はぐれ9
ルシウスの前に召喚されたアロンダイト。
それは異なる聖剣となっていた。
前までのアロンダイトは堅い。
ただそれだけの聖剣だった。
しかし、ルシエルとルシアの魂の融合により変質したアロンダイトはただ堅いだけでなく、龍殺し(ドラゴンズレイヤー)の性質を帯びた剣となった。
これにより、ただ堅く、絶対に折れない聖剣は以前よりも纏う聖なるオーラも増大する。
またルシウスに合うよう最適化され長剣だったアロンダイトは更に刀身を伸ばし1.3m程となり、また幅も20cmと太くなり全体として1.5mほどの長さとなった。
鍔の部分には前にはなかった宝玉が埋め込まれており怪しく光る。
神器(セイクリッド・ギア)にでもなったのかと探るように聖素(魔力)を流してみるが違うようだった。
神器(セイクリッド・ギア)にでもなれば兄さんやルシアの意識もあると思ったんだけどな、とルシウスは少し残念に思った。
だが、兄さんとルシアが力を自分に授けてくれたと思うと嬉しくなる。
ルシウス触れるだけだったアロンダイトを地面から引き抜き構えた。
木場も新たなる剣を構えバルパーを睨みつける。
すると、そこに不快な笑い声が聞こえた。
「ハハハ!何泣いてんだよ?幽霊ちゃんたちと戦場のど真ん中で楽しく歌っちゃってさ。ウザいったらありゃしない。もう最悪。ルシウスもしばらくみないうちに腑抜けになってるみたいだしよ!前までおまえはどうした⁉︎あの見たものすべてを切り刻むような目はよぉ!俺をゾクゾク感じさせちゃうその目が好きだったってのに!もういいや、そこのナイトくんと一緒にこの世からエスケープさせてあげますよ!この四本統合させた無敵の聖剣ちゃんで!」
フリードがエクスカリバーを持ってルシウスに襲いかかった。
「……術式起動」
ルシウスが小さくつぶやくとルシウスの着ている司祭服に散りばめられた宝石が輝き出す。
司祭服には宝石を中心として魔方陣が浮かび上がった。
災厄祓いし聖装(イージス)
4大天使カブリエルの加護によって編まれた司祭服にルシウス独自の術式を仕込み完成した完全防御聖装。
普段は最上級悪魔クラスでないと壊すことのできない司祭服であるが、ルシウスの仕込んだ術式を起動させることにより、魔王クラスでないと破壊できない究極の聖装となるルシウスの切り札のひとつである。
ルシウスは向かってくるフリードを見据え、一歩踏み出した。
次の瞬間、ルシウスの姿は消えた。
フリードは走るのをやめ、ルシウスの気配を探る。
真後ろに気配を感じ降り向こうとするとフリードのエクスカリバーを持っていた右手が宙をまった。
「ぐ、ぎゃぁぁああああ!!痛ぇ!ルシウスてめぇ!クソが!」
ルシウスはトンッとフリードからだいぶ離れた後方に出現した。
ルシウスはフリードの血がついたアロンダイトを一振りし、血を払う。
「あとはエルがやりなよ。エクスカリバー、壊したかったんでしょ?」
「そうだね。やっと、このときが来たよ」
木場はルシウスに言われ、エクスカリバーの転がるところまで歩いていく。
フリードはなくなった右手の部分を左手で抑え、エクスカリバーを取ろうとヨロヨロとなりながらも走っていく。
木場はそのフリードを見て歩みを止めた。
フリードはその隙にエクスカリバーを左手で取り、血の気の抜けた顔で笑った。
「ハハハ、ルシウス。てめえずっと強くなってんじゃねーか。でも、このナイトくんじゃあ、片手を失ったところで俺にはかてねぇよ!なんてったってエクスカリバーがあるんだからなぁ!」
「それはどうかな。この剣は同志たちの思いによって生まれた禁手(バランス・ブレイカー)、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』聖と間を有する剣の力、その身で受け止めるといい」
木場はフリード目掛けて走りだす。
