を生やし、身体にぴったりと張り付いた水着のような薄い服を着るのは、やはり、江口結瞳―――

 

「あは♪ 結瞳だと思った? 残念。莉琉ちゃんでした」

 

「……莉琉だと?」

 

 唖然とする古城へ、挑発的に両手を広げてアピールする少女。

 

 しかし、第一研究所内にある<LYL>は、浅葱に抑えられているはずだ。人工的に作られた『第二人格』の“莉琉”に結瞳を支配できるはずがない。

 だとするならば、彼女は……

 

「ねぇ、キリハは言ってなかった? ターゲットの男の子に夢中で言い忘れたとかしてないよね?」

 

 あの妃崎霧葉という六刃は、女子小学生にそんな心配されるほど、後輩に執着してるのか。今頃その相手を引き受けているのだろう後輩を想い、遠い目になる古城。

 

「時々、監視対象の衣服とか()ってくるんだけど、あれ、犯罪行為だよね? ……それでも、本家の雪菜お姉さんよりずっと控えめだって、言ってるんだけど……」

 

「姫柊!? お前も……!?」

 

「してませんっ! 何ですか先輩その目は!? いくら六刃が『影の剣巫』と呼ばれてるからって、一緒にしないでください! そんな評価はあまりに心外です!」

 

 いや、でも、姫柊だって、24時間体制で俺のこと見張ってるじゃん、と国家公認ストーカーに言いかけて、古城は呑み込む。これ以上口出しすると、槍を突き付けられそうだ。

 今度、後輩をどこかに誘って、パァーッと監視されることへの愚痴を言い合おうかな、という考えを思考の隅に押しやって、古城は話を戻す。

 

「いや、結瞳が怪物の中で死ぬのが望みだって聞いたぞ。それで、<リリス>をもう誰にも受け継がせないようにするんだってな」

 

「なーんだちゃんと聞いてるじゃないですか。それなのに無理やり連れ戻すつもり? そんなことをして古城さんに何の得があるの? 結瞳とエッチな事でもしたかった?」

 

「誰が―――!」

「先輩、ダメです!」

 

 少女に近づこうとした古城を雪菜が止める。

 今、この潜水艇を取り囲む生物の群。多少の個体差はあるものの、おおよその全長は2m前後。姿形は巨大なヤドカリで、本来あるべきハサミの部分は機関砲に取り替わっている。おそらくあそこから魔力弾を撃ち出せるのだろう。

 そして、この強固な殻に覆われた、小型生体兵器の集団は、ざっと数えてもその数は100体を超えている。

 

「<レヴィアタン>の中に入れば安全だと思った? ここにだってちゃんと武装はあるんだよ」

 

 だから、自分を置いて今すぐにここから立ち去れ、と。

 世界最強の夢魔は、古城たちに小型生体兵器の群を(けしか)けて、冷ややかに脅す。

 

「莉琉ってば、人の精神(こころ)が読めちゃうし、うんざりなんだよね。同情とか偽善とか。どうせあなた達も可哀想な子供を助けて自己満足に浸りたかっただけなんでしょ。それとも本気で結瞳に劣情を抱いてたりとか? やだ、古城さんのロ・リ・コ・ン!」

 

 少女の暴言を、古城は表情を消して聞いていた。

 途切れるまで、言い返したりせず。そして、終わってから、それを突き放すように溜息を吐く。わざとらしいくらいに大きく。

 

 コテージでその吐露を聞かされてから、少女を見ると古城は“罪悪感を思い出させる”。

 

 人の感情がわかってしまい、人の社会から迫害された―――重なってしまうのだ、いやでも。

 だから、少女の言う通り、これは同情で、偽善で、そして、『あの日の贖罪をしたい』と思う自己満足だというのを、古城は否定しない。

 後半は断固否定するが。

 

「誰がロリコンだ。勝手に他人(ひと)に変な性癖付けんな。幼児体型には興味はねーよ!」

 

「な……!? よ、幼児体型なんかじゃないです! 私だってもう、少しは―――」

 

 少女のプライドを逆撫でするように、あえて冷笑しながら挑発してみれば、世界最強の夢魔は、あっさりその“素顔”を覗かせてくれた。

 すぐ失言を悟って口元を押さえるももう遅く、その年幼い反応に思わず古城は苦笑を洩らす。

 

「やっぱりか。下手くそな演技をしやがって。そういうのはもういいから、帰るぞ、“結瞳”」

 

「え、演技なんて―――」

 

「莉琉は俺のことを、古城さんなんて呼ばねーんだよ」

 

 必死に取り繕おうとして反論する結瞳だが、古城に矛盾点を突かれれば、押し黙ってしまう。

 

「……どうして」

 

 ひくっ、と喉を震わす音。

 その目元から涙の滴が盛り上がる。

 

「どうして……なんですか……」

 

 泣き出すのを必死で噛んで呑み込みながらの、掠れた声。

 背中から翼は消えて、次に尻尾も消える。

 残るのは世界最強の夢魔でもなんでもない、肩を震わせて泣きそうな無力の少女がひとりぽつんとそこにいる。

 

「私とは知り合ったばかりじゃないですか。家族でも友達でもないのに、こんな危険なところまで私を迎えに来るなんて! 生きて帰れる保証なんてないんですよ!」

 

 結瞳は、<リリス>で不幸になる子供を二度と生ませないために、<レヴィアタン>を呼び出した。

 だがそこに無関係な古城たちを巻き込みたくはなかった。

 だから懸命に莉琉のふりをして、追い返そうとした。

 

 古城は嗚咽の混じった頼りない声で叫んでくる彼女の気持ちを理解していた。

 安らかな死こそが彼女の望みであることも。

 しかし、その願いは認められない。認められない理由があるからこそ、ここまでやってきたのだ。

 

「昔、後輩のひとりが苛めに遭ってたんだよ」

 

「え?」

 

 唐突な古城の告白に、結瞳は当惑したように目を瞬く。

 古城は、遠くを見るような眼差しを彼女に向けて、

 

「そいつは人の感情も読めて、力があった。周りから怪物だと言われ、それを本人も否定せずに受け入れてしまえるくらいにな。それで、どこぞの馬鹿兄貴がそいつが妹を泣かしたと騒ぎ立てれば、みんなに怖がれるようになった。後輩は何にもしてねーんだけどな」

 

 古城は自嘲するように苦しげに笑う。

 

「馬鹿なことしたヤツがひとり自業自得で病院送りにされちまったけど、そいつは苛めてきた奴らに何もやり返さなかったよ。犯罪した魔族を叩きのめせるくらいに強いのにな」

 

 そして、断片的で朧気な“彼女”の記憶。同じ学校に通うのを楽しみにしていた女の子。『世界最強の吸血鬼』の“呪われた魂”なんてものを押しつけられて、それを抱えたまま、勝手に死んだ―――自分たち兄妹を救うために。

 

「本当……何でああいうヤツらはテメェ自身を犠牲にできるようなやり方を選択できるんだ。周りなんて無視できるくらいの力を持ってるくせにな。それに納得できなくてぶつかったこともあるけど、結局、わかったのは、“俺はそいつらを救いたかった”ってことだけだ」

 

 古城はこの胸を衝き動かす、彼女たちの記憶の訴えのままに吼えた。

 

「お前の言う通りだ。俺がやってることは偽善だ。贖罪だ。自己満足だよ。俺がそいつらに顔見せできるようなヤツでありたいために、お前を救いたいだけだよ! それでも俺はお前を助けるぞ!」

 

 結瞳が悲鳴のような声で絶叫するも、その悲鳴をかき消すほどの大声で、

 

「世界最強の夢魔だろうが<リリス>だろうが知らねーよ。俺がお前が死んでもいいと思えるほど幸せな想いをさせてやる。お前がこれから死ぬまで幸せな一生を過ごせる場所だって作ってやる。それを邪魔する奴がいるのなら、太史局だろうが、<レヴィアタン>だろうが、俺が全部ぶっ潰す! もうお前はひとりじゃない。ここから先は俺の戦争(ケンカ)だ!」

 

「……古城……さん」

 

 古城の怒号に言葉を詰まらせた結瞳が、感極まったように鼻元を隠すように顔の前に掌を合わせる。

 ここに来るまでに当たり前の幸せをすべて捨ててきた彼女に、古城は拾い上げるように手を差し伸べる。

 だがそれでも、結瞳はすぐに首を横に振る。自分を認めてくれる人がいても、自分だけが幸せになるわけにはいかないと―――

 しかし、結瞳を受け入れているのは、古城だけではない。

 

「いいえ、先輩。“私たちの戦争(ケンカ)”です」

 

 優しく目を細めた雪菜も、結瞳に手を伸ばす。

 

「だから、一緒に帰りましょう、結瞳ちゃん」

 

「雪菜お姉さん……」

 

「ああ、帰るぞ、結瞳。俺や姫柊だけじゃねぇ、浅葱や煌坂、叶瀬にアスタルテに、たぶん矢瀬の野郎も待ってる。凪沙はお前のためにカレーを作るって張り切った。それにクロウに助けてもらったお礼を言うんだろ。昨日の花火だって残ってたし、プールや遊園地にもいかないとな。絃神島に戻ったら、那月ちゃんに頼んで、お前の住むところと学校を探してもらうから心配するな」

 

「古城さん……」

 

 ついに決壊する。こらえにこらえた結瞳の瞳から涙があふれ出す。古城と雪菜が、そんな彼女を迎えるように腕を広げ、そこに結瞳が駆け―――ようとした、その瞬間、

 

 

「ああ―――っ!」

 

 

 突然、彼女の小柄な体が電気に打たれたように仰け反った。

 意識をなくして倒れ込む結瞳を、古城たちがギリギリのところで抱き留める。ぐったりと動かない結瞳。古城が呻いた。

 時間切れか―――!?

 浅葱が<LYL>を抑えておけるのは、長くても10分程度。その制限時間を超えて、再び莉琉の人格が結瞳を乗っ取ったのではないかと疑うも、しかし、いつまでたっても目覚める気配はない。

 それに<LYL>が再起動したからといって、結瞳が気絶するのも変だ。

 結瞳の失神の原因はまた別にあるのか。あの現象はまるで、<レヴィアタン>を支配していたはずの『夢魔』の力が、結瞳に逆流してきたかのような……

 

「先輩、生体兵器たちが―――」

「みー!」

 

 思索に耽る時間など与えぬように、状況は動き続ける。

 荒々しく空洞内に響く銃声。それは取り囲む小型生体兵器群によるもの。飛来する紫色の魔力弾を防ぐため、雪菜が破魔の銀槍を一閃して、獣竜がその身を盾に庇う。

 

「まさか……」

 

 『夢魔』ではない誰かが、小型生体兵器の群を指揮している。そう、彼らの本来の支配者がだ。

 自分自身の足元を見下して、古城が唸る。

 怒りに震える<レヴィアタン>の咆哮が大気を満たしたのは、その直後。そして―――

 

 

 

 目が、覚めた。

 

『―――結合(ドッキング)の完了を確認しました。これより“莉琉”を起動します』

 

 『戦車乗り』が最後に調整し、勝手に動き出すはずのないモジュール。

 

『―――すべて想定通りでしてよ。お伝えしたはずです。“莉琉”を起動する、と』

 

 女狐の裏切りを知りすべてを悟った。

 悟ったが、世界最強の夢魔を、たとえ小学生の姿をしていても、人間の手に負えるはずがない相手。

 

『―――やだ、なに、その顔。泣いちゃうの、おじさん?』

 

 『夢魔』の精神支配に囚われる。

 <LYL>に濃縮させた<リリス>が継承してきた負の記憶―――憤怒、憎悪、嫉妬、怨嗟、破壊衝動、そして、自滅願望を悪夢で見る。

 ―――渦に、呑まれる。

 悪意の塊が、人間が持つ邪悪の意志そのものが、流転し増幅し連鎖し変転し渦を巻いて、呑まれる。

 この怨嗟と呪詛の渦の中で己を保てるか。万人の負の感情を見取ってきたこれまでの彼女たちの無念が万人余さず憎悪し邪とし醜いと断ずるが故に正気はなく受容はなくその重さに耐えられるはずもなく―――

 

 しかし、人格が潰される前に、それが、止んだ。

 

 世界最強の魔獣、神代の時代からあり続けるその自我が人類に対する悪意の塊を自力で破る。

 打破され<レヴィアタン>の魔力が<LYL>へと逆流。耐え切れずに、“莉琉は死んだ”。『仮想第二人格』の死亡に、<リリス>江口結瞳も疑似的な死を体験し、ショックで昏倒。―――そして、入れ替わるように、悪夢から目覚めた。

 

 ただ、それでも頭の中はほとんど空っぽだった。

 知識や記憶はぎっしり詰まっていても、それを能動的に扱うための知性や思考、もっと言えば性格や人格といったもの全般が希釈され、散り散りとなっていた。

 『クスキエリゼ』の会長だった、髪が抜け落ち目元がくぼみ一気に老け込んだその中年男性。

 

「……、ぁ……」

 

 未だ悪夢が脳にこびりつくように残るその中年男性はすでに自分の名前を思い出すのも難しい状況に陥っていた。

 しかし。

 だからこそ、か。

 唯一忘れなかったその感情だけはけして消えることはない。<リリス>の受け継ぎ、それをさらに電子的に濃縮した負の感情に溺れようが、そこに溶け込ませることなく、彼の中に焼き付いていた。

 復讐する。

 “王”を嵌めた輩すべてに悔いを抱かせて、この屈辱を雪ぐ。

 

「くひ……いたぞ……」

 

 潜水艇『ヨタカ』。軍用として開発された潜水艇の装甲板は、周囲に群れるヤドカリ型の生体兵器の紫色の魔力弾にもどうにか耐えれるだろう。

 ここが己の安全地帯。コクピットに籠ってる限り、護られる。そして、小型生体兵器を相手にするのに気を取られ、こちらに気付いていない、少年少女―――その少年の腕の中に眠るは、世界最強の夢魔。

 元々軍用の潜水艇には、当然、銃器が搭載されている。

 

「あは」

 

 人語など、とうの昔に捨てた笑みを浮かべて。

 ただ苦痛と惨劇だけを求めることだけを顔中どころか全身で訴えながら。

 

「あははははははは!! ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 哄笑とともに、久須木和臣は狂ったようにトリガーを引く引く引く引く引く―――!

 

 

「許さん許さん許さん許さん許さんっ! “王”を侮辱する貴様ら全員許さんっ! 処刑だっ! まずはお前から殺してやるリリスゥッ!!!」

 

 

青の楽園 魔獣庭園

 

 

 ―――なによ、この魔力波動!? <LYL>は破壊したはずなのに?

 

 轟音のスピーカーキャビネットが耳元で鳴っているかのような衝撃をぶつけてくるその強力な波動。

 魔力に対して鋭敏な紗矢華は、いち早くそれを察知し、絶句する。

 最後の最後まで迷い、機械から火花が吹き上げたところで、紗矢華は銀色の洋弓に番えていた矢を放ったがしかし、<レヴィアタン>は怒りの咆哮を撒き散らしている。

 

『煌坂さん、逃げて! そこから離れて―――早く!』

 

 連絡用に繋ぎっぱなしにしていた携帯電話から、藍羽浅葱の声。これまで聞いたことのないような狼狽えように、紗矢華は最悪の予感を覚える。

 

『<レヴィアタン>が、<リリス>の精神支配から自力で逃れたの―――』

 

 予感はしてたけど、言葉で聞かされると、全身から血の気が引いた。

 <レヴィアタン>は<リリス>の精神支配から逃れた。それも<レヴィアタン>の意志で、精神支配に逆らう力を身につけて―――

 そして、この無差別に撒き散らされる魔力波動は、まさしく怒りの咆哮。

 世界最強の魔獣は怒り狂っている。自分を支配していた世界最強の夢魔――江口結瞳と莉琉に対して。

 だから、報復をする。

 

 

 

「くっ、こ、<煌華鱗>―――!」

 

 神々の時代を生きた生体兵器。その背中より放物線を描いて、『青の楽園』に降り注ごうとするのは、誰に教えてもらうまでもなく一目瞭然。

 ミサイル。巨大な生体ミサイル。その数は全部で百発余り。

 すでに<LYL>は破壊されても、残骸すら微塵も残さんと、『青の楽園』のすべてを焦土と化しても余りあるほどの容赦ない火力をぶつけてきた。

 

 迷っている時間はなく。

 紗矢華は『六式重装降魔弓』を構えて、今ある手持ちの呪矢を次々と放つ。

 舞威姫の切り札――空間切断を活用した超遠距離狙撃も使う、確実に始末書ものの大盤振る舞い。空間の裂け目を通る矢は、瞬間転移した先で巨大な魔方陣を生み出し、雷と炎を吐き出しては、生体ミサイルを迎撃。その爆発が後続のミサイルを巻き込み―――撃ち漏らしたミサイルも新たな矢を放って、破壊。

 だが、第一陣を防いだところで、紗矢華の矢は尽きてしまった。

 

「これ以上はっ―――!」

 

 続けて、第二陣が放たれようとした。

 その一瞬前の出来事だった。

 

 

 ドゴァッッッ!!!!!! と。

 『七つの大罪』の一角、『嫉妬』を象徴する世界最強の魔獣<レヴィアタン>の怒り狂える頭部に思い切りぶちかまし、その4000m級の巨体を増設人工島から大きく退けた、別の影が現れた。

 

 

レヴィアタン

 

 

 危な、かった……

 

「先輩……!」

 

 大きく息を呑む雪菜。

 彼女が見るのは、古城の背中。あの一瞬―――突然、潜水艇『ヨタカ』の機関銃が火を噴いたそのとき、一番最初に気付いた古城が気絶した結瞳を、そして雪菜を庇い、身を盾にしたのだ。それで銃弾に穿たれた、いくつもの深い傷跡。

 無数の銃弾を浴びて血みどろの身体、特に胸部はズタズタで、高い再生能力を持つ吸血鬼でもその傷は治癒に時間がかかることだろう。

 むしろあの銃弾の嵐を身一つで彼女たちを守り切ったことの方が驚きである。

 

『私が“王”だ。何者にも臆したりすると思うなよ、<第四真祖>。最初からお前など、私の目的ではない。<第四真祖>なんぞただのハードルに過ぎんのだ!』

 

 歪んだ声が、響く。

 

『一度だけ言ってやる、<リリス>を差し出せ』

 

 ボロボロになりながらも結瞳を抱える古城。その彼を前から抱きしめるように支える雪菜は、依然機関銃を向けている潜水艇を睨む。

 

「あなたは……っ!」

 

『差し出そうが差し出すまいが、結果は何も変わらないがな』

 

 そして、再び銃弾の嵐が―――

 

 

 ドゴァッッッ!!!!!! と。

 突然、大きな揺れが生体内の空洞を襲った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 激動する足元に、潜水艇『ヨタカ』はバランスを崩して、転倒、そのまま落岩のように転げる小型生体兵器の群れに巻き込まれ、奥の方へと転がっていった。

