亜神と龍   作:自衛隊隊員A

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龍と盗賊

 八つ当たりだなまるで。

 俺は空で東門を眺めながらそんな感想を抱く。昔よくみた光景だ。一方的に殺された者達が戦闘を求めて関係ない者達を自分の戦争相手にする。

 

『……クダラネェナァ』

 

 俺が城壁に降りるとロゥリィが悶えていた。

 

「な、なんでぇ?ここに攻めて来るんじゃなかったのぉ?」

 

 まるで麻薬に酔ったように身を捻る。顔も上気しているし、周りの男達の顔も赤くなっている。

 まあ冷静に考えれば向こうは戦闘経験の多い元正規軍。一度破った場所がより警戒されているのは予想できるだろうし、イタリカに向かう途中視線を感じた。それが盗賊達だったら敗残兵である盗賊達は自衛隊に鉢合わせないようにするだろう。

 

「あっ、くぅ」

 

 予想通り自衛隊をかわせた盗賊と街の住人が殺し合い、ロゥリィを通してその魂魄がエムロイのもとに召されていく。その魂魄の性質にロゥリィは苦しめられている訳だ。

 いや、気持ちいいらしいから苦しめられているでいいのか?

 

「ダメょ、駄目、ダメなの。このままじゃおかしくなっちゃう!」

「やべーよ、勃っちまった」

「言うな、俺もだ」

『コノロリコンドモメ』

 

 しかし亜神てのはつくづく………快楽に狂うことも出来ないのか?

 出来ないだろうな、戦場に放り込めば本能のまま暴れられるんだろうが。

 

「栗林っ!」

「はいっ」

「済まないが、ロゥリィに付いてやってくれ。男だと色々まずそうだ。あと、富田二等陸曹と俺。この四人で東門へいく。桑原曹長、後は頼む」

「ロゥリィ行くよっ!少しの間辛抱して!」

「……っフユノ!」

 

 ロゥリィは一刻でも早く戦場に行きたいのか俺の名を呼ぶ。その意味を察した俺は成人男性サイズになり城壁から飛び降りるとその背にロゥリィが飛び乗ってくる。摩擦や空気の抵抗を消し音速で飛び東門へ向かった。後方で「物理法則仕事してんのか?」と言う声を聞いた気がしたが音速を超えてるから聞こえるはずない。気のせいだろ。

 

 

 

 東門で血飛沫が飛ぶ。緑の人の援護を待つ声が先ほど聞こえたが、来るはずがないとピニャは思う。彼らはピニャが捨て駒として南門に配置したのだから。

 叫び声が、嘆き声が、怒声が響く。敵も味方も殺し、殺される。大地は血に彩られていく。

 そんな中、女声による歌が天空を駆けめぐっていることを気づく者はいない。そんな暇は無いから。 

 だが、時が止まる。舞い降りた戦乙女により。

 馬代わりに乗った小型の龍。着地と当時に振るわれた尾が敵味方関係なく吹き飛ばし周囲にぽっかりと穴があいたかのごとく、疎なる空間が生まれた。そして気づく、天から聞こえる女声の歌に………。

 

「Ho-jo to-ho!Ho-jo to-ho!Ho-jo to-ho!」

 

 見たこともない龍だ。生物のようにも無生物のようにも見える。

 

 

「Ho-jo to-ho!Ho-jo to-ho!Ho-jo to-ho!」

 

 その背に乗るのは漆黒の神官服を纏った少女。

 

 

「Ho-jo to-ho!Ho-jo to-ho!Ho-jo to-ho!」

 

 龍は、四足を地につけていた。

 彼女は、左手を龍に添える。  

 彼女は、後ろ手に回した右腕に巨大なハルバートを握っていた。

 彼女は、伏せていた顔を上げる。神々しいまでの狂気を湛えた双眸を正面へと向ける。龍は口を開く。禍々しい光が口の中に宿る。

 ファンファーレを背景とした女神の嘲笑とともに、城門が爆発し、龍の口からあらゆる元素を別次元へと誘う光が放たれる。

 

 

 

 突如現れた小型のドラゴン。その背に乗る死神ロゥリィ。

 ドラゴンが放った光は文字通り別次元の物だ。本来フユノリュウは自由に次元を移動できる存在。フユノ自身はこの世界で第二の生に目覚めたがその肉体は11次元の存在。4次元のモノを5次元に送ることなど造作もない。別次元に送られた物質は文字通りこの世から消える。鎧も、骨も、肉も関係なく消滅し、空気すら消滅した空間は真空となり周りから何かを吸い込もうとし、血や肉を抉りとる。

 そんな仲間の死を見た盗賊達は恐怖に飲まれる。

 だがそこで逃げるではなく恐怖の元凶を排除することを選んだ。

 

