ミックス・ブラッド   作:夜草

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奈落の薔薇Ⅳ

人工島東地区 食糧備蓄倉庫

 

 

 獅子吼とともに。

 閃光(ひかり)が―――すべてを包み込んだ。

 

 

 高熱は、倉庫街の地表部を洗い流した。

 神の怒りの如く蹂躙する雷光の獅子は、それだけでこの場にある食料を焼き尽くすには十分すぎた。

 巻き上がった粉塵が落ち着くのに、数十秒ほどかかったろうか。

 

「……さすが、<黄金の獅子>。私とタイプは違うけど、やっぱり同じ同胞(はらから)は出鱈目ね」

 

 のんきな感想が、元倉庫街にこだました。

 いや、もう“元”という呼称でも符号すまい。

 高電離気体(プラズマ)の嵐が吹き抜けた部分は、あまりの熱に地面が抉り取られ、表面はガラス状と化している。港の隣接した海岸より巻き上がった水滴が当たるたび、じゅうっと音を立てて蒸発する有様だ。この一区画に範囲制限で御していた局所的な万雷はおよそ1kmほどで自然放散するようになっていたが、そうでなかったら、絃神市のどれだけを呑み込んだことだろう。

 見下ろせば、輻射熱だけで顔の産毛をちりちりと焼ける。

 

「私たちの“後続機(コウハイ)”は『五番目(あなた)』と顔合わせは済ませてるのよね。だから、あんなに判断が早かったのね」

 

 野獣のような形相で慟哭し―――そして、胸の奥から猛スピードでせり上がってくる、凶暴な感情を、呑み込んで、彼は撤退した。

 

 喉までこみあげてきたその錆びた鉄を舐めたような味、それ即ち憤怒の味を噛み締めた<黒妖犬>は天上に吼えた。

 

『<守護龍(フラミー)>―――ッ!』

 

 事前に上空で待機していた白き獣龍が急滑降して、<白石猿>と<第四真祖>、ディセンバーを巻き込む軌道で突貫。

 それで斃されはしないが、意識を上に誘導し、また眷獣召喚までの刹那の時間を引き延ばす。

 契約した龍母が場を混乱させると同時、全力疾走の突進から急制動して、タイムラグはほぼゼロで<黒妖犬>は切り返す。軽々とビルの屋上から屋上へと跳び駆ける『獣王』の脚力をもってすれば、吸血鬼の動体視力でもってしても油断すれば視界から消え失せてしまう。ぶちぶちと筋繊維が切れるほどの引き返しで、仲間の少年少女に二、三言をなにかを告げると、雷光の獅子の顕現を待たずに、単身で、空間跳躍した仲間たちとは別行動で、倉庫街から離れていった。

 もう召喚阻止が無理だとわかった以上は、倉庫街は守れない、戦ってもその余波で確実に荒れる―――ならば、切り捨てる。

 その判断は正しい。

 こちらも雷光の獅子に攻撃させる前に、千賀毅人にロギとハヌマンを連れて空間転移をさせなければ、巻き込まれたほどの圧倒的な蹂躙劇だ。嵐の中で無事なのと言えば、宿主の暁古城と、同胞のディセンバー、それから魔力に対して絶対の反射能力をもつ巨人の眷獣に護られた人工生命体の『血の従者』だけ。

 

「でも、危なかったわ。古城を連れて早く駆け付けなかったら、毅人とロギやられそうだったもの」

 

 だけど、“隠し玉”の投入で一気に盤上は逆転した。

 それほどに<第四真祖>の力は脅威なのだ。一体で、戦争の趨勢を決めてしまえる破格の存在。

 

「……でも、世界を変えるのは世界最強の吸血鬼でも難しいのよ」

 

 実感のこもった呟きを零すと、ディセンバーは通信機を取り出して、後衛の娘にも全員無事に作戦終了を教えようと―――

 

 

「作戦は成功。撤退するわ、カーリ……………カーリ……?」

 

 

紅魔館二号店

 

 

 新聞の一面にでかでかと写真が掲載されるのはやはり、絃神島の『食糧備蓄倉庫(グレートパイル)』で発生したテロ事件。

 瞬く間に、雷光が閃いて一帯が焦土と化した超常的な災害によって大手食品会社の倉庫に人工島管理公社が失った備蓄食料は、絃神市民一人当たりに換算しておよそ60日分にもなるという。

 停電したのは二万世帯を超えて、そのうちの半分近くは今朝になってもまだ復旧の目途は経っていないという。幸いにして、東地区の倉庫街と隣接する西地区の連絡橋とモノレールの軌道は無事、それから死傷者は出ていないようで、状況が落ち着けばすぐに復旧工事に移れるだろう。

 して、損失を金額に換算すれば百億から二百億円、間接的なものまで含めると五百億はくだらないといわれている。

 

「ん、と―――」

 

 バイト先に押しかけて、店住まいの店長に無理を言って、ここで休ませてもらった。ほんの2、3時間のことだが英気を養えたクロウは、椅子を並べたベットから立ち上がる。

 慎重に身体をチェックする。

 腕と足をゆっくりと曲げ、伸ばし、ついでに肩や腰、背中の筋肉なども入念に確かめる。最後に右手、左手とをぐーぱーと握り開き。自分の身体がどの程度使い物になるか知っておくのは、基礎の基礎だ。たとえクロウが無茶に無茶苦茶を重ねるタイプとはいえ、むしろだからこそ、こうした点検は怠らない。

 数分ほど静かにストレッチを行い、次の数分は軽く跳び、シャドーボクシングみたいに手足を軽く振り回し始めた。師父からは擬獣拳法『象形拳』を教えてもらったりしたが、クロウが訓練したのはもっぱら手加減のためである。力いっぱいに振り抜きながらも、致命傷足りえない“みねうち”のようなものだ。

 動きは徐々に速く、鋭くなる。

 気を練りながら、かつて戦いの中で学び取った獣人拳法を再現。それは見ている者にも、彼の想定する相手が視えるほどだ。

 イメージトレーニングの相手は、ひとり。過小評価することも過大評価することもなく、昨夜に感じ取ったままに、淡々と少年はウォームアップを重ねる。

 そして、実際に動きながらこの“血の原本”が編み出した技術体系の中にある“意味”を深く噛みしめるように検討し―――

 

「どったんばったん、とついに皿だけでなく私の店まで壊す気!?」

 

 と二階にある自室からドタバタと駆け下りてきた女店長カルアナから怒られた。

 抗議され、ちょうど一通り終えたので、薄くかいた汗を拭ってから、ぺこり、と頭を下げるバイト少年。

 

「ごめんなのだ。いつもの日課をやらないと目覚めた気がしなくてな」

 

「それを毎日やってよくあんたの家は全壊してないわね」

 

「う、昔はよく、部屋の壁とかぶっ壊してご主人に怒られてたのだ。でも今は時々だぞ。月に一回くらいだ」

 

「月一でも十分被害が大きいわよ! うちでやったらあんたの飼い主に請求書送り付けるからね!」

 

 かりかりとご立腹な『紅魔館』の二号店の経営を任された女店長。

 ただでさえ、人工島強制鎖国状態に、昨夜の『食糧備蓄庫』の全焼で、食糧の物価がとんでもなく頭が痛いことになりそうだというのに、この面倒事(トラブルメイカー)が面倒事を持ってきたのだ。

 

「それで“また”拾ってきたみたいだけど……どうやらあんたの飼い主だけでなく、あんたも私の店を託児所か何かと勘違いしてないかしら」

 

「そんなことはない。あいつを子供たちのところと一緒にしたら、大変なことになる」

 

「それって、爆弾ってことよね。私の店を本当どうする気なのよ!」

 

「むぅ、でもあいつはカルアナのところ以外じゃ預けられない。ご主人はいないし、警備隊のみんなもピリピリしてる。それに、今のまま管理公社まで連れていってたら、自害しかねないのだ」

 

「ほら、やっぱりそうよね! そうだと思ったのだわ! ああもう!」

 

 きしゃー! と声をあげながらカルアナはブルネットの髪を掻き乱す。

 それから気の済むまで大声でシャウトした後、どかっと椅子に座る。乱れ髪を軽くに整えてから、クロウに見せつけるように思い切り嘆息してみせて、

 

「……わかった。いいわよ。ここで放り出したら、夢見が悪くなるじゃない」

 

「ん、カルアナなら引き受けてくれると思ったのだ」

 

「ふん……これは貸しよ。しばらくはタダ働きできつく扱き使ってやるわ」

 

 今のカルアナは眷獣が使えないが、『旧き世代』で『戦王領域』の貴族だった。それでも、このバイト少年の頼み事はどうも断れない。

 この少年に命を救われた、また、大事な選択を誤る前に踏み止めてくれた、と憶えてなくてもそう思える。

 そして、今も戦い続けているのがわかってしまう。

 ならば、多少の支援はしてやろうと。身元不明の少女を預かるくらいは―――

 

「でも、カルアナひとりに任せるのは悪いから応援を呼んでおいたぞ」

 

「え゛……」

 

 がちゃ、と『閉店』のプレートを下げた店の入り口が開いた。

 音に反応して振り向くよりも早く、その気配だけで思考も何もかもが凍り付いた。

 指一本に至るまで完全に硬直したのを、カルアナは感じていた。ああ、これが勘違いであったらどんなにいいか。そんな風に自分をだますことも許されない。なぜなら、一度会ったこの王者の重圧を間違うことなどあり得ないのだから。

 ぎこちなく、顔を向ければ、

 

「う、そ―――」

 

「来てやったぞ、クロウ。俺に頼み事とは何だ?」

 

 朝の静まり返った空気の中で、その落ち着いた声は厳かに響いた。何人たりとも木端には阻めぬ支配者の威。同族であるからこそ上位者であることを強く実感してしまう。

 

(……ああ)

 

 もしかして、今日が私の命日なの? と走馬灯のようによみがえる懐かしき故郷の情景に目を細めて、だが、気を抜けば、その気まぐれ次第で刈り取られてしまう。

 すぐここから去ってほしい、なんて、嵐の夜が過ぎるのをベットの中で震える女の子とシンクロするカルアナの胸中を察することなく、トラブルバスターにしてトラブルメイカーの少年はあっさりと頼みよった。

 

「ん、今日一日くらいここで店番してほしいのだイブリス」

 

 クロウが呼んだその、ゆったりとした白い衣装(カンダーラ)をまとう、見た目12、3歳ほどの年若い少年は、『滅びの王朝』の第九皇子。元でなくても貴族のカルアナには及びもつかない殿上人な真祖直系のイブリスベール=アズィーズ殿下である。

 

「ほう、この俺に『戦王領域』の没落貴族の下で働けというのか」

 

 流し目でやられて、カルアナは、あなた様の上に立つなど滅相もないと首を横にぶんぶん振る。この前は自棄になって、即興オリジナルメニューを出して、どうにか命拾いしたというのに。

 せめてその頼みごとをこの凶王子にする前に、自分の許可を取ってほしかった。そしたら絶対に、この馬鹿犬の頭に拳骨落として小一時間、いいや聞き入れるまで説教してやったから。

 最後の一線を捨て去ってしまうところを制してくれたにしても、この少年自身のブレーキの方が壊れてない?

 

「う、イブリスならきっとキャラ設定とかいうのしなくてもやれるくらい個性的だから大丈夫なのだ」

 

「(クロウ~~~っ!?!?!?)」

 

 ぐ、と拳を作って自信満々に言うクロウ。カルアナ涙目。イブリスベールもこの対応に慣れてか唖然とはしないものの、やや驚いたように眉を上げる。

 もうこの命の恩人だか疫病神だかわからないこの犬少年は、入店お断りにした方が良い気がしてきた。吸血鬼だけど清めの塩とかぶつけてやろうか。

 そんなあともうひと押しで『どうにでもなーれ』とやけっぱちモードに入りそうな、現在現実逃避中の女店長を他所に、話は進められる。

 

「慣れないことをさせるのはわかってるけど、こういう頼みごとができる魔族の友達は、イブリスくらいしかいないのだ」

 

「ふ……俺はお前の実力は認めているが、しかし、いつ友となったのだ?」

 

「ん、本気でぶつかり合える相手で、お互いに共通点があって、一緒にご飯を食べれるようになれば、それはもう友達だとオレは教わったぞ?」

 

 違うのか? と小首傾げる少年。

 この常識の通じないほど敷居(ハードル)の高い相手に、常識を説くこの非常識ぶりは没落してから庶民の感性を磨いた女吸血鬼には卒倒ものだ。

 なのだが、

 

「……………そうか」

 

 満更でもない様子で頬を緩める凶王子。

 

「分相応を知れ、と言ってやるところなのだろうが、それは野暮だな。特別、契約を交わす必要もない。正直、馬鹿なくらい素直な友が一人くらいは欲しいと思っていたところだ」

 

「今度、オレのおすすめのラーメン屋に連れてくのだ」

 

「よかろう。友の頼みで下働きをすることとなろうが俺の誇りに傷がつくことはない。しかし」

 

 と、イブリスベールが問う

 

「ならば、お前を傷つけた相手を誅罰すべきではないか?」

 

 ぞくり、とした。

 カルアナがのぞき見た視界に映った、凶王子の表情は最初と変わってはいないが、少年の内側まで切り込むかのような目の色。

 

「いや、いい」

 

「何故だ?」

 

 王子の寛容を断る真似をして、けれど、むしろ優しい声で呼びかけた。

 

「俺はクロウを傷つけた輩のことを知っている。<白石猿(ハヌマン)>。アレは、我らの真祖が支配する『夜の帝国(ドミニオン)』を荒らす第二の『獣王』。『滅びの王朝』を相手にして、『不滅』を騙る不届き者よ。そして、彼奴だけではない。賊の中には、この俺が恐れた、『宴』に参加し得なかった『王』がいる―――第一、お前の主人をも封じ込められている今、頼れる手が足りないのではないか?」

 

 少年は、己の裡まで射貫く眼差しを、その金瞳で真っ直ぐに受け入れる。

 

 ―――親指。

 

 森を出て主人と育まれた思い出を宝箱のようにしまっている頭には、まだ靄がかかっている。

 

 ―――人差し指。

 

 傷つけられた体は勝手に治るが、この手を握ってくれた後輩はここにはいない。

 

 ―――中指。

 

 己に成り済まして大事な場所を荒らし、師父と先輩を傷つけられて、背に寄りかかれる支柱を失う。

 

 ―――薬指。

 

 迷い、寂しさ、不安はある。押し潰されそうなくらい肩に重圧がかかっている。

 

 ―――小指。

 

 でも、心の鼓動はこの胸を叩いている。

 

 

 

「あいつらは、オレの手から大事なものを()った―――だから、これは、オレの手で奪い返すべき戦争(ケンカ)だ」

 

 

 

 確認作業をするかのように。

 左手の指を順々に、一本一本、握り締めて、言い切った。

 

「イブリスは、手を出さないでいい」

 

「ほう。俺の手を払うからには、それなりの勝機はあるのだろうな?」

 

「ん、それなりにな。ちょっと矢瀬先輩に頼んで用意してもらってる」

 

「では、此度は静観するとしよう」

 

 不思議なことに。

 格の違う王族だと思っていたが、その少年の言葉に同じ感想を抱いているような、そんな考えがカルアナに過ぎる。

 甘いかもしれないけれど、賭けてもいいとも思えてしまうような―――

 こほん、と咳払いをして、やりとりを終えたのを見計らって二人に割って入り、クロウに向けてつっけんどんにカルアナは言った。

 

 

「一日だけあの子の面倒を見ててあげるから、とっとと行きなさいクロウ」

 

 

動物病院

 

 

 冷たい部屋に、アスタルテは倒れていた。

 打ち出したコンクリートと思しい、床の上だ。

 藍色の長い髪が無造作に投げ出され、ほっそりとした白い手足は金属錠で拘束されている。

 もっとも、この身に宿している人工眷獣まで封じ込められてはいない。“許可”さえ解かれれば、<薔薇の指先>は通常通りに現出が可能である。手足こそ束縛されているが、眷獣共生型人工生命体の肉体に余計な手は加えられていない。

 しかし。

 別の理由で、人工生命体は動けなかった。

 微動だに出来なかった。

 

(私……は……)

 

 今にも自壊しかねないほどの膨大な思考が、人工生命体の内側で行われていたのだ。

 推理。

 計算。

 傾向。

 ああ、そうだ。

 自分の思考に、どうしようもない偏りがあるのだと、人工生命体は改めて認識してしまうのだ。

 

 ひとつずつ、アスタルテは思い返す。

 まずは、拾ってくれた教官への感謝。

 第四真祖・暁古城や姫柊雪菜、学内でよく関わり合う面々に抱いた親しみ。

 叶瀬夏音、ニーナ=アデラート、時々、ユスティナ=カタヤとのひとつ屋根の下で生活する喜び。

 それから、あの宿直室で扉の向こうから聴こえたやりとりに、暁凪沙に覚えた羨望……とほんのわずかな、感謝。

 そのどれもが、アスタルテに学習装置で入力(インストール)された知識では解せないものだった。

 そして、あの日の記憶が再生(リプレイ)される。

 

 ―――『先輩がいないと、私は寂しくなるそうです』

 

「っ……!」

 

 心臓が、跳ねた。

 思い出すだけで、人工生命体の思考が熱暴走(オーバーヒート)する。だから再生(リプレイ)は控えるべきだと思っているのに、脳内の検索事項にピン留めされている。

 

 ―――『ほう、マスターの命に忠実なホムンクルスのプログラムだからなんて言い張るのか? 可愛いものだ。だが、それはないな。ここのところのお前を見る限り、行動の中心は教官わたしではなく先輩あいつのようだ。教官の命通りに馬鹿犬のサポートを考えるなら、見るのは馬鹿犬ではなく、その周囲だ。それくらい、いちいち説明されるまでもないだろう?』

 

 去年の大晦日にて、教官が、指摘したこと。

 

 ―――『知らないようなら教えてやろう。それは、■、というものだ』

 

 ■。

 ■。■。■。■。■。■。■。■。

 禁じられた単語は、しかし人工生命体に仕込まれた思考回路によって補正され、

 

 

 ―――『それは、恋、というものだ』

 

 

 恋。

 それはありえるはずがないもの。

 人工生命体が第一に優先すべきは使命(プログラム)だ。そうあれかしと造られた。だから、こんなものはバグのはずで、一刻も早く、一秒でも早く修正しなければならない誤動作のはずだった。まるで出口で待ち構える猫に怯えて迷路から出られないでいる鼠のように、アスタルテは何度も何度もその言葉と自分の偏りを思考が往復し、検証してしまう。結論を出すことを怖がってしまう。

 ……しかしながら。

 結局、辿り着く答えが変わることはない。

 あたりまえのように……だって、それはバグでも、誤動作でもない。

 

(本当に、私は……馬鹿ですね……先輩のことを言えません)

 

 基準設定で引かれた一線より先をずっと意識しないようにして、一体なんだったのだろうか。

 倒れたまま、拘束された手で顔を覆った。

 目を開けられるようになるまでの、少しの間だけ。

 覆っていた手を降ろすと、露わになった水色の瞳は、かつてない決意に満ちていた。

 

「……動か……ないと……」

 

 ぎゅ、と拳を握る。

 この気持ちを、どう受け止めるのだとしても。

 暁古城を、この現状を打開しなければならないという、その行動は変わらない。恋だとしても使命だとしても、いいやその両方なればこそ、自分の動機はより強固なものとなるだけだ。

 ひとつ、深呼吸した。

 脆弱な内臓筋が伸縮して肺が効率よく酸素を摂取し、血管を通して脳へと送り込む。その一息を基点に、打開策の思索を開始する。自分を束縛する金属錠の素材と形状、部屋の建築材や重量構造といったデータ、自分の現状の身体能力と人工眷獣、それから『血の従者』のラインで大まかに悟る第四真祖の位置座標などと、可能な手段をすべて洗い出す。

 諦める選択肢などなかった。

 たとえ無為であっても関係ない。不可能だろうが問題ない。自分は挑戦し続けられる。延々と試行錯誤(トライアンドエラー)を繰り返そうが、思考を停止することなどありえない―――そういう人工生命体であることに、初めてアスタルテは心底から感謝した。

 

 壁に貼られたプリントに、デフォルメされた肉球のマークが印刷されている。『センガ・ペットクリニック』と記載されており、それが偽装でな(ただし)ければ、おそらくこの建物を示している。そのほかに記載されていた電話番号と住所から、ここは商業地区(アイランド・ウエスト)の裏通りにひっそりと建っているものと思われる。

 

 確かに病院であれば、見慣れない人間が出入りしようとも怪しまれることはない。危険類に分類される薬品も仕入れることができ、それなりの社会的な信用もある。

 

 位置はそれなりに知れた。次は外へ連絡できる手段を探す。

 

(……先輩)

 

 思う。

 あの少年は、自分の先輩は、無事でいるだろうか。

 無事で、いてくれてるだろうか。

 様々な予測(シュミレーション)が脳内の回路で構築され、その度に同じだけの種類の感情が人工生命体の胸に去来した。あるいは苦しく、あるいは甘酸っぱい感情でもあった。

 きゅ、と唇を噛む。

 自分が耐えられるように、この身が引き裂けて、バラバラになってしまわないように。

 一体、いつの間に、自分はこんな感情を覚えてたのだろう。

 覚えてしまったのだろう。

 そんな疑問を、脳裏に浮かべたときだった。

 

 ぎい、と扉が開いたのだ。

 一瞬飛び掛かろうとして身構え、その人影が複数であると認識した途端、アスタルテは息を止めた。

 

「へぇ、まだ反抗する意識があるなんて、驚いた」

 

「……っ」

 

 中性的な体つきの小柄な少年。アスタルテと同じ、自然界にありえない藍色の髪。男女の差異はあれど、見た目の年齢もアスタルテと同じ十代前半で、まるで鏡映しのような対面。そう、彼は、錬金術と遺伝子操作によって生み出された人工生命体であることを示している。

 

「ボクはロギ。安心していいよ、君のことはラーンが調べた、ボクたちは君を実験動物(モルモット)みたいな扱いはしない」

 

 変声期前の子供のような、澄んだボーイソプラノの声で、抑揚乏しく淡々とアスタルテに告げる。

 アスタルテの表情が顰める。

 尋問する気が向こうにあろうとなかろうと、アスタルテが尋問に答える気などない。だが、<タルタロス・ラプス>は“アスタルテの最もしたくないことをやらせた”。

 

「ディセンバーも、第四真祖も連れていない。君の自由意思を無視して、無理矢理に口を開かせる術を俺たちは持ち合わせちゃいない、と一応これでも誠意を見せたつもりなんだがね」

 

 人工生命体の少年の背後には、中年男性。

 よれた灰色のジャケットを着て、神経質な芸術家のように長く伸ばした髪。

 そして、男は興味深く目を細めている。“教え子の預かるもうひとりの(準)魔族”を測るような意図を感じ取ることができた。

 

「かつて、ロタリンギアの祓魔師とともに破竹の勢いでキーストーンゲートの最下層まで快進撃を続け、あと一歩で偉業(レコード)を残せたであろう君は、我々が敬意を受けるに値する」

 

 千賀は少しだけ笑みを含みながら、超然と賛辞を送ってきた。

 

「四基の人工島(ギガフロート)を連結するための要石が置かれたキーストーンゲートの最下層は、この『魔族特区』のいわば急所。当然その区画は厳重に封印されている、卓越した空間制御能力を持つ那月でも無断侵入が不可能なくらいにね。その強固な防壁と、何重にも張り巡らされた結界を解呪できるのは、絃神島の設計者である絃神千羅と、絃神千羅から封印術式の発注を受けた当時欧州の大学に勤めていた風水術の権威―――そして、そのデータを持った教授の弟子である私だけだと、思っていた。あの完璧な防衛を突破できるものなど、この片手にも満たないはずだった。だから、君の報を聴いて私は驚いたよ」

 

 思わず目を見開いて、反応を返せずに固まっていると、部屋の出入り口から、また新たに、ひょっこりと顔だけをのぞかせるだぶだぶの分厚いコートを着た少女が視界に入る。可愛らしい顔立ちをしているのに、無表情で目つきが悪い。

 そんな彼女がカップ入りのアイスクリームをトレイに乗せて、アスタルテの前にまで運んできた。まるで、栄光授与のトロフィーでも渡すかのように。

 

「すごい」

 

「………」

 

 マフラーの少女からも称賛を受けるも、アスタルテは閉口したまま。無論、蓋にマジックで黒々と『ディセンバーの!』と書かれたアイスをいただくことはない。

 打てど響いてこないアスタルテの様子を訝しんでか、マフラーの少女は少しだけ表情を曇らせて、すぐ、注意書きを気にしてると思ったのか。

 

「大丈夫。誰も気にしてないから」

 

「………」

 

 ただそれでも反応は返らない。“歓迎しているのに”、この無反応さにマフラーの少女は困ったように首を捻り、この中で大人の千賀を見やる。

 

「きっといきなりのことで驚いているのだろう、ラーン。でも、見ての通り、<タルタロス・ラプス>は、君と同じ子供が構成員の半分を占めている」

 

 千賀は、まるで転校初日の転校生をクラスに迎え入れる先生のような、柔らかな口調でアスタルテへ語る。

 

「だけど、俺はこの子たちに、『魔族特区』の破壊をやらせたことを一度たりともない。彼らは自ら望んで<タルタロス・ラプス>に入ってくれた」

 

 何も知らない子供たちに、テロリストとしての技能を植え付けたが、それは、この国の政府に拾われた少女たちが獅子王機関で戦闘訓練を施され攻魔師となるのと同じこと。二つの境遇に光と影の差こそあれ、鏡に映したようによく似ている。

 そして―――

 

「もう気づいているかもしれないが、このロギは、君と同じ、『魔族特区』の違法な実験で兵器として改造された人工生命体だ」

 

 眷獣共生人工生命体(アスタルテ)と似たり寄ったりの境遇だ。

 

「………」

 

 それでも。

 アスタルテの口が天岩戸の如く開くことはないが、千賀は構わず演説を続ける。

 

「だが、<タルタロス・ラプス>が絃神島を壊そうとしているのは、単に『魔族特区』に対する怨恨だけではない。確かに彼らは『魔族特区』に虐げられてきた存在だが、俺たちはすべての『魔族特区』を破壊するつもりはない。

 絃神島が破壊目標として選ばれたのには、特別な理由がある」

 

「………」

 

「絃神島の設計者――絃神千羅は、『咎神(カイン)』の復活を望み、その目的のためならば、どんな非道な手段でも実行する。アスタルテ、かつてこの人工島が何を土台にしていたものなのか、その供犠建材を奪還しようとした君ならば当然知ってるだろう」

 

 ロタリンギアの『聖人』の遺体。

 絃神島の設計時、不足した要石の強度を確保するために、絃神千羅は禁忌とされた供犠建材を解決策として選び、そのために、ロタリンギアの大聖堂より『聖人』の遺骸を簒奪した。

 ―――それを解放するためにアスタルテと彼女を使役した西欧教会の殲教師ルードルフ=オイスタッハは、要石のあるキーストーンゲートの最下層へと踏み込んだ。

 

「けして許されざる所業だ。西欧教会の殲教師の怒りは、正しい、単なる人工島の壊滅を望んだテロリストと批難されるものではなく、正義のある、『聖戦』と呼ぶに相応しい行いだった。惜しむのは、彼が単身でそれを行おうとし、そして、真実を知らなかったことだ。

 安置された『聖人』の遺体を土台としたような男が、目的もなく人工の『魔族特区』などというものを設計したと思うか?」

 

 いや、それはない、と千賀は断じる。

 

「証拠もなしに、俺たちの言葉を信じろというのは無理な要求だ。だけど、この絃神島が引き起こす惨劇の犠牲者は、<タルタロス・ラプス>がこれまでに殺した人間の数とは桁が違う。そうだ。絃神千羅はこの『魔族特区』を、『咎神(カイン)』を復活させるための祭壇として築いた。

 そして、絃神千羅が死去した後も、彼の思想を受けついた者たちが、絃神島の中枢に今も残っている。本物の魔導の探究者たちが、何十年もの歳月をかけて準備を整えてきた、『咎神』復活は何としてでも阻まねばならないのだ」

 

 だから、<タルタロス・ラプス>は、自らの手で実行する。

 自分たちがこれまでに滅ぼしてきた『魔族特区』の事実を公表されなくても、『魔族特区』を破壊したという実績は、自分たちの主張を裏付けてくれるものとなるために。

 

 これは、大義のある行為なのだ。

 そう、かつて、ロタリンギアの殲教師と同じように。

 

 

 

「………」

 

 

 

 それでも、かつて、そのロタリンギアの殲教師に連れられた人工生命体の少女は言葉を発することもなければ、賛同に頷くこともない。

 この先生の演説を聴いてるのに胸に響いたような反応もなく、無礼な対応を続けるアスタルテに、千賀ではなく、同じ人工生命体のロギが痺れを切らした。

 

「ふん……まさか、まだ『魔族特区』の連中に肩入れしてるのかい? あんなお前を置いて、尻尾を巻いて逃げたようなヤツらなんかを……」

 

「よせ、ロギ。世界最強というのは伊達ではない。あの状況では<黒妖犬>も逃亡を選択するのも無理はなかろうさ。<第四真祖>の眷獣に巻き込まれて生き延びるのは奇跡のようなものだから」

 

 千賀がロギを制止した。

 子供たちが対抗心を剥き出しにしているのはわかるが、それは今、吐き出すものではない。

 だがそんなお子様じみた行いが、口も利きたくないと閉ざした唇を震わせた。

 

「否定。撤回を求めます」

 

 同じ顔作りをしたロギを睨み据えながら、きっぱりと言葉を突き付けた。

 

「先輩は教官より、誠に残念なことに美意識を継いでいませんが、その現場における判断は、間違えたことがありません」

 

 アスタルテは淡々と言う。

 

「先輩は、あのとき、誰よりも状況を把握していたでしょう。ならば、行く先は訊かずともわかります。その結果も予想がつきます」

 

 彼らは聖人君子の正論を並べているつもりなのだろうが、アスタルテには開き直りにしか聞こえない。

 

「何を言って……?」

 

「あなた方の主義主張は理解しました。ですが、同意できません」

 

「なんでだよ!? お前だってボクと同じ、兵器として造られた実験体だろ!? なのに、どうして<タルタロス・ラプス>を受け入れないんだ……!?」

 

「肯定。私とあなたは同じです」

 

 その部分だけ、アスタルテはロギの主張を認める。抑揚の乏しい彼女の声に、かすかな哀しみの声が入り混じる。そして、それ以上に滲むものがある。

 

「私も、かつてこの島を破壊しようとしました」

 

「だったら―――」

 

「彼らが、先輩が、あのとき私を止めてくれたから、私は失われていたはずの大切な人々と出会えた」

 

 無感情なはずの瞳に、強い意思の光が宿っている。それは<タルタロス・ラプス>に対する怒りや哀れみの感情ではなかった。同類らにも揺らがしえない、断固とした想いだ。

 

「そして、先程、あなたが批難した先輩――<黒妖犬>は、私たち同類(じっけんたい)の中で最も過酷な人生を歩んでいます」

 

 このロギという人工生命体が、アスタルテと同類の実験動物であることは理解した。しかし、そのアスタルテとロギがかつて陥ったその地獄のド真ん中を今も昔も歩き続けている先輩は、迷いながらも、その流儀は確固たるものだ。如何なる理由があろうとも命を粗末に扱うものに容赦しない。

 

「あなたがどのような人生を経験してきたのかは知り得ませんが、それでも、彼の在り方と比較すれば、安い」

 

 悲劇の使い道は様々だ。胸に抱え込んでいるものもいれば、語り聞かせるものもいる。人生の指針とするものもいることだろう。

 だが、それを抱えたところで無関係な人間を巻き込んでいい理由とはならない。御大層な大義名分があれば民間人を死なせても構わないと思考が行き着いた時点で、掲げた言い分は底値をついた。

 

「っ、ふざけるな! あんな負け犬にボクたちが劣るなんて……!」

 

「では、確認します」

 

 昂る感情がそのまま熱量に変じたかのように室内に陽炎が現れるが、臆することなく。アスタルテは視線を逸らさず、真っ直ぐに問い掛けた。

 

 

「『食糧備蓄倉庫(グレートパイル)』の<第四真祖>の眷獣による破滅行為に、“死傷者は出ましたか?”」

 

 

 ロギの頭が沸騰しかけたが、ラーンはあっと声を上げた。

 ふるふる、と首を振る仲間の少女を見て、ロギは否が応でも悟る。

 

 <第四真祖>の暴威で倉庫街はメチャクチャになっていた。住民の食料を焼き尽くすにとどまらず、一帯を焦土と化したぐらいだ。

 だが、そこに足りないものがある。

 悲劇だ。

 予め倉庫街で働く民間人を批難させていたとはいえ、倉庫街にはテロリスト集団捕縛の為に特区警備隊の面々が詰めていたはずだ。だが、今朝のニュースで死傷者は確認されていない。先ほど千賀が生き延びるのが奇蹟と称するような大災厄に、確実に巻き込まれたであろうに、怪我人はひとりもいなかった。殲滅の雷光に呑まれる直前に、警備隊員を後光が包んだ。それはかつて錬金術師の襲撃を受けた船において聖護結界を張り巡らせた時のように。瞬時に生体を感知できる嗅覚とその土地一帯を覆えるほどの気量を誇るものだから可能だった“力業”だ。おそらく警備隊員だけでなく、調べれば見えざる手に救われた者はまだいるはずだ。

 

「結局、先輩が介入した現場で、あなた方は誰ひとりとして殺せてはいません」

 

 告げられた推測ではない事実に、ロギの喉が干上がった。

 

「先輩の強さは、あなたと同類だった私さえも奈落の底からすくい上げた、あの力強い腕にこそあります」

 

 圧倒的な世界最強の暴力で蹂躙される間際であっても、僅かでも気を逸らせばそれが致命的な隙となる戦場であっても、

 標的の捕縛よりも、要救助者の救助を優先する教官(マスター)の薫陶を受けている<黒妖犬>はそこの判断を間違えない。

 そして、それを自覚することがない。その程度は当然の所業だとばかりに、自賛と主張することもしなければ、自分で意識したことはないのだ。あのしょっちゅう先輩面で自慢げに振る舞おうとして失敗している彼にとって、世界最強の災厄を凌いでも、まだ大したことではない。ならばあの先輩が思い描く最善とは、はたしてどこまでのレベルが要求されているのか。

 

「先輩が求めているのは、世界最強の暴力などではありません。あなた方が数多の『魔族特区』を潰してきたのだとしても、世界最強の暴力をも包み込める、当たり前の最後の一線で踏み止まれる理性の力の方が、私の目には気高く映ります」

 

 アスタルテの先輩は、その判断を変えることはなかった。だから、自信を持って言える。<タルタロス・ラプス>の美辞麗句で並び立てた誘いを一顧だにしない。

 

「ッッッ!! それでも、ディセンバーだったなら、あのとき、お前を救っていたッ!!」

 

「ならば、あなたは何を救えるのですか?」

 

「―――」

 

「それが語れないのであれば、先輩に対する言動の撤回を求めます」

 

 支離滅裂となり始めた人工生命体の少年の主張を止めてしまう。その問いかけは、喉元に刃を添えるような圧迫感に言葉を窮す。

 

「ボクは―――」

「―――<タルタロス・ラプス>は、世界を救う」

 

 人工生命体同士の会話を打ち切らせて、割って入った千賀は、熱くなっているロギを下がらせた。

 

「いや、しかし驚いた。ロギもそうだが、実に多弁、自身の主張は持たないはずの人工生命体らしくない主張をするものだ。……那月は一体君に何を教えたんだ?」

 

「先輩と同じことを」

 

 それから、この胸の裡の感情の名を。

 

「もったいない……まったく、もったいないな」

 

 俯く顔を手で覆いながら、口からはっきりと落胆を滲ませた声音を零す。

 一応訊くが、と前置きを入れると、千賀は姿勢を正してアスタルテを見据えた。

 

「返事を訊こうか。かつて果たせなかった偉業を俺たちとする気はあるか? できれば、進んで協力してほしいと願っている」

 

「否定。私はかつての行為を繰り返すつもりもなければ、あなた方と行動を共にする気はありません」

 

 その回答に千賀は顔を顰める。同類の少年少女も拒絶の意思に無表情を崩す。

 

「なんでだよ……おまえも、ボクと同じじゃないのかよ……」

 

 項垂れるロギらの姿を、アスタルテは無言のまま見つめる。

 

 

「ひっひ、フラれたのうロギ」

 

 

 扉の向こうから複数の足音と共に聴こえてきたのは、その様を茶化す(ひず)んだ声音。

 

「この娘子はヌシに靡かんが、そう落ち込むでない、いずれヌシにもつがいは見つかろう。だから、あまりそう癇癪を見せるのは雄として格好悪いぞ?」

 

「ふざけるなッ、ハヌマン! ボクたちは真面目な話をしてたんだぞ!」

 

「ひっひ、儂は姫よりも<タルタロス・ラプス>の古株(OG)なんじゃが、呼び捨てとは悲しいのう」

 

「そんなのあんたが遊んでばかりだからだろう! もっと最初から真面目にやってれば……」

 

「<白石猿>は不滅であるからに儂は生涯現役よ。……じゃがのう、とうの昔に次代へ席を渡した。儂から見ればヌシらはひよっこじゃが、今の<タルタロス・ラプス>を仕切ってるのなら、流石にオムツの面倒まで見てやれねばならない赤子ではなかろうに。尻を拭くくらいヌシらでやれい」

 

 不真面目にも耳の穴を指で掘りながらであるが、二の句の告げなくなる物言いにロギは震える拳をより強く握りしめるしかできない。

 それをまあまあ、と宥めるのは、異国人の少女、ディセンバー。

 

「失恋して悲しいのはわかるけど、ロギ、私は大好きよ。なんなら、胸に飛び込んできていいわ、慰めてあげる」

 

「うるさい! ディセンバーまでふざけるなよ」

 

 そのやり取りはまるでお節介な姉に反抗する、大人ぶる弟のようで。しかし、すぐディセンバーは表情を沈んだものに変える。

 

「ディセンバー、カーリは?」

 

「ごめんなさい、ラーン。私たちも捜したのだけど、見つからなかったわ」

 

 置物のように静かだったラーンが訊ねれば、ディセンバーは沈痛な面持ちで残念な結果を伝えた。

 

「本当にごめんなさい。あのとき、カーリがやられていたことを知らなかった。きっと後衛(バックアップ)だから無事だって、そう思い込んでた……“私達”の力がそう簡単に制御できるものではないとわかってたのに……」

 

「っ、ディセンバーのせいじゃない!」

 

 落ち込む姿に反射的に否定の言葉が返るが、ゆるゆるとディセンバーは首を振る。

 

「儂もちょいっと手合せに昂じて気づかなんだ。悪かった。すまん。まあ、死体は見当たらんし、どこかへ逃げ込んでるじゃろ、多分な」

 

「あんたは黙ってろ!」

 

「ひっひ、姫と儂とでこうも態度が違うとはのう。これは、儂も老いぼれのままではなくか弱い女子(おなご)に化けた方が良かったか」

 

「ハヌマン、これ以上ロギをからかうのはやめてくれ」

 

 千賀が場を治めるが、アスタルテはその喧騒は聞こえていなかった。

 部屋に入ってきたハヌマン、ディセンバー、そして、三人目。未だに茫洋とした瞳の少年、<第四真祖>暁古城。

 彼を診ていたものとして、今の状態が気になり、それを見取ったディセンバーがアスタルテへ安心させるように言う。

 

「古城は、問題ないわ。毒で死んだりはしないもの」

 

「貴女の証言に信頼性が確認できません」

 

「そうよね。まあ、私としても彼を死なせてしまうのは本意じゃないし、<第四真祖>には毒を克服できる眷獣()がいるのよ。完全に目覚めてないけど、宿主は必ず守ろうとするはずだし、私たちが何もしなくてもいずれ克服できるでしょう。だから、大丈夫。むしろ、“オクトバー”がまだ眠っているから毒の効能が抜け切れずに操れてるんだけどね」

 

 妙に確信を持って語るディセンバー。

 <第四真祖>の眷獣にやけに詳しいみたいだが、いったい……その話題に深く切り込む前に打ち切るよう、千賀が話を戻す。

 

「では、今後の計画は、カーリをいないものとして行う」

 

 教え子がひとり行方不明であるが、千賀の目は落ち着いていた。それは先ほどまでの凪のような穏やかさというより、冷え冷えとした氷の世界を思わせた。

 この先生の決定に、教え子らは唇を噛みながらも異を唱えることはない。

 

「ディセンバー、ラーン、君たちは『七星壇』で<タルタロスの黒薔薇>の起動を」

 

「ええ、わかったわ」

 

 ディセンバーは応じ、同じくラーンも無言で首肯する。

 

「ロギ、お前はカーリと共に藍羽浅葱の暗殺を任せるつもりだったが……無理なら妨害でいい」

 

「問題ないよ。ハッキングが使えなければ、ただの一般人なんだろ。だったら、ボク一人で十分だ」

 

 人工生命体らしく表情を動かさず応答するロギに、千賀は短く『油断はするなよ』と告げる。

 

「して毅人よ、残る儂らは、本丸へ切り込むのか?」

 

「ああ、そうだ。キーストーンゲートには、穴熊を決め込んでいる上級理事どももいる。存分に暴れてくれ」

 

「了解した。おお、祭が楽しみじゃ」

 

 そして。

 最後に、冷徹な眼差しをこちらに向けた。

 

「赦せ、とは言わんよ。だが、こちらも余裕はないんでね。使えるものは使わせてもらう」

 

 ……意識は、残された。

 残されてはいたが、それはひどくか細い糸のようなものだった。

 その糸を引っ張っている間、かろうじて意識を保てるのだが、強く引っ張り過ぎればたちまち糸は断裂してしまう―――そういうジレンマに苛まれると同時に、抗いがたい支配が少女の感覚を押し潰していた。

 

「アスタルテ、命令だ―――」

 

 少人数で『魔族特区』に破滅をもたらさんとする<タルタロス・ラプス>にとって、捕虜の見張りに割く余裕はなく、一名の欠員でも大きく響いてくる。

 だから、新たに補充する。

 あの誘いが、きっと最後通牒であった。けれど、それはあくまでも彼らの自己満足のために。端からこちらに選択の自由はないのだから。

 

「我々と共に、キーストーンゲートに襲撃を仕掛ける。かつて果たせなかった偉業を再演せよ」

 

 ディセンバーが寄り添う暁古城の虚ろな眼差しを向けられる。それだけで、指一本も動かせない。『血の従者』としての支配意識か、それとも人工生命体に刻まれた隷属本能なのか。

 それでも、唇が動く。

 

「……デ」

 

命令拒否(ディナイ)……私は……)

 

 必死に、外界へ訴えかけようとする。何かひとつでも、抵抗を世界に刻みつけようとする。

 

「……ぅ……」

 

 それでも、呻きさえ、言葉にならない。様々な感情がない交ぜになって、体内でとぐろを巻いているのに出てこない。

 そして、この強制を阻むものはいない。大人たちは眷獣共生型人工生命体の有用性から利用したいのだろうし、子供たちも『事が終われば、きっと目が覚めて、仲間になる』と盲目的に自身らの価値観を信じている。

 

「―――」

 

 ああ、もういっそのこと。検証できる記憶にある、アスタルテの同型機であるスワニルダが『人形師(マイスター)』への執着で思考回路が狂ったように、自身も……

 

 

キーストーンゲート

 

 

 絃神島で最も天に近いとされる摩天楼。

 『魔族特区』の中心地であるその最下層には、人工島四基を連結させる要石が安置される。

 キーストーンゲート。その最上階の屋上。

 普通であれば立ち入り禁止とされる場所で、かつてこの絃神島の最高地点にて島全土を調べ尽くす魔導書の儀式が行われた。

 奇しくも、その中核を担ったふたりがそこにいた。

 

「クロウ君、<タルタロス・ラプス>の場所は掴めているのかい」

 

 強風に煽られる髪を直しながら声をかける少女に、望遠鏡もなくそれ以上の超人的な視野で注意深く観察する少年は、獲物の臭いを嗅ぎ取った肉食獣のようにひくっと鼻を動かして、

 

「ん、だいたいだな、優麻。さっきディディエに教えたから、今頃、特区警備隊が向かってる。それに――にも連絡したぞ。ホウレンソウは大事なのだ」

 

 <蒼の魔女>仙都木優麻と<黒妖犬>南宮クロウ。

 二人はキーストーンゲートの屋上で揃って、眼下にある街並みを見ていた。

 

「……いいのかい?」

 

「何がだ?」

 

「本当は助けに行きたいんだろう?」

 

「それを言うなら優麻も古城君が心配だろ?」

 

 上級理事らからお達しがあった。

 猟犬ではなく、番犬をやれ、と。

 上級理事らのまとめ役でもあった名誉理事・矢瀬顕重の殺害に、昨夜の一区画が消滅したという騒ぎに、より危機感を煽られ、簡単に蹴散らされたという特区警備隊だけで守りを固めたのでは不安になったのだろう。上層部は<タルタロス・ラプス>の撃滅よりも『魔族特区』にとって重要なモノ――即ち中枢であるキーストーンゲートと管理運営する上級理事たち自身――を護衛するように厳命したのだ。

 そのため、絃神島の重要なキーパーソンを連行しにいった矢瀬基樹を除いて、テロ対策チームは、このキーストーンゲートより離れることは許されていない。

 

「はっきりいって、この後手後手の対応は悪手だよ。<タルタロス・ラプス>は、この絃神島を滅ぼす気だ。どこへ隠れようとも逃れることはできない。だったら、相手の策を出させる前に先手を打つしかないのに……」

 

 嫌みのない人付き合いの上手い彼女が、こうも批判するのは珍しい。

 大事な幼馴染が敵の手中にあるというのに自由に動けないことに、優麻は苛立たしげにその端整な顔立ちに皺を作る。

 

「でも、その無理を聞いてるんだから、ちょっと俺の“わがまま”を通させてもらうぞ」

 

 とひとつ息を吐くと、頃合いと直感した厚着の少年は、主人より『鍵』の代行を任された際に引き継いだ『黄金の籠手』を左腕に現出させる。

 

「空間制御の結界は張った。ここでの魔力反応は外に漏れないよ」

 

『こちらもハッキング完了。しばし屋上を監視する衛星カメラには、同じ映像を繰り返して(リプレイで)流すように細工したでござるよ』

 

 そして、ここにはいない『覗き屋』矢瀬基樹にも、その名誉理事に連ねる権限でもって、しばらく警備の都合上と言い聞かせて、人員を屋上へ近づけさせないよう人払いをしてもらった。

 こうして、この一時、キーストーンゲートの屋上は、魔術と科学の両面、それから人の“目”から離された区域となる。

 

「―――<(ル・ブルー)>」

 

 優麻の背後より無謬の騎士が現れる。

 これからやる行為は、<黒妖犬>には不足した魔女の技量、すなわち<空隙の魔女>の代行だ。若い魔女には分不相応だが、“契約上”、悪魔は出資を惜しまないだろう。

 そして、<監獄結界>の管理者代行がその証である黄金の籠手を掲げ、

 

「起きろ―――」

 

 長い呪句は唱えず、短く告げる。

 その意に応えて、屋上に優麻が描いた魔法陣より、その人影が浮かび上がる。

 

 これから行うのは、大晦日に<第四真祖>とその監視役の剣巫を試した大技、<魔女の騎行(ワイルドハント)>。

 その固有結界の限定発動だ。

 『鍵』の権限を持つが、魔女ではない<黒妖犬>には呼び出せず、そして、<蒼の魔女>は<空隙の魔女>の技量には遠く及ばない。

 だが、個人。たったひとり、それも、契約した悪魔が全力で補助してくれるのであれば、一時、“面会”することが可能―――

 

 だが、それは<空隙の魔女>をして、決して出したがらない魔導犯罪者。

 

 クロウ達の目の前に、浮かび上がった立体映像のような人影が徐々に色付いていく。

 

「……ぁ」

 

 思わず、優麻の喉から声が漏れた。

 遺伝上は母である彼女は、優麻と双子の姉妹と間違えるほど見た目の年齢差はないように見える。

 違いといえば、髪の長さと、火眼金睛の人間離れした目の色。身に纏っているものは平安京に住まう女貴族のような十二単だが、それは華やかな重ね着ではなく、白と黒の二色だけで染められた死神を想起させる装い。

 顔立ちは若く美しくも歳を経た邪悪な、そして、<空隙の魔女>と同格の大魔女のはずであった。

 

「………母さん」

 

 幾多の感情を押し殺して、優麻はやっと口にした。

 

 

 

「………」

 

 それに視線すら反応を返すことはない。己が自由を得るために培養された複製体の娘(クローン)に一瞥も見向きすることなく、魔女の幻影は黙り込んでいた。

 眠りより覚めた直後からか、何度か瞬きして、周囲を見やる。数ヵ月ぶりに現世を視認する時差を埋めるための空白であるかもしれない。

 しばらく時間が過ぎた。ひとつ息を吸うごとに強固となるようなその沈黙を破ったのは、彼女の方だった。

 優麻ではなく、『鍵』の証である金籠手を左腕に付けたクロウと見つめ合い、仙都木阿夜は静かに告げてきた。

 

「よもや、この(ワタシ)を起こすとはな……思いもよらなかったぞ、那月の犬」

 

「急に呼び出して悪かったな。お前に訊きたいことがある」

 

 視線を交差させて、クロウは言った。

 

「答えてやる義理はないな」

 

「そうか。じゃ、情報交換の契約をするか。お互いに質問して答える。ウソとか言ってもいいけど、きちんと両者の対価がある程度釣り合うようにやる。話の価値はそれぞれの自己評価でな」

 

「……ほう、魔女に……契約を持ち掛けるか」

 

「オレは馬鹿だけど、魔女が契約を破らないくらいちゃんと知っている」

 

「ふん」 阿夜は小馬鹿にしたように鼻で笑った。「そのような古い作法を守るのは、純血の魔女……だけだ。生まれながらにして、悪魔に魂を奪われた純血の魔女は、どんなに些細であれ契約を破るのを忌避する。……犬には思いつかぬ狡い手だな。誰に入れ知恵されたものか」

 

 唾を呑む優麻。

 こちらの考えた交渉術も、所詮は子供騙しと。

 

 なればこそ、そう易々と果たせるつもりはない。

 阿夜の幻影が腕を軽く振るった。魔力のある無数の文字の羅列が宙を踊り、魔導書の一節を描き出した。

 仙都木阿夜――<書記(ノタリア)の魔女>の能力は、記憶の中にある魔導書の再現だ。

<図書館>の『総記(ジェネラル)』である大魔女の頭脳は万を超える蔵書を修めた書架の迷宮も同然。その悪魔の叡智を自在に複製(コピー)して、力ある魔導書を手元に投影現出してしまえる。

 

「しかし、“すでに全てを知る”我に値する情報があるのか?」

 

「っ、あれは『No,539』―――!」

 

 手には『遠見』の魔導書。

 幻影ながらも複写された『遠見』の魔導書の頁を捲るだけで、異世界に閉じ込められていようと現世の出来事を知ることができる。

 

「既知の出来事を語られても、無駄……そのような戯言は雑音と変わらぬ。耳にせぬ方がよっぽど良い」

 

 現世とは隔絶された異世界にいて十年間も、虎視眈々と<空隙の魔女>の背中を狙っていた悪辣の大魔女。それが情報戦で後れを取ることなど許せるか。<書記の魔女>が恐ろしいのは、戦闘だけに非ず、その一大組織を長としてまとめた政治の手腕の駆け引きはけして侮れるものではないのだ。

 痛恨の失態に、唇を噛む優麻。

 まずい、これじゃあ向こうにペースを持っていかれてしまう。

 『母の脱獄』という契約上、この“面会”に優麻は協力できるが、逆にそれは『母の脱獄』を邪魔することはできないので、この交渉にまで口出しはできない。

 

「ふん。那月め、侮ったな。あの程度の浅い策に嵌るとは……身内にはどうしても甘くなるのが、奴の欠点だ……しかし、千賀毅人は気に喰わん……まあ、こ奴が、この世界の歪みの象徴である人工の島を潰すというのなら、それを見物するのも一興、だがな……」

 

 つぅ、と流し目を送る。

 仙都木阿夜のみは深い。影色の魔力に輪郭を縁取られたその笑みは、妖艶とも、凄惨とも見えた。黒々とした髪、妖しく煌めく双眸は火眼金睛、捲れた唇から覗く米粒のような歯。

 

「我が一石を投じれば、那月を助けることもできる。仙界の魔導書で閉じ込められようと、我の智慧を授ければそれを打開するのも容易かろう……が。それには、<監獄結界>の『鍵』―――新しい解除(デコード)プログラムが対価に見合うか」

 

「いや、いい」

 

 ………

 ………

 ………

 

(………え?)

 

 しばらく固まった空気が解かれて、思わず優麻は少年を見やる。

 この時ばかりは、この同時に狼狽えた、同遺伝子の親子の反応はまったく同じだった。

 

「……状況がわかっていないのか……我の力でなければ、那月は助けられない」

 

「だから、いらない。オレは単に話がしたいだけだ。ボソボソとなんか小難しい単語を並べてたけど、力を貸してくれなんて一言も言ってないぞ」

 

「な……に」

 

 まるで、学校の推薦でも断るような、ひどく気軽な口調であっけからんという少年に、これは初めて動揺の色が魔女の面相に滲む。

 

「勘違いをするな。オレが訊きたいのは、そんなお説教じゃない。お前の知恵袋は別に必要としてない」

 

「………」

 

 ああ、これはきつい。

 なんかもうお気の毒だ。

 優麻は、視線を外してしまう。

 実はあまり口上手とは言えないのに、久しぶりの喋りに興が乗り口先で場を支配してみせた策士が上から目線で対等な交渉は望めない、一方的に値を釣り上げる、願いを叶えたければ悪魔に魂を売れと語ったところで、あっさりと一秒も懊悩せず、それも話しが合わないと指摘されて却下される。

 これをやられると立つ瀬がない。聴いてるだけで居た堪れない気になってくる。

 空気の読まない発言に固まった思考は隙だらけ―――そこに差し込まれる少年の問い掛けとは?

 

 

「お前の知るご主人を教えてくれ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ―――仙都木阿夜と話がしたい、と。

 

 最初にそう彼にお願いされた時は皆、協力してもらうのか、打開策を授けてもらうのかと思った。

 南宮那月もいない状況でそれがいかに危険なものかとは解ってはいたが、ここまで第一線で身体を張り続けている<黒妖犬>のために、できる限りの協力は惜しまないつもりだった。

 だから、それは彼らの予想を裏切るような展開で、同時に彼らしいものだった。

 

「それは……どういう……?」

 

「オレが知ってるのは、今だけだ。あまり過去は話してもらったことがない。たまに聴かせてもらうことがあるけど、それはいつも哀しい“匂い”がする」

 

 瞼を伏せぎみにして、囁く。

 

「だから、知りたかった。昔のご主人を一番知っていそうなのは、ご主人の友達のお前だから」

 

 つまり、<図書館>の『総記』としてではなく、南宮那月の親友であった仙都木阿夜の話が聞きたい、と。

 

「っ、犬風情が、那月を理解したい、だと……」

 

 空気が、張り詰めた。

 喚び出されたとはいえ、実体のない幻影。だがその静かな怒気は、この場を凍てつかせていた。

 そのように、非魔女が土足で踏み込もうとするような真似は、大魔女の琴線に触れたのか。

 その威圧に口を閉ざさず、クロウは言葉を紡ぎ続ける。

 

「純血の魔女が迫害されてきたというけどな―――オレはご主人に救われた」

 

 それは大魔女の虚無の眼差しにも凍てつかせない、仄かなあたたかみのあるもの。

 

「この島に来てからも何度もご主人には助けられた。オレがご主人を救えるかなんてわからないけど、ご主人はオレを救ってくれたんだ」

 

 それは、少年の始まり。

 

「だから、ご主人の力となれること自体は、すごく誇らしかった」

 

 呟きが、凍てつく空気に紛れる。それは徐々に温度を空気に伝わせて。

 瞼を固く閉じて、自分の内側を、クロウは掘り出していく。

 

「だから、そういう自分になりたかった」

 

 ふわりと唇をほころばせた。

 

「うん、最初は無理やり契約されて、横暴だと思ったけどな」

 

 かつては俯いていた少年は、胸を張り、揺るがぬ声で、

 

 

「―――南宮那月こそ、オレの主だ。ご主人の使い魔(サーヴァント)として仕え、尽くす。“お月様”のように導いてくれたから今のオレがあるんだから」

 

 

 真祖だろうと、咎神だろうと、仰ぐ主人は彼女以外には考えられない。

 

「これは、何があっても変わらない。だから、別に昔話とか聞かされないでいいと思ったけど、なんか、こうもやもやさせられる。それじゃあダメだ。だから、知っておきたかった。ただそれだけだ」

 

 ……そして。

 阿夜の瞳がじっとクロウを見据える。虹彩の色が、僅かに変わって見えた。阿夜は落ち着き払った声で独り言のように呟いた。

 

「そうか……」

 

 と、大魔女が何かを思い出すように首を捻った。

 和服の袖から覗いた指先で顎に触れて、遠い過去の思い出を語るかのように、口にする。

 

「……那月は、“太陽”を求めていた……あ奴を、眠りから覚ましてくれる、な」

 

 その言葉を、すんなりと受け入れてしまった。転がる石がすとんと落ち着く場所(あな)に入ったかのような、理由のない感情。偽りのないもの。

 そこへ上乗せするように、純血の魔女は続けた。

 

「春眠暁を覚えず……那月の使い魔であるなら、これ以上、惰眠をむさぼらせるな」

 

 それ以上、南宮那月の過去は語られない。

 そして、それ以上、必要はない。

 

「うん、ありがとう。それだけで十分だ」

 

 にっこりと、クロウは笑ったのだ。

 この頭上を照らす輝きにも負けない、まるで久方ぶりに曇りが晴れた時の太陽みたいな笑顔だった。

 今の文句は、クロウの胸を強く打った。

 打たないはずがなかった。

 

 かつて、忌み子と蔑んだのが仙都木阿夜であった。

 だが、誰もこれを変節とは呼ぶまい。

 この大魔女がどれだけ南宮那月に執着し、認めていたか。この世界でたったひとり、友と呼び合えるのが彼女であった。永い眠りについていようが想いは風化することのない、大魔女が告げた言葉の重みは、まさしく千金にも勝ろう。

 

 そんなすっきりした感じで、

 

「じゃあ、何が知りたい?」

 

「……いや、いい。……那月にあのときの賭けはこれでチャラだと言っておけ」

 

「む、なんか借りを作るみたいだから、お前もなんか言うのだ。魔女の契約なんだから言わないとダメだぞ」

 

「ちっ……」

 

 鬱陶しそうに舌打ちする大魔女。

 これ以上、このペースを狂わせる子供の相手をしたくないのだろう。だが、こうもまっすぐに見つめてくる相手はどうにもしつこい。“面会”を行使しているのがこの少年である以上、退去には彼の許可が必要であり、しかし何か要望を出すまでそれを許しそうにないという。最悪、こんなところで『南宮那月への主張大会』となりかねない。

 そんなのは、ごめんだ。

 深く――人間味のある――息を零すと、クロウの法被、そのポケットにある紙片を見つける。阿夜はそれを指差して、

 

「それを……寄こせ」

 

「ん? これか?」

 

「那月を封じた……仙界の魔導書とやらに……興味がある」

 

「でも、これ贋物だぞ?」

 

「構わん……どうせ、魔力のない、写本だろうが……“情報”はある。……偽ろうが、内容は透けて見えるものだ」

 

 あの時掴まされた魔導書の紙片。主人の姿が描かれているものもあるため捨てるに捨てきれないそれをクロウは、阿夜へ渡す。

 それをしばらく眺めていた大魔女は、ふん、と鼻を鳴らした。

 <書記の魔女>。

 魔導書に関して世界で右に出るものが存在しないであろう大魔女は、この短時間で、しかも写本から原典の内容を予想解読してみせたというのか。

 

「なんだ……<図書館>にも寄贈されていない、と……語っていたが……大したことはない……こんなもの、『No,121』で容易く破れる」

 

「?」

「―――っ!」

 

 きょとんとするクロウ―――とは対照的に、優麻は大きく目を見開いた。

 一方で、それでも、阿夜は彼女には一瞥すらしない。

 

「では……話は、これで終わりだ」

 

「ん、わかった」

 

 “面会”が終わり、その幻影が消え去る―――寸前に、前に出た。

 そして、前に回り込むと優麻は、阿夜へ挑むかのように、

 

「ボクはっ! まだ<監獄結界>からの脱獄を諦めていない! あなたが築いた<図書館>を解体すれば、魔女の力を失ったあなたを釈放することができる!」

 

 そのまっすぐな優麻の言葉を、阿夜は無表情で受け止める。

 そこに血の繋がった親子の情など、ありえない。

 『波朧院フェスタ』での一件が、初対面であるその二人に、そんな育まれる時間も何もない。

 (ぜつ)のない鐘と同じ。こんな主張は叩いたところで何も響いてくるものがないのだ。

 それでも。

 この少年にあてられたせいなのか。

 

「あなたがボクに契約させた魔女の呪い、必ず打ち破ってみせる!」

 

 優麻は意地でも、自身の存在を認めさせてやろうと、彼女らしくもなく吠え立てた。

 視線を通わせた二人は双子の姉妹のようで、

 赤の他人よりもなお隔絶した壁が間にある。

 

「だから……っ、母さん、首を洗って待ってろ! あの時、ボクを刺したこと、まだ許してないんだからな!」

 

 その宣戦布告を受けても、仙都木阿夜の火眼金睛が揺れることはない。

 遠くに霞む蜃気楼のように揺らいで、<書記の魔女>の幻影はいなくなった。

 

 

 

「勝手に、しろ」

 

 そう、一言だけ<蒼の魔女>へと送り。

 

 

人工島西地区 浅葱家

 

 

 絃神島封鎖。

 名誉理事の爆殺。

 キーストーンゲートのサーバーをハッキング。

 そして、暁古城の襲撃―――と失踪。

 <タルタロス・ラプス>の起こす一連のテロ騒ぎに、お手洗いの間に暁古城が拉致られたことに、堪忍袋の緒がブチ切れた藍羽浅葱は、自分にできることをと動いていた。

 苦しそうにする古城を放ってはおけず、バイトをサボってでも看病していたが、そんなのは自分らしくなかった。

 後輩(クロウ)が頑張っているというのに、何もせずにただ神頼みするのは浅葱の性には合わない。そして、電脳世界において敵なしとされる(不本意ながら)伝説を築いたハッカー<電子の女帝>が全力を出すには、手持ちのノートPCではパワー不足。自宅にある浅葱がバイト代のほとんどを注ぎ込んで組み上げた、デタラメに高性能なコンピューターでなければ。

 不幸中の幸いというのは不謹慎ではあるが、人工島東地区の『食糧備蓄倉庫』で起きた破壊テロの影響で、絃神市内の公立学校は、軒並み臨時休校になっており、彩海学園も例外ではない。

 交通網も麻痺してることから朝帰りで帰宅した浅葱は、早速自室に引き籠り、女子の部屋には似合わぬ無骨な業務用ディスプレイとラックマウント式のPCクラスタと相対し、相棒――絃神島を制御する五基のスーパーコンピューターの現身(アバター)の補助人工知能(AI)モグワイの尻を引っ叩いて、<タルタロス・ラプス>に関するあらゆる情報と古城の消息を徹底的に調べ上げる。

 昨夜の大停電の影響で出遅れてしまっているが、浅葱が本気を出せば十分に巻き返せた―――はずであった。

 

 

「―――敵襲です。お嬢様(マスター)、お逃げください!」」

 

 

 部屋に駆け込んできたのは、和装の給仕服にエプロン姿の―――しかし衣装はすでにボロボロの浅葱お付の白髪の人工生命体<水銀細工(アマルガム)>のスワニルダ。

 その様子からすぐに彼女が戦闘後、もしくは戦闘中であることを浅葱はすぐに察するが、何故……? と“心当たりがないため”、混乱して判断が遅れてしまう。

 

「えっ……!? ちょ、と、どうしたのよ!? スワニルダ、あんた怪我してるし、早く治療を―――」

「―――早くお逃げください、お嬢様!」

 

 無礼ながらお嬢様の言葉を遮って、復唱するスワニルダに圧され、浅葱は口を閉ざす。

 それだけ余裕のない、切迫とした状況。理解して、浅葱は顔を青褪める。全身の肌が粟立って、指先の震えが止まらない。

 <タルタロス・ラプス(テロリスト)>が、あたしを狙って……!? いや―――

 浅葱自身には心当たりがない。が、浅葱の父、浅葱仙斎は絃神島の評議員だ。上級理事を襲ったのだから、評議員を狙ってくる可能性は十分に考えられた。

 それで一先ず納得はして、意味不明(エラー)から脱却した浅葱は、その冷静で冴えた頭脳を回し始めた。

 

「モグワイ、通信は遮断されてないわよね―――」

 

 人質に身柄もしくは命を狙われているが、この最近の様々な事件で、この程度のトラブルは慣れっこになっているのもあるのだろう。すぐに落ち着きを取り戻した浅葱は、パソコン画面に向けて確認する。

 

『ああ、そこんとこは問題ないぜ』

 

「だったら、今すぐ『特区警備隊』を呼んで。それから救急車も!」

 

 帰り掛けに見かけたが、モノレールの駅やバス停には、武装した『特区警備隊』の隊員が配置されている。実際のところ、絃神島の島内には監視カメラやセンサーによる警備ネットワークが張り巡らされており、このような原始的な警備や巡視にはあまり意味がないのだが、

 それでもあえて人目につく場所に警官たちを立たせているのは、テロ対策というよりは市民の暴動防止の意味合いが強い。島外からの食糧供給が途絶えているうえに、『食糧備蓄倉庫』までもが破壊されたのだ。市民が不安や不信を抱くのはむしろ当然の流れだ。

 ―――でも、『特区警備隊』が非番の隊員や魔族傭兵まで総動員して、犯人を捜し回っていることに変わりない。だから、通報すればすぐに来てくれるはずだ。それまで時間を稼げば……

 

「島内監視ネットワークも取り戻したし、タルタルなんちゃらって連中も、目立つ真似をすればすぐに御用よ」

 

 浅葱の判断は、間違っていない。

 相手が、外敵(テロリスト)であれば、だが……

 

『いや……残念ながら『特区警備隊』は多分来ないぜ』

 

「は!? なんでよ……!? ウチのすぐ近くにいたのはさっき見たばかりじゃない!?」

 

『どうも家に押し掛けてきてるヤツらは―――』

 

 モグワイが素っ気なく返答する前に、それは現れた。

 

「<水銀細工(アマルガム)>防護モード。執行せよ(エクスキュート)―――」

 

 普段は家政婦として侍られているが、スワニルダは機械人形化された(オートメイルの)人工生命体。管理公社より条件制限が掛けられているが、多種多様な機能を搭載し、祓魔師より剣巫クラスの戦闘力を有すると評価された人造人間(ヒューマノイド)。素早くその魔力生体金属である左腕を変形させ、背に庇う浅葱ごと覆い包む膜を形成。

 ―――しかし、相手が手にした、6本の銃身を持つ機関銃を至近距離より撃ち放った弾丸は金属膜を突き破り、生体人形の身体を撃ち抜いた。

 着弾の衝撃で、軽い身体が錐揉みに転がるのを目の当たりにして、浅葱がついに悲鳴を上げた。

 

「スワニルダ―――!?」

「―――人工生命体保護条例・特例第二項に基づき自衛権を発動。武装制限(リミッター)を解除します」

 

 それでも、この身は華奢な人工生命体ではなく、人工筋肉などと機械化改造されたスワニルダはすでに痛覚を遮断しており、骨肉関節の不具合を無視して動く。攻撃されたことで条件をクリアしたものとみなすと、お嬢様(あさぎ)に仇なす賊へ一斉に武装を展開し―――

 

『―――個体名スワニルダ、我々ヘノ攻撃権ヲ認可シテイナイ。コレハ特例ヨリモ上位デアル』

 

 その電子音声に、スワニルダは停止した。展開途中で固まってしまう。

 <論理爆弾(ロジックボム)>。反乱防止のための安全装置(プログラム)が発動したのだ。

 

「あんたら、いったい……」

 

 護衛を沈黙させた相手を、浅葱は視認する。

 その人物は各部位に装甲を張り付けた黒いピッタリとした軽薄強化外骨格に身を包んでいた。アヌビス神のような犬頭の仮面をつけている。ふと、その第一印象からなんとなく連想してしまったように、それは浅葱の良く知る“ある後輩”をモデルとしているようにも見えた。

 浅葱の誰何にも、仮面を取らない。表情も見えない。

 電子光で炯々とした犬頭仮面の双眸(レンズ)を向けて、淡々と告げる。

 

『チョウドイイ。『バルトロメオ』、回収シロ』

 

 ずるずると廊下から床を粘液で汚しながら現れたものは、不定形の物体(スライム)

 

「ぁ……ぁぁ……ああああ――――!?!?!?」

 

 途端、機能を強制停止され硬直したままのスワニルダが怯え震えた。

 不気味さをもよわせるシルエットは、浅葱から見ても出来の悪いスプラッタ映画のモンスターのようであるが、それはスワニルダに強烈な嫌悪(トラウマ)を刻み込んだもの。

 それは正しく、『バルトロメオ』は“その改良版”だ。

 

『I accept your order』

 

 ………

 ………

 ………

 

 

『『カインの巫女』ヲ確保。即時撤収スルゾ』

 

 

人工島西地区 浅葱家 付近

 

 

「―――何なんだお前らは!?」

 

 

 あれは、なんだ……?

 高確率でテロリストに狙われるであろう幼馴染のために急いでいた矢瀬基樹は、その光景に全速で駆け付けた足を止めてしまう。

 灼熱の陽炎を躍らせ、大気を焦がす藍髪の少年。それは『食糧備蓄倉庫』を襲った<タルタロス・ラプス>の一味である過適応人工生命体だ。

 その姿は矢瀬自身もその目で確認している。

 爆弾の着火だけでなく、直接的な攻撃力も有する『発火能力(パイロキネシス)』は、強化薬(ブースター)に頼らなければ諜報系としか発揮できない『音響過適応』では相手にならないもの。真っ向からの勝負は避けたいところで、障害として立ちはだかるのならば、奇襲での一発勝負に掛けるしかない。

 

 それが、追い詰められていた。

 

「ちくしょう、燃えろよッ!」

 

 激昂した放火魔の少年が炎を放つ。

 高熱で路面のアスファルトが融解し、電離した大気が激しい爆発を引き起こす。しかし結果は覆せない。

 漆黒の軽薄強化外骨格を装備したその部隊は、消防の耐火服でも近づけない『発火能力』の大火でも怯まず、十字砲火(クロスファイア)で<タルタロス・ラプス>の構成員を撃退する。

 

「ぐっ、は―――」

 

 腕と腹部を撃ち抜かれ、地面に転がる少年。

 多数に無勢。加えて、武装性能が圧倒している。まったく勝負にならない。

 

(あいつら、『特区警備隊(アイランド)』の<魔導打撃群(SSG)>か!)

 

 人工生命体の少年を私刑(リンチ)するその部隊の正体に気づいた矢瀬が呻いた。

 <魔導打撃群>とは、『特区警備隊』の中でも最強と噂されるが、人工島管理公社は存在を認めていない秘密警察。

 この特殊部隊に所属する攻魔師の武装は、『魔族特区』における倫理を無視した――つまり、魔族の生体研究の軍事利用などという『聖域条約』を違反した最大の禁忌とされる研究成果で造られており、通常の『特区警備隊』のものとは一線を画す。だから、けして公に出ることはならない。

 

(この事態についに上級理事連中が動かしたのか―――いや)

 

 そして、公社理事会直轄とされる<魔導打撃群>は、実質、“ある人物”の私兵。

 

 もしも、この状況下で漁夫の利を取ろうとする、いやそうなるように筋書きした黒幕がいるとすれば、それは―――ひとりしかいない。

 

(まさか! ―――)

 

 黒の部隊の中でより映える白髪の少女。

 矢瀬も知っている。彼女は、幼馴染のお付となった人工生命体―――その皮を被ったモノ。

 矢瀬が事の真相に行き着いた時、戦闘にもならぬ狩りは次の工程(ステージ)へ進んでいた。

 そう。

 狩りで仕留めた獲物を喰らう―――

 崇拝者たちが裏で仕切っていた『魔族特区』の違法研究を“ひとまとめにする”作業。

 

 

「ウ……ウア……アアア……グアアアアアアッ!」

 

 

 絶叫。

 過適応人工生命体の生体組織を“丸ごと”喰われていくその恐怖。たとえそこに激痛がないものだとしても、その精神的衝撃は計り知れない。

 黄金律と整えられた容姿をした少女が、突然、その下半身の人型(かたち)を崩して、屈服していた放火魔の少年を呑み込んだのだ。炎を放って抵抗するが、それでも人工生命体に特化した捕食者は食事を止めたりはしない。

 もともと同型機であるがその白髪が端から徐々に少年と同じ藍色を帯びてきて、矢瀬の良く知る担任が子飼いする人工生命体の少女により近づいてきて―――と。

 

(っそ、だから、クロ坊らをキーストーンゲートに張り付けるよう命令しやがったのか!)

 

 もはや手を拱いている場合ではない。

 矢瀬の『耳』は黒の部隊に囚われた幼馴染――絃神島の重要機密<C>への入室が認められた正規ユーザーを捕えている。

 “あの男”の企みは、何としてでも阻止しなければ!

 

『命ガ惜シクバ我々ノ邪魔ヲスルナ、大人シク駒ノママデイロ、ソレガ賢イ選択ダ『覗き屋(ヘイムダル)』』

 

「―――っ!?」

 

 <重気流躰(エアロダイン)>発動に意識を集中していた矢瀬は、背後から聞こえた声にはっと振り向く。そして、理解した。

 すでに向こうが、矢瀬の存在に気づいていたことを。すぐ近くまで忍び寄っていたことを。

 獣人種細胞を組み込んだ軽薄強化外骨格を纏う<魔導打撃群>、その犬頭仮面をつけた隊長格(リーダー)が、銃口を向けて矢瀬へ忠告する。

 

「テメェら―――いや、アイツはそこまでして―――ふざけるなッ!」

 

 好奇心は猫も殺す。

 雉も鳴かずば撃たれまい。

 事の真相に至ってしまった少年の耳に響いたのは、一発の銃声だった。

 

 

 

つづく

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