木場は『騎士(ナイト)』、そのスピードは常人では見ることもできない。
フリードは木場を目で追うが、フェイントを何度か掛けられ振り切られてしまう。
木場はフリードの目から脱したことを確認し、斬りつける。
フリードはそれをなんとか受け止める。
フリードはエクスカリバーの力を増幅させるが、木場の剣によってかき消されていく。
「ッ!本家本元の聖剣を凌駕すんのか、その駄剣が⁉︎」
「それが真のエクスカリバーなら、勝てなかっただろうね。──でも、そのエクスカリバーでは、僕と、同志たちの想いは絶てない!」
「チィ!」
フリードは木場を押し返し、後方に下がる。
木場はそれを追撃するために走りだす。
フリードはエクスカリバーの能力を使いエクスカリバーが意思を持ったようにうねりながら伸びてくるが、木場はそれを交わしていき、フリードの懐に入る。
木場は振り上げるように剣を振るうがそれをフリードは受け止める。
「んじゃあ、こいつを使ってみようかねぇぇぇ!」
エクスカリバーの剣先が消えていき、見えなくなる。
それによって木場は苦戦し始める。
何度も打ち合いを続けていると、フリードは攻撃をやめ、驚愕の表情となる。
「そうだ。そのままにしておけよ」
ゼノヴィアが介入して来た。
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」
ゼノヴィアが何かの言霊を発すると、ゼノヴィアの周りの空間がゆがみ始める。
ゆがみの中心にゼノヴィアが手を入れた。
そこから一本の聖なるオーラを放つ大剣を引き出す。
「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。──デュランダル!」
デュランダルを見てルシウス以外が驚愕した。
デュランダル
エクスカリバーと並ぶ伝説の聖剣であり、切れ味だけならば、聖剣最強と言われるほど。
「貴様、エクスカリバーの使い手ではなかったのか!」
バルパーもこの場にデュランダルが現れるとは思っていなかったのか動揺していた。
「残念。私はもともと聖剣デュランダルの使い手だ。エクスカリバーの使い手も兼任していたにすぎない」
「バカな!私の研究ではデュランダルを扱える領域まで達していないぞ⁉︎」
「それはそうだろう。ヴァチカンでも人工的なデュランダル使いは創れていない」
「では、なぜだ!」
「イリナたち人工聖剣使いと違って私は数少ない天然ものだ」
ゼノヴィアは胸を張っていう。
どうだと言わんばかりに。
バルパーも天然ものときいて絶句していた。
無理もないだろう。
天然ものは本当に少ない。
まだ神器(セイクリッド・ギア)使いの方が多いのだ。
そしてそんな天然の聖剣使いが目の前にいる。
言葉を失って当然だろう。
だが、皆は忘れている。
その場にはもうひとり天然の聖剣使いがいることを。
聖剣アロンダイトを使うルシウス・ランスロットのことを。
あれ?僕も天然なのに驚かれてない?とルシウスは悲しげに呟いた。
そんなルシウスをよしよしと黒歌は頭を撫でて慰める。
「さて、フリード・セルゼン。おまえのおかげでエクスカリバーとデュランダルの頂上決戦ができる。私はいま歓喜にうち溢れているぞ。一太刀めで死んでくれるなよ?」
デュランダルの刀身からエクスカリバー以上の聖なるオーラを放ち始める。
それは進化したアロンダイトと同等のものだった。
「そんなのアリですかぁぁぁ⁉︎ここにきてのチョー展開!クソッタレのクソビッチが!」
フリードはゼノヴィアに殺気を放ちエクスカリバーを振りかざした。
それを見たゼノヴィアはデュランダルを一度横に振った。
それだけで見せなくなっていたエクスカリバーが砕かれ、姿を現す。
「──所詮は、折れた聖剣か」
ゼノヴィアはつまらなそうに嘆息した。