『ハッ!挑ンデ来ル人間ナンテ何時以来ダ!?イイゼ、来イヨ!』

「しゃ、喋った!?」

「き、気のせいに決まってる!それに、喋るから何だってんだ!」

 

 人の言葉を解するからと言って、強くなったり弱くなったりするわけではない。大きさからして幼龍。人間に相手できない存在ではない。

 普通なら──

 ドラゴンがその腕を地に叩きつけると周囲に鉄の棘が生え盗賊を貫く。

 上空には鉄の天馬、地上には死神と未知なる力を扱うドラゴン。死神がハルバートを振るうと命が刈り取られる、ドラゴンが風の槍を、雷を、炎を放つ度にあらゆる死に方の死体が地に伏せる。

 天と地で駆けるそれぞれの死。絶対的な力の前で人の何と小さいことか、蹂躙され、押しつぶされ、奪われる。

 

「………こんな、こんなモノが……戦争であってたまるか………」

 

 目の前で盾を構えていた味方がドラゴンの腕に何時の間にか生えていた鮫の背鰭のような刃に盾ごと切り裂かれたのを見て、男が呟く。

 その男もドラゴンの尾に貫かれ持ち上げられる。

 

「こんな……モノは……戦争じゃ、ない………」

 

 ゴボリと口から零れた血がドラゴンにかかり、陶器に零れた水のようにドラゴンの身体を汚すことなく滑り落ちた。

 

『オレト戦ッテイル積モリダッタノカ?オ前等ガ恐怖デハナク闘争心ヲ向ケテクレリャオレモソウ思ッタロウガナ』

 

 どうやらドラゴンは盗賊達と戦っているつもりもなかったらしい。

 

 

 

 俺は挑んでくる盗賊たちに一瞬だけ歓喜し、すぐにしらける。盗賊たちの目は挑みにかかる者の目ではなく何も考えられない者のする、先を見ない目。恐怖から逃げるためだけに向かってくるか。

 その動きは単調で、遅く、もはや戦士ともいえない有り様だった。自衛隊のヘリから放たれる銃弾で命を奪われる者を見ながら適当に腕を振るうとそれだけで盗賊達は死んだ。

 たまに銃弾が俺に当たるがダメージは無い。これ偶然じゃないよな? 

 

「フユノ!お前なら大丈夫かもしんないけど下がってくれ!」

 

 ふと伊丹の声が聞こえてきたので周りを見てみるとガトリングを携えたヘリが見えた。俺は近くで暴れていたロゥリィを咥え城門の中に逃げ込んだ。直後、鉛の雨が降り注ぎ盗賊達はミンチになった。

 敵を一掃し、ヘリから次々自衛官が下りてきているのを確認して俺はこの戦いの終わりを理解した。大きさを猫サイズに変えロゥリィの頭に乗る。

 

「………終わりは呆気ないものねぇ」

『賊ノ中ニ一人デモヘリニ矢ヲ放ッテレバ、アルイハ龍ノ加護ニ恵マレタカモナ』

「そうねぇ……死に際まで戦を求める兵でいれば、或いは愛したかもしれないわねぇ。ところでフユノが最初放ったあれ、何なの?初めてみたけどぉ?」

『オレハ全能ダカラナ………ヤロウト思エバマタ新シイ技モ使エル。因ミニアレハ光ガ通過シタ場所ダケ異次元ニ送ル簡易ゲートミタイナモノダ……』

「………フユノって、本当に神じゃないのぉ?」

 

 ロゥリィは本気ではないが不思議そうに聞いてくる。俺は神じゃないな。神よりずっと多くの事が出来る。何せ高次元存在だからな。

 

『神ジャネエヨ……オレノ上位種ニハ神ノ字ヲ持ツ奴ガイルラシイガ』

 

 フユノリュウジンって名前のがな。まあ一度11次元に潜って探してみたけどいなかったから大丈夫だろ。

 

「ふぅん?でも、フユノリュウなんて名前、フユノから聞くまで聞いたことないわよぉ?フユノも、大昔の門から来たのかしら?」

『ソレハオレモ是非知ッテミタイナ………』

 

 俺がこの世界にいるのは偶然なのか、何者かの意思なのか。まあ時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり考えば良い。

 俺は残党を拘束していく自衛官達を見ながらこの後の小娘との会話を想像する。

 昨日は偉そうだったが、今度はおそらくほぼ放心状態になるだろうな。そして恐らく、突きつけられた条件も不思議そうに眺めることだろう。もし謁見中に意識が戻ったら困惑する様を堪能してやろう。それぐらいの褒美はあって構わないだろう。

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