 雪菜らは間一髪に、翼の生えた獣竜に抱えて飛んでくれたおかげで、揺れから免れた。

 そして、まだ体内が微動しているも小さく収まりつつあるところを見計らい、フラミーは地に降りて、雪菜が傷ついた古城の体を横たえらせる。

 

「先輩、先輩……!」

 

「……ああ、大丈夫だ。大した傷じゃねーよ」

 

 雪菜の呼びかけに意識を取り戻した古城がぞんざいに首を振ってみせる。

 

「ですが……!」

 

「心配するなって。こんなのすぐ塞がるし、それより早く<レヴィアタン>を止めねーと」

 

 古城は強引に話を切り上げた。

 実際、大した負傷ではない。古城は、不老不死の真祖だ。心臓をぶった切られても再生した実績がある。古城の体調が完全ならば、機銃掃射を受けてもすぐに塞がるだろう。しかし今日の古城は、少々血を流し過ぎていた。

 舞威姫の剣に腹を貫かれ、<レヴィアタン>に突入する際にも内臓を手ひどくやられたりする。じわじわと蓄積したダメージが、ここにきて古城の回復を妨げている。それでも今はそれを気にしている場合ではない。

 

 先ほどの魔獣の体内をシャッフルしてみせたあの激震の衝撃。

 なんとなく古城はその正体を勘付いた。というか、このでかすぎる世界最強の魔獣を相手に暴れられるのは、ひとりしか思いつかない。どうやら、先輩を差し置いて、もうとっくに戦争(ケンカ)をおっぱじめているみたいだ。

 

 だから、戦闘不能に追い込む決定的なダメージを与えるアタッカーは任せる。

 先輩として、そして『あいつらを守りたい』と強く望む古城は今、“矛よりも盾を”欲していた。

 

「ああ、くそ。血が足りてれば……“あいつ”を起こせるかもしれないんだが。煌坂の血を吸った時には、俺の方も腹に穴が空いてたしな」

 

 悔し気に歯噛みする古城。

 <第四真祖>が血の中に従えているという眷獣の数は、12体。だが、そのうち古城を宿主だと認めて召喚に応じるのは、未だその半分にも満たない。

 たまたま<第四真祖>の力を受け継いだだけの普通の人間である古城は、『世界最強の吸血鬼』としては激しく不完全であった。

 故に、気難しい<焔光の夜伯>の眷獣を宿主と認めさせるために、彼女たちを納得させられるだけの贄――すなわち、強力な霊媒の血を捧げなければならない

 

 して、ここに眷獣を掌握するための生贄としては申し分ない血をもった、獅子王機関の剣巫がいる。

 

「まったく先輩は……本当にしょうがない吸血鬼(ひと)ですね……」

 

「……え?」

 

 苦笑交じりに息を吐いた雪菜。

 古城が吸血衝動に襲われるような刺激を与えるために、仕方なく体を張ることを決意した監視役は、パーカーのファスナーを降ろす。

 細い肩、鎖骨の窪み、慎ましやかな胸の膨らみと、しなやかに引き締まった腰回り。そして太ももの付け根まで余すところなく、透き通るように白い肌色まであらわにする。

 凝視するような古城の視線に、雪菜は照れたように身をよじりながら、ちくりと言葉を刺すのを忘れない。

 

「どうせ、私なんかの“どうでもいい”水着では、先輩は喜びませんけど」

 

「えー……っと、姫柊さん、眷獣を目覚めさせるのに協力していただけるのでしょうか?」

 

「そうですね、約束しましたから。水の抵抗も小さいですし、先輩の吸血衝動には少ししか足しになりませんけど、これでどうか我慢してください」

 

 自分で言って傷ついたように、顔を背けてしまう雪菜。

 やれやれ、と古城は頭をかいた。こいつは自覚がないのだろうか。確かに浅葱のようなわかりやすい美人や、紗矢華のようなモデル顔負けのスタイルの持ち主が近くにいたら、不安を覚える気持ちも多少はわからないでもない。

 しかし、客観的に見ても、雪菜は反則的なまでに恵まれた容姿の持ち主だろう。

 いま改めて眺めてみて……そのパステルブルーのビキニ、よく見ればスカート付きで、最初の印象ほど露出度は高いわけでもないが、それでも普段は絶対に見られない彼女の姿は古城の視線を奪うに十二分の魅力がある。

 そんな見惚れて長い沈黙を続ける古城に、雪菜が不安げに、

 

「この水着、買ったばかりですから。まだ先輩にしか見せてないんです……やっぱり、変、ですか?」

 

「い、いや……似合ってるし、かわいい、と思う」

 

 喉が渇いて上手く喋れないものの、かすれた声で答える古城。

 紗矢華がいれば、美貌を崇めるのになんて言葉足らずで陳腐な回答だと小一時間ほど説教したことだろうが、それでも雪菜は嬉しそうにはにかんで、

 

「ふふっ……先輩が誰かの水着を褒めたのは初めて、ですね」

 

「あ、ああ―――」

 

 とそこで、言葉を詰まらせた古城。

 

 

『いや別に変じゃねーし、かわいいぜ叶瀬』

 

 

 昨日のバーベキュー、パーカーを羽織り、なんかマフラーまでつけてる厚着水着の夏音をなんとなく訝し気に見ていたら、『何か変でしたか?(音声アスタルテ)』と恰好をやけに気にされて、あわてて古城が褒め言葉を送ったのだが(嬉しそうにはにかんだりせず、ほっと一安心と胸を撫で下された)……あれを入れると女子の水着を褒めたのは、これで二回目になる。

 しかし、これまでの経験則から言って、それを素直に告げると何だか雪菜の機嫌が悪くなりそうなので、古城は一拍ほど唾を飲み込むほどの間を入れてから、

 

「―――そういえば、姫柊が初めてだな」

 

「私だけ、ですか……そうですか」

 

 すっかり機嫌を直し、満足気に呟く雪菜が古城に身を寄せてくる。

 ……あとで、夏音には口裏合わせるように言っておかないとまずいかもしれない。

 

 

青の楽園 魔獣庭園

 

 

 神々の時代に生まれ、現代まで生きる世界最強の魔獣<レヴィアタン>。

 

 膨大な数の生体魚雷やミサイルと、その材料となる生体爆薬を体内に保有し、また4000mもの巨体を維持する魔力の量も半端ない。魔力砲の威力は喰らえば、軍艦も一撃で葬り去る。

 そして、何よりも特筆すべきは防御力。

 真祖の災厄の如き一撃ですら堅牢な魔力障壁に削がれて、魔獣の戦意を喪失させるほどのダメージは与えられない。

 剣巫が放つ破魔の銀槍の一刺しでもその効果圏はせいぜい数mで、数千mもの魔獣の巨体には蚊に刺された程度のものだろう。

 

 

 

 ならば、“両方を兼ね備えた”ものならば?

 

 

 

 ゴン!! ドゴン!!!! ゴガツン!!!!!! と。

 立て続けに身体と身体の激突する轟音が、海を揺さぶり、島を震撼する。そのたびに衝突の余波で爆発めいた火花が飛び散り、暴風の如き衝撃波が撒き散らされ、千里眼の視野強化の呪的強化を施した鷹の目で、遠方に、無人の大海原へと離れていくそれを眺める舞威姫は思わず片手で乱れる長髪を押さえていた。

 

『なんとまあ、手に“冷や”汗握る押し相撲でありますな』

 

 紗矢華の横には、軽自動車にも満たないサイズの超小型有脚戦車(マイクロロボットタンク)が並んでいた。

 作業用のマニピュレーターで気絶したままの妃埼霧葉を抱きかかえる『戦車乗り』は、ひとり生体ミサイルの迎撃に奮闘していた紗矢華を援護または救護しようと、打ち負かしてくれた友人の藍羽浅葱の頼みでやってきたのだが、出番はなかった。

 

 天使の羽翼を持つ蛇尾狼が、縦横無尽に駆ける。単身真っ向から、4000mもの生体兵器に立ち向かう。それはもう、野生で互いの縄張りをかけて獣が一対一で争う、なんてものではなく、怪獣が島を押すようなものだ。それは喜劇な空想ではなく現実のものとして現在進行形で起こっている。

 すべてを灰塵にせんとする魔力砲を双翼を傘にして撥ね返し、滅多打ちにされる生体ミサイルを遠吠えで放つ拡散魔力砲で撃ち返し、海中に潜水する生体魚雷も鼻で察知するや大海を割る爪撃で伐り返し、世界最強の魔獣全ての攻撃を叩き潰し、またはロケットダッシュで回避していき―――白兵戦で押し返す。

 その体長から彼我の差を考えれば、蛇尾狼の攻撃など子犬が人の指に甘噛みするようなものかもしれない。だがあまりの膂力と速度は、体格差など無視していた。呪術とか、武器とかそういうのは使わない、純粋な打撃力でダメージを与えている。直径数mmの弾丸が人間の眉間に風穴を空けるように。神狼から狂化された蛇尾狼の身体能力は規格外のさらにもう一歩はみ出た領域に達しているのだ。

 

 それも、だ。

 どこかの動画で海辺をぴょんぴょんと跳ねまわる犬の映像を見たことがあるが、あそこは海上……

 蛇尾狼が戦っているのは、相手のフィールド。その大きな翼で戦闘機の如く飛んでいるのではなく、海の上を足場にして戦闘機を追い抜くほどの速度で飛び跳ねている……!?

 

「なんて、出鱈目よ……あれ、魔術や異能がどうとかじゃなくて……」

 

『至極単純な物理法則でありますな。水切りの要領でござろう』

 

 小石を水の上へ投げ放ち、何回跳ねるかを競う水切り遊び。これを一体どれほど大きなものでも可能か、と言う冗談めいた試みがある。

 結果、200km/hでスポーツカーが川に水平に突っ込めば、2、3回は跳ねるのだそうだ―――つまり、それと同じ。

 あまりの速度が、脚力が、水の上での足場を確保する。あの翼は空力抵抗の姿勢保持で舵を切っている。推進力は、背中にあるジェットエンジンみたいな凍れる炎のようなもの。その後押しがあって、蛇尾狼は何もない水の上を駆け抜け、時には<レヴィアタン>自身の巨体にさえ着地し、再び莫大な脚力の運動エネルギー+加速装置の魔力放出で水の上を跳んでいく。

 その元々極まっているものから限界突破した身体能力が、あらゆる奇蹟を超えた結果を出す。

 そして、それを更に肉弾戦へと効果的に攻めさせるサポート。

 

 <レヴィアタン>を守る堅牢な魔力障壁は、<第四真祖>の眷獣である雷光の獅子の突撃をも威力を減衰させてみせた。

 防御に徹してしまえば、<第四真祖>でも簡単にはやられない。

 

 ―――<薔薇の指先>、限界突破(オーバーフロー)

 

 双翼より迸る光が虹色から金色へと塗り替わり、凝縮した。

 野放図に垂れ流されるのではなく、光は一振りの翼剣となって、ふるりと柔らかな円を描く。

 生体兵器を防護するバリアは片端から、あらゆる結界を打ち払う『神格振動波』の後光に祓われ、消滅した。

 

 

 世界最強の魔獣は、丸裸のまま獣王のどつきあいを受けねばならなかった。

 

 

海上

 

 

 人工島から舞威姫らが、その攻撃に息を飲む中で、蛇尾狼(クロウ)もまた、自分の成した行為に驚愕していた。

 身体能力だけでなく、獣王の全ての知覚力が、飛躍的に向上していた。

 今やkm圏内で遠く離れた地表の、波に跳ねた水飛沫の動きまで把握できる。激しく荒れる海上であっても、確固たる足場のない水面を疾走することに何の躊躇もない。単純な演算能力だけではなく、『その計算された情報を元に何をすればよいか』という判断もサポートされているおかげで、知覚力が高まっているようだった。

 強力な魔力障壁を破った一撃だって、先に必要な動きが脳裏へ浮かび、自分はその奇蹟をなぞってみたに過ぎない。

 答えを一気に導き出せてしまう野性的な直感を、丁寧に補正する理知的な思考。二つが一体となって、精度を上げている。

 しかし、その代償は明らかだろう。

 

(……アスタルテ?)

 

 意識を裡に向けて、呼びかける。

 “匂い”で覚える限り、後輩は淡く微笑しているよう。

 しかし、そんな今も、蛇尾狼の血管を通る全身には、凄まじい熱が蠢いている。

 錆びた釘にでも貫かれたような痛みだった。

 アスタルテの身体もまた、悲鳴を上げていることだろう。

 後輩自身が訴えなくても、精神体をも密着していれば、ただならぬ苦痛にアスタルテが耐えていることはわかった。如何に『永遠』の魔力援助でその寿命が削られることはないが、それ故神経が麻痺することはなく、苦悶は絶えることがなく。<第四真祖>の『血の契約』を騙すという荒業は相当な無理を強いているのだ。『十三番目』を使う代償は二人を厳しく苛んでいた。

 それでも、クロウはやめなかった。

 必要な覚悟は、自分も相手も済ませた。

 戦う覚悟は、決まっている。

 ただ生き残るために……自分自身とアスタルテ、そしてみんなを守るために、その結果クロウがアスタルテを壊してしまってもいいという意味の覚悟を。

 半端な庇い合いではなく、互いが互いを壊してもよいと、受け入れてしまう決意のことを。

 その覚悟を、決めている。

 後輩の“匂い”も、揺るがなく。

 

(先……輩……)

 

 と耳元で囁かれるようなアスタルテの意思伝達。

 

(大丈夫……です、から……)

 

 大丈夫な、はずがない。

 だけど。

 

「分カッテイル」

 

 と頷く。

 

 火山の噴火や竜巻のような、手に負えない自然の猛威と対峙しているような重圧を発する<レヴィアタン>。

 しかし、彼が今回の件の最たる被害者であることをクロウは理解している。海底で何千年も眠りについていた、あまり好戦的な性格でない。なのに眠っているところを叩き起こされた挙句、好き勝手に操られれば、暴れたくなるのは当然のことだ。

 

 だから、許せとは言わない。

 恨んでも構わない。

 しかし、この島は、己のテリトリーだ。

 

「グオオオオッ!!!」

 

 増設人工島から十分離れたところまで押し出して、跳んだ。全長4kmの巨体を足場にして、魔獣の真上を、天高く。

 

 勝機を、焦ったか。

 『獣王』の跳躍に、『蛇』は密やかに驚喜した。

 その攻撃力は己の防御力を打ち破るものである。このままの攻防が続けば、いずれ自分が滅ぼされるかもしれない、そういう危機感さえ懐いていた。

 しかし、相手の防御力はこちらの攻撃力で殲滅できる程度のもの。あまりに疾走速度でこちらの攻撃速度が追い付けないからこそ、決定打を与えられなかった。

 それが空中に跳躍してしまえば、どうやっても動きは限られる。軌道を変える術があろうが、それで空を埋め尽くすほどの全攻撃を回避できるほど器用ではないはずだ。

 突き上げる歓喜と共に、<レヴィアタン>は魔力砲、生体ミサイルの全てを射出。これらの攻撃は優に万を超えただろう。それも迎撃されるのを計算して、時間差さえ備えて、あらゆる角度から解き放つ。

 広大な空は、天翼を持つ蛇尾狼にだけ死の三角領域(バミューダトライアングル)へと化した―――

 

 

「<焔侊の夜伯(カレイドブラッド)>の血脈を継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ―――」

 

 

 『次元食い』で空けられた穴より飛び出す白い影。

 毛の生えた翼竜に騎乗するのは、無事、救助した江口結瞳を抱いている剣巫と、高々と右腕を掲げる<第四真祖>。

 その右腕から撒き散らされた鮮血が、閃光と共に巨大な獣の姿へと変わった。

 自らの意思を持つほどの、濃密に渦巻く魔力の塊。それは金剛石(ダイヤモンド)を与えられた、蛇尾狼にも匹敵する途方もなく巨大な大角羊(ビックホーン)だった。

 人間が罪を贖う『贖罪』の宗教的な表現である、穢れなき絶対無謬の神の羊(アニユス・デイ)

 

 

「―――疾く在れ(きやがれ)、『一番目』の眷獣、<神羊の金剛(メサルテイム・アダマス)>!」

 

 

 暁古城の命を受け、神羊は空に向かって咆哮を飛ばす。

 如何なる攻撃にも傷つけられることのない金剛石の神羊は、自分を傷つけた者にその傷を返す。吸血鬼の不死の呪いを象徴とするもの。

 

 空から、宝石の雨が降るよう。

 

 死の三角領域(バミューダトライアングル)が上塗りされる。神羊が生み出した無数の宝石の障壁が空一面を覆い尽くしたのだ。そして、その障壁を攻撃すれば、攻撃の威力はそのまま相手に『報復』される。

 自らの魔力砲、生体ミサイルがすべて返され。

 刹那。

 嵌められたことを、『蛇』は知った。

 

 自身が契約している<守護獣>から<第四真祖>が体内から脱出するタイミングも、そして、“匂い”から『一番目』が覚醒したことも察していたのだろう。

 神羊の脅威を体験したことのある蛇尾狼は、あえて空に飛んで、恰好の的となり、攻撃を集める囮となった。

 

「その巨体じゃ全部を避け切れないぜ、悪いな。<レヴィアタン>―――」

 

 最強の魔獣を憐れむように、古城が頼りなく微笑んだ。

 そして、爆発と閃光に、<レヴィアタン>の巨体が呑まれていく中、流星のように頭頂部に真上から降り注いだ<蛇尾狼の暗緑>が、全身全霊でぶちかます、

 まるで世界を縫い止める巨大な錨を打ち込むような一撃。

 全周へ莫大な水の壁が放たれるも、島に被害が届かないほど遠方にまで押してきた。

 

 そして。

 

 

 一噛絶滅。

 蛇尾狼は、いつでも神殺しの“壊毒”を滴らせられる牙を、深々と<レヴィアタン>の頭頂部へと突き刺していた。

 

 

 時間が止まっていた。

 あらゆる音が消えていた。

 そして、海の上で、世界最強の魔獣の頭の上に降り立った蛇尾狼は、しっかりと噛み痕をつけてから咢を放し、重低音の声で促す。

 

「オ前ノ負ケダ」

 

 『獣王』が、『蛇』の頭蓋骨をその足で踏みつけ、

 

「生存ノタメノ殺シハ仕方ガナイ。ダケドソレ以外ノ理由デアノ島ヲ落トスナラ、オレモオ前ニ報復スル」

 

 その降伏勧告に『蛇』は―――――――

 

 

 

 ぐるんっ!! と。

 そのままバク転でもするように真後ろへと跳ねた。

 

 

 

 大鯨が海面をジャンプするブリーチングという行動。

 それを全長4000mもの巨大な魔獣が行う。

 そう、全長4000m。

 つまり海面から垂直に姿勢を伸ばしただけで<レヴィアタン>は日本国の最長の富士山脈を悠々と見下せる位置に達せられる。

 その遺伝子を使った複合魔獣の仔<タラスク>と同じように、魔力砲の魔力放出を推進力とし、一秒未満のまさに一瞬、気圧差などお構いなし。そして水の入ったバケツをグルグルと振り回すのと同じく、遠心力で頭の上の蛇尾狼を張りつけにして―――天地逆さまに<レヴィアタン>は頭から海水に突っ込んでいった。

 

「うおっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 圧倒的な質量に移動が、大海だけでなく大気をメチャクチャに撹拌させて―――爆音。小惑星の落着にも似た凄まじい水のクレーターが全方位へと展開される。

 古城たちを乗せる獣竜は逆らわないことでうまく突風の勢いを流し、

 

「くっ―――<獅子の黄金>! <双角の深緋(アルナスル・ミニウム)>! <水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)>!」

 

 そして、古城も雷光の獅子、緋色の双角獣、水の妖精―――計三体の<第四真祖>の眷獣を召喚して、この環境激変を相殺させるようにぶつけた。

 しかし、

 

「あ、ああ……<レヴィアタン>は、クロウ君を深海にまで引き摺り込んで―――」

 

 深度4000m。それは、かの有名なタイタニックの沈没船が眠っていたとされる深海領域。

 高高度から、一転して深海。<レヴィアタン>にしてみれば、それはブリーチングに過ぎないが、<蛇尾狼の暗緑>には違う。十数mと、人間から見れば怪獣、真祖の眷獣にも匹する巨体だが、圧力の影響を完全に跳ね除けられる全金属製の装甲潜水艇のような頑強さはあるのか。

 もし圧力に耐えれたとしても、そこは深海。一切光の届かない水の底。豪華客船の墓標でもあった暗黒世界。<レヴィアタン>がそこに置いてけぼりにすれば、自力で海面まで戻るのは不可能。単純に息が保たないだろう。それに仮に猛烈な筋力で極めて短時間に4km近い高低差を乗り越えようとすれば、今度は潜水病のリスクが急浮上する。血管内を流れる血液成分が崩壊しかねない。

 まさに八方塞り。

 『七つの大罪』の一角を占める『蛇』、大海を制する世界最強の魔獣。

 その本領を発揮した深海の牢獄が、『獣王』を取り囲み、呑み込んでいく。

 

「クロウ!! 畜生おおおおおおおっ!」

 

 古城が、叫ぶ。

 しかしそれすらも、大爆発のような怒涛の勢いで下から上に吹き飛ばされた大量の海水に呑まれて消えた。あまりにも膨大な水柱と共に顔を出したのは、4000mの『蛇』。そしてその頭部には蛇尾狼はいない。

 勝利したのは、『蛇』。

 暗闇の底へ引き摺り込まれた『獣王』はどこにもいない。

 

 

青の楽園 海浜公園

 

 

「ふん。まだ屈服させてないのに情けを見せおって」

 

 海の見える小さな公園のベンチ。

 そこに座るひとりの女。若い、と言うよりも幼い顔立ちの小柄な女性。見た目の年齢は、11、2歳にしかみえない。レースアップした豪華なドレスで着飾り、小さな日傘をさす。身動ぎもせず海を見つめている彼女の姿は、置き忘れられた美しい西洋人形を見ているよう。

 

「しかし、まだだろう」

 

 付き合いが最も長く、最初は一昼夜殺し合ったことのある魔女が、そう言った。

 

「この程度で終わる馬鹿犬ではない」

 

 

海上

 

 

 異変があった。

 勝ったはずの<レヴィアタン>が、突然、震えた。

 ドゴォッ!!! と轟音が“内側”から響いた。その巨大極まる胴体が、いきなり、“へ”の字に持ち上がった。かと思えば、みちみちと音を立てて、強靭な鱗で覆われた背中に裂け目が生じる。そこに『蛇』の意思はない。潜水艇『ヨタカ』を体内へ受け入れた時とは違い、体の内側から凄まじい力で強引に切り開かれていっているのだ。

 そんなことができるのは誰か。

 答えは決まっている。

 

「……まさか!」

 

 空を飛ぶ獣竜から見下ろす剣巫が期待感を込めた言葉を零した。

 高度や深度に伴う膨大な圧力差。平行して発生する酸素残量の問題。普通に考えればそこは逃げ場のない死地であったが、ひとつ活路があった。

 

「おい、姫柊。一体何がわかったんだ?」

 

「紗矢華さんが言ってませんでしたか。生体兵器である<レヴィアタン>の体内には、人間が生息できるスペースがある、と……」

 

「っ! それって―――!」

 

 普段は深海に潜み、深海圧力を武器とするような魔獣自身なら潰れる心配はないだろう。内部の圧力も保たれ、あれだけ広大な腹腔内なら呼吸を維持するだけの酸素も残されている。何しろ世界最強の魔獣は4000mもの巨体で、かつ、その重量で自己崩壊を起こさないほど強靭な骨肉に恵まれている。

 

「冷や冷やさせやがって……クロウのヤツ、一寸法師かよ」

 

 怯えて逃げずに、前へ突き進んだからこそこの特大のチャンスを掴んだ。

 しかし、それはそう簡単にできるものではない。

 言うは易し、行うのは難し。自らの意思で魔獣の口へと飛び込んで難を逃れるなどと。理屈でわかっていても、怯える本能的な感情を振り切り行動に移せるか。

 そして、

 

 <レヴィアタン>が絶叫を。怒りではなく、痛みによる訴えを上げる。

 

 どれだけ分厚い硬鱗を持っていようが、内側からの一撃はその硬鱗も骨肉も、そして、堅牢な魔力障壁も一切無視して臓腑に直接響かせる。元々、外側からでも物理的にブチ飛ばせるほどのパワー。体内には小型の生体兵器の群がいるだろうが、いくら束になったところで相手にならないだろう。

 しばらく、真上を旋回している毛の生えた翼竜から古城たちは様子を見下していると、<レヴィアタン>がついに、航空母艦が戦闘機を発射させるハッチを出すように、背中が開いた。

 その奥から蛇尾狼が顔を出す。全身を見事に外気に現したとき、古城はその『龍尾の蛇頭』が釣り上げたように何かに咬みつき、ずるずると一緒に外へ引き摺っているように見えた。

 潜水艇『ヨタカ』。投光器や安定翼が砕け散っていて、かろうじて本体は無事。どうやら後輩は脱出する際に、ついでに久須木和臣が閉じこもっている潜水艇も救出したようだ。

 

 と、蛇尾狼が完全に体外へ出たところで、背中は閉じる。そして―――まだ、その戦意を失っていなかった。

 

「―――あいつ、まだやる気なのか!?」

 

 手負いの<レヴィアタン>を睨んで、古城は奥歯を噛み鳴らした。

 魔獣の傷は浅くない。いや、どれだけ体内で蛇尾狼が暴れたかはわからないが重傷だ。しかし、それでもこちらが期待したように、このまま逃走する気がなかった。これ以上戦えば、死ぬことになるというのに。

 

「くそ、どうやったら―――」

 

 荒ぶる<レヴィアタン>。今回の被害者であるこの魔獣を、できれば殺したくない。

 しかし、おそらく次は死に物狂いで戦いを挑んでくるだろう、だとすれば、こちらもこれ以上恩情をくれてやることもできないし、手加減も無理だ。

 そのことは<レヴィアタン>も本能的に理解しているのだろう。

 真祖、獣王、魔獣は、力を溜めながら、最後の攻撃のタイミングを待つ―――

 

 そんな時、フラミーの背中から、突然、小柄な影が無造作に飛び降りた。

 

 

 

「なっ!?」

「―――結瞳ちゃん!?」

 

 古城と雪菜が同時に叫ぶ。<レヴィアタン>の目前に、黒い翼を羽ばたかせているのは、気絶していたはずの結瞳だった。

 彼女がぎこちなく両手を伸ばし、無言で巨大な魔獣へと呼びかけている。

 それに結瞳がやろうとしていることに気づいて、古城は彼女へ静止をかける。

 

「やめろ、結瞳! <レヴィアタン>にお前の精神支配はもう効かない」

 

 『夢魔』の力で<レヴィアタン>を再び支配し、深海へと帰す。

 確かにそれが可能であるなら、この無意味な戦いも避けられるだろう。

 だがそれはもう無理なのだ。生体兵器である<レヴィアタン>に、『夢魔』の力に耐性を付けている。結瞳の支配には従わない―――

 

「それに、<LYL>のサポートがないんじゃ―――」

 

 そもそも結瞳は単独では世界最強の夢魔の力を完全に制御できない。

 だから、<LYL>―――<リリス>の能力を扱うための『仮想第二人格』を用意したのだ。

 

「―――ワカッタゾ。手伝イガ必要ナンダナ」

 

 応、と声を上げる後輩。

 蛇尾狼が、『龍尾の蛇頭』が咬みついた潜水艇を持ち上げると逆さにして、中で気絶していた中年男性を落とす。それから、毛玉を作るように暗緑色の尾をグルグルと巻き付かせる。

 

「ナラ、“コイツラ”ヲ蘇ラセレバイイ」

 

 <焔光の夜伯>の失われた『十三番目』の眷獣、<蛇尾狼の暗緑>。

 それが吸血鬼の象徴とする能力は、『蘇生』。

 『人間を人間のままに死者蘇生する』―――

 その力で、まだ微かに“残り香(におい)”のある<LYL>と繋がっていた潜水艇『ヨタカ』より、代々の<リリス>の――人間から魔族になって苦しんだ少女たちの――負の感情部分を濃縮した作り上げたという『仮想第二人格』を蘇らせる。

 

「_____――― ̄ ̄ ̄」

 

 巻き付いた尻尾に絞めつけられて搾り出るように、その隙間より淡い光が漏れ出てくる。

 光は生体兵器の背を、そして、海域にまで広がっていき、世界最大の魔獣を包み込むまでに拡大していった。

 海域一帯、その各所から光がポツポツと浮いてきて、カタチを成していく。

 それはハッキリとしたものに形成されていき―――少女のカタチとなった。

 結瞳を囲むように現れたのは、ピンクのような淡い紫色の燐光を放つ少女たちの御霊であった。

 もしかして、彼女らは―――

 

「クロウ、お前……」

 

「死ンデモ、苦シムノハ『墓守』トシテ見過ゴセナイノダ。

 ―――ダカラ、安ラカニ眠レルヨウニ、解放スル」

 

 ―――――

 

 彼女らの魂が輝きを放ち出した。その光が結瞳を中心に眩しくなっていく。

 

「先輩、これは―――」

 

 照らされる結瞳の背中を見つめて、雪菜が呟く。

 彼女が伝えようとしたことを、古城も気づいている。

 かすかな声が頭の奥に響く。

 仲間を呼ぶクジラたちの鳴き声に似た響き。言葉になる前のシンプルな音色。切なく、そして優しい、重なり合う旋律―――

 

 歌、だ。

 

 無垢な笑顔に包まれ、結瞳は歌を口ずさんでいる。否、正確に言えばそれは歌ではなくて、<リリス>がもつ精神支配の波動。それが古城たちの脳で歌声と誤認しているに過ぎない。

 しかし、その歌声は、<レヴィアタン>にも届いている。

 彼女の―――いいや、彼女たちの合唱は、この怒り狂っていた世界最強の魔獣を、子守唄のように鎮めていく。

 後輩が『仮想第二人格』より引き出した残滓から生まれる世界最強の夢魔たちの――ただの人間であったころに蘇らせた、木霊。彼女たちはひとつの大きな光となり。神々しいとさえ思える優しい光が、結瞳を包み込んで、『蛇』の荒々しく撒き散らされていた魔力の波が収まっていく。

 

 そう、結瞳は、<リリス>は、神々の生体兵器を説得している。

 

 そして、海面が波打ち始める。群青色の<レヴィアタン>の巨体が、海面下に潜っていく。その動きにはもう、こちらに対する敵意はない。『蛇』は結瞳の説得を受け入れ、そして、最後に『獣王』の粋な計らいに、高く潮を噴き上げ、虹を作ることで応じた。

 

「……<リリス>が、『夜の魔女』だって……?」

 

 言っていた奴ら全員にこの光景を見てみろ、と古城は叫びたくなった。

 <レヴィアタン>が創り上げたその虹を架け橋にして天に昇っていくよう、<リリス>の木霊は大気に少しずつ薄れて溶け込んでいく。

 そして、<レヴィアタン>の説得に力を使い果たしたのか、『夢魔』の魔力で紡がれたその背中の翼が同じように薄れて消えていく。ふらふらと高度を下げていく結瞳を海に落下する前に、フラミーがベットのように柔らかな体毛の背に乗せる。

 それから、蛇尾狼を解いて、海にぷかぷかと浮いているクロウ、とその首にしがみついて背負われているアスタルテを主人と一緒に龍母は口で銜えて拾い上げた。

 

「よくやったよ、クロウ」

 

「ん。古城君も姫柊もお疲れなのだ」

 

 そうして、最後にまた古城は少しずつ薄らいでいく虹を名残惜しむように眺めながら、どこがだよ、と呟く。

 “光の女神”の方がずっと似合ってるだろ―――と。

 

 

青の楽園 港

 

 

 『クスキエリゼ』の会長久須木和臣は、テロの容疑で逮捕拘束。

 元々エコテロリスト『トゥルーアーク』の支援者として物議を醸していた男で、今回の事件でこれほどの証拠を曝け出したとなれば、弁護は不可能。

 ただし、テロの道具に使おうとしたのは、蛇は蛇でも遥かに小物の『大海蛇(シーサーベント)』に変更された。

 

 <レヴィアタン>は神々の時代の生体兵器。神聖不可侵の怪物。

 それが一時とはいえ人間の支配下に陥ったことが判明すると、また同じことを繰り返す輩が出てこないとは限らない。

 だから、真実は封印される。

 今回の騒ぎも、『大海蛇』が特区警備隊によって駆除され、かまぼこの材料として美味しくいただかれた……と言う事件概要で公式発表される。

 

 解体された『クスキエリゼ』、幸いにして損傷が軽微で済んだ『魔獣庭園』および研究開発された『蛇の仔(タラスク)』は、人工島管理公社の息のかかった企業が引き継ぐことになり、

 結果をみれば、『魔族特区』絃神市は、労せず魔獣の飼育設備と世界最強の魔獣の遺伝子を持った複合魔獣(キマイラ)を手に入れることができたことになる。

 しかし、これは騒動の思わぬ副産物に過ぎない。

 

「―――あの馬鹿どもを無理やりに巻き込んで、太史局の穏健派を嵌めることができたな<静寂破り(ペーパーノイズ)>」

 

 先日、連絡船から降りた、日射に弱い少年が休んでいたベンチ。

 そこに日傘の女性と、本を抱いた少女が並んで座る。

 

「ええ、助かりました<空隙の魔女>。<第四真祖>がいなければ、私たちは貴重な手札の多くを失うところでした。結果的に『青の楽園』も救われましたし」

 

 最初から<レヴィアタン>を<第四真祖>の力を以って撃退するつもりであった。

 

 裏で手を引いていた太史局の相手―――獅子王機関は最初からすべてを理解していた。

 太史局が久須木和臣を利用したことも、彼らの狙いが『藍羽浅葱の抹殺』であることも。

 だから獅子王機関は『クスキエリゼ』に舞威姫を送り込み、『覗き屋(ヘイムダル)』に案内役をさせ<第四真祖>が<リリス>と接触するように仕組んだ。被害を最小限に抑えるために、藍羽浅葱を『青の楽園』に連れてきたというのも単なる方便。

 

 そして、念のために『カインの巫女』の守護獣たる<黒妖犬(ヘルハウンド)>を、『クスキエリゼ』および太史局の誘いに乗り、『青の楽園』へ派遣させるよう、主人を説得した。

 

 過程はどうあれ、結果的に、事態は獅子王機関の思惑通りに決着がついた。

 

「今回の一件で、太史局には大きな貸しができました。政府内の政敵も多く失脚することになるでしょう。しばらくはこのような形で『カインの巫女』が狙われることはないでしょうね」

 

「そう願いたいものだな。可愛い教え子の命が狙われるのは、良い気分ではない。馬鹿犬も巻き込まれることになるらしいしな」

 

 ふん、と日傘の女は鼻を鳴らす。

 

「そういえば、その馬鹿犬が()ってきた『冥狼』はどうした?」

 

「『覗き屋(かれ)』から話は聞いております。<冥餓狼>を手にした絃神冥駕を“殺さずに”捕縛したことは大いに助かりました。優秀な武神具開発者であった彼のもつ技術と知識

を“眠らせておくのは惜しい”ですからね」

 

「手酷く咬みつかれたというのにまたヤツを利用するつもりか。悪い事は言わん。<監獄結界>に閉じ込めておいた方が良いぞ。あれはイヌではなく、オオカミだ。それも復讐に狂ったな。獅子王機関にオオカミを使役することはできん」

 

 苦言を呈された本を抱いた少女は、しかし、乱さない。

 反論はしないこそ、その程度のリスクは考慮済みで、手札に加えている。

 <監獄結界>の最後の脱獄犯『冥狼』絃神冥駕は、現在、<監獄結界>ではなく、獅子王機関からの希望もあって、人工島管理公社の独房に入れられている。元宮廷魔導技師であった叶瀬賢生の身柄を人工島管理公社と取引したアルディギア王国と同じように。

 

「さて……これで<黒妖犬>の監視役の権利を、太史局から手放させることができるようになりましたけど」

 

 クス、と少女は微笑を作り、

 

「ちょうど任務に空きができて、監視役に適した年頃の人材は剣巫と舞威姫にひとりずつ、どちらに六刃神官の引き継ぎをさせればよろしいですか?」

 

「どちらも結構だ商売敵。あれは私の眷獣(サーヴァント)だ。それに、オオカミ一匹の躾も満足にできん組織に、馬鹿犬の幉を引かせられるとは思えんのでな」

 

 クルクルと苛立ったように日傘を回し、殺気立つ視線をやる魔女。

 説得の材料として獅子王機関の長のひとりが挙げたのは、『太史局の監視役を自分の眷獣(サーヴァント)から外させることができるかもしれない』というものだ。

 『太史局の監視役を外して、代わりに獅子王機関の人員を派遣する』などとその“契約”を反故にはしていなくとも、その裏をかこうと欲張るというのならば、魔女は敵に回るかもしれぬ。

 

 いたく気に入られたのか、あの子は縁堂縁から手解きを受けているようだし、ならばこのまま縁堂縁に任せ、わざわざ監視役を送ることもない。

 『冥狼』を抑え付けられる貴重な人材を手のうちに入れておきたい気はなくもないが……

 

 膝の上に抱いた本の表紙を撫でながら、リスクを考慮した少女は現状維持を受け入れることにする。

 

 

「わかりました。<黒妖犬>の管理は国家攻魔官に任せ、我々、獅子王機関から監視役を送るのはやめることにしましょう」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 絃神島の住人は台風と同列とみなせるくらいに、魔導災害には慣れっこである。

 <レヴィアタン>が深海に帰ったことで、『青の楽園』に出されていた避難警報は解除。『魔獣庭園』の復旧には時間がかかるものの、プールと遊園地は、施設の点検が済み次第、営業を再開する。

 来場者の三割ほどは島外に逃げたが、残り七割は居座って、そのまま余暇を過ごすらしい。たとえそれが世界最強の魔獣の襲撃であっても、島の住人の日常はそう揺らがない。

 

 そして、その三割に続いて、島から出るものがここに。

 

「………否定。任務完了前に、私だけ帰還させる必要はありません」

 

 港に停泊する護岸警備隊の船へと向かう藍色の髪をもった人工生命体の少女と彼女を乗せた車椅子を押す厚着の少年。

 声が五割増くらいに硬い、さきほどからずっとこんな調子で抗議してくる後輩に、クロウは小さく溜息を吐いた。

 そんなにも“ひとりで置いていく”には心配される先輩なのだろうか自分は、とそんなことを思ってしまったからだった。

 

「アスタルテ……お前、今回の事件で無茶したんだから、かかりつけの病院行ってちゃんとメンテナンスを受けなきゃダメなのだ」

 

命令拒否(ディナイ)、問題ありません。私の運動神経機関並び内臓魔導器官、生命維持状態もオールクリアです。活動に支障はきたしません。なので、先輩に車椅子で運ばれる必要はなく―――」

命令拒否拒否(でぃないない)なのだ」

 

 ぐぐぐ、と車椅子から立とうとするアスタルテを、頭に左手を乗せて押さえつけるクロウ。

 実際、医大生くらいの医療知識があり、普段、自分で自分のメンテナンスをしているアスタルテは、自分の体調を把握し、そして自己診断であるも問題はないとみている。つまり、これは過保護だ。そう、アスタルテはみている。

 

「あのな。いくらお注射が怖いからってなー」

「否定、先輩と一緒にしないでください」

 

 4000mもの世界最強の魔獣を豪力で薙ぎ倒さんとして、しかも薬毒の類が一切効かない獣王が注射針一本に何を恐れているのだと、そんな先輩を微笑ましくも叱咤してやりたい気に駆られる。

 

「むぅ~……」

 

 つんけんしているというか、前を向いているのに背後の自分に向かってひしひしと妙な迫力を押してくる。

 あいかわらず無感情というか、今日は仏頂面とでもいうところなのだが。ありありと不服な“匂い”をさせる。

 

「ご主人がわざわざ迎えに来てくれてるんだぞー。それを無下にするのはダメなのだ。残ってる仕事も、『クスキエリゼ』から別の企業(とこ)に引き継がせる魔獣たちの面倒だけだし、オレひとりでもできるぞ。夏音の代役も、アスタルテと一緒に帰ったってことになってるし」

 

「………」

 

「ぅ、先輩命令! アスタルテは病院に行って診断を受けるのだーっ!」

 

「………」

 

 沈黙。いつものあの決まり文句がない。

 クロウはまたがっくり項垂れる。そんなに先輩の威厳がないのかオレ、と。

 

「う、わかったぞ」

 

 と、クロウは顔を上げた。

 

「アスタルテ、お前、なんか欲しいものがあるか?」

 

「………欲しいもの、ですか?」

 

 きょとんと小首を傾げて反応を見せてくれたアスタルテに、クロウはうんうんと頷く。

 

「今回はアスタルテには頑張ってもらったからなー。先輩として、後輩の頑張りには報いてやらなきゃダメだろ? う、特別ボーナスってヤツだな」

 

「生活管理に必要な出資は教官(マスター)よりいただいてますが」

 

「だから、先輩からのご褒美なのだ」

 

「………」

 

 しばらく、アスタルテは考え込んでいた。

 きっかり十秒で、答えが出た。

 

「ひとつだけ、望みがありました。よろしいですか?」

 

「う、何でも言うのだ。あ、でも、先に言っとくけど、オレにもできることとできないことがあってな。それから、できればお小遣いを超えるのは勘弁してほしいぞ。夏音たちに『青の楽園』のお土産買うって約束してるし」

 

「先輩の預金は全て把握・管理しております。……おそらく、先輩に問題なく実行可能と存じます。金銭にも関連しません」

 

「じゃあ、言ってみるのだ」

 

「肯定」

 

 うなずいて、人工生命体の少女は車椅子に座ったまま背伸びするように頭の位置を心持あげる。

 

「ん?」

 

「頭を撫でてください」

 

「う?」

 

「注文。キチンと手袋を外してお願いします」

 

 間抜けにもぽかんとするクロウ。

 頭を撫でる→『波朧院フェスタ』でご主人に倣い、クロウが先輩の威厳を見せようとした行為と同じ→つまり、アスタルテは下剋上を狙っている!? ―――いや、それはないか。

 かなり長い間、うんうん考えてみたが結局、

 

「わかったぞ」

 

 と、少し迷ったが、手袋とを取り、藍色の髪の間に指を差し込んだ。

 なるだけ丁寧に……したかったけど、乱暴にぐちゃぐちゃに嗅ぎ混ぜてしまう。

 それでも、人工生命体の少女はどこか嬉しそうに口角を緩やかにあげてくれた。

 

「痒いところがあったのか?」

 

「否定。床屋でも、毛繕いでもありません」

 

「んー、でも、なんか機嫌良くなってるんだぞ」

 

「……別に、何でもありません」

 

 言いながら、そっとアスタルテは瞼を閉じた。

 

 これはきっと、彼自身は意識してないことなのだろうが。

 この少年は、自分から誰かに触るという行為をあまりしない。

 ……でも、こちらから伸ばせばその手を取ってもらえることを彼の後輩は知っている。

 

「こうやって……先輩から……触れてもらうだけで……」

 

 そして、とても気持ちよさそうに、少年が押す車椅子に腰を深く、落ち着けさせ。

 そのまま、こっくり、と頭を下す。

 

「アスタルテ!?」

 

 血相を変えた少年が、すぐに呆然と目を丸くした。

 すう、と安らかな寝息が聞こえたからだ。

 

「ん……そういえば、昨日からずっと徹夜だったのだ」

 

 ふわぁ、と少年も欠伸をひとつ。

 そして、停泊する船を背景に仁王立ちする主人の姿を見つけ、ぶんぶんと尻尾を振るように手を振った。

 

 

青の楽園 エリュシオン コテージ

 

 

 アスタルテをご主人に預け、港からコテージに戻ると、そこに古城らはいなかった。

 

「古城君なら、遊びに行っちゃったよ! 今回の旅費って、古城君のバイト代から出てるみたいなんだけど、それをすっぽかしてアルバイトのチーフさんがもうカンカン! うん、すっごく怒ってたよー、でも、古城君が結瞳ちゃんに一緒に遊園地とプールに連れて行くって約束してて、それで結瞳ちゃんにお仕事ダメって駄々こねられちゃってね。だから、午前中は古城君、責任とって結瞳ちゃんに付き合うことにして、その間は、矢瀬っちに代理に任せることにしたの」

 

 とシスコンにホモ疑惑に続いて、ロリコンの称号を受賞した、実は世界最強の吸血鬼である兄の現状を、ニュースアナウンサーのように噛まずに早口でクロウに説明してくれたのは、たった一人でコテージに残っていた凪沙。どうやら、結瞳に付き合う古城、その二人が気になりついていった雪菜と浅葱という感じに、コテージから人がいなくなっているらしい(舞威姫は浅葱の友人である『戦車乗り』のところに休んでいる)。

 そして、ひとり凪沙がリビングのソファに座ってぶらぶら足を動かしていたところ、その姿勢ではっとクロウの訪問に気が付いて、ぴょこんと跳びはねて、パタパタと早足で出迎えてくれた。

 

「う、そうなのか。大変だったな。でも、凪沙ちゃんはどうしてここにいるのだ? 古城君と一緒に遊びに行ったりしないのか?」

 

「え、あ、うん……ほ、ほら、昨日はいっぱい遊んだから、起きたら急に疲れがどっと来たような気がしたようなしないような、お留守番することにしたっていうか……―――だから、待ってたらクロウ君が来るかなー、とか考えてないよ全然!」

 

 わたわたと手と頭を一緒に振る凪沙に、うんうんと素直に頷くクロウ。

 

「そっかそっか。凪沙ちゃんもお疲れなんだなー」

 

「うん……クロウ君にこういう変化球はダメだってわかってたけどね。

 それで、『凪沙も』、ってことはクロウ君、疲れてるの? 大丈夫?」

 

「うー、ちょっとおねむなのだ。だから、仕事を頼まれている昼頃まで、ここで小休止させてほしい、ぞ」

 

 クロウは口元に手を当てると、あむあむと寝息を噛むように口を動かし、涙が滲ませる目端を手の甲で拭う。

 

「―――よし!」

 

 グッと両拳を揃えて何やら気合を入れた凪沙が、ソファの端によると居住まいを正して、ポンポンと膝を叩く。

 

「良いよ、クロウ君。準備万端!」

 

「何がなのだ?」

 

「膝枕だよ」

 

「………あう?」

 

「あれ? クロウ君、膝枕って知らない?」

 

「いや、知ってるぞ」

 

 でもなんでそれをするのかが疑問に思うクロウ。

 疲れてはいるけど、別に二階の寝室に行くくらいの手間を惜しむつもりはないし、その気になれば床にだって寝れる。

 

「クロウ君は疲れてます」

 

「うん」

 

「そこで、膝枕です」

 

 紙芝居で拍子木を打ち鳴らすように、再びパパンと太ももを叩く凪沙。合いの手を入れるように聞き役のクロウは小首かしげて、疑問符を浮かべる。

 

「何でなのだ?」

 

「女の子の膝枕には、男の子を癒す力があるんだよ!」

 

 朗々と言われると、根拠とかわからなくても、なるほどと頷いてしまうクロウ。

 笑顔で――少々照れたように赤らんでいるも、こうなったらやけっぱちなテンションで押し切るように――さあさあ、と促す凪沙。

 まあそうなのか、と頷くクロウは、凪沙に手を掴まれ、導かれるようにして、その小さな膝の上に頭を乗せた。

 視界が自然と上を向く。そして、

 

「どう、クロウ君?」

 

 何だか嬉しそうにニコニコと笑う少女。

 そっとクロウの髪を軽く撫でながら、顔を覗き込んでいる。

 

「あたしの太もも、柔らかいでしょ。昨日、焼き肉をたくさん食べて太っておいたんだよ」

 

「ん。凪沙ちゃん、太ったのか」

 

「冗談に決まってるでしょクロウ君。本当に太るなんてダメだよ……そんなことして、見向きもされなくなっちゃうのはイヤだし」

 

 最後の方がゴニョゴニョとしていたけど……自然、瞼が落ちる。

 説明はできないけれど。頭の後ろに感じる柔らかさに、人肌の温もりが伝わってきて、ものすごく安心する。

 そのふわふわとした心地良さと温かさに、そして、少しだけひんやりとした手の平に当てられると心が落ち着いて……一気に睡魔が襲ってくる。

 

「うん、本当なのだ。すごいな膝枕」

 

「そうでしょ、すごいでしょ。昼頃になったら起こしてあげるから。ゆっくりおやすみ……」

 

 その言葉に誘われるように、クロウの意識は急速にあたたかな闇の中に消えていった。

 

 

 

 どこか遠くで潮騒の音が聴こえ、リビングに静寂が初雪のようにしんしんと積もる中、

 

「本当に……お疲れだったんだね……」

 

 顔には疲労が見えるものの、すぐ安らかな寝息を立てたのにホッとする。

 そっと頬を撫でる。慈しむような、優しい手つき。そこから彼を労わる気持ちが伝わってくるよう。

 

「クロウ君……」

 

 寝顔を見るのは、初めて。だけど、どこかで見た気がする……そう、修学旅行前に古城君が連れてきた赤ん坊に、似てる気がする。それと重なってしまうせいか、どこか幼く見えてしまう。

 

「クロウ君の……顔……おでこ……頬……♪」

 

 言葉通りに、額に頬、鼻筋……そっと撫でていく。

 

「唇……」

 

 そっと触れる唇。ぷにっとした柔らかなあたたかさが、指に伝わってくる。

 ちょっとくらい突いても起きない彼の寝顔を這わせた自分の指を見つめて、少女ははにかむような微笑を浮かべた。

 そして、その指を自分の唇の前に持っていき、当てるか当てないか迷うように寸前で留まり……

 

 

 

 バタン、と。

 

 

 

「―――っと、財布を忘れてきちまった。おい、凪沙。身体大丈夫なら、お前も一緒に……」

 

 近づく気配は、きっと兄。忘れ物して戻ってきたのだろう。

 どたばたと煩い兄に、凪沙は少し眉を吊り上げて、蛇睨みの如く視線で止めさせる。

 

「クロウっ!? おま―――」

「(古城君! 折角、クロウ君が寝てるんだから、静かに!)」

 

 しぃ、と―――唇に指を当てて―――注意を促す。

 

 妹から思いっきり凄まれた古城はたじろぎ、そして、その妹に膝枕されて眠っている後輩を見て、状況を悟る。

 ……普段であれば、おいこらテメェ! と怒鳴りつけて叩き起こしたところだが、この後輩は古城がうっかり寝落ちしたところを自分たちのために徹夜で働き、世界最強の魔獣にさえ立ち向かったことを知る古城は、あまり強く出づらい。それが枕にするのが妹の膝でなければ、休んでもらっても全然かまわないし、むしろ勧めるところなのだが……

 

 まあ、後輩(クロウ)にそんな色気のあるイベントが起こるわけがないか、と無理矢理に納得させて、荒ぶる兄心を抑え付けた古城。

 そして、これ以上、無に努めようとする心に刺激は与えないよう、リビングから視線を外して……だから、気づけなかった。

 

「………間接……しちゃっ、た」

 

 ぽん、と真っ赤に白煙を上げる妹の様子に。

 くうくうと少年の立てる寝息が、窓より差し込む眩しい常夏の光の中に、溶け込ませていった。

 

 

 

つづく

 

 

 

???

 

 

「………なあ、零奈。20年前にラスク連れてっちゃダメか?」

 

「無理でしょ。萌葱ちゃんがサポートしてくれるからって、<天球の蒼(エクリブティカ・サフィルス)>に限度があるわよ。20年前は眷獣くらいのちっちゃな赤子タラちゃんだったけど、今ではちょっとした丘くらいビックよあれ。今度、あの甲羅の上に『魔獣庭園』の移動式テーマパークを建造しようかって話があるくらいだし」

 

「でも、相棒のラスクと一緒だったら、今度こそ父ちゃんを倒せる!」

 

「それも無理無理。20年前のクロ君にはこの前の試験時間転移(テスト・ジャンプ)で会わなかったけど、今ではクロ君、『大罪制覇(グランド・ビースト)』なんて呼ばれる偉業しちゃったじゃない。古城君が、『凪沙叔母さんと結婚したければ、『七つの大罪』とケンカして勝ってこい』っていうから、本当にしてきちゃったんでしょ」

 

「うん。案内役を買って出てくれた師匠と一緒にいってきたらしいな」

 

「古城君、半分冗談で言っちゃったから、それでママたちに説教されて……結婚前なのに、『新婚旅行前に他の女と一緒に世界旅行に出かけた』って凪沙叔母さんも騒いで大変だったんだってね」

 

「ムツミ姉ちゃんが言うには、父ちゃんが帰ってくるまで王様は針のむしろで大変だったみたいだなー」

 

「一番クロ君が帰ってくるのを切望してたのはパパだったんだね」

 

「ぐぬぬぅ……そういう今も、父ちゃん、母ちゃん置いて出張してるんだ!」

 

「仕方ないんじゃない。クロ君、『暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)』と結びつきの強い同盟国である北欧アルディギア王国の外交大使なんだし。世界最強の真祖の古城君は領主で動かせないから、その義弟で同じく世界最強の獣王が、どうしても海外派遣されることが多くなっちゃうわよ。といっても、実質的な外交業務は、秘書のアスタルテさんがやってるでしょうけど」

 

「ぐぬぬぅ……!」

 

「どうして、クロ君にそこまで反抗期になるのかねぇシロ君は。あたしのガチガチで口煩いお堅いママよりずっといいのに。

 ま、どっちにしろ前回、問題行動を起こしたシロ君はお留守番って決まってるから」

 

 

人工島南地区 マンション

 

 

 ―――甲高い音を立てて、硝子のように砕け散る、刃……

 

 

 それは、獅子王機関の秘奥兵器『七式突撃降魔機槍』、銘を<雪霞狼>。

 <第四真祖>の監視役として派遣される剣巫に与えられた武神具―――

 これがなければ、監視対象である真祖を殺せない―――先輩の傍にいられる資格をなくすも同じ。

 

『………』

 

 結びつける絆ともいえる大事な武器を大破してしまった私を見る、先輩の目は、何も感じない。気怠い雰囲気だけど、その裏にはいつも何か強い感情を秘めていて……でも、今のそれは興味を失くしてしまったよう。

 

 待って!

 

 何も言わず、先輩はこちらに背を向けて、歩き出す。

 

 待ってください先輩! 

 

 必死に追いかけるも、先輩との距離は開いていくばかりで。

 

 私は―――

 

 そして、こちらに背を向けた先輩が行く先にいたのは―――いつも厚着の同級生の、男子……

 

 

 

「―――って、クロウ君っ!?!?」

 

 監視対象――暁古城のいる部屋の隣の705号室。

 家具も何もない殺風景な部屋だったけれど、ここ最近はかすかな温もりを感じさせる私物が増えてきている。

 そして、暁古城の監視者である姫柊雪菜は、カラカラに渇いた喉の渇きを潤すため、台所に一杯の水を飲む。

 

「今の夢……」

 

 霊視をもった霊能力者は、時に、その霊視能力が休眠状態に暴走し、一瞬先ではなく、近々起こりうる未来を視る―――『予知夢』をすることがあるという。

 それは大概、不吉なものが多く、よく当たる、といわれる。

 

 大破した銀槍、

 監視役でなくなった自分から離れていく先輩、

 そして、先輩が自分の次に選んだ相手が、同級生……

 

 不吉だ。ちょっと冗談じゃないくらい不吉過ぎる。

 普段、『女の子にふしだら真似はNG』と小言をよく口にしてるけど、それは別に『じゃあ、男の子にするのはOK』という意味ではない。むしろ、アウトだ。もし目の前で彼らの吸血行為なんて見せられたら立ち直れない、最悪、男子禁制の高神の社に一生尼になって引き籠るかもしれない。

 

「……でも、先輩が一番に頼りにしてるのはクロウ君なんですよね」

 

 男女の違いはあれど、同じ年代。

 けれど、武神具があったとしても、その実力の差は徐々に大きくなり始めている。

 

 この前、『青の楽園』であった六刃神官。<生成り>を身につけた『影の剣巫』に、トドメこそ刺されなかったけれど、剣巫の雪菜は敗北した。

 しかし、彼はその六刃神官を単独で撃退したという。

 他にも多くの強敵を打ち破り、また対象の位置を嗅覚で感知する超能力をもっており、先輩の助けとなっている。また、自分が絃神島に来る前から、先輩と付き合いがあって……

 そう。

 先輩が自分より彼を頼りとするのは当然のことでないか。

 

 水を飲み干して空になったコップを置く。

 

「そうですよね。私がいなくなったって、先輩は……」

 

 

 

つづく

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