「マジかよマジかよマジですかよ!伝説のエクスカリバーちゃんが木っ端微塵の四散霧散かよっ!酷い!これは酷すぎる!」
エクスカリバーを壊され、周りに意識を向けていないフリードに木場は詰め寄った。
近くに来たことでようやく木場に気づいたがもう遅かった。
木場の振りかざした剣はエクスカリバーもろともフリードを切り裂き、完全に破壊する。
フリードはその傷で倒れこんだ。
「──見ていてくれたかい?僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「せ、聖魔剣だと……?あり得ない……。反発しあうふたつの要素が混じり合うなんてことはあるはずがないのだ……」
バルパーは表情を強張られ、呻くように言った。
「いやぁお見事!かっこよかったよエル。それに聖魔剣なんてすごいもん作るなんてすごいね。……それでバルパーはどうするの?キミが殺らないなら僕が殺るよ?」
ルシウスは木場を褒めるが、後半になるにつれ声が低くなる。
木場はルシウスの表情を見て一瞬恐怖心を抱くも、すぐに消し去りバルパーを見据えた。
「……僕が殺るよ。キミにばかりこんな汚いこと任せる訳にはいかないよ」
木場はルシウスに笑みを見せる。
「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」
木場は聖魔剣をバルパーに向けて切り刻むために駆け出す。
これで終わる。
これで、僕たちのような悲劇を生み出さないで済む。
木場はそんな考えを巡らせバルパーに接近した。
「……そうか!わかったぞ!聖と魔、それぞれをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく!つまり、魔王だけでなく、神も──」
木場が聖魔剣を振り下ろそうとしたところに、
ズンッ
光が目に映り、そこに目を向けるとバルパーの胸部に光の槍が貫いていた。
バルパーはそのまま倒れ、動かなくなる。
「バルパー。おまえはなかなか優秀だった。そこに思考が至ったのも優れているがゆえだろうな。──だが、俺はおまえがいなくても別にいい。最初から1人でやれる」
声がした方に目を向けると、宙に浮かぶコカビエルが嘲笑っていた。
「ハハハハ!カァーハッハッハハハハハハハハッ!」
コカビエルが哄笑を上げ、地に足をつける。
その途端に感じる圧倒的な重圧。
「──限界まで赤龍帝の力を上げて、誰かに──そうだな、そこの聖人(ホ・ハギオス)に譲渡しろ」
それにリアスが激昂した。
「私たちにチャンスでも与えるというの⁉︎ふざけないで!」
「ふざけないで?ハハハ、ふざけているのはおまえたちのほうだ。俺を倒せると思っているのか?」
コカビエルの凄みにその場にいるルシウスと黒歌以外の者たちの体を恐怖が支配する。
「なんか僕、名指しされてるけど、どうする黒姉。僕が相手していい?」
「ん〜。本当なら私が戦いたかったけど、名指しされたならしょうがないにゃ。ここはおとなしくルシウスに譲るにゃ」
そこに2人ののんきな会話が聞こえてくる。
リアスたちは思わず、叫びそうになったが、言葉を飲み込む。
感じたのだ。
コカビエルの怒りを。
「貴様、俺相手に余裕とは随分な馬鹿らしいな。ミカエルたちは今代の聖人(ホ・ハギオス)の教育がなってないと見える」
「え?ミカエルたちはどうでもいいけどもしかしてカブリエルさまを馬鹿にしてんの?」
ルシウスは怒気を含んだ目でコカビエルを睨みつける。
「そうだ。ミカエルたちのことがぞんざいなのが少し気になるがそのとうりだ。この俺に単騎挑もうとするのは馬鹿の行動だろう?」
「何いっちゃってんの?おまえ程度2人でやる必要がないからいったんだろ」
それを聞いてコカビエルの額に青筋が浮かぶ上がる。
「だいたい、聖書に載ってんだったらもっと強いだろフツー。はぁ、感じた強さ的にデュリオよりずっと弱いし。はぁぁ、期待はずれ。死闘ができると思って楽しみにしてればこれだ。はぁぁぁ、これじゃ欲求不満になりそうだよ──」
ルシウスのコカビエルをけなす言葉はまだまだ続き、コカビエルは怒りに顔を真っ赤に、リアスたちはルシウスのものいいに顔を青くする。
「黙って聞いておけば貴様ぁぁぁ!」
ついに耐えられなくなったのか、コカビエルは光の槍を出現させ、ルシウスに向けて投げつける。
ルシウスはそれに気づいてないのか、まだけなし続ける。
リアスたちはそれに悲鳴を上げる。
目の前でルシウスが死んでしまうから。
思わず、目を閉じるがそれから何かが飛び散る音や壊れる音がしない。
ゆっくりと目を開けてみれば、ルシウスは片手で光の槍を受け止めていた。
「おいおい、まだ喋ってたじゃん。それなのに攻撃するとか。馬鹿なの?馬鹿なんだね。ガブリエルさまを馬鹿にしたし馬鹿確定だね。はぁ、仕方ない。……殺るか」
ふざけていた雰囲気が突如として変わり、ルシウスは表情が能面のような無表情になる。
それは心の底から恐怖心を噴き出させる。
怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
コカビエルよりもずっと恐ろしい化け物にルシウスが見え始める。
コカビエルはそれに笑みを浮かべた。
何かをルシウスから感じ取ったのだろう。
「サーゼクスとやる前の余興にでもと思っていたが、なかなか楽しめそうだ」
ルシウスは目を閉じ、目を開く。
すると背中に一対の翼が現れた。
ほのかに黄色がかった白い翼。
その翼から恐ろしいまでの熱を感じる。
「『八咫烏の陽翼(セラフィム・フレアフェザー)』、それが僕の神器(セイクリッド・ギア)だ」
「聞いたことがない神器(セイクリッド・ギア)だな」
「当然だよ。これは僕が初めての所持者なんだから」
「ほう?それは面白い。どんな能力か楽しみだ!」
コカビエルは楽しそうに言うがルシウスは無表情のまま。
「楽しみ?……だといいけど」
黒歌はボソっとコカビエルの言葉につぶやく。
「……禁手化(バランス・ブレイク)」
ルシウスがそうつぶやくと突如としてルシウスを光が包み込む。
リアスたちには圧倒的な熱風が襲ってくる。
「にゃはは〜。少しはこっちのことも考えて欲しいにゃん」
黒歌はリアスたちを結界で覆い熱から守る。
リアスは黒歌にお礼を言おうとして、目を見開いた。
ルシウスの周りが、校舎が溶け出し、木々が燃え出していた。
「な、何が起こってるの⁉︎」
リアスは思わず叫ぶ。
「何って、ルシウスの禁手化(バランス・ブレイク)の影響で溶けだしてるだけにゃん」
「と、溶け出すって……」
黒歌の言葉に皆驚愕を隠せなかった。
ルシウスを包み込んでいた光が弱くなり、それに伴って熱風も落ち着いていく。
黒歌はそれに結界を消す。
すると、恐ろしいまでの熱を感じた。
気温80度
それがいまの学園の温度だ。
幸いシトリー眷属が結界を学園に張っていたおかげで町には被害がでなかった。
リアスたちは汗を吹き出し服を脱ごうとするが、ここは戦場。
なんとか耐える。
光が収まり、高熱によって発生した陽炎によって視界が歪むなかルシウスを見るとそこには誰かがいた。
いや、ルシウスで間違いないのだろう。
陽炎により、見えづらくなっていてもルシウスの聖人(ホ・ハギオス)の聖なる輪を見間違えるはずがない。
しかし、リアスたちからは先ほどとはまるで違う装備にルシウスか判断がつかないでいた。
白い立烏帽子に白い指貫袴、目から下を隠す白い布、燃えるような紅い巨大な鉄扇、腰に差した白い刀。
先ほどまでの洋から和の装備に変わり、ルシウスの姿には見えなかった。
ルシウスは先の熱風のせいか宙に浮かぶコカビエルを見据え、鉄扇を向ける。
「──さあ、はじめようか」