亜神と龍 作:自衛隊隊員A
俺たちはカトーの知人の店に鱗や爪を売りに行くためにイタリカに向かう。もちろん自衛隊の車でだ。
「フユノ、これは何?」
『コレハコンパストイッテ、方角ヲ調ベルコトガデキル道具ダ。原理ハ───』
そう言やこの世界の地図って北とか方角つけてるのか?
まあ自衛隊がコンパスを広めれば地図もかかれるようになるだろう。
「フユノは何故異世界についてこうも詳しいの?」
『黙秘スル』
教えてやる義理は無いな。と言うか教えて理解できるのか?伊丹や倉田なら理解出来るんだろうが。
「伊丹隊長、前方に煙」
「………フユノ」
『…アア』
ロゥリィに呼ばれ俺も顔を上げる。伊丹達はレレイに双眼鏡を渡し確認させる。
「……あれは煙」
「理由は?」
「畑焼く煙でない。季節違う。人のした何か『鍵』?でも大きすぎる」
『アノ辺ハイタリカダナ。ソレト、鍵ジャナク火事ダ』
「か、じ?」
『ソ、火事』
「全軍、周辺と対空警戒。慎重に接近する」
伊丹は他の自衛官に警戒を促しながら前を見るが、今のところ必要ないだろうな。
「血の臭い」
『乾キカケタ血ダナ』
案の定、見えてきたイタリカからは死臭と煙が立ちこめていた。
帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダは現在イタリカにいた。アルヌスの丘を占拠する異世界の軍を見に行く途中、イタリカが襲われていると聞き異世界の軍が侵略しにきたと思ったからだ。だが実際はその異世界の民と戦いに行った連合王国軍の敗残兵が盗賊となり街を襲っていたのだ。
何とか一時撤退させたが、また何時攻めてくるか。
そんなことを考え仮眠しているところを起こされ東門に来ると判断しがたい連中がいた。
見たこともない乗り物に乗った見たこともない格好の連中。
「ノーマ!?」
「他に敵は居ません………何者か!?敵でないなら、姿を見せろっ!」
ノーマと呼ばれた男の声に対する反応は数秒後。乗り物の扉が開き13から15ほどの少女が現れる。
纏っているローブや手にしている杖からするに攻撃魔法や魔法戦闘をこなすリンドン派の正魔導師だろう。
続いて降りてきたのは体のラインをあからさまにする見たこともない服を纏ったエルフの少女。いや、相手は長命のエルフだ。見た目は16程だがおそらくこの街にいる誰よりも長い年月を生きていることだろう。
非常にまずい、精霊を扱うことに優れたエルフにリンドン派の魔導師、この組み合わせは騎士団を率いたとしても、戦場で会いたくない。
相手が油断している今なら殺れるか?
ピニャはいまだ敵か味方かわからない相手を排除する方法を模索し、固まる。
「あ、あれはロゥリィ………マーキュリー」
黒いフリルの大量についた服を着たいとけない少女。死と断罪の狂気、そして戦いの神エムロイに仕える使徒。しかもその頭には小型のドラゴンが乗っている。見たことのないドラゴンだ。サイズは小さいが、ドラゴンの中には子供の一鳴きで群が集まる種族もいるという。
もし仮に敵だとしたら、亜神とエルフとリンドン派の魔導師と無数のドラゴンを相手にしなくてはならないかもしれない。
「あれが噂の死神ロゥリィですか?初めて見ますが、見た感じじゃここの御屋敷のご令嬢ほどでしかありませんね……」
「見た目に騙されるな。あれで、齢900歳を超える化け物だぞ」
「だけど、エムロイの使徒が盗賊なんぞに与しますかねぇ?」
「あの方達なら考えられなくもないのだ」
神という存在は正しく生きようが悪徳に生きようが関係なく祟るときは祟るし、悪しきことを起こす。善良に生きる者が病にかかれば暴虐の限りを尽くす暴君が人より長く生きることもある。神というのは気まぐれなのだ。
と、ピニャの独白にグレイは冷や汗を流した。これが神官の耳に入ったらただじゃすまないだろう。
「おっ……来たな」
再び目を門前に向けるとこちらに歩み寄ってくる魔導師の少女の姿があった。
イタリカの連中が明からに俺たちを警戒している。敵対するなら滅ぼすか?
まあ結局レレイ、テュカ、ロゥリィが行くと言い出したので俺もついて行くことにしたが。いざとなっなら物理障壁を張ればいいか。
「俺も行ってくる。っていうか、行かないわけにはいかないでしょう。というか行かせてくれ」
振り向くと伊丹も車を降りていた。
少女達だけでは行かせられないってか?俺がいる時点で……いや、俺がいなくても大丈夫だろ。 血の臭いに炎龍が誘われなければ。
「………よし!」
先頭に立っていた伊丹が通用口の前に立ち、覚悟を決める。だが覚悟を決めたのは向こうも同じのようだ。よく来てくれた!と言う言葉と同時に通用口が開き、伊丹にぶつかり昏倒させた。
扉を開けた女は笑顔のまま表情を固め伊丹を見つめる。
「……………もしかして、妾?妾なのか?」
レレイが、ロゥリィが、テュカが、俺が同時に頷いた。
さて、伊丹は別に脳震盪を起こしたようすもない。腕に噛みつく。
「いってぇ!?」
よし起きたな。
伊丹は訳も分からず辺りを見回した後、通用口が開いているのを確認する。
「………えっと、誰が状況を説明してくれるのかな?」
まあ普通に考えて出迎えた目の前の女だよな。
「……わ、妾?」
状況を纏めるとここ1ヶ月近く、連合王国軍の敗残兵によって略奪、暴行、放火、無差別殺害などの被害を受けているらしい。
盗賊と化した敗残兵の数は600を超え、近隣に盗賊を相手取れる戦力がない。一応援軍は要請したが到着には三日かかるらしい。伊丹もこの事を自衛隊の本隊に連絡していたし、明日の朝にでも来るな。
さて、そんな朝まで持ちこたえるだけの伊丹達は、好奇の視線を集めていた。
見たこともない服を着ているというのもあるが、ある噂が流れているからだ。
曰く、人の身で炎龍を撃退した者達が居るという。その者達は『まだら緑の服を着た連中』。つまり自衛官なのだ。
しかも彼らには彼らに味方する龍がいるという。その龍は炎龍を圧倒するらしい。
少し持ちこたえれば彼等が助けてくれる。それだけじゃない、災害が盗賊だけを襲うのだ。
『他人任セダナ………』
俺は最前線となると予想されている南門でロゥリィの頭に乗りながら愚痴る。
「仕方ないわよぉ。彼らは弱いんだから、強い人に頼るのは当たり前でしょう?」
『ソレハ新人類ノ特徴ダ。旧人類ハソレハソレハ勇猛ダッタゾ……』
「新人類?旧人類?」
俺の言葉にロゥリィは不思議そうに首を傾げる。やめろよ落ちるだろ。
まあロゥリィに言ったところでわかるのかねぇ。
『寧ロレレイトカガ理解シソウダナ』
「………どうせわたしはあの子より頭悪いわよぉ」
ロゥリィはそう言うと俺の尻尾をつかみ頭から引っ張り投げるとどこかに歩いていってしまった。何をいらいらしているんだアイツは、女の子の日か?いや、亜神にそんなの無いか。
「フユノ、今のはどういう意味?」
『ン?興味アルノカ?』
何時の間にか聞き耳を立てていたらしいレレイはコクリとうなずく。さて、どう言ったものか。そもそも教えるのは簡単だが教えたことが知られると後でハーディが文句を言ってきそうだし………ヒントだけ与えればいいか。
『異世界ヘ通ズル門ガ開イタコトハ実ハ何度カアル。ソシテ、最初ノ門ガ開クヨリ前ニ人間ハイタガ、今ノヒト種ハコノ世界ジャ新参者ダ』
「………?」
レレイはよくわからないと言うように首を傾げた。
悪いがこれ以上教える気は無いんだ。あとで考えてくれ………。
そしてその夜、盗賊達はイタリカに攻めてきた。ただし、南門ではなく東門から……。
あのお姫様の勘は見事に外れた訳